チャンドラの調圧器(Chandra’s Regulator)はカードセット「基本セット2020」収録の伝説のアーティファクト・カード。
チャンドラの調圧器の解説
チャンドラの調圧器(Chandra’s Regulator)
は、マーク・ローズウォーターの記事Core to the Point(公式和訳版重点への『基本』)によると、チャンドラの両親が紅蓮術を制御する助けになるようにとチャンドラに与えた装置である。平べったい箱型モジュールと、片腕にはめるブレイサーが細長いケーブルで連結してある。調圧器の下に敷かれた布はチャンドラの母、ピア・ナラーのショールである。
この調圧器の装着の仕方は別のカードのイラストで確認できる。
チャンドラの調圧器の装着法
装着イラスト1枚目が新米紅蓮術師、チャンドラ(Chandra, Novice Pyromancer)である。
箱型モジュールは腰の左側のくびれた位置に納まり、ブレイサーは右腕の前腕部にはめられている。ケーブルは身体の後ろ側を通して邪魔にならないようにしている。
そしてもう1枚、装着した姿が確認できるのがこちらのイラスト違いのチャンドラの調圧器プロモカードだ。
「基本セット2020Bundle」を購入すると特典としてこのイラスト違いのチャンドラの調圧器が入手できる。ただし、この特典プロモカードの付属するBundleは英語版のみのアイテムなのでカードも英語版のみである(日本語版はない)。
チャンドラの調圧器のストーリー
チャンドラの調圧器が登場するストーリー…というか、その初出かつ出典となる作品が掌編Chandra’s Origin: Fire Logic(公式翻訳版チャンドラの「オリジン」:炎の道理)である。
この物語は、チャンドラ・ナラーがプレインズウォーカーにどのようにして目覚めたかを語る、2015年のカードセット「マジック・オリジン」の一作品だ。
紅蓮術の魔法を制御するためにチャンドラの両親が昔の旧式の発明品をベースに開発して、父キラン・ナラーからチャンドラに手渡された。作中では「Vent Pack(和訳版では、蒸気背負い)」と呼ばれている。
マーク・ローズウォーターの記事とオリジン掌編の描写の間には、ここまでのところは差がない。ところが、掌編ではカードのチャンドラの調圧器と色々違いが認められるのだ。
チャンドラの調圧器の機能の違い
掌編の調圧器は、チャンドラの紅蓮術を完全に抑制している。チャンドラが感情を高ぶらせて紅蓮術の炎が発生しそうになると、装置がその力を吸い上げて蒸気として排出し逃がしてしまう。
その一方でカードでは、まずイラストのチャンドラは紅蓮術を行使できている。そしてメカニズムの方を見ると、チャンドラのプレインズウォーカー・カードの忠誠度能力をコピーする機能は紅蓮術を増幅させているように思えるものだ。もう1つの山カードか赤のカードを捨ててカードを引く機能の方は、余剰な力を別のものに変換すると解釈できるのでこちらはそう違和感はない。
この違いは何なのか掌編の細部に立ち返って考えてみる。
掌編によると、元となった設計が霊気収集装置内の余剰な力を安全に逃がすための仕組みである。とすれば、本来は余剰圧がどのレベルまで達したら排出するかの調整が可能であったと考えられる。チャンドラの調圧器にもレベル調整機能があってもおかしくはなく、掌編では低いレベルでも余剰圧がかかったならすぐ排出するような調整になっていた、と説明がつけられるのではないだろうか。
調圧器には限界がある。処刑執行の瞬間にチャンドラが発生させた業火は、調圧器から多量の蒸気を噴出させ装置自身を融解した後に、発火している。見方を変えるとこう考えられないだろうか、オーバーロードで装置が融解するまでには相当の過負荷が必要であり時間的にも猶予があるため、蒸気として逃がしきれない力を一時的に装置に溜めて置ける、と。ならば、カードの忠誠度能力コピーは、一旦溜めておいた力を一気に放出して効果を倍化している、とこの応用として説明できそうだ。
チャンドラの調圧器の形状と装着法の違い
掌編の調圧器の形状は、精巧なエッチングが施された小さな金属の箱で片面に排気口が開いている。肩紐がついており、ケーブルが伸びている。そして装着法は、肩紐をかけると箱が腰のくびれの位置に納まるので、次にケーブルの先端を肩甲骨当たりの地肌に吸着させて終わりだ。
カードとの最大の違いは、ケーブルの先にブレイサーがあることである。地肌にケーブルを吸着させるのではなく、ケーブルに繋がるブレイサーをはめるだけでよいのだ。肩紐についてはイラストにはその存在が確認できないし、ウエストポーチのように腰のベルトに引っ掛けているようにも見える。イラストの箱型モジュールに縦に並ぶスリットが掌編の「排気口」であろう。
形状デザインの変更は単純にカード・イラストにしたときの見栄えだろう。元のストーリー上ではむしろ目立たない方が目的に適っていたが、イラストに描いてパッとしないままでは、売りとして弱い。ケーブルの先をブレイサーにしてデザインをブラッシュアップした理由はそんなところか。
チャンドラの調圧器の時系列問題
チャンドラの調圧器は両親が渡した装置であるが、マジック・オリジンの掌編で「Vent Pack」を装着していた時期のチャンドラはまだプレインズウォーカーの灯が点火していない。かといって、灯に点火した際に「Vent Pack」は融解して失われているので、プレインズウォーカーのチャンドラが着けているのはおかしい。両立できるはずがない。
では、新米紅蓮術師、チャンドラ(Chandra, Novice Pyromancer)は「Vent Pack」装着時のチャンドラであることから考えて、灯が点火する前からチャンドラはプレインズウォーカーであったのだろうか?あるいは、プレインズウォーカーの力に半覚醒していたのだろうか?
灯が点く前からプレインズウォーカーである、そんな状況はあり得るのか?過去の事例を紐解く。
ウルザの場合
ウルザのプレインズウォーカーの灯の点火はゴーゴスの酒杯を起動したときの大爆発である…というのが定説になっている。公式にもそう解説されているが、小説「The Brothers’ War」の記述を確認するとそうと言い切れない。ウルザのそれまでの63年の人生において、彼は工匠であり魔法使いではなく、マナや土地とマナのつながりについても興味も知識も皆無であった。それがミシュラとの最終決戦が迫る数日前から様子が変わってくる。その年の一番最後の日が本当の最終決戦になると予言めいた発想をし、決戦当日には土地の記憶とマナの繋がりについて何の前触れもなく理解してしまう。この日、初めてゴーゴスの酒杯の存在を知りそれを手にしたはずのウルザはすでに使用法も効果すらも知っていたように行動する。その後に酒杯の大爆発が起きた。
カーンの場合
インベイジョン・ブロック三部作の最後にカーンはプレインズウォーカーとなる。それまでのカーンは時間移動に耐える機構を備えた人型機械ではあったが、時間移動自体はカーンの機能にはなかったし、その他の魔法的な能力も見せたことはなかった。しかし、インベイジョン・ブロック第二作の小説「Planeshift」で、カーンは唐突に上古族ドラゴンのデアリガズと念話のようなやり取りを行って、デアリガズに過去の記憶と正気を取り戻させる。この不可解な(ある意味ご都合主義的な)現象は何だろう?奇跡なのか?
ウルザとカーンの事例を基に仮説
マナと土地のなんたるか、魔法のなんたるかを知るのはプレインズウォーカーである。プレインズウォーカーは本質的に魔法使いである。
ウルザとカーンは灯の点火がされる前からプレインズウォーカーの力に目覚めていた、と考えられるのではないだろうか?潜在的にプレインズウォーカーとなる資質がある状態から、一歩進んで、灯が点火していないものの半端に目覚めているような状態となる。それは起こりえるように思えてならない。