驚愕(Startle)はカードセット「イニストラード:真夜中の狩り」収録のインスタント・カードである。
前回の縫い込み刃のスカーブ(Bladestitched Skaab)に続いて、今回も「イニストラード:真夜中の狩り」のドラフト戦で私が個人的によく使うカードを取り上げたい。
この何気ないインスタント「驚愕」はカード名、イラスト、カードの機能が(ものすごーく地道だが)絶妙なバランスで組み上げてデザインされている。それを順に確認していこう。
驚愕の解説
驚愕(Startle)はイニストラード次元の桟橋でのある一場面を描いている。
「驚愕」と和訳されたカード名「Startle」は「跳び上がるほどの驚き」を意味する言葉だ。イラストは、釣り人が今まさに驚きで跳び上がっている瞬間を切り出している。
驚愕のカード・メカニズム
カードのメカニズムを確認すると、対象1体に一時的な-2/-0修整を与え、腐乱持ちの2/2ゾンビ・トークンを生成し、そしてカードを1枚引く特典付きだ。
「驚愕」というカード名なのに、この機能である。相手をビックリさせただけでなく、ゾンビやカードまでくっついてくるのはちょっと不思議に感じないだろうか?
そもそもMTGのカードは、ゲーム的なテーマの再現やバランス取りの結果として、カードのイメージさせるものとの食い違いがしばしば発生するものだ。対戦ゲームなのでゲーム性がフレイバー要素よりも先行し優先されるのは、仕方がないのだ。
ところが、この驚愕というカードは一味違う。イラストをよく観察するとゲーム的な機能全てに一応の説明付けをしているのである。地味で目立たない心配りだ。次の節で具体的に見ていこう。
驚愕のイラスト
イラストを見ると釣り人が腐乱した右腕を釣り上げてしまって、思わず竿を放り出し、驚きの叫びを上げるほどに恐れおののいている。
更に釣り人は気付いていないが、その背後の路地からはゾンビが姿を現わし、こちらに向かってやって来るところだ。泣きっ面に蜂である。
その1:-2/-0修整
カードの機能では、対象のクリーチャー1体がターン終了時まで-2/-0修整が課せられる。
これはイラストの釣り人の驚く様子を指しているのは明白だ。釣り人は驚きのあまりに道具を手放し、体勢を崩している。となれば、戦闘能力が低下するのは必然。
冷静さを取り戻すまでの一時的な-2/-0修整なら納得だ。
その2:ゾンビ・トークン
驚愕はカード効果として、腐乱持ちの黒の2/2ゾンビ・クリーチャー・トークンを1体生成する。
カードのイラストを見ての通り、路地から出てきたゾンビがまさにそれだ。
カードセット「イニストラード:真夜中の狩り」では、この「腐乱ゾンビ・トークン」は青と黒のゾンビ・テーマを補強するメカニズムである。ブロックに回せないし、1回攻撃に出すだけで使い切りとなる、これ単体では正直強くはないクリーチャーである。だが、これと組み合わせると相性の良いカードが各種揃っており、一見した実力以上の働きができるのだ。
そんなわけで、「イニストラード:真夜中の狩り」では腐乱ゾンビ・トークンは色々なカードにおまけみたいな感覚でくっついてぞろぞろと出てくるものとなっている。
イニストラード次元はホラーがテーマの世界なので、元からゾンビは多かった。だが、「真夜中の狩り」ではこうして乱発される腐乱ゾンビ・トークンの存在もあって、イラストのゾンビ率は少々高めになってるような感触を受ける。
その3:カードを1枚引く
「驚愕」の最後の機能が「カードを1枚引く」である。
「カードを1枚引く」はMTGでは伝統的に「キャントリップ1」と呼ばれている。何か取るに足らない効果しか持たないカードに、おまけとして付加されることが多い定番メカニズムだ。
MTGにおいて「カードを引く」ことは知識を得たり、何かの恩恵を享受したり、といったイメージを持たされることが多く、イラストでもそういった意味合いで描出されるものだ。そして、キャントリップは先述したようなおまけ扱いの要素なので、イラストに反映されることがあまりないのである。
ところが、カードセット「イニストラード:真夜中の狩り」では少々事情が違う。「カードを引く」を「知識」や「恩恵」とは別に切り口でイラストに描こうとしているカードがいくつか見受けられるのである。「驚愕」のキャントリップもその1つだ。
では、驚愕のイラストのどこにキャントリップが描いてあるのだろうか?
答えは、釣り人が釣り上げた腐った「手」である。
説明すると、これは英語の言葉遊びだ。英語では「手札」は「hand」である。カードを引くと「手札(hand)」のカードが1枚増える。一方、イラストで釣り上げたのは「手(hand)」だ。
つまり、「手(hand)」を釣り上げたから「手札(hand)」が増えた、という連想になっているのだ。
さいごに
お終いにまとめておこう。
驚愕はカード名、イラスト、機能がちゃんと互いに呼応するようにデザインされている。
- 第1に、「驚愕」というカード名とイラストの釣り人の驚いた様子は、カードの機能の-2/-0修整を反映しているものだ。
- 第2に、腐乱ゾンビ・トークンはイラストの背景を見れば、路地からひょっこり現れたゾンビとしてちゃんと登場している。
- 第3に、イラストで釣り上げた「手」は「手札」に増えたカードを連想させるものだ。
改めて見ても、とても地味で目立たない心配りであるが、完成品のデザインは絶妙なバランスで組み上げられている。
こうしたMTG制作陣の仕事振りに気付かされるにつけ、私は敬意を表せざるを得なくなるのだ。(……でもこの前の「ニューカペナの街角」は粗くなかったかな?)
では、今回はここまで。
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