本記事は「ファイレクシアの沿革」と題して、MTG史上での「ファイレクシア(Phyrexia)」の変遷を時系列に沿って書き出す内容となる。今回は第9回目だ。
前回はラース・サイクルのアートブック・資料集「アート・オブ・マジック -ラース・サイクル編-」を扱った。そして今回は短編集Rath and Stormからファイレクシア関連情報を拾い上げる。これでラース・サイクルの範囲は総ざらいしたことになる。
※ もともと個人的な覚書を最低限読めるように記事化したものなので、雑で味気ないのはご容赦ください。
短編集Rath and Stormの解説
短編集Rath and Stormはラース・サイクルのストーリーを描いた短編集で、複数の作家が執筆した全部で9の短編が収録されている。1998年7月作品。
各短編のタイトルは「…’s Tale」つまり「(主人公)の話」で統一されており、タイトルに冠されたキャラクターがその短編の主人公である。主人公はウェザーライト号の主要乗組員だけとは限らず、敵艦プレデター号艦長のグレヴェン主役回もある(その反面、乗組員オアリムの回やジェラードの宿敵ヴォルラス回がないという不思議な構成)。
また、短編ごとに執筆者とテキスト分量はまちまちである。
短編集Rath and Stormの構成
短編集Rath and Stormの全体は四部構成でそれぞれがラース・サイクルの4つのカードセットに対応している。各部には短編が2篇か3篇ずつ割り振られている。
短編の内容は概ねラース・サイクルの進行順に沿っているが、主役にまつわる過去回想が挿入されるなどの変則回もある。
各部に割り振られた短編は以下の通りだ。
第一部ウェザーライト
第一部はウェザーライトだ。
収録短編は「Gerrard’s Tale」、「Tahngarth’s Tale」、「Eartai’s Tale」の3篇(主役はジェラード、ターンガース、アーテイ)。
第二部テンペスト
第二部はテンペスト。
短編は「Greven’s Tale」、「Hanna’s Tale」、「Starke’s Tale」の3篇(主役はグレヴェン、ハナ、スターク)。
「Greven’s Tale」にはファイレクシア情報が確認できた(→後述)。
第三部ストロングホールド
第三部はストロングホールド。
短編は「Karn’s Tale」、「Crovax’s Tale」の2篇(主役はカーン、クロウヴァクス)。
「Karn’s Tale」ではかなり密度の高いファイレクシア情報が記載されていた(→後述)。
第四部エクソダス
最後の第四部エクソダスは「The Weatherlight’s Tale」、「Mirri’s Tale」の2篇だ(主役はウェザーライト号、ミリー)。
幕間A Dark Room
以上の9の短編の他にも重要なパートが収録されている。それが短編と短編の間にある短い幕間「A Dark Room」だ。
この幕間はラース・サイクルより未来の時間軸で、ある夜に老教師が少年イルキャスターに過去の出来事としてラース・サイクルを語る、という形式を取っている。幕間の内容は主に前後の短編の補足であったり、次の短編の前振りだ。
そして、短編集最後のタイトルは「A Dark Room」でなく「Dawn」つまり「夜明け」だ。夜通し語って来たが朝が訪れて、老教師の語りが終わって幕となるのだ。
幕間のいくつかにはファイレクシア情報が確認できたが、ラース・サイクルの全範囲の中でここでしか明らかになっていない情報が含まれていた(→後述)。
短編集Rath and Stormのファイレクシア情報
短編Graven’s Tale
短編Graven’s Taleでは、グレヴェンの防具やプレデター号の一部がファイレクシア製であることがほんの軽く言及された。
プレデター号がファイレクシアのテクノロジーの産物であることはカードセット「テンペスト」時点で既出だったので、グレヴェンの装備も同様だという点だけが新規情報となる。
短編Karn’s Tale
短編Karn’s Taleは収録短編中で唯一ファイレクシアにしっかりと言及している。
ファイレクシアンが登場して会話し、その性質が語られ、肉体を改造する具体的な描写が初めてされた。
ラースの要塞内にファイレクシアンの衛兵が含まれていた。登場したファイレクシアンは少なくとも4人。カーンを護送したファイレクシアンの衛兵は女性で、鋼と骨の網目構造の下に、引き延ばされ異常発達した肉を持つ生き物だった。その無毛の頭部はギザギザした矢じりのような鶏冠状になっており、顎の付け根は骨がむき出しで、口には歯がびっしりと生えていた。
捕虜となったカーンは要塞にファイレクシアンの存在を認めても特に動じておらず、そればかりか、ファイレクシアンの性質について詳しい情報すら知っていた。
カーンの知識では、ファイレクシアンは拷問を好む。生身の捕虜は拷問の末に処刑されるか、殺されずとも死んだほうがましだと思うような姿に変えられてしまう。金属製の鋲で埋められ、人工脊髄のインプラントに縛り付けられた怪物に変形させられる。ファイレクシアンは「苦痛を伴う肉体の完成(the perfection of flesh through pain)」を信じ、筋肉を金属に変えるのだという。
ターンガースが収容された拷問部屋では彼を痛めつけ変異させるビームが浴びせられていた。ファイレクシアンはプレデター号艦長グレヴェンの副長に相応しい強さを持たせるために「ターンガースを改善中だ(Improving him)」と表現していた。
幕間A Dark Room
A Dark Roomは短編と短編の幕間に過ぎないパートであるにも拘らず、ラース・サイクルの真相に迫る深掘りが語られてもいる。この本の本編であるはずの短編内でこそ触れていて欲しい内容が幕間に散在しているのだ。
その中にはファイレクシアとラースの関係性の情報が2つ含まれている。
その1:流動石
幕間A Dark Roomにあるファイレクシア情報のうち重要度が低い方から話そう。以下の内容だ。
ファイレクシアは流動石(Flowstone)を大量生産する巨大な機構を建造した。それがラースの要塞にある。その他、流動石の持つ特質やラースの大地が流動石でできていることなどが語られている。
短編集Rath and Stormの短編内では言及されていない情報ではある。しかし、これらは全て既出情報だ。Duelist誌付録のイラストカードやアート・オブ・マジック -ラース・サイクル編-でも、流動石生産プラントのある要塞がファイレクシアの建造物だと解説されていた。流動石の性質などの情報も雑誌記事やアートブックにあるものと同じだ。
その2:黒幕ファイレクシア
今度の情報は重要度が高い。ラースの背後にはファイレクシアがいる。これが初めて明言された。
この情報をもたらすキーパーソンがラース人のスタークである。幕間に散らばった内容をまとめると以下の通りだ。
- スタークは故郷のラース次元がファイレクシアのために創られたことや、ラースの統治者は本当はファイレクシアに仕えていることを知って、恐怖を覚えた。
- また、スタークはヴォルラスがファイレクシアのためでなく利己的な目的で動いていることにも勘付いた。
- スタークはヴォルラスの下からドミナリアに逃走したが、娘のタカラが人質に取られていると気付き、娘の救出するためにウェザーライト号艦長シッセイを頼った。
スタークはシッセイ艦長に接触後、また自身の立ち位置をのらりくらりと変えるが、最後はウェザーライト号の協力者として落ち着くことになる。スタークはラースとファイレクシアの事実関係をウェザーライト号のメンバーに伝え、情報共有をしたと考えられる。上述したようにカーンがラースの要塞内のファイレクシアンの存在に動ぜず受け入れていた理由はこれしかないだろう。ウェザーライト号は元々、ファイレクシアと敵対2しており、それはスタークも承知の上なのでファイレクシアの情報を明かして協力を要請するのが自然だし、情報隠匿する合理的な理由がない。
ではなぜファイレクシアの名前が主人公たちやヴォルラスら敵の口から出て来ないのか?ユーザーに情報を隠して(チラ見させて)、ストーリーへの興味を持続させようというウィザーズ社の都合だったとしか思えない。
さいごに
以上で短編集Rath and Stormのファイレクシア情報を総確認できた。
ファイレクシアがラース・サイクル現時点でラース次元を裏から操っていることがやっと明確になった。今回はかなりの量の資料を当たったつもりなのだが、ここ以外では明記されていなかったのに本当に驚かされた。取りあえずこれで、「荒廃の王」の正体がファイレクシアのデーモンらが崇拝する「ヨーグモス(Yawgmoth)」だろうことが見えてくる(ほとんど確定)。
では今回はここまで。