底への引き込み(Drag to the Bottom)はカードセット「団結のドミナリア」収録のソーサリー・カードである。
今回はカードのイラストの正しい解釈と、フレイバー・テキストに出てきた「ウィンドグレイスの湿地狩人」を解説する。
底への引き込みの解説
Windgrace’s gladehunters hibernate in the quagmires of Urborg until the scent of Phyrexian technology awakens their hunger.
ウィンドグレイスの湿地狩人は、ファイレクシアの技術の気配に空腹を刺激されるまで、アーボーグの泥沼で冬眠をする。
引用:底への引き込み(Drag to the Bottom)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
底への引き込み(Drag to the Bottom)はAR4562年のアーボーグでのある出来事を切り出したカードとなっている。
イラストでは、ファイレクシアンと化したベナリア兵3人が、アーボーグの沼地から突き出して来た虫とも蜘蛛ともつかない湿地狩人(Gladehunter)の腕(?)に襲われている。
とはいえ、カードのイラストでは細部がよく見えないのではないだろうか?ベナリア人が目から黒いぎらつく油を流したファイレクシアンであることが読み取れずに、むしろファイレクシアの怪物に攻撃を受けたベナリアの部隊と勘違いされそうだ。あるいは、黒い涙に気付けたとしても、ファイレクシアの怪物の攻撃を受けたから、現在進行形でファイレクシアンに変化しているとまで誤解されたりもしそうだ。
そんな誤解が広まらないように、フレイバー・テキストの「ウィンドグレイスの湿地狩人」がどんな存在なのかを紹介したい。
ウィンドグレイスの湿地狩人
湿地狩人(Gladehunter)は、プレインズウォーカーのウィンドグレイス卿(Lord Windgrace)の代理人であり襲撃部隊である。魔法機械と工匠を憎み、それらを探し出して破壊あるいは殺すため、アーボーグ(Urborg)の地域を徘徊していた組織だ。その身には湿地狩人の印を授かっていて、精神支配などへの耐性を持たされているようだ。
湿地狩人は時のらせん小説三部作で初登場して、特に最初の2作で詳細が語られていた。カードのフレイバー・テキストで言及されたのも、狩人(の一員)がカードのイラストに描かれたのも、今回の底への引き込みが初めてであろう。
湿地狩人の構成種族
湿地狩人は様々な種族で構成されているが、大部分が人である。人間と黒豹人、あるいは、生きてなくても人のリッチや霊が大半に描かれている。
ではその他はと言うと、大型の虎や黒豹のような野獣、巨大昆虫(狼サイズの蜂、そびえ立つカマキリなど)、先が見えないほど長い蛇(ただし2つの関節のある肢がいくつもある)、といったものがその一部である。
獣や怪物などの構成員は邪悪でも血に飢えているのでもなく、ただ訓練された戦闘犬のように、使命のためには狡猾に容赦なく戦うのみだ。
湿地狩人の歴史
ウィンドグレイスはAR4400年頃、アーボーグの沼地でのアーティファクト禁止令を発して違反者は死罪とした。湿地狩人はウィンドグレイスの命じに従い取り締まり、執行する者として集団でこの地を闊歩していたのである。
AR4500年の大修復において、アーボーグの時の裂け目を塞ぐため、ウィンドグレイスはこの土地に命と精髄を捧げた。底への引き込みのフレイバー・テキストから察するに、ウィンドグレイスが去った後は湿地狩人の一部は泥沼の底で眠りに就いていたようである。
AR4562年、新ファイレクシアによりドミナリア次元は再びファイレクシアの侵略の脅威に曝されることになった。冬眠していた湿地狩人は、ファイレクシアのテクノロジーを察するや排除するのだった。ウィンドグレイス卿に課せられた使命は現在も有効なのだ。
さらに湿地狩人の主人たるウィンドグレイスの魂(Soul of Windgrace)も、アーボーグの地を守らんと目覚めていた……。
湿地狩人が昆虫だけだという誤解
底への引き込みのイラストでは、湿地狩人は昆虫や蜘蛛のような腕を持つ生き物として描かれている。
カードセット「ドミナリア」期の設定集The Art of Magic: The Gathering – Dominariaでは、湿地狩人は「アーティファクトと工匠を追い詰める、訓練を受けた昆虫」だとのみ記されているが、これは誤りだ。
小説Time Spiralにおいて、ヴェンセール(Venser)が他の主人公たちと初対面した時、昆虫型の湿地狩人4体に襲われている場面であった。ここが湿地狩人の初登場シーンであり、昆虫型の印象が強く刻まれてしまうとはいえ、ヴェンセールも述べたように「湿地狩人は大部分が人」であり、4体の昆虫のようなものは稀な存在なのだ。時のらせん小説三部作を通して見れば、それが正しいことは明らかである。
いやそもそも、この時の昆虫型の湿地狩人だが、カマキリに似た前腕、逆楔形の顔、二又に分かれた尻尾といった特徴を備えていたのだが、それをテフェリー(Teferi)はスリヴァー型と言っているのだ。もしやあの最初の4体は、実際に湿地狩人として使役されたスリヴァーだったんじゃないだろうか?
「湿地」狩人は正しいのか?
これは時のらせん小説三部作以来の疑問である。
この度「湿地狩人」と公式に訳された「Gladehunter」であるが、この「glade」は何を指しているのだろう?この解釈にずっと迷っている。
公式訳は「glade」を「everglade」の略とみなして「湿地」にしたようだ。アーボーグの支配的な地勢を鑑みれば説得力があるし、底への引き込みのイラストもそう見える。
でも「glade」はこのままなら「林間地」という意味である(もちろん「everglade」の略の場合もある)。小説Time Spiralで最初に出てきた時に「Anyone they found inside or nearby would receive similar treatment and would be added to the mound of wreckage they’d leave behind as a warning to anyone else who brought artifice into their woods.」と書かれていた。つまり、「狩人たちの森に人工物を持ち込んだ者を罰して、見せしめとしてそこに残しておく」といった内容だ。
アーボーグはドミナリア次元を代表する黒マナの土地なので沼地が広がっている。だが、そうなる遥か昔は密林であったし、その残滓は後世にも存在しているのだ。
そこから考えて、「Gladehunter」は生者の居住区となる数少ない森を、機械やファイレクシアの汚染から守る「林間地狩人」じゃなかったか、と今でもその可能性が頭に残っているのだ。「湿地狩人」が間違いとは思ってないのだけれどね。
さいごに
これにて、底への引き込みのカード解説を終了とする。
カードとしては、版図版全体除去なので、リミテッド戦でも役に立ちそうな気配がする。リリースされたら使い心地を試して見たいものだ。
では今回はここまで。
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