燃えがらの風、エイデリズ(Adeliz, the Cinder Wind)はカードセット「ドミナリア」収録の伝説のクリーチャー・カードである。
カードセット「兄弟戦争」のストーリーにおいて、エイデリズが名前だけの再登場をしたのだが、実は彼女の設定に関する重要なヒントであったようだ。
燃えがらの風、エイデリズの解説
The passionate intensity of the Ghitu tempered by the cool insight of Tolarian training.
ギトゥの情熱的な激しさが、トレイリアで身に着けた冷静な洞察力によって緩和されている。
引用:燃えがらの風、エイデリズ(Adeliz, the Cinder Wind)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
エイデリズ(Adeliz)はAR4560年代のドミナリア次元シヴの遊牧民ギトゥ出身で、トレイリアのアカデミーで訓練した人間女性の魔術師だ。
エイデリズは常にギトゥとトレイリアの両文化の橋渡し役であろうとしている。ギトゥの伝統衣装をアカデミーの学生服ローブに取り入れる特別な許可を得ており、トレイリアの呪文学に思いがけない捻りを加えて教官たちを驚かせることもしばしばだ。
カードセット「ドミナリア」時点(AR4560年)での設定解説では、まだトレイリアのアカデミーの生徒であった。
短命に終わったMagic: Legendsというアクションゲームのストーリーでは、エイデリズはシヴ国の評議会のメンバーとなっていたというが、このゲーム出典の設定が正典として生き残っているかは疑問である。
兄弟戦争:連載ストーリーで再登場
エイデリズはカードセット「ドミナリア」期のストーリー連載には登場せず、他の伝説のキャラクターと同様の簡単な設定解説が公表されただけのキャラクターであった。また、上述したようにMagic: Legendsで出された設定は正式採用されているかは怪しいものだ。
初登場から4年後、2022年のカードセット「兄弟戦争」では、連載ストーリー現代時間軸の第2章「Antiquities」においてエイデリズは再登場を果たしている。ただし、エイデリズ本人が出て来たのではなく、ジョダーとジョイラの2人の通信会話の中に名前が触れられたのだ。その内容がちょっと驚きの関係性を匂わせているものだった。
現代編ストーリー第2章「Antiquities」
AR4562年、ジョダー(Jodah)やテフェリーらはウルザの塔を新拠点に定めた。そこで新ファイレクシアに対抗する秘密兵器である「酒杯」の起爆方法を、タイムトラベルによって調査中であった。
第2章では、ジョダーは通信装置でシヴに居るジョイラ(Jhoira)と会話していた。報告を受けたジョイラは、テフェリーがタイムトラベルすることに危惧を覚えた。ジョダーの部屋にサヒーリとケイヤが訪れたので、会話を切り上げることになった。そこからの件でエイデリズが出てくるのだ。
“Jhoira, I’ve got to go,” he said, standing up. “Give my love to Adeliz.”
“You could contact her yourself, you know.”
“Yes, but then we’d have to catch up and explain our current projects. Something inevitably would come up, cutting our chat short, and by the time we could resume, so much would have happened that we’d have to do it all over again.”
“You two are so alike. It’s annoying.”
“You mean endearing, right?”
“No,” she said as the cloud began to dissipate. “Take care of yourself, Jodah.”
“You, too.”
「ジョイラ、もう行かなければ」ジョダーはそう言って、立ち上がると「エイデリズによろしく。」
「自分の口で言いなさいよね。」
「ああ、だがそうすると現在のプロジェクトに関して突っ込まれて説明せざるを得なくなるよ。何か問題が起るのは避けられないし、お喋りは途切れ途切れ、そうなったら、お互いが仕切り直せる様になるまで、何やかやとあってまた頭から繰り返すことになってしまうんだ。」
「あなた達2人は似た者同士ね。イライラする。」
「愛おしいってこと?」
「いーえ」彼女が言うと雲1が散り始めた。「身体に気をつけてね、ジョダー。」
「ああ、君も。」
引用:第2章「Antiquities」
上が英語原文、下が私家訳
ジョダーとジョイラは62年前に知り合って恋愛関係となった。カーンが新ファイレクシアから解放されてドミナリアを再訪した時、つまりAR4557年には、2人の関係は終わっていた。元恋人で、現在は友人同士というのが今まで公開されていた情報であった。
この2人のプライベート会話で、なぜエイデリズの名前が出てくるのか?ジョダーとエイデリズは直接話すべきと言い、2人が似てるとも言うジョイラ。
ええ、これって、つまり……。
エイデリズは、ジョダーとジョイラの娘ってことじゃないだろうか?
エイデリズの設定を再確認
エイデリズはギトゥに生まれ、トレイリアのアカデミーで学んだという設定だ。
ジョイラはギトゥ族出身で、現在はシヴ国の指導者的立場にある。そして、永遠の大魔道師ジョダーは現在はトレイリアのアカデミーに所属し教鞭をとっている。
つまり、エイデリズは離婚した両親の娘であり、母ジョイラの故郷で生まれ育ち、父ジョダーの居るアカデミーに入学して魔術に習熟した、とそういうことか。
フレイバー・テキストの「ギトゥの情熱的な激しさが、トレイリアで身に着けた冷静な洞察力によって緩和されている。」とか、設定情報の「常にギトゥとトレイリアの両文化の橋渡し役であろうとしている」などの諸々が、離婚した両親という文脈から読めばまた違った意味で通じてしまうのだ。
エイデリズはジョダーとジョイラの娘である。明言はされていないので確定ではないけれど、かなり黒に近い灰色ではないだろうか。
さいごに
ということで、カードセット「兄弟戦争」では、連載ストーリー現代時間軸の第2章「Antiquities」にエイデリズの名前が再登場したことから、彼女はジョダーとジョイラの娘である可能性が高まってきたことを説明し終わった。最初はどうしてエイデリズの名が出てきたのか不思議でならなかったものの、彼女が娘だと仮定すると全てのピースが落ち着くところ嵌ったと思えたのだ。
現在進行中のMTGのストーリーアークでは、キャラクターの「家族」や「故郷・家」について何度も掘り下げており、それが縦糸となるテーマの1つになっている。新ファイレクシアは「家族」の概念を強制的に歪め、「故郷・家」を脅かす差し迫った脅威である。
「神河:輝ける世界」では放浪皇とタミヨウを通して「家族」と「故郷・家」とは何かを問いかけた。「ニューカペナの街角」はエルズペス、「団結のドミナリア」はアジャニだ。「兄弟戦争」では小説The Brothers’ Warから引用された「故郷の土地の記憶」はただの酒杯起爆の鍵であるだけに留まらないだろう。連載ストーリー現在時間軸第1章では、テフェリーが娘ニアンビを守りたいと心情を吐き出している。
この流れにあって、エイデリズがジョダーとジョイラの娘でないはずがない。少なくとも私にはそうとしか思えない。
さて、エイデリズは初出以来4年経っても見知らぬ新キャラクターの域を出なかったのに、途端に血肉が備わった生きた人物像が浮き上がって見えてきた。MTGはカードゲームであると共に、ストーリー作品でもある。だから、こういう驚きがそこここに隠されていて、そこが堪らなく面白い。
では、今回はここまで。
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