カード紹介:アーテイのおせっかい

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アーテイのおせっかい(Ertai’s Meddling)はカードセット「テンペスト」収録のインスタント・カード1である。

今朝方このカードについてツイートしてる方を見かけた際、ふと「このアーテイはいつのどういう状況なのだろうか?」と疑問に思って考えてみた。実はテンペスト発売から24年来、今の今までアーテイのおせっかいに関しては全く気にしたことが無かったのだ。

何なんだろうこのカードは?

アーテイのおせっかいの解説

アーテイのおせっかい(Ertai's Meddling)

データベースGathererより引用

アーテイのおせっかい(Ertai’s Meddling)はカード・メカニズム上、唱えるのに支払ったX点のマナに応じて、対象の呪文の解決をXターン遅らせる機能を持っている。

カード名とイラストから考えて、ウェザーライト号の乗組員である魔術師アーテイ(Eatai)の唱えた魔法を表したカードと考えられる。イラストの右側に浮かび上がっている顔がアーテイのイメージだ。

イラストの左側に描かれているのが敵の飛翔艦プレデター号である。そしてカードの右下にちらりと見えているのがウェザーライト号の船体の一部のようだ。



アーテイの顔の圧が強すぎた

このカードのイラストを改めて眺めて見たところ、こんなに大きく描かれていたのに今まで全くプレデター号の存在を意識していなかったことに気付かされた。

というのも、真正面からこちらを見据えてくるアーテイの顔の圧が強すぎて他の全ての印象が記憶に残っていなかったのだ。それに、アーテイの顔の周りに配置されたデザインとプレデター号(およびウェザーライト号の船体)の色合いも似ており、背景に溶け込んで認識しにくくなっているように感じないだろうか?

こんな感じに私は24年間惑わされていたことになるが、現在は何が描いてあるかちゃんと見えている。だから、イラストをよく観察してみれば、このカードが描写する状況がどんなものか把握するのは簡単だった。

では、アーテイのおせっかいがカードセット「テンペスト」のストーリーのいつのどういう状況を描出したものかを読み解いていこう。

アーテイのおせっかいの読解

熟達の魔術師アーテイ(Ertai, Wizard Adept)

熟達の魔術師アーテイ(Ertai, Wizard Adept)
データベースGathererより引用

まず初めに基本の確認から。

カードセット「テンペスト」はAR4205年のラース次元が舞台だ。ウェザーライト号の主人公たちがドミナリア次元からラースに到着し、誘拐されたシッセイ艦長を救出しにファイレクシアの要塞に乗り込んでいく、というのがストーリーの大筋である。

テンペストのストーリーは収録カードの多くにその一場面が描かれていて、順番に並べるとひと繋がりの全体像が見えてくる構成になっている。2公式雑誌Duelist第20号記事Tempest Storyboardでは、具体的にテンペストのカードをストーリー順に並べて場面解説をしていた。だが残念なことに、その記事にはアーテイのおせっかいがストーリー上のどの状況に該当するのか記載されてはいなかった。

したがって、アーテイのおせっかいを読み解くにはカード自身を手掛かりにするしかない。

アーテイのおせっかいのイラストから見えること

アーテイのおせっかい(Ertai's Meddling)

データベースGathererより引用

先述したように、イラストにはアーテイの顔(右側奥)とプレデター号(左側手前)が描かれている。

ストーリーではアーテイの乗船するウェザーライト号とプレデター号が遭遇するのは冒頭場面に当たる。ラースに次元移動したウェザーライト号に対してプレデター号が攻撃を仕掛けてくるのだ。

アーテイのおせっかいのイラストでは、プレデター号から右下に向けて光の筋が放たれており、これは砲撃で間違いないだろう(砲撃する描写はストーリー上に何度も出てくる)。攻撃目標はウェザーライト号なので、イラスト右下に見切れているのはウェザーライト号の船体の一部だと分かる。

旗艦プレデター(Predator, Flagship)

カード化されたプレデター号のイラストでも砲撃している
旗艦プレデター(Predator, Flagship)
データベースGathererより引用

プレデター号の砲撃はウェザーライト号に着弾する前に大きな輝きを放っている。ウェザーライト号を包む光の膜に阻まれたようにも思える。また、アーテイの額にも砲撃の輝きと同様の閃光が浮かんでいることから、彼の魔法が作用していると示唆されている。

「おせっかい」というより「干渉」

干渉(Meddle)

干渉(Meddle)
データベースGathererより引用

イラストの状況を確認したので、改めてカード名を見直してみよう。

「おせっかい」と訳されたカード名「Meddling」には、「おせっかい」の他にも「余計な干渉行為」との意味合いが含まれている。そちらの意味に従えば、プレデター号の砲撃をアーテイが魔法で「干渉」して無力化した場面だ、との解釈が成り立つ。

カードの効果も考慮するなら、アーテイは時間操作して砲撃を未来に飛ばしたのだろう(着弾するはずだった砲撃は戦闘後に同じ位置に出現したはずだ)。

アーテイの学んだトレイリアのアカデミーでは時間魔法も研究されていた。アーテイは自信過剰で人生経験に乏しい青二才ではあるが、魔法の才能と知識だけはずば抜けているのだ。時間操作の魔法をある程度は習得していてもなんら違和感がない。

アーテイのおせっかいの結論

結論として以上をまとめると…。

アーテイのおせっかいはカードセット「テンペスト」のストーリー冒頭、プレデター号によるウェザーライト号への襲撃場面で起こった出来事である。アーテイはプレデター号の砲撃に対し時間魔法で干渉して、砲撃を未来へと送って無力化したのだ。

おそらくこれでほぼ間違いないだろう。

以上で「アーテイのおせっかい」に関する記述はおしまいになる。記事の残りは「おまけ」である。ただし、おまけと言いつつ記事はまだ半分も残っている。呆れずに読んでいただけたらありがたい。



おまけ:短編集Rath and Stormにて

飛翔艦ウェザーライト(Skyship Weatherlight)

飛翔艦ウェザーライト(Skyship Weatherlight)
データベースGathererより引用

ウェザーライト号の面々を主人公としたMTG史上最初のストーリーは短編集Rath and Stormにまとめられている。カードセット「ウェザーライト」から始まり、カードセット「テンペスト」「ストロングホールド」「エクソダス」までのストーリーが収録されている。

もちろん作中で「アーテイのおせっかい(Ertai’s Meddling)」が言及されていないか、短編集Rath and Stormも調査してみたが、該当するものは見当たらなかった。

その代わり「meddling」という単語が短編集Rath and Stormで1回だけ登場していることを発見できた。3アーテイのおせっかいのカードとはストーリー上の関連性は全くないがここで紹介しておこう。

短編Starke’s Taleでの一場面

“Ertai believes he has the ability to open this portal,” the healer reported. “However, it will take some time. The symbols are very ancient and, as Ertai has discovered, do not react well to random meddling,” She stifled a chuckle. “So Ertai suggests that he remain here to study the runes and learn how to properly activate the device.”
「アーテイは自分ならこのポータルを開けられると信じています。」と癒し手4が報告した。「ただ、時間がかかります。記号は非常に古いもので、アーテイが発見したように、当てずっぽうに干渉してもうまく反応しません。」彼女は笑いをこらえた。「だからアーテイの提案は、自分がここに残ってルーンを調査して、装置を正しく作動させる方法を学ぶことだそうです。」
引用:短編Starke’s Tale(短編集Rath and Storm収録)
上が英語原文。下が私家訳

作中での「meddling」が出てくる段落を抜粋して翻訳してみた。

ウェザーライト号がプレデター号からの攻撃を凌いでからしばらく経っている。ラースの要塞に突入してシッセイ艦長らの奪還を実行に移す前、ラース次元からの脱出経路を確保するために古いポータル(次元門)が使えないか調べている場面だ。アーテイとオアリム(Orim)の2人がポータルに刻まれた古代のルーンを調査したところ、アーテイはこの門を使えるようしておくからここに自分1人を置いて行ってくれと提案したのだ。アーテイの提案は採用され、彼1人を残してウェザーライト号は要塞に向かうことになる。

抜粋した段落では、ポータルのルーンに「当てずっぽうに干渉してもうまく反応」を引き出せないことを、アーテイはその身で発見したのだという。それを思い出して、オアリムは笑いをこらえている。

なぜオアリムは笑いをこらえているのか?1枚のカードになっているので御覧に入れよう。

古代ルーン文字

古代ルーン文字(Ancient Runes)

古代ルーン文字(Ancient Runes)
データベースGathererより引用

古代ルーン文字(Ancient Runes)はカードセット「テンペスト」収録のエンチャント・カードだ。

このカードには、ラース次元から脱出する時の次元門を作動できるのか、門に刻まれた古代のルーンを調べているアーテイとオアリムが描かれている。

ルーンの調査中、アーテイは取りあえず「当てずっぽうな干渉」を与えて反応をみたところ、閃光が走り、イラストのように熱線を臀部に受けて飛び上がった。迂闊なアーテイを横目で見て、オアリムはやれやれと呆れた表情を見せている。

この件は短編Starke’s Tale短編集Rath and Storm収録)でも語られているものだ。痛い目を見たアーテイだがすぐに元通りにルーンを熱心に調べ続け、このまま1人居残って門を起動できるようにすると志願するのだった。

尻を焼かれて飛び上がったアーテイ。これがオアリムが笑いをこらえていた理由である。

もうちょっとだけ続く…。

古代ルーン文字のフレイバー・テキスト

「おまけ」からさらなる脱線になってしまうが、最後にもう1点だけ語って終わりにしたい。

古代ルーン文字(Ancient Runes)のフレイバー・テキストについてだ。和訳がどうみてもおかしい。

Ertai volunteered to open the portal. He figured he owed it one.
アーテイは進んで門を開けた。とにかくやってみる価値はあると思ったのだ。
引用:古代ルーン文字(Ancient Runes)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

まず「進んで門を開けた」と「開ける」の方が過去形になっているが、ここは「門を開けるために志願した」が正しい。まだ門の開け方は不明だし、門は閉じた状態だ。

次に「とにかくやってみる価値はあると思ったのだ。」となるが、意訳成分が多めであるものの単体ではそれほど悪くはない感じはする。だが「門を開けた」と解釈した文を受けて、これが続くとなると最悪である。

つまり、和訳製品の文を基にこのカードを解釈してしまうと「アーテイは、とにかく門を開けてみる価値はあると思って開けてみたら、古代ルーン文字からの熱線を尻に受けてしまった。すなわち、自ら進んで尻を焼いたのだ。オアリムもやれやれと思って横目で見ている。」……と、こういう誤った物語へと誘導されてしまうのだ。

では、訳し直してみてこんな感じになるだろう。

アーテイは門を開くために志願した。これが自分の義務だと判断したのだ。

尻を焼かれるアーテイの一場面は確かに笑えるけれど、アーテイはそれでもめげずに挑戦をする。居残りの志願は向こう見ずであれど勇敢とも言える決意表明だ。それに将来的なストーリーを見渡せば、この時の判断がアーテイの運命を大きく変える人生の分起点になってもいる。

古代ルーン文字は、アーテイのストーリーで実はキーとなるカードの1枚と言っても過言ではあるまいか。

あるいはカード単体で見ても、イラストはユーモラスだがフレイバー・テキストの方は極めて真面目。そんな両面性が1枚のカードに込めてある。そこがまたこのカードの興味深いところだと私は思う。

……まあ、和訳製品版では色々と台無しになっていて釈然としないのだが。

テンペスト期にはヘンテコな誤訳が色々と紛れていて有名で、このカードはその中でもあまり目立っていないものの1つに過ぎないのだから恐ろしい(実は広く知られてないだけでまだ隠れているのが…)。変な方向で〆となってしまった。



さいごに

おまけと言ったのに記事の半分は本筋から脱線した内容で埋めている。一応は「meddling」繋がりとはいえ逸れ過ぎたのは反省している。

さて、最後までお付き合いいただき感謝の念に堪えない。今回はここまで。

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  3. 「meddle」の変形に当たる語句も含めて調べたが「meddling」の形で1回だけだ
  4. 訳注:ウェザーライト号の主要人物の1人、オアリムのこと