炎の供犠(Immolation)はカードセット「レジェンド」初出のエンチャント・カードである。
炎の供儀は1994年の初登場から27年も経った今年2021年、間もなくリリースされる新カードセット「イニストラード:真夜中の狩り」において再録されることが発表された。このカードは再録も1995年のカードセット「基本セット第4版」の1回しかされておらず、ほとんどのユーザーの頭の中から忘れられていた存在だったことだろう。
大したカードではないのだけれど懐かしかったので記念に取り上げることにした。ところが新バージョンの炎の供儀を調べてみると、27年昔のカードを見事に料理して現代のイニストラード次元に再登場させていることが明らかになった。カードのメカニズム、フレイバー・テキスト、イラストの諸要素の噛み合いが素晴らしいのだ。ウィザーズ社クリエイティブ部門の巧みな仕事をぜひ広く知ってもらいたい。
本記事の初めはレジェンド版のカードの解説で、中盤から最後までは「イニストラード:真夜中の狩り」の方のカードをじっくり解説している。
※ 「イニストラード:真夜中の狩り」の話だけを読みたい場合はこちらをクリック。
炎の供犠の解説
オリジナルの炎の供犠(Immolation)にはフレイバー・テキストがない。シンプルな効果のため十分なスペースがあるにもかかわらず何も書かれていない。無である。
フレイバー・テキストはカードセット「レジェンド」の初出時だけでなく、翌年のカードセット「基本セット第4版」の時にも持たされることが無かった。
したがって、物語や背景を感じさせる要素は、辛うじてカード名とイラストだけだ。
炎の供犠のカード名とイラスト
「Immolation」は「生け贄」や「犠牲」を意味する言葉である。イラストには、炎に巻かれて苦しんでいるような3人の人影が描かれている。
英単語「Immolation」は時には炎と結び付けられて用いられることもあるが、もともとは炎の意味合いはなかったようだ(辞書で炎との関連の旨が書かれてなかったりするのも珍しくない)。
そして、「Immolation」は和名では「炎の供儀」と訳されている。「供儀」とは生け贄や生け贄に捧げる儀式を指している言葉だが、そこに「炎の…」と付け足したのはイラストも加味した味付け翻訳であったのだろう。
以上から、炎の供儀は生け贄の儀式、特に炎によるものを表現しているカードと考えられる。
炎の供犠のストーリー
カードセット「レジェンド」に言及するストーリー作品群で、この炎の供儀が登場したことがあったろうか?
記憶を探ってみたのだが、ちょっと思い当たるものがなかった。どこかに埋もれているのかもしれない。例えば直接的に「Immolation」と書かれておらずに、それを匂わせる燃える儀式としてとか…。
もし発見したらここに追記することにしたい。
イニストラード:真夜中の狩り再録バージョン
Nothing is funnier to a devil than setting someone–anyone–on fire.
悪魔にとって誰かに火をつけること程に面白おかしいことはない。
引用:炎の供犠(Immolation)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
新バージョンの炎の供犠(Immolation)にはなんとフレイバー・テキストが追加されていて、イラストの描写とも内容が合致しており、このカード1枚で物語を感じる仕上がりとなっている。
諸々の要素の噛み合いがよくて、巧みにデザインされているなぁ…と感心してしまった。その辺りを順番に説明しよう。
新バージョンのフレイバー・テキスト
Nothing is funnier to a devil than setting someone–anyone–on fire.
悪魔にとって誰かに火をつけること程に面白おかしいことはない。
まずフレイバー・テキストから確認していこう。
「悪魔」とあるが原文を確認すると「デビル」である。MTGでは悪魔に分類されるクリーチャーには「デビル」と「デーモン」が含まれるが、デビルは主に赤、デーモンは主に黒の属性を持たされている。このカードの場合はデビルであり、イラストの悪魔もデビルということになる。
次に、デビルは「誰かに火をつけること程に面白おかしいことはない」とあるが、ここは翻訳が不十分である。和訳の「誰かに」のところ、原文を見ると「someone–anyone–」となっている。「someone」と言った後に「anyone」と言い直しているのだ。このニュアンスが和訳版からすっかり抜け落ちている。だが、実はここがフレイバー・テキストの一番肝になっている部分なのだが…。
ここで一旦、フレイバー・テキストから離れてカードの機能の方に目を向けてみよう。こちらを理解してもらうと話が早い。
炎の供儀のカード機能とイラスト
炎の供儀はエンチャントしたクリーチャーに+2/-2の修正を与える。
パワー上昇の利点がある一方で、タフネスが2点も減少するデメリットがある。タフネスが2点以下のクリーチャーに使うと墓地に直行してしまうわけだ。強化に使える一方で低タフネスのクリーチャーの除去にも利用できるのである。
以上が炎の供儀のカードの機能だ。
さて、ここでイラストのデビルを見てみれば、両手から炎を吹き出しているだけでなく、頭から肩にかけての部分と尻尾からも炎が燃え上がっている。デビル自身の身体が燃えているのだ。
カードのタフネス低下の機能と、イラストの身体が燃えているデビルを合わせて考えると次のように導き出せる。
このデビルは炎の供儀の効果を受けており、+2/-2の修正がかかっている。しかし、それでも平気な様子であることから、このデビルは元々タフネスが3以上あり、炎の供儀のデメリットに耐えられているのだ、と。
新バージョンの炎の供儀が表現する物語
必要な情報は語り終えた。では、フレイバー・テキストに戻ってまとめに入ろう。
和訳の「誰かに」の部分は、原文では「someone–anyone–」つまり「誰かに…いや誰でも…」という意味合いである。
となると…
デビルにとって誰かに……いや誰にでも……火をつけること程に面白おかしいことはない。
……訳し直すとこんな感じに納まる。
イニストラード次元のデビルは、誰かに火をつけては面白がる厄介な存在である。だが、火を放つ相手は他人だけに留まらず、自分自身の身体も面白がって燃やしてしまうのだ。しかしデビルはその炎に耐え切って、むしろある種の力を増してしまうのだ。
遊んだ上にパワーアップにもなる、デビルにしてみればこんなに愉快なことはあるまい。
さいごに
炎の供儀は27年も昔のカードなのに、何ともうまく現代のイニストラード次元に当てはめて料理をしたものだ。これがまさにプロのクリエイティブの手腕である。和訳チームも応援しているのでいっそうの努力を期待したい。
では、語れるネタが尽きてしまった。今回はここまで。
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