統率者レジェンズ:冒涜する者、トーモッド

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トーモッド(Tormod)カードセット「ザ・ダーク」トーモッドの墓所(Tormod’s Crypt)が初出のキャラクターである。

初登場から26年が経った今年2020年、カードセット「統率者レジェンズ」において、冒涜する者、トーモッド(Tormod, the Desecrator)としてカード化が発表された。

今回はトーモッドのキャラクターの解説と、彼にまつわるドミナリア暗黒時代のカードや背景世界について紹介したい。

追記(2020年11月21日):トーモッドのイラストが過去カードGrave Robbersのオマージュだと気付いたのでその件を加筆した。→こちらを参照。

追記(2021年3月1日):記憶喪失(アムネジア:Anmesia)のカード・イラストもトーモッドと髪型が似ていることを追記した。

追記(2021年6月14日):カードセット「モダンホライゾン2」で新登場したトーモッドの墓所の番人(Tormod’s Cryptkeeper)を追加した。

冒涜する者、トーモッドの解説

“Life is but the precursor to a long and successful death.”
「生命など、長く実り多き死のための準備にすぎぬ。」
引用:冒涜する者、トーモッド(Tormod, the Desecrator)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

冒涜する者、トーモッド(Tormod, the Desecrator)

データベースGathererより引用

冒涜する者、トーモッド(Tormod, the Desecrator)はドミナリア次元暗黒時代のテリシア大陸東部の下級貴族の人間男性であった。死後にアンデッド(おそらくリッチ)として蘇ったが、生前もアンデッドの軍勢を従えていたことから、もとより強力な屍術師であったと考えられる。ドミナリアで最も壮麗だが空っぽの墓所で知られている。

トーモッドというキャラクターはカードセット「ザ・ダーク」に収録されたトーモッドの墓所(Tormod’s Crypt)が初出であった。墓所は再録を何度もされ有効な墓地対策カードとして評価され有名になったものの、一方のトーモッド本人はと言うとほとんど無の存在であった。実は26年後のカードセット「統率者レジェンズ」でカード化されるまでは、トーモッドが人名であり墓所があること以外には何の情報もなかったキャラクターであったのだ。→詳細はこちらの節参照。

冒涜する者、トーモッドのカード・メカニズムに目を向けてみよう。やはりトーモッドの墓所を意識していることが分かる。トーモッドの墓所は墓地のカードを根こそぎ追放してしまう機能を持っていたが、冒涜する者、トーモッドは自軍の墓地からカード1枚以上が離れるたびにゾンビを生成する機能が与えられているのだ。このゾンビを生成する条件が「墓地を離れる」となっているのがミソで、追放でもリアニメイトでも墓地からのカード回収でも手段は問わない。かなり適用可能な範囲が広いため、様々なシナジーが期待されている。

そして今回、トーモッドは墓地から遺体を盗んで下僕のアンデッドに変えていたという設定が新規に作られており、カードの機能と合致するようになっているのでニヤリとさせられる。

次節ではトーモッドのストーリーと設定はいかなるものか紹介する。



冒涜する者、トーモッドのストーリー

ゾンビ・トークン

トーモッドが生成するゾンビ・トークン
公式記事The Tokens of Commander Legendsより引用

トーモッドは都市アルスール(Alsoor)の東の沼地に地所を所有し、墓泥棒を使って遺骸を盗みアンデッドの下僕に変えていた。地所には下僕のアンデッドによって「壮麗な墓所」が建造された。

度重なる墓泥棒に悩まされていたアルスールでは、タル教会が犯人を突き止めるため厳しい審問を行った。審問官たちは盗まれた遺体を追跡し搬送先がアンデッドの軍勢に守られたトーモッドの地所だと突き止めた。審問官に扇動された農民たちが怒れる群衆となって地所へと押し寄せると、数時間の内にトーモッドは木に吊されたのだった。

トーモッドの地所はアルスールの遠縁が相続し、彼の遺体は例の「壮麗な墓所」に埋葬された。ところが、数か月もすると墓泥棒事件が再び発生したのだ。教会当局が地所に戻って確かめたが、その土地は放置された状態であった。そしてトーモッドの棺をこじ開けてみれば中身は空っぽだったのだ……。

トーモッドの墓所

The dark opening seemed to breathe the cold, damp air of the dead earth in a steady rhythm.
その真っ暗な入り口は、死せる大地の冷たく湿った空気を、変わらぬ周期で吐き出しているようだった。
引用:トーモッドの墓所(Tormod’s Crypt)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

トーモッドの墓所(Tormod's Crypt)

トーモッドの墓所(Tormod’s Crypt)
データベースGathererより引用

トーモッドを語る上で最も重要なものと言えば、やはり彼の墓所が一番初めに挙がるだろう。

トーモッドの墓所(Tormod’s Crypt)カードセット「ザ・ダーク」のオリジナル版のイラストは、墓所内の墓碑と棺が描かれている。フレイバー・テキストの方には入り口は真っ暗だと書かれているが、イラストでは外光が差し込んでいるのか分からないが、墓地内部が不気味な赤い光に照らされている。

また、フレイバー・テキストにはこの墓所の入り口からは「死せる大地の冷たく湿った空気を、変わらぬ周期で吐き出しているよう」であるという。まるで死せる墓所自体が呼吸しているようだ。

Dominaria’s most extravagant crypt nevertheless holds an empty grave.
ドミナリアで最も壮麗な墓所にもかかわらず、その墓には何も入っていない。
引用:トーモッドの墓所(Tormod’s Crypt)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

トーモッドの墓所(Tormod's Crypt)

トーモッドの墓所(Tormod’s Crypt)
データベースGathererより引用

カードセット「基本セット2013」に再録されて以降、イラストとフレイバー・テキストが新規に変更された。

こちらのイラストは墓所の外観が描かれている。半開きの扉や窓からは重たい靄が漂い出てきている。この靄はザ・ダーク版のフレイバー・テキストにあった「死せる大地の冷たく湿った空気を、変わらぬ周期で吐き出しているよう」のフレーズを受けた描写なのだろう。

そして、新規のフレイバー・テキストでは「ドミナリアで最も壮麗な墓所(Dominaria’s most extravagant crypt)」という象徴的な文句が登場している。さらに、墓所が空っぽなことがここで初めて明示された。

驚きの事実がある。このイラストは元絵からは上下左右が大きくトリミングされてしまっている。実は元絵ではこの墓所は靄の尾を引きながら、空中を飛んでいるのだ。空飛ぶ墓所の元絵は、イラストを担当したラーズ・グラント・ウェスト(Lars Grant-West)の公式サイトで全体像を閲覧できる(公式サイトへのリンク)。

もしかすると、このドミナリアで最も壮麗な空っぽの墓所は現在でも空を彷徨っているのかもしれない。

トーモッドの墓所の番人

It guards not a body, but a secret.
それが守るのは死体ではなく秘密である。
引用:トーモッドの墓所の番人(Tormod’s Cryptkeeper)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

トーモッドの墓所の番人(Tormod's Cryptkeeper)

トーモッドの墓所の番人(Tormod’s Cryptkeeper)
データベースGathererより引用

トーモッドの墓所の番人(Tormod’s Cryptkeeper)カードセット「モダンホライゾン2」で新たに登場したトーモッド関連のカードである。

カード名の通りトーモッドの墓所を守る番人のゴーレムである。クリーチャーであるが墓所と同じくアーティファクトであり、自身を生け贄にして墓地のカードを追放する起動型能力は墓所と全く同じ効果だ。

壊死の呪詛

“You foolish knights pound your breastplates and vow to fight until your last breath. As if that’s when it ends.”
–Tormod, the Desecrator
「お前ら愚かな騎士どもは胸を叩いて命の限り戦うと誓った。それで終わりだとでもいうように。」
–冒涜する者、トーモッド
引用:壊死の呪詛(Necrotic Hex)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

壊死の呪詛(Necrotic Hex)

壊死の呪詛(Necrotic Hex)
データベースGathererより引用

墓所に続いてもう1枚、トーモッドに言及するカードを紹介しよう。それがカードセット「統率者レジェンズ」に収録される壊死の呪詛(Necrotic Hex)である。

実はカードセット「統率者レジェンズ」現在においても、トーモッドがカード名やフレイバー・テキストに登場するカードは3種類しか存在していない(トーモッド本人、墓所、そしてこの壊死の呪詛だ)。ここではトーモッドのコメントが引用されている。貴重なトーモッド本人の言葉だ。

※ 統率者レジェンズの翌年には新たな関連カードとしてトーモッドの墓所の番人が登場している。

フレイバー・テキストの和訳について:
このフレイバー・テキストの公式和訳版だが、「胸を叩いて」となっている部分は、英語原文では「pound your breastplates」である。「breastplate」は単なる「胸」でなく「鎧の胸当て」のことだ。

その後の「命の限り戦う」部分は「to fight until your last breath」である。こちらは「死ぬまで」を意味する「until last breath」という表現が使われていて、直前の「breastplate」とは「胸(肺)と息(呼吸)」で呼応させているように思える。「命の限り」という翻訳には何の誤りもないものの、「息絶えるまで」くらいの方が対応関係がより強調されるだろう。

そして「誓った。」と過去形で結んでいるがここはおかしい。原文の時制は「pound and vow」なので過去ではない。ここは、すでに過去のことだと済ませているのでなく、今までもこれからも騎士と言うのはそういうもので普遍的だという含みだろう。

最後にもう1つ、暗黒時代からの古代のアンデッド魔術師かつ貴族出身で、有名カード由来のキャラクターの口調として「お前ら」という言い方は品が足りなさ過ぎるのではないか?

「お前たち愚かな騎士は胸当てを叩いて誓う。息絶えるまで戦う、と。そこで終わりだとでもいうように。」

少々変更してみた。息絶えようともアンデッドの下僕として戦わされる運命が暗示されている。

冒涜する者、トーモッドのイラスト

トーモッドの外見は今回のカード化で初めて描かれたものだ。だが、このイラストは過去カードのオマージュであると気付いた。トーモッドの墓所と同じカードセット「ザ・ダーク」に収録されたGrave Robbersである。

トーモッドと墓泥棒の比較

比較しやすいように、トーモッドとGrave Robbersに描かれた墓泥棒を上下に並べてみた。

まず「髑髏」を掲げていること、そして髑髏を持つ「片手のポーズ」がほぼ同じだ。反対側の手に目を向けると、掌が下向きで指が自然な形で開いており、これも似ている。

次の大きな共通点が「髪型」である。頭頂部が禿げていて側頭部に白髪が生えており、そっくり同じである(私は大きな図で比較するまで髪型には気づけなかった)。

最後に、イラスト下部には、左右に広がるやや右上がりに傾いた「細長い穴」があり、構図が同じである。ただし、トーモッドの方は彼の手前に開いた棺の「細長い穴」があるが、Grave Robbersの方は墓泥棒自身が暴いた墓の「細長い穴」の中にいる、という差異がある。

トーモッドはストーリー上では墓泥棒をさせていた貴族である。イラストがいくら似ているとはいえ、貴族のトーモッド自身がこんな格好で墓泥棒を働いていたとは思えない。あくまでオマージュと考えた方がいいだろう。まあ、トーモッド本人が率先して泥まみれになって墓泥棒をやっていたら、それはそれでキャラ付けが濃くなって面白くはあるけれど…。

追記:2021年3月1日

Amnesia

Amnesia
データベースGathererより引用

更にカードセット「ザ・ダーク」には、もう1枚、トーモッドと同じ髪型のイラストがあることを発見した。「記憶喪失・健忘症」を意味するカード「Amnesia」である。

トーモッドの顔(拡大)

髪型以外にAmnesiaとの共通点はないがトーモッドが群衆に吊るされる前、タル教会異端審問を受け、Amnesiaのイラストのように額に貫通孔を開けられた可能性はもしかするとあるやもしれない。トーモッドのサークレットの飾りが額に開いた穴を隠すものであったとしたら…!?

Amnesiaに関しては別記事としてまとめてある。→こちらを参照。追記ここまで

次の節から終わりまで、本記事の残りはトーモッドと言うキャラクターが今までどのように扱われてきたか、そして、今回どのような出典から人物造形が創作されたのかを、調査および考察していく。



トーモッドというキャラクターの経緯

冒涜する者、トーモッド(Tormod, the Desecrator)

特別版デザインの冒涜する者、トーモッド(Tormod, the Desecrator)
データベースGathererより引用

トーモッドは1994年発売のカードセット「ザ・ダーク」トーモッドの墓所(Tormod’s Crypt)が初出となる古いキャラクターであるが、2020年の本人のカード化までほぼ設定が存在しなかった。

トーモッドに関する情報はトーモッドの墓所のフレイバー・テキストが唯一であり、ドミナリア暗黒時代を舞台にした小説や短編、公式記事で顔見せ程度に言及されたことすらないのだ(もちろん暗黒時代でない作品にも全くない)。

カードセット「統率者レジェンズ」の制作チームのガヴィン・ヴァーヘイ(Gavin Verhey)が語るところによると、ケリー・ディグズ(Kelly Digges)が伝説のクリーチャーを調査してまとめた詳細な註釈集にさえ、トーモッドに関してはただ「墓所がある。(Had a crypt.)」としか書かれていなかった。(ガヴィン・ヴァーヘイ証言

したがって、トーモッドの設定やストーリーはカード化に当たって新規に創作されたものなのだ。トーモッドの解説は公式記事The Legendary Characters of Commander Legends, Part 2公式和訳)で公開されている。

このトーモッドの設定とストーリーを担当したのはイーサン・フライシャー(Ethan Fleischer)である。フライシャーによれば、トーモッドは厄介だった。仕事をするための材料はカードセット「基本セット2013」版のトーモッドの墓所のフレイバー・テキストと、ドミナリア暗黒時代に関する自分の知識だけだった。とのことだ。(イーサン・フライシャー証言

こうしてトーモッドの人物造形にやっと血肉が備わったのだった。出来上がった文章に目を通してすぐにフライシャーの生みの苦労がよくわかった。彼でなければ、こうはまとまらなかったのではないだろうか。

次の節ではイーサン・フライシャーが創作したトーモッドの設定をキーワードごとに分解し、その出典となるカードや作品へと立ち戻って、読み解いていこう。

冒涜する者、トーモッドを読解する

トーモッドの設定とストーリーの全文を以下に引用する。キーワードとなる語句にはリンクを貼ってあり、それぞれについて出典のカードや作品を取り上げて、解説を行っている。なお、これらの出典は本サイト独自調査と分析によるものであり、必ずしも公式によって裏付けられたものばかりとは限らないことを一応注記しておく。

Tormod, the Desecrator

During the time of the Dark, the city of Alsoor suffered from a series of grave robberies. The Church of Tal conducted an inquisition to determine who was responsible. The inquisitors traced the traffic in stolen corpses to an estate in the swampland east of the city. The estate, owned by a minor nobleman named Tormod, was guarded by a horde of the undead. The inquisitors encouraged a mob of peasants to storm the estate, and Tormod was hanging from a tree within a few hours. Some distant relatives living in Alsoor inherited the estate and interred Tormod in the extravagant crypt that his undead minions had constructed.

Some months later, the ghastly grave robberies resumed. The Church authorities returned to Tormod’s estate to find it abandoned. They prized open the lid of Tormod’s coffin, only to find the grave empty.
引用:公式記事The Legendary Characters of Commander Legends, Part 2

記事のスペースの都合上、上記記事の公式和訳版まで並べるのはきついため、そちらは折り畳み表示にしている。展開してご覧いただきたい。

記事公式和訳版(折り畳み)

冒涜する者、トーモッド

 暗黒時代アルソーの街は相次ぐ墓荒しに悩まされていました。タル教会はその元凶を突き止めようと調査に乗り出しました。審問官たちは盗まれた屍の行方を追い、街の東方にある沼沢地内の地所にたどり着きました。トーモッドという名の下級貴族が所有するその地所は、アンデッドの軍勢で守られていました。審問官たちは農民の軍勢を駆り立ててその地所へ殺到し、数時間のうちにトーモッドは一本の木に吊るされました。アルソーに住む数人の遠縁がその地所を相続し、トーモッドを贅沢な墓所に埋葬しました。彼のアンデッドの下僕たちが築いていたものです。

 数か月後、不気味な墓荒らしが再発しました。教会の上層部がトーモッドの地所へ戻ると、そこは無人でした。彼らはトーモッドの棺の蓋をこじ開けるも、ただ空の墓があるだけでした。
引用:『統率者レジェンズ』の伝説たち その2

これ以降の節は各キーワードに関する分析と解説である。

暗黒時代

「During the time of the Dark」のフレーズはドミナリア暗黒時代を指している。AR64年から450年の期間で、現在の時代区分ではドミナリア氷河期の一部と捉えられている。この時代をテーマにしたのがカードセット「ザ・ダーク」である。

ドミナリア史:暗黒時代
マジック・ザ・ギャザリング(MTG)のドミナリア次元の時代区分「暗黒時代」はAR64年~AR450年頃の時代のこと。兄弟戦争の影響で、気候が寒冷化に向かい、魔術師が境界に弾圧された時代。サーペイディア大陸では五大帝国が崩壊した。

アルスール

“The bolts of our ballistae smashed into the monstrous thing, but our hopes died in our chests as its gears continued turning.”
–Sevti Mukul, The Fall of Alsoor
我々のバリスタが何発もあの化け物に命中したが、歯車は回り続け、それにつれて我らの胸の中の希望も潰えた。
–セブティ・ムクル「アルスールの陥落」
引用:悪魔の機械(Diabolic Machine)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

悪魔の機械(Diabolic Machine)

悪魔の機械(Diabolic Machine)
データベースGathererより引用

「city of Alsoor」の出典元はカードセット「ザ・ダーク」収録の悪魔の機械(Diabolic Machine)のフレイバー・テキストである。

「Alsoor」はカードセット「基本セット第4版」で「アルスール」と翻訳されて定着している。今回の公式翻訳記事では「アルソー」となっているが、この手の記事ではよくある訳ブレである。

アルスール(Alsoor)小説The Gathering Darkにおいて暗黒時代のテリシア東部の都市国家として描かれた。タル教会の影響が強く、異端審問が行われる。これらはこの小説で語られているものだ。

ちなみに悪魔の機械のフレイバー・テキストによると、アルスールは悪魔の機械と呼ばれるこのアーティファクト・クリーチャーにより陥落している。小説The Gathering Darkよりも後の出来事だ。

悪魔の機械は小説Planeshiftでファイレクシア次元に存在が確認できているため、アルスールを襲った個体はアンティキティー戦争期AR0-63年)またはスラン時代末期AR-5000年頃)からのファイレクシアの遺物が再起動したものだったと考えられる。テリシアではこうした危険なファイレクシアの遺産が埋没しており、暗黒時代より何世紀も後の時代になっても発見されている(例えば、AR4560年頃のトラクソス(Traxos)の発掘)。

「クルーグの災い魔、トラクソス」の発見場所とオリジン
マジック・ザ・ギャザリング(MTG)の伝説のアーティファクト・クリーチャー・カード「クルーグの災い魔、トラクソス(Traxos, Scourge of Kroog)」を紹介。ドミナリアに収録。アンティキティー戦争のトラクソスの発掘場所やオリジンなどについて考察した。

墓泥棒

“If you don’t have your health, you don’t have anything.”
–Proverb
「健康でなければ、何を持っていても意味がない。」
–諺
引用:Grave Robbersのフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が私家訳

Grave Robbers

Grave Robbers
データベースGathererより引用

Grave Robbers」つまり「墓泥棒・墓荒らし」の意味を持つこのカードはカードセット「ザ・ダーク」収録のクリーチャー・カードである。墓地からアーティファクトを追放してライフを得るというまさに墓泥棒らしい機能を持たされている。

ドミナリア暗黒時代には、こうした盗掘が横行しており、この時代を舞台とした小説Dark Legacyで言及がされている。

上述したが、このカードのイラストがトーモッドのイラストの下敷きになっていると考えられる。→こちらを参照。

タル教会

“Bathed in hallowed light, the infidels looked upon the impurities of their souls and despaired.”
–The Book of Tal
「神聖な光を浴びせられ、異教徒たちは自分たちの魂の汚れを見て絶望した。」
–タルの書
引用:Holy Lightのフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が私家訳

Holy Light

Holy Light
データベースGathererより引用

「Church of Tal」は元を辿れば、カードセット「ザ・ダーク」の背景設定と、それに収録されたカードの「Holy Light」(聖なる光)のフレイバー・テキストの「タルの書(The Book of Tal)」が出典と言える。

カードセット「ザ・ダーク」時点で教会勢力による魔法の弾圧と異端審問が時代背景にあることが公表されていた。MTG初期の小説Dark Legacyは暗黒時代テリシア西部沿岸周辺が舞台であり、教会の権勢はしっかりと描かれていたものの、教会組織自体には特に名称は無かった。

タル教会(Church of Tal)の名称と設定が打ち出されたのが小説The Gathering Darkであった。テリシア東部地域に強い発言力を持ち、魔法を徹底的に弾圧し、異端者を審問して公開処刑したり、時には民衆を扇動して暴動を起こしたりする姿が語られている。その起源はヨーティア国初期の太陽崇拝カルトにあったとされる(伝説時代末期と推定)。この小説には「タルの書」も登場している。

タルの書:
タルの書(The Book of Tal)」自体の初出に関してはカードセット「ザ・ダーク」よりも前にある。MTG史上最初のカードセット「リミテッドエディション(基本セット第1版)」である。

“Look to the north; there you will find aid and comfort.”
–The Book of Tal
北を見よ。そこに救済が見いだされよう。
–タルの書
引用:北の聖騎士(Northern Paladin)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

北の聖騎士(Northern Paladin)

北の聖騎士(Northern Paladin)
データベースGathererより引用

北の聖騎士(Northern Paladin)はテリシアからは遠く離れたドメインズ地方のパルマ(Parma)の聖騎士と設定されている。パルマは遅くとも氷河期には存在していることが確認できるが、これが暗黒時代のテリシア東部のタル教会とは今のところ関係性が見出せないためここでは言及を避ける。

そしてもう1種類「タルの書」に言及しているカードがある。

“Look to the south; there you will find peace and serenity.”
–The Book of Tal
南を見よ。そこに平安と静寂が見いだされよう。
–タルの書
引用:南の聖騎士(Southern Paladin)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

南の聖騎士(Southern Paladin)

南の聖騎士(Southern Paladin)
データベースGathererより引用

南の聖騎士(Southern Paladin)カードセット「ウェザーライト」に収録されたカードである。イラストの聖騎士はジャムーラ人に見える。このカードセットはAR4204年のドミナリアを舞台にしていることから、暗黒時代テリシアのタル教会とは直接のつながりはない。したがって、こちらも本記事では割愛する。

異端審問

Many of those entrusted to Primata Delphine’s care tended to express themselves with screams.
デルフィン大主教の手に委ねられると、多くの者が悲鳴を上げながら意見を述べたのだった。
引用:Inquisitionのフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が私家訳

Inquisition

Inquisition
データベースGathererより引用

Inquisition」つまり「異端審問」もカードセット「ザ・ダーク」に収録されたカードである。魔法が弾圧されたこの時代には、教会による異端審問と処刑は珍しいものではなかった。

フレイバー・テキストのデルフィン大主教(Primata Delphine)小説The Gathering Darkに登場して、主人公ジョダー(Jodah)を狙う厄介な敵となった。デルフィンはタル教会の聖職者であると共に凄腕の異端審問官であった。デルフィンとタル教会の僧侶たちは民衆を扇動してテリシア北部にあった魔法使いの隠れ里「魔導士議事会」を攻撃し破壊してしまった。

小説Dark Legacyでも、テリシア西部地方における教会の異端審問官はきちんと描写されている。

強迫(Duress)

強迫(Duress)
データベースGathererより引用

余談だが、2009年発売の「デュエルデッキ:ディヴァインvsデモニック」で刷新された強迫(Duress)のイラストは、このInquisitionに似ている。

追跡者

Tracker

Tracker
データベースGathererより引用

Tracker」つまり「追跡者」はこれもまたカードセット「ザ・ダーク」収録のクリーチャー・カードである。

トーモッドの設定解説の「The inquisitors traced the traffic in stolen corpses」の件だけでは、この追跡者が関係しているとまでは言えないだろう。御覧の通り、引用文の主語は「追跡者(Tracker)」ではなくタル教会の「審問官(The inquisitors)」である。

だが、ここで小説The Gathering Darkの記述を確認してみよう。無名の「追跡者(The tracker)」がタル教会のデルフィン大主教(Primata Delphine)に雇われて、大主教とその他2人の聖職者と共に行動しているのだ。

この追跡者の男性は4週間にわたって追跡の任務を果たし、デルフィンらを魔導士議事会にまで導いた。その頃の彼にとっては雇い主たち3人も、魔導士議事会の魔法使いと同じように恐ろしい存在に思えるのだった。追跡者が仕事を果たしたので報酬をもらって帰宅したいと告げると、デルフィンら3人はタルの書への祈りの言葉を唱えて追跡者の命を奪ってしまう。これで「罪人の浄化はなされた」のだ、と。

したがって、タル教会の審問官が盗まれた遺体の搬送先を調べる際に「専門の追跡者」を雇用し同行させるのは、前例から考えて、まず間違いないのである。アルスールの近隣にトーモッドの地所はあるようなので人の耳目もあるだろうから、小説のように追跡者の命が軽々しく奪われるようなことはなかったと思いたい。

怒れる群衆

怒れる群衆(Angry Mob)

怒れる群衆(Angry Mob)
データベースGathererより引用

「a mob of peasants」の件は怒れる群衆(Angry Mob)だ。カードセット「ザ・ダーク」のこのカードも暗黒時代の作品に登場している。

小説The Gathering Darkではタル教会デルフィン大主教や伝道師らが群衆を扇動してこのような暴徒として敵への攻撃へと利用していた。

余談であるが、このカードのイラストは1922年の映画「吸血鬼ノスフェラトゥ(Nosferatu)」の一場面をモチーフにしている(リンク)。

以上で、本記事で触れるべきポイントは抑え終わったと思いたい。想定よりダラダラと長い記事になってしまった。最後までお付き合いいただいて感謝したい。

では、今回はここまで。

冒涜する者、トーモッドの関連記事

トーモッドがいたドミナリア暗黒時代について

ドミナリア史:暗黒時代
マジック・ザ・ギャザリング(MTG)のドミナリア次元の時代区分「暗黒時代」はAR64年~AR450年頃の時代のこと。兄弟戦争の影響で、気候が寒冷化に向かい、魔術師が境界に弾圧された時代。サーペイディア大陸では五大帝国が崩壊した。
ザ・ダーク
マジック・ザ・ギャザリング(MTG)のカードセット「ザ・ダーク」収録のカードの中からピックアップしてストーリーや設定を解説する。

カードセット「統率者レジェンズ」関連のリスト

統率者レジェンズ
カードセット「統率者レジェンズ」収録のカードの中からピックアップしてストーリーや設定を解説。