前回がウルザ(Urza)だったので、今回はカード化されたミシュラ(Mishra)を取り上げる。
ミシュラのカード
ミシュラを表現したカードは6種類ある。5種類が兄弟戦争期の正史のミシュラで伝説のクリーチャー・カードである(1種類は合体カード)。残り1種類は未来に出現したミシュラという特殊なバージョンだ。
その他に1種類、特別なヴァンガード大判カードにもなっている。
ミシュラは少年期から兄弟戦争の終戦までの全ての期間がカード化されている。では大まかにミシュラの人生に沿ってカードを紹介していこう。
採掘の神童、ミシュラ
While Urza read books, Mishra learned to read the desert itself.
ウルザが書物を読みふける間に、ミシュラは砂漠そのものを読む術を学んだ。
引用:採掘の神童、ミシュラ(Mishra, Excavation Prodigy)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
採掘の神童、ミシュラ(Mishra, Excavation Prodigy)はカードセット「兄弟戦争」収録の伝説のクリーチャー・カードである。
このミシュラはトカシアの発掘キャンプの少年時代(AR10-20年)を表している。
イラストではAR16年に発見した羽ばたき飛行機械の復元修理を行っている場面だ。このイラストの左側はパワーストーンの神童、ウルザ(Urza, Powerstone Prodigy)と繋がっていて、ウルザと一緒に作業している。
カード名を見ると、「Excavation」を「採掘」と訳しているがこれはいただけない。「採掘」とは地下の鉱物や石油などを掘り出すことを意味するものだ。だが、考古学者トカシアらはスラン時代の遺物を掘り出しているので、こちらは「発掘」が正しい。カードセット「兄弟戦争」では、「発掘」とすべき文脈だのに「採掘」と訳している例が他にもあって困ってしまう。
したがって、このカードのミシュラは「発掘の神童」なのである。フレイバー・テキストでもウルザが書物を読んでいる間に砂漠を読む術を学んだとある。この兄弟の性質の差は小説The Brothers’ Warで強調して描かれていたもので、ミシュラはフィールドワークを好んでおり、発掘現場での作業や測量、機械装置の操作、発掘チームとの連携やコミュニケーションを積極的に学び取っていたである。
ミシュラはこの時期に忠実なる親友ハジャール(Hajar)と出会った。
マク・ファワを手懐ける者、ミシュラ
マク・ファワを手懐ける者、ミシュラ(Mishra, Tamer of Mak Fawa)はカードセット「兄弟戦争」収録の伝説のクリーチャー・カードである。
AR21年1、ミシュラはウィークストーンを使いファイレクシアのドラゴン・エンジン、通称「マク・ファワ(Mak Fawa)」を制御下に置いた。これによりファラジのスワルディ族の新たな長王の側近に取り立てられた。
ミシュラは野心的な長王の下でファラジの統一に尽力し、AR26年までにファラジ帝国が成立することになる。AR28年に長王が戦死したことで、ミシュラはファラジ帝国の新指導者として君臨したのだった。
したがって、マク・ファワを手懐ける者、ミシュラはAR21年にマク・ファワを制御下に置いて以降の姿となる。
“With the Brotherhood of Gix whispering in his ear, Mishra’s drive to prove himself was slowly twisted into an insatiable hunger for power.”
–The Antiquities War
「ギックスの教団がミシュラの耳元で囁き、己の能力を証明せんとする彼の衝動は、力への飽くなき渇望へと徐々に歪められた。」
–「アンティキティー戦争」
引用:マク・ファワを手懐ける者、ミシュラ(Mishra, Tamer of Mak Fawa)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
こちらは別バージョンのマク・ファワを手懐ける者、ミシュラ(Mishra, Tamer of Mak Fawa)だ。イラストとフレイバー・テキストが差し替えられている。
イラストでは、若く見えるとはいえ右腕が機械に置換されている。フレイバー・テキストによれば、ギックス教団の甘言に乗った後だと分かる。つまり、このバージョンのミシュラはAR57年以降で機械化された頃のものだと分かる。ゲームのデータ的にはそうではないものの、おそらく既に本性はファイレクシアンに変わっている。
高名な者、ミシュラ
高名な者、ミシュラ(Mishra, Eminent One)はカードセット「兄弟戦争」統率者デッキ収録の伝説のクリーチャー・カードである。
カード名で「高名な者」と訳された「Eminent One」は、ファラジの長王の敬称の1つである(その意味では「高名な御方」くらいに訳せるものだ)。イラストの方では、ミシュラがファラジ帝国製人型自動人形の軍団を従えている。
したがって、このカードのミシュラはAR28年にファラジ帝国長王に即位した後の姿となる。
ヴァンガード版ミシュラ
Both complement and antithesis to his older brother Urza, Mishra also mastered the intricacies of artifice. It was Mishra’s strength that first gave rise to the massive Phyrexian war engines on Dominaria, and it was his weakness that pushed him, Urza, and Dominaria itself to the point of annihilation.
兄ウルザを補完すると同時に正反対の存在であるミシュラは、工匠術の複雑さにも習熟していた。ミシュラの強さはドミナリアに初めてファイレクシアの巨大戦争機械をもたらしたことであり、彼の弱さは自分自身、ウルザそしてドミナリアそのものを消滅の淵にまで追い込んだことだった。
引用:Mishraのフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が私家訳
このMishraはヴァンガードという特別な大判カードでデザインされたミシュラである。
イラストではサリンスのアンクを携えていることから、サリンスと戦争を行ったAR36年以降に略奪したものだと考えられる。また、イラストの左側はヴァンガード版ウルザに繋がっており、そちらのウルザの情報と合わせるとAR36年のサリンスの戦いよりも後で、アルゴス島が戦場となるAR57年よりも前のミシュラだ、ということになろう。
ギックスに拾われし者、ミシュラ
ギックスに拾われし者、ミシュラ(Mishra, Claimed by Gix)はカードセット「兄弟戦争」収録の伝説のクリーチャー・カードである。
このミシュラは、ギックス派に篭絡されて、AR57年以降にファイレクシアンへと改造されてしまった姿である。
イラストでは、胴体部と右腕の機械化構造が剥き出しになっていることから、AR63年大晦日(12月35日)のアルゴス島で、ウルザとの最後の一騎打ちをしている場面だと確定する。マイトストーンの破壊光線を受けたことで、ファイレクシアンの機械の身体が露わとなったのだ。
和訳製品版のカード名は「ギックスに拾われし者」となっているが、「拾われた」というニュアンスが適していない。ミシュラはファラジ帝国の最高指導者として君臨し続け、戦争は泥沼状態で長期化していたとはいうものの、一切その地位から凋落したりもしていないのだ。騙されて堕落させられてしまったとはいえ、これを「拾われた」と表現するのは違和感しかない。英語原文の「Claimed by Gix」は、「ギックスの手に落ちた」くらいの意味合いだろう。
ファイレクシアに下りし者、ミシュラ
ファイレクシアに下りし者、ミシュラ(Mishra, Lost to Phyrexia)はカードセット「兄弟戦争」収録の伝説のクリーチャー・カードである。
小説The Brothers’ Warの最終局面のミシュラである。ウルザのマイトストーンの攻撃で谷底に転落したミシュラは、マク・ファワの頭部に自分の下半身を融合させて這い上がってきたのだ。このカードは、ギックスに拾われし者、ミシュラとファイレクシアのドラゴン・エンジン(Phyrexian Dragon Engine)の合体カードであるが、小説描写の完全再現となっているのだ。
ちなみに「合体」と訳されてしまっているこのメカニズムの原語は「Meld」つまり「融合」である。小説The Brothers’ Warでは、「his brother, melded to the machine(機械と融合した弟)」と表現されており、こちらも(原語でなら)完全再現になっている。
こうして融合したミシュラは、ウルザが起爆したゴーゴスの酒杯の閃光に呑まれて、ドラゴン・エンジン部分が粒子へと分解されつつ吹き飛ばされて消滅した。
工匠の神童、ミシュラ
A sojourn through time gave dark inspiration to one gifted young mind.
時間の中を漂うことで、才能ある若者の心に邪悪なひらめきが生まれた。
引用:工匠の神童、ミシュラ(Mishra, Artificer Prodigy)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
工匠の神童、ミシュラ(Mishra, Artificer Prodigy)はカードセット「時のらせん」収録の伝説のクリーチャー・カードである。
このカードのミシュラは特殊な背景を持っている。「時のらせん」はAR4306-4500年の裂け目時代を舞台にしていて、時の裂け目から過去の時代の人物が出現する事件が起こっていた。このミシュラはそういった人物の1人であり、フレイバー・テキストでも「時間の中を漂う」と時代を越えてきたことが匂わされている。
カード名で「神童」というからには少年時代のミシュラであろう。しかしカードの色は青黒赤の3色だ。私の考えでは、黒に属する要素は本来のミシュラには無かったもので、ウィークストーンを入手してからその影響を受けた変質だったと捉えている。
小説The Brothers’ Warを読むに、少年時代のミシュラは、何かと兄貴風を吹かすウルザを煙たがって反発しているだけの至って普通の十代の男の子であった。2人の対立も兄弟同士のライバル関係といった程度のものだった。ミシュラは外交的で、体を動かし、人と交わることが好きで、異民族のファラジとも分け隔てなく接することができ、天性のカリスマがあった。内に籠って人付き合いに時間を割かないウルザよりも精神的にも肉体的にもよっぽど健全であったのだ。ミシュラの心に影が差すのはウィークストーンを手にしてからのことなのだ。
ゆえに、このカードはウィークストーン入手後か、あるいは、時間旅行をしたことで「才能ある若者の心に邪悪なひらめきが生まれた」結果だと考えられる。
ちなみに時の裂け目から出現したこの手のキャラクターが本物であったのか、複製体であったのか、未来の歴史に影響を与えたのか、元の時代に戻ったのか、その辺は曖昧にぼかした様な解説しかされていない。時のらせんブロック当時(2006-2007年)がそうだったのだから、もう私は詳しい公式の解説は無いと諦めている。
工匠の神童、ミシュラは「兄弟戦争の正史には何も影響を与えない存在」と取りあえずは考えておいた方が楽である。もちろんファンの解釈としてこれは本物のミシュラで、未来世界から記憶を保持したまま過去に戻った云々……と読んで想像を膨らませるのも自由ではある。その方向での二次創作は個人的には大歓迎だ。
さいごに
ウルザの次は当然ミシュラ。ということで前回を踏襲して同じスタイルでまとめてみた。
ミシュラについては兄弟戦争後の生存説が残されているのだが、今回はそこに触れるのはよしておいた(実際、書いてはみたものの脱線して冗長になってしまった)。
では、今回はここまで。
ミシュラのカードの関連記事
カードセット「兄弟戦争」の関連記事
- AR22年の可能性もある