沼の悪霊(Bog Wraith)はMTG史上最古のカードセット「リミテッドエディション(基本セット第1版)」に収録され、その後の基本セットなどに再録されたクリーチャー・カードである。
再録を何度もしていたため、イラストやフレイバー・テキストは複数の別バージョンが存在するカードだ。しかし、今回はその中でもストーリーや背景世界的な裏付けのある沼の悪霊について取り上げて語りたい。
沼の悪霊の解説
‘Twas in the bogs of Cannelbrae
My mate did meet an early grave
‘Twas nothing left for us to save
In the peat-filled bogs of Cannelbrae.
そはキャネルブレイの沼の中、
わが友が早すぎる死を迎えたは。
我らが救うべきは何も残らず、
キャネルブレイの泥炭だらけの沼地には。
引用:沼の悪霊(Bog Wraith)のフレイバー・テキスト(基本セット第5版までのバージョン)
上が英語原文。下が和訳製品版
沼の悪霊(Bog Wraith)はMTG史上初のアンデッドのレイスを表したカードである。
このカードは何度も再録されていたが、それはもっぱら特定の次元を舞台とはしていない基本セットでの収録であった。しかし、カードやストーリー作品において存在が確認できている次元がある。第1がドミナリア次元のドメインズ地方であり、第2が神河次元の竹沼である。
また、フレイバー・テキストによると、沼の悪霊はキャネルブレイ(Cannelbrae)という沼地にも居るようだ。このキャネルブレイはどの次元にあるのだろうか?本記事ではその点もちょっと考えてみた(後述)。
ドミナリアの沼の悪霊
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中欧がセンギアの吸血鬼、左右のどちらかが沼の悪霊で、もう一方が凍てつく影コミック版セラの天使より引用
コミック版セラの天使では、沼の悪霊が登場している。
コミックの舞台はドミナリア次元のドメインズ地方の西のどこかだが、正確な位置は特定できない。
時代設定の方は、AR2934年のフレイアリーズの世界呪文より後で、コロンドール大陸のミノラッドの頂上会議1よりも前の期間のいずれかの時点と書かれている(つまり氷河期が終わってから数年か数十年以内と推定)。
この話の中で沼の悪霊1体が黒の魔法によって召喚されて登場する。一緒にセンギアの吸血鬼(Sengir Vampire)と凍てつく影(Frozen Shade)もそれぞれ1体召喚されている。この3人組の役回りは主人公を悪の道に引き込むような言葉を囁き続ける脇役に過ぎず、物語上は居ても居なくてもさして問題ない存在だった。
そしてこの3人組のうち沼の悪霊と凍てつく影の2体はちょと外見からは区別がつかないほど似ている。コミック本編中ではこの3体は種族も名前も言及されてなく、巻末解説の方でセンギアの吸血鬼、沼の悪霊、凍てつく影だと示されているだけなので、イラストを見ただけではどっちが沼の悪霊なのかは正直判別不能なのだ。
脇役だったとはいえ、この作品の描写によって沼の悪霊は少なくともドミナリア次元に存在することが確定した。さらに、召喚呪文で呼び出されたことから、元からドメインズ地方に居たとは限らずドミナリアの他の地方からやって来た可能性も残っている。2
神河の沼の悪霊
Knowing Takenuma Swamp to be dangerous, Hisata set wards to warn him of predators. He never imagined that his murderer would pass through them unhindered.
竹沼の危険を承知していた久太は、略奪者を警告してくれる結界を張った。刺客がそれに邪魔されることなく抜けてくるなど思いもしなかったのだ。
引用:沼の悪霊(Bog Wraith)のフレイバー・テキスト(基本セット第10版バージョン)
上が英語原文。下が和訳製品版
カードセット「基本セット第10版」に再録されたバージョンの沼の悪霊(Bog Wraith)はイラストとフレイバー・テキストが新規に差し替えられており、これらは神河次元を舞台としている。
この新フレイバー・テキストでは、沼の悪霊が神河次元の竹沼(Takenuma Swamp)に出現している。久太(Hisata:ひさた)という男性の命を狙いにやってきたようだ。
キャネルブレイはどこにある?
‘Twas in the bogs of Cannelbrae
My mate did meet an early grave
‘Twas nothing left for us to save
In the peat-filled bogs of Cannelbrae.
そはキャネルブレイの沼の中、
わが友が早すぎる死を迎えたは。
我らが救うべきは何も残らず、
キャネルブレイの泥炭だらけの沼地には。
フレイバー・テキストの「キャネルブレイ(Cannelbrae)」という沼地はどこの次元に存在するのだろうか?そこを考えてみたい。
まず最初に諸々のソースを調査した結果だが、キャネルブレイはストーリー作品や背景世界記事などでの言及は見つからなかった。ということは、沼の悪霊のフレイバー・テキストを見直して手掛かりを探すほかはない。
キャネルブレイという単語の意味
さてこのフレイバー・テキストは古い言葉遣いの詩の形をしている。中でも目を引く単語はやはり「キャネルブレイ」だ。
この「キャネルブレイ」と訳された「Cannelbrae」を「cannel」+「brae」に分解して意味を確かめる。
まず「cannel」は「cannel coal」つまり「燭炭(しょくたん)」を意味する言葉のようだが、元は古いスコットランド語の「蝋燭」のことらしい。そして、「brae」はスコットランド語で「丘(の側面)、山腹、川堤の斜面」のことだ。そしてフレイバー・テキストの内容を踏まえると、キャネルブレイは「泥炭や燭炭の取れる斜面に広がる沼地」くらいの意味合いが読み取れる。
おそらくキャネルブレイやその周辺地域にはスコットランド風の言語を用いる住人がいるはずだ。
スコットランド風言語の次元はどこか?
沼の悪霊はドミナリアと神河で存在が確認できているが、日本風世界の神河はキャネルブレイのある次元には当てはまらない。では、ドミナリアの方はどうか?スコットランド的な言語を使う場所はドミナリアに存在するのだろうか?答えは「ある」。それが「ラノワール(Llanowar)」だ。
ドミナリア次元のラノワール・エルフの言語は、アイルランドやウェールズ、スコットランドなどの言葉への意識が見られ、ブリテン諸島の神話3に出てくるいわゆる古風な妖精のイメージが色濃く出ている。特にラノワールの森が舞台となり、ラノワール・エルフを詳しく描いた初めての作品「短編Gathering the Taradomnu(短編集Tapestries収録)」において、その言語的な特徴が顕著に出ている。
ラノワールの地理情報は以前の記事で検証したことがある。その時の地図をもとに語ろう。

本サイトで独自に地名を記載したラノワール
これがラノワール。ドメインズ地方の南エローナ大陸に広がる大森林地帯だ。
この地図のラノワールの森林東南端を流れるセレンディン川(Selendine River)の上流に注目して欲しい。川の流れに沿って北に山地があり、南に沼地がある。この沼地一帯は山地の麓にあるためおそらく傾斜した土地だと考えられる。この地理的特徴はまさに「キャネルブレイ」に合致するものだ。
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キャネルブレイに合致した沼地
地図に赤字でキャネルブレイと書き込んでみたものがこれだ。このセレンディン川流域とフォルス川(Fors River)流域は「短編Gathering the Taradomnu(短編集Tapestries収録)」で描かれたエルフェイム、ルアダッハ(Ruadach)の支配域に当たる。つまり、ブリテン諸島の神話風の言語的影響がはっきりと表れるだろう地域と言える。
地理的にも言語的にも、この無名の沼地がキャネルブレイとするのが理に適っている。話の持って生き方が強引ではあるのは認めるが、私はこの地が将来的にキャネルブレイと命名される可能性が十分に高い土地であり、現時点では他に相応しい候補地が無い、と予想しここに書き記しておく。
さいごに
以上で本記事は終わりだ。
これを書いた切っ掛けは、数日前に沼の悪霊を眺めていておそらくキャネルブレイはラノワールの近くにあるんじゃないか?とインスピレーションが降りてきたことだ。世界中のヴォーソスの誰かが発信する前に先に書き残さねばっと書き殴った結果がこれである。
ウィザーズ社のクリエイティブ部門からは公表はまだしていないものの、既にドミナリアの地図をより詳細なところまで詰めている、と漏れ聞こえてくる。今年はドミナリアの再訪が決まっているので、その時にアップデート版の地図が公開されると私は見込んでいる。答え合わせが待ち遠しい。
では今回はここまで。
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