ホマリッドの探検者(Homarid Explorer)はカードセット「ドミナリア」収録のクリーチャー・カード。
フレイバー・テキストで何かおかしいぞと引っ掛かりを覚えたカードをピックアップする。
ホマリッドの探検者の解説
“Homarids spread northward from Sarpadia as the climate cooled, raiding coastal settlements for supplies.”
–Time of Ice
「ホマリッドはサーペイディアから北方の寒冷な気候の地に暮らしており、食料を求めて沿岸の村々を襲う。」
–氷河期
引用:ホマリッドの探検者(Homarid Explorer)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
ホマリッドの探検者(Homarid Explorer)はカードセット「ドミナリア」に唯一収録されているホマリッドである。
ホマリッド(Homarid)は、カニやエビに似た甲殻類系人型種族であり、ドミナリア次元のはるか南方や深海など低温地域に生息している。ドミナリア全土の気候が寒冷化したドミナリア氷河期に北へと勢力を拡大して繁栄した。氷河期の始まりである暗黒時代には、サーペイディア地方のマーフォークの海洋帝国ヴォーデイリアを壊滅させている。ホマリッドはそれ以来マーフォークにとって宿敵となった。こういった設定や歴史的経緯はカードセット「フォールン・エンパイア」で主に取り上げられたものである。
このホマリッドの探検者はカードセット「ドミナリア」現在のAR4560年のホマリッドを描いたものだ。Plane Shift Dominariaによると、ホマリッドは現代でも温暖な海表面を避けて深海に生息している。ヴォーダ海(Voda Sea)西方深海にある極寒の海溝はホマリッドの大繁殖地となっている。ちなみに、温暖な気候に適応したホマリッドの亜種も存在しており、それがヴィセリッド(Viscerid)であり、テリシア地方ヤヴィマヤ周辺海域で見られる。
一方、フレイバー・テキストの方は氷河期の記録にあるおよそ4000年前のホマリッドについて語っている。しかし、このフレイバー・テキストだが和訳製品版はおかしい。歴史的地理的な経緯からも文法からもそうは読めない内容に作文されている。明らかに誤訳である。
ホマリッドの探検者のフレイバー・テキスト
ホマリッドの探検者のフレイバー・テキストについて少し詳しく解説を加えたい。だがまず、解説の前に和訳製品版の誤りを指摘する。
和訳製品版の誤り
“Homarids spread northward from Sarpadia as the climate cooled, raiding coastal settlements for supplies.”
–Time of Ice
「ホマリッドはサーペイディアから北方の寒冷な気候の地に暮らしており、食料を求めて沿岸の村々を襲う。」
–氷河期
和訳製品版フレイバー・テキストの歴史的地理的な問題点を明らかにするために、まずは以下のドミナリア全体地図でサーペイディアの位置を確認してほしい。
サーペイディアは地図の右隅の下の方にある大陸である。位置は南半球にあり、さらに南には南極大陸「氷結領域(Frozen Reaches)」がある。サーペイディアから北上していくと赤道直下の海であり、北半球にはテリシア地方が横たわる。
したがって、気候はサーペイディアの南は寒く北は暑いのだ。和訳製品版の「サーペイディアから北方の寒冷な気候の地に暮らしており」という記述は明らかにこの事実に反している。英語原文で該当部を読むと間違いが明らかで、「spread northward from Sarpadia as the climate cooled」つまり「気候が寒冷化するにつれてサーペイディアから北方に拡大した」が正しい内容だ。それに加えて、過去形の原文を現在形に変えているのもおかしい。
ホマリッドは気候が寒冷化するにつれてサーペイディアから北へと拡大し、物資を求めて沿岸の居住地を襲撃した。
訳すならこんな感じになるだろう。
ホマリッドはどうやって北へ拡大したか?
和訳製品版の誤りを修正したので、これからフレイバー・テキストの解説ができる。ドミナリア氷河期にホマリッドが北へと勢力拡大した実際の流れを、公式資料を追いながら具体的に見てみよう。
カードセット「フォールン・エンパイア」当時の背景世界記事A History of the Fallen Empires(Duelist誌#3掲載)を読むと、深海に住んでいたホマリッドは気候が寒冷化してからヴォーデイリアを襲撃するようになったことが確認できる。時代設定はAR170年頃である。
フォールン・エンパイアから時代が下り氷河期が終焉を迎える。それから20年間のAR2954年までをカードセット「アライアンス」が扱っている。アライアンスにはテリシア地方で活動するヴィセリッド(Viscerid)がいくつかのカードで描写されている。
以上のようにカードを見ると、ホマリッドは確かに氷河期の間に南半球のサーペイディアから北半球のテリシアまで生息域を拡大させている。しかし、カードセットではこの大移動に関して説明は行われなかった。単にホマリッド(ヴィセリッド)がテリシアにいる事実だけが示されただけだ。
でも実は、裏設定はしっかりと作り込まれていたのだ。
それが公開されたのはアライアンスから10年後の公式記事Tea and Biscuits with Pete Ventersだ。元コンティニュイティ・マネージャーのピート・ヴェンタース(Pete Venters)が当時の諸々の設定を明かしているインタビュー記事である。
ヴェンタースによると、ホマリッドの起源はおそらく最南端の大陸周辺の海域だという。現在の地名で言えば南極大陸「氷結領域(Frozen Reaches)」のことだ。世界的な寒冷化が進むと、ホマリッドはかつて温暖だったサーペイディアの海に侵入していった。(これがカードセット「フォールン・エンパイア」のホマリッドによるヴォーデイリア侵略である。)
サーペイディアの北のほど近いところに「深海海溝(deep-sea trench)」があり、それがテリシア地方のアルゴスまで南北に走っている。ホマリッドはこの深海海溝を発見すると、氷河期の間に海溝を通ってテリシアにまで勢力を拡大していった。氷河期が終わってからは温暖な水温に適応したヴィセリッドが出現した。
ホマリッドは気候が寒冷化するにつれてサーペイディアから北へと拡大し、物資を求めて沿岸の居住地を襲撃した。
このカードのフレイバー・テキストは、まさにヴェンタースの証言通り。裏設定が丁寧に拾い上げられた奥が深いテキストなのだった。カードセット「ドミナリア」のこういう細やかな仕事には驚きのため息が出てしまう。
裏設定の裏に
さて最後にもう1つ、ヴェンタースの証言を取り上げたい。
サーペイディアとテリシアを結ぶ深海海溝はどうやってできたものか?それは氷河期の原因そのものにあった。
AR63年、この年の最後の日にアルゴスでウルザ(Urza)がゴーゴスの酒杯(Golgothian Sylex)を使用して大破壊をもたらした。アルゴスの島は吹き飛び、ドミナリアの次元構造に甚大な被害を与え氷河期が始まったのだ。このとき大陸プレートが壊されて、南北に走る「深海海溝」が生じたのだ。
テリシアにヴィセリッドが住み着いた深海海溝のそもそもの原因を辿っていくとウルザに行きついてしまった。
またウルザだ。ドミナリアの事件の原因を探っていくとウルザがいる。よくあることだ。
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※ カードセット「ドミナリア」のリストは作成未定。