フレイバー・テキストで「最期の言葉」が出てくるカードを調べて一覧化してみた。
先日、「基本セット2020:ドラゴンと最期の言葉」シリーズをまとめたとき、ついでで歴代の「最期の言葉」も調査しておいた。
「最期の言葉」の概要
この記事では「最期の言葉」カードとして次のに該当するものを選んだ。フレイバー・テキストが誰かの発言になっており、発言者名の後ろに「最期の言葉(last words)」と書かれているもの、である。
なぜか「最後」の言葉と訳されている
和訳製品版では「last words」がなぜか「最後の言葉」となっているものが大半を占めている。意味を考えれば「最期の言葉」の方がより正しいだろう。
最期の言葉の内、和訳製品版が存在するのは15種類中13種類だが、「最後」が10種類もある。「最期」はたった3種類だけである→ルアゴイフ(Lhurgoyf)、危険な進出(Perilous Forays)、青銅の爆弾人形(Bronze Bombshell)。
本サイトのこの記事では、以下全ての引用文章を「最後の言葉」から「最期の言葉」に書き換えているので注意されたい。
最期を迎えた者たち
- ゴブリン小船隊司令官、パシャダー・ダーフ(Pashadar Dirf, Goblin Flotilla Commander):フォールン・エンパイア
- サッフィー・エリクスドッター(Saffi Eriksdotter):アイスエイジ
- 北極の狐、ジャーケルド将軍(General Jarkeld, the Arctic Fox):アイスエイジ
- ザルファーの工匠、イムウィータ(Imwita, Zhalfirin artificer):ミラージュ
- ゴブリンの斥候 ヴァーク(Vark, goblin scout):ウルザズ・レガシー
- ヱーラシーの司書、ハグブラス・ヴァヰム(Hœbrus Væm, Ærathi librarian):アンヒンジド
- 神殿の護衛、法棟(Hoto, temple guardian):神河物語
- 駆け出しの道探し、スヴァニャ・トルール(Svania Trul, wayfinder novice):ラヴニカ:ギルドの都
- グルールの襲撃者ウクル(Ukl, Gruul raider):ディセンション
- ジョラーガの遺物狩り、ラダーヴィ(Radavi, Joraga relic hunter):ゼンディカー
- イガルス王(King Igalus):神々の軍勢
- スラーク将軍(General Srok):統率者2014
- 放浪の修道士、レイグ(Reig, wandering monk):イニストラードを覆う影
- グリック・ドービン(Grick Doobin):イクサラン
- ブリント・ドービン(Brint Doobin):イクサランの相克
- 小石通りの露天商(Stoneway Market vendor):モダン・ホライゾン
ゴブリン小船隊司令官、パシャダー・ダーフの最期
“Come back, cowards! Everyone knows Merfolk can’t wield magic!”
–Pashadar Dirf, Goblin Flotilla Commander, last words
「戻って来い、臆病者!マーフォークが魔法を使えないなんて誰でも知ってるだろ!」
–ゴブリン小船隊司令官、パシャダー・ダーフの最期の言葉
引用:Vodalian Mageのフレイバー・テキスト
上が英語原文。下は私家訳
ゴブリン小船隊司令官、パシャダー・ダーフ(Pashadar Dirf, Goblin Flotilla Commander)はドミナリア次元のキャラクター。カードセット「フォールン・エンパイア」なので暗黒時代(AR170年頃)のサーペイディア大陸のゴブリンである。
パシャダー・ダーフは、フレイバー・テキストに「最期の言葉」を記したMTG史上最初のキャラクターである。……のだが、知名度は皆無である。
パシャダー・ダーフの最期は、ヴォーデイリア帝国のマーフォークの魔導士を魔法が使えないはずだ、と侮ったことが原因である。
ちなみに、パシャダー・ダーフの率いるゴブリン小船隊こと「Goblin Flotilla」はカードセット「フォールン・エンパイア」に同時収録されている。
サッフィー・エリクスドッターの最期
「ああ! ハンス、逃げて! ルアゴイフよ!」
–サッフィー・エリクスドッターの最期の言葉
引用:ルアゴイフ(Lhurgoyf)のフレイバー・テキスト
サッフィー・エリクスドッター(Saffi Eriksdotter)はドミナリア次元のキャラクターである。ドミナリア氷河期末期テリシア大陸の蛮族バルデュヴィア族の女性である。ハンス・エリクソン(Hans Eriksson)は兄弟。
サッフィーの最期はおよそAR2930年頃1に発生した出来事である。ルアゴイフ(Lhurgoyf)がバルデュヴィアの集落を襲ったのだ。
ルアゴイフのフレイバー・テキストに登場したこの「最期の言葉」はMTG史上最も有名なテキストの1つとなった。人気も高く、後には短編集The Monsters of Magic収録の作品「Ach! Hans, Run!」の題材となった(サッフィー・エリクスドッターとハンスも登場する)。そして、カードセット「時のらせん」ではサッフィーのカード化となり、さらにカードセット「統率者レジェンズ」ではハンス・エリクソン(Hans Eriksson)までカード化されたほどである。
北極の狐、ジャーケルド将軍の最期
“Stand your ground, troops! This shall be our finest hour!”
–General Jarkeld, the Arctic Fox, last words
「死守せよ、兵たちよ!我らの栄光の時とするのだ!」
–北極の狐、ジャーケルド将軍の最期の言葉
引用:Rallyのフレイバー・テキスト
上が英語原文。下は私家訳
北極の狐、ジャーケルド将軍(General Jarkeld, the Arctic Fox)はドミナリア次元のキャラクターである。ドミナリア氷河期のテリシア大陸の国家キイェルドーの伝説的な偉人である。ジャーケルドと軍はアダーカー荒原での戦いで消息を絶ったと後世に伝えられている。
ジャーケルド将軍は伝説のキャラクター・カードとしてカードセット「アイスエイジ」に同時収録されている。したがって、MTG史上最初に「最期の言葉」を遺した伝説のキャラクターなのだ(同期のサッフィー・エリクスドッターはカードセット「時のらせん」までカード化されなかった)。
ザルファーの工匠、イムウィータの最期
やつらがこんなことを?
–ザルファーの工匠、イムウィータの最期の言葉
引用:ゴブリン修繕屋(Goblin Tinkerer)のフレイバー・テキスト
ザルファーの工匠、イムウィータ(Imwita, Zhalfirin artificer)はドミナリア次元のキャラクター。ジャムーラ大陸北西部ザルファー国の人物である。
フレイバー・テキストの和訳製品版では「ザルファーのアーティファクト使い」となっている。これは当時の「工匠(artificer)」の定訳であった。
ゴブリンの斥候 ヴァークの最期
君たち先に行って、すぐ追いつくから。
–ゴブリンの斥候 ヴァークの最期の言葉
引用:ヴィーアシーノの殺し屋(Viashino Cutthroat)のフレイバー・テキスト
ゴブリンの斥候 ヴァーク(Vark, goblin scout)はドミナリア次元のキャラクター。AR3346-3360年頃2のシヴ大陸にいたゴブリンの斥候である。
ヴァークが最期を迎える前のシーンはカードセット「ウルザズ・レガシー」にものぐさ(Sluggishness)として同時収録されている。
ヴァークは横になることにした。そして仕事をやめる口実を考えることにした。
引用:ものぐさ(Sluggishness)のフレイバー・テキスト
ヴァークは斥候であるのに仕事を怠けて寝ている間に、ゴブリンと対立していたヴィーアシーノ族の殺し屋に見つかってしまったようだ…。
ヱーラシーの司書、ハグブラス・ヴァヰムの最期
“That’s not an A, it’s an Æ. Wait, don’t-”
–Hœbrus Væm, Ærathi librarian, last words
こいつは「る」じゃない。「ゑ」だ。おい、それに—
–ヱーラシーの司書、ハグブラス・ヴァヰムの最後の言葉
引用:Bloodletterのフレイバー・テキスト
上が英語原文。下はJNR準公式訳
ヱーラシーの司書、ハグブラス・ヴァヰム(Hœbrus Væm, Ærathi librarian)はジョーク・カードセット「アンヒンジド」に登場したキャラクターである。ジョークセット出身ではあるが「Ærathi」と書かれているのでドミナリア次元出身である。
このカードはアルファベットの合字(æとかÆなど)をネタにしており、それに応じて、JNR準公式訳では現代ではほぼ使われない仮名(ゑやヱなど)を当てはめている。
「Ærathi」を「ヱーラシー」と訳しているが、コミックThe Shadow Mage vol.2巻末の発音ガイドを参照すると「ay-RATH-i(アイラーシ)」が正式な発音である。
神殿の護衛、法棟の最期
案ずるな、次郎。神もここまで本拠に近い我らを襲いはせぬて……次郎?
–神殿の護衛、法棟の最期の言葉
引用:狩猟の神(Kami of the Hunt)のフレイバー・テキスト
神殿の護衛、法棟(Hoto, temple guardian)は神河次元のキャラクターである。
フレイバー・テキストで言及ある人物2人の読みは「法棟(ほうとう)」と「次郎(じろう)」である。次郎はいいが、「法棟」は見慣れない名前だ(仏教系の用語では法棟が寺院を意味することもあるようだが、建物であって人名ではない)。
公式記事A Kamigawa Glossary, Part 1によると、「法棟(Hoto)」の発音は「HOH-toh(ほーとー)」で、「次郎(Jiro)」は読み「JEE-roh(じーろー)」。2人とも「武道家の神殿の護衛(A budoka temple guard)」である。
神河は日本モチーフ次元であるのに、日本語話者でさえ読みがピンとこない言葉がでてくるのは珍しくないことであった。
駆け出しの道探し、スヴァニャ・トルールの最期
ここがその場所だって?地図が間違ってるよ……。
–駆け出しの道探し、スヴァニャ・トルールの最期の言葉
引用:危険な進出(Perilous Forays)のフレイバー・テキスト
駆け出しの道探し、スヴァニャ・トルール(Svania Trul, wayfinder novice)はラヴニカ次元のキャラクター。
和訳製品版で「危険な進出」と訳されたカード名は「Perilous(危険な、冒険的な)」+「Forays(侵略、略奪)」の意味合い。フレイバー・テキストの内容も加味すると、スヴァニャ・トルールは地図を片手に危険な場所へ侵入して略奪行為に及ぼうとしていたようだが…。
グルールの襲撃者ウクルの最期
ピカピカじゃねえか!鎖ちぎって持ってこうぜ。
–グルールの襲撃者ウクルの最期の言葉
引用:青銅の爆弾人形(Bronze Bombshell)のフレイバー・テキスト
グルールの襲撃者ウクル(Ukl, Gruul raider)はラヴニカ次元のキャラクター。グルールはラヴニカの10ギルドの1つ。
カード名の「Bombshell」は「爆弾」という意味の他に俗語で「魅力的な女性、かわいこちゃん」の意味を持っている。このダブルミーニングを反映させたのだろう、イラストでは爆弾人形は女性型をしている。グルールの襲撃者ウクルは、このかわいこちゃんを盗んで爆死したようだ。
ジョラーガの遺物狩り、ラダーヴィの最期
「ちょっとした黒魔法じゃ止められないよ。呪いが酷ければ、それだけ得るものも大きいんだ。」
–ジョラーガの遺物狩り、ラダーヴィの最期の言葉
引用:忌まわしい最期(Hideous End)のフレイバー・テキスト
ジョラーガの遺物狩り、ラダーヴィ(Radavi, Joraga relic hunter)はゼンディカー次元のキャラクター。ジョラーガはゼンディカーのバーラ・ゲド大陸もつれ谷に生息するエルフ族である。
「ちょっとした黒魔法じゃ止められないよ。」とは「何を」止められないのか、原文では「A little dark magic won’t stop me.」なので「私を」すなわち「ラダーヴィ」自身である。ラダーヴィは遺跡探検で黒魔術をものともせずに突き進んで帰らぬ人となったようだ。
イガルス王の最期
「ゴルゴンを倒したのか?ならば見せてみよ。」
–イガルス王、最期の言葉
引用:ゴルゴンの首(Gorgon’s Head)のフレイバー・テキスト
イガルス王(King Igalus)はテーロス次元のキャラクター。ゴルゴンを倒した証拠を見せろと要求して命を落としたようだ。おそらくイガルス王は、致死性のゴルゴンの首を持ち帰ったという話をホラだと決めつけてしまったのだろう。
スラーク将軍の最期
「戦線を維持せよ、戦線を維…」
–スラーク将軍、最期の言葉
引用:包囲ビヒモス(Siege Behemoth)のフレイバー・テキスト
スラーク将軍(General Srok)はカードセット「統率者2014」のこのカードでしか出てきていないキャラクターのようだ(所属次元不明)。
放浪の修道士、レイグの最期
「お嬢ちゃんたち、ご両親はどちらかな?」
–放浪の修道士3、レイグの最期の言葉
引用:マウアー地所の双子(Twins of Maurer Estate)のフレイバー・テキスト
放浪の修道士、レイグ(Reig, wandering monk)はイニストラード次元のキャラクター。
フレイバー・テキストの和訳製品版では「モンク」となっているが異例の翻訳である。「Monk」は、クリーチャー・タイプを除いて、カード名やフレイバー・テキストでは「修道士」「僧侶」「僧」「僧兵」と訳すのが通例で音写の「モンク」はこれのみ。イニストラード次元の設定や翻訳として、あえて「モンク」が訳語選択されている可能性4も探ったが、そういった根拠は見つからなかった。ただの訳ブレだろう。
グリック・ドービンの最期
「船長、嵐が来ます!」
–グリック・ドービンの最期の言葉
引用:稲妻の一撃(Lightning Strike)のフレイバー・テキスト
グリック・ドービン(Grick Doobin)はイクサラン次元のキャラクター。
イクサラン・ブロックの「最期の言葉」2種類は相互に関連性がある。犠牲者は両方とも「ドービン(Doobin)」の名を持ち、船長に報告をしており、イラストには不幸に見舞われるイクサランのゴブリンが描かれている。したがって、グリックとブリントはおそらく同じドービン一族であり、海賊か船乗りであり(ただし船長ではない)、種族はゴブリンであろう、と想像できるのだ。
ブリント・ドービンの最期
「船長、トカゲが来ます!」
–ブリント・ドービンの最期の言葉
引用:弱者狩り(Hunt the Weak)のフレイバー・テキスト
ブリント・ドービン(Brint Doobin)はイクサラン次元のキャラクター。
上記のグリック・ドービンの項を参照。
小石通りの露天商の最期
「ポタっと来たな。雨が降りそうだ。」
–小石通りの露天商、最期の言葉
引用:喉追い(Throatseeker)のフレイバー・テキスト
フレイバー・テキストの発言者は原文では「Stoneway Market vendor」。つまり、頭文字の大文字の「Stoneway Market(石道市場くらい?)」が地名で、そこの(名もない)「vendor(行商人、物売り)」が発言者である。和訳製品版では「Stoneway」+「Market vendor」という区切りで解釈して「小石通りの露天商」としたように思える。
その他のパターン
フレイバー・テキストに「最期の言葉」または原文で「last words」が出てくる他のカードも拾い上げてみた。
伝説によれば、その鉱山は中で死んだ者たちの最期の言葉をわめくのだという。
引用:基本セット第7版~第10版の吠えたける鉱山(Howling Mine)のフレイバー・テキスト
次にいう言葉は慎重に選びなよ。お前の最期の言葉なんだから。
–触れられざる者フェイジ
引用:基本セット第10版の残酷な布告(Cruel Edict)のフレイバー・テキスト
多くの屍術士が同じ遺言5を残す–不死の儀式の終了だ。
引用:基本セット第10版の宿命のネクロマンサー(Doomed Necromancer)のフレイバー・テキスト
彼らが求めるのは、死肉よりも瀬戸際にいる者の最期の言葉だ。
引用:カラスの群れ(Murder of Crows)のフレイバー・テキスト
ケフネトの最期の言葉に隠された究極の謎を探し出そうとした信奉者たちがそこに見出したのは、死にゆく神の呻きのみであった。
引用:悲劇的教訓(Tragic Lesson)のフレイバー・テキスト
さらに、ケフネト神つながりで別のカードを紹介。こちらはカード名が最期の言葉。
カード名は「ケフネト最後の言葉(Kefnet’s Last Word)」になっているが、今わの際の言葉なのでやはり「最期の言葉」の方がよりふさわしい。
そして、これで最後。
いつか、誰かが私を打ち負かすだろう。だがそれは今日ではないし、お前にでもない。
引用:最後の言葉(Last Word)のフレイバー・テキスト
フレイバー・テキストは自信満々。カード名は相手へ向けた「最後の言葉」であると考えられる。これだけは「最期」でなくて全く問題ない。
では今回はここまで。