神の乱(The Kami War)は2022年1月12日付(日本時間)の公式記事だ。
カードセット「神河:輝ける世界」を前にして、ウィザーズ社公式サイトでは連日で神河の歴史を解説する記事を更新している。日本公式サイトでは「神河史譚」という副題までつけてストーリー記事としてナンバリングする力の入れようだ。
今回はこの神河史譚の第1回目、最初の神河ブロックの「神の乱」の解説記事を紹介する。記事の内容の要約、記事に関する追加情報、そして記事を読んだ時の感想ツイートをここにまとめる。
神の乱の解説
神の乱(The Kami War)とは最初の神河ブロックで発生した20年に渡る戦乱のことだ。カードセット「神河:輝ける世界」の1200年前に起こった戦乱の時代であり、神河の歴史の重大な転換点である。
神の乱の要約
戦乱の発端は、永岩城君主の今田(こんだ1)が力を求めて、神河最強の神である大口縄(おおかがち)の「子供」を盗んだことだ。
大口縄から奪った「子供」、奪われし御物(That Which Was Taken)によって今田は超常的な力を獲得し、繁栄を築いた。
※ カード・イラストの小さな画像では判別しにくいが、この御物(ごもつ)の中にいくぶん蛇に似た神の子が捕らえられている。
しかし、大口縄は今田の所業に怒り狂い、精霊界を暴れ回った。その影響を受けた神たちは定命の者たちの世界に現れて、人々に襲い掛かった。この戦乱が20年続いた。
神の乱は奪われし御物が破壊されて囚われた神の子が解放されてようやく終結した。解放された神の子と今田の娘、魅知子(みちこ)は大口縄を倒して暴走を止め、君主の今田にも死という罰を与えた。
神河史譚:神の乱(原文、公式和訳版)を更に要約すると、最初の神河ブロックはこんな話であった。神河史譚:神の乱は非常によくまとまった記事なので一読をお薦めする。
神の乱の発端の更に発端
神河次元は、定命の者の住む世界「現し世(うつしよ)」と神の住む世界「隠り世(かくりよ)」の2つに分かれている(神河:輝ける世界現在では「現し世」「隠り世」は使われず、もっと万人に分かりやすい「定命の世界」「精霊界」などと表現されている)。
本来は今田が精霊界から神の子供を盗んでくることはできなかったはずなのだ。なぜこんなことが可能になったのか?
その理由は1200年前に神河次元にある異変が発生して「現し世」と「隠り世」の境が曖昧になってしまったのだ。この異変は神河次元の外部、ドミナリア次元からもたらされたものだ。異変は2つ語られている。
異変その1:黙示の鐘
ドミナリアの暦でAR3200年頃、ウルグローサ次元でプレインズウォーカーのラヴィ(Ravi)が黙示の鐘(Apocalypse Chime)と呼ばれるアーティファクトを使用した。それによってウルグローサ次元全体が荒廃し次元に裂け目を生じさせた。黙示の鐘の破壊的な響きは裂け目から外に広がり、ドミナリア次元に到達した。
ドミナリアのマダラ地方沖には神河次元と結ばれた次元門である鉤爪門(Talon Gate)があり、黙示の鐘の響きはそこを経由して神河にまで達し、「現し世」と「隠り世」の境界を揺るがしたのであった。
これは小説Time Spiralと時のらせんブロック期の公式記事で語られたものだ。
実は神河の異変の原因として、もう1つ別の事件が語られている。
異変その2:ウルザの時間災害
AR3307年、ドミナリア次元のトレイリアにおいてプレインズウォーカーのウルザ(Urza)は時間遡行実験の事故により時の裂け目を作り出してしまった。2この裂け目によっておよそ100年の時を遡って神河次元に影響を与えて、「現し世」と「隠り世」の境界が弱体化することになった。
また同時に、神河次元と他の次元との境にも同様の影響があり、次元間の行き来がより容易くなった。これを利用して、夜陰明神(Myojin of Night’s Reach)は複数の次元において何らかの形で「夜」を崇拝する人々を発見し大いに喜んだ。そして、夜陰明神は神の乱の後に次元を超えてドミナリアに梅澤俊郎(Toshiro Umezawa)を追放した。
こちらの内容は設定集The Art of Magic: the Gathering – War of the Sparkでの解説だ。
夜陰明神が夜を崇拝する神河以外の次元に干渉できることや、おそらく時の裂け目経由でドミナリアと行き来していることは時のらせんブロックの小説で語られていた内容であった。しかし、ウルザの時間災害が100年遡って神河に影響を与えたことは、全く新しい情報であった。これでまたウルザのやらかした罪が増えてしまったことになるが、あんまり後付けで業を深めるようなやり方は流石にウルザ相手でも可哀想に感じてならない。
2つの異変
以上のようにAR3200年頃にドミナリア次元からの影響によって神河に異変が起こったのは間違いがない。
だが、その原因が2種類別々に語られているのが問題だ。最初の黙示の鐘の件は2007年頃に語られたもので、2つめの時間災害は2020年の書籍によるものだ。どちらも公式ソースだ。
13年前の設定が新しい方に上書きされたとも見ることはできよう。しかし、私は両方とも正しいという見方をしている。2つの原因によって神の乱の発端となる境界が弱体化が発生した。どちらがより大きな役割を果たしたのかそれは分からないが。まるで、ウルグローサが人気ないからウルザにまた罪をかぶせてしまえ、なんて判断があったんじゃないかと邪推するのもそれはそれで嫌だしね。きっとどっちも正しい。
翻訳版記事で気になったポイント
さておしまいに、翻訳版記事を読んだ時に気になってツイートした内容を以下にまとめておく。
記事に出て来た訳語の意味や用法を考えたツイートなので神河の歴史とかストーリーにはあまり関係ないので読み飛ばしても構わない。
定命
神と定命は、かつて調和の内に暮らしていたが君主 今田の統治期に全てが変わってしまった
引用:神河史譚:神の乱(公式和訳版)
この「定命」って書き方で普通のユーザーには通じるのか、私は常々疑問に思っている。
この手のジャンルの翻訳文に慣れていると大体察せられはする言葉なのだが…
「定命(じょうみょう)」は本来の意味は「定められた寿命」のことだ。しかし、この記事の文章の「定命」はただの「寿命」の意味ではなく、「定命の存在」つまり「寿命を持つ者」のことなのだ。
精霊的な「神」と対比して「人間などの普通の寿命を持つ生き物全部」って意味になる。
そしてここの「定命」の原文は「mortals」だ。もう何十年も前からファンタジー系ジャンルの翻訳作品では「mortal」は「定命の者」などと訳されるのがお決まりの一つだった。だから、この「定命」はおそらく「mortal」の訳だろうな…つまり寿命って意味じゃないなと分かるわけだ。
でも分かるのはそういう意識がある層だけだと思うのだ。一般的な今のMTGユーザー向けの解説記事で「定命」って出すのは相応しくはないんじゃない?少なくとも「定命」と略さないで「定命の存在」か「定命の者」くらいにしないと通じないんじゃない?そう感じてならない。
不死
その宝を得て君主 今田は超自然的な力と不死を得、国は栄えた。
引用:神河史譚:神の乱(公式和訳版)
「定命」の次はこの「不死」である。これも訳語としてはずっと昔からあるものなのだが、「不死」という日本語の印象とは違って死ぬこともある。これの原文は「immortality」だ。
この場合の「immortal」は「不滅の命」「永遠の命」「不老不死」くらいの意味合いになるだろうか、年老いることがなく永遠に若いままの存在なんかを表すのが定番の一つだ。
「immortal」は「mortal」の対義語だ。
いろんなジャンル作品に出てくるので一概には言えないが……「immortal」は結構死ぬことがある。寿命が無い不老であっても他の要因では死ぬことがある、みたいな解釈のものは少なくないって印象。もちろん本当に死ぬことすらない正真正銘の不死の場合もある。
神と人
さて「mortal」と「immortal」は対義語だと言ったが、この翻訳記事だとそれぞれ「定命」と「不死」になっているのでこの2つが対応しているのは気付けないんじゃないかと思うのだ。
この記事の場合はそれぞれ「定命の存在」と「不老不死」だったらまだ分かりやすかったんじゃないかな…?
今田の「immortality」の話から離れて、もっと一般的な神河次元の「immortal」と「mortal」の訳語について。辞書的な定番な訳だと思うのだが、「immortal」の方は「神」で「mortal」の方が「人」と訳される場合もある。
神河の「神」は、いわゆる英語の「god」や「deity」のような「神」でなく、精霊的な存在の「kami」ではある。だが、「kami」も「immortal」なことには変わりはない。
じゃあ神河でも「神と人」と訳しておかしくない。こっちの方が普通のユーザーにも分かりやすくて自然だったんじゃないか?
公式翻訳記事を読んだ初見時にそんなことを考えた。神河次元の歴史「神の乱」から脱線するにも限度ってものがあったな……。
では今回はここまで。
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