本記事は「ファイレクシアの沿革」と題して、MTG史上での「ファイレクシア(Phyrexia)」の変遷を時系列に沿って書き出す内容となる。今回は第2回目だ。
前回その1ではカードセット「アンティキティー」から「アライアンス」の登場まで扱った。続編の今回は、まず「アライアンス」のファイレクシアをもう少し詳しく取り上げ、カードセットを順番に「ミラージュ」、「ビジョンズ」、「基本セット第5版」までの範囲を扱うことになる。
※ もともと個人的な覚書を最低限読めるように記事化したものなので、雑で味気ないのはご容赦ください。
アライアンス
1996年6月、カードセット「アライアンス」にはファイレクシア関連のカードが4種類登場した(絵柄とフレイバー・テキスト違いを別換算すれば計6種類)。カードセット「アンティキティー」以来初めてのことだ。
このセットではMTG史上で初めて「ファイレクシアの機械生物が明らかにそれと分かる形で、アーティファクト・クリーチャーとしてカード化」されている。Phyrexian War BeastとPhyrexian Devourerの2種だ。1
「アライアンス」におけるファイレクシアだが、カードを見るだけではストーリーや背景世界的なつながりはあまりよく分からない。予定されていたアルマダコミック版のアライアンスは展開打ち切りになってしまったのだ。だが、当時の他の様々なソースを確認すればおぼろげに見えてはくる(次節参照)。
アライアンス当時に読み取れたファイレクシア関連ストーリーと設定
カードセット「アライアンス」、コミック巻末インタビュー、Battlemage関連テキスト、1997年ドメインズ地図付属カレンダーに分散した情報をまとめるとひと繋がりのストーリーが読み取れる。
- キイェルドー国の都市ソルデヴはコイロス洞窟を発掘し、兄弟戦争期のファイレクシアのアーティファクト・クリーチャー(Phyrexian War Beast)を手に入れた。
- ソルデヴの指導者アーカム・ダグソンはPhyrexian War Beastの技術を研究して活用した。
- 遺物嫌いのソリン(Sorine Relicbane)らソルデヴの異端派がダグソンに反対した。
- 最終的にソルデヴはアーティファクト・クリーチャーの攻撃によって壊滅した。
- ジェウール・カルサリオンはPhyrexian War Beastと戦った(場所はソルデヴとは限らないが、少なくとも未発行のコミック内のどこかで戦う予定だった)。
これらの異なるソースに細切れに分散した情報は、4年後に小説The Shattered Allianceが発売されてようやく正しい情報(ジェウール・カルサリオンは小説未登場なので彼の一件を除く)であったと裏付けされることになる。
ミラージュ
1996年10月、カードセット「ミラージュ」にはファイレクシア関連カードが4種類収録された。ファイレクシアン・ドレッドノート(Phyrexian Dreadnought)、ファイレクシアへの放逐(Phyrexian Purge)、ファイレクシアへの貢ぎ物(Phyrexian Tribute)、ファイレクシアの蔵(Phyrexian Vault)の4種。
「ミラージュ」では「アライアンス」に引き続き機械生物がカード化されたり、イラストで描かれていた。
メカニズム的にはひとつの変化がみられる。カードセット「アンティキティー」はアーティファクトの生け贄を何らかのコストにしていたのに対して、「ミラージュ」では(アーティファクトに限定しないで)クリーチャーの生け贄をコストとして要求したり、カードの効果としてクリーチャーの破壊をするようになった。
この変化を背景設定的に解釈するなら、デーモンがアーティファクトを収集して破壊する地獄という既存のイメージから、ファイレクシアは脱却を始めたようにも思えるものだ。
ミラージュとハーパープリズム小説シリーズ
“In your final breath you still have something to offer Phyrexia.”
–Afari, Tales
末期の息の中にも、ファイレクシアに捧げるべきものは残っている。
–アファーリー「語り」
引用:ファイレクシアへの貢ぎ物(Phyrexian Tribute)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
ファイレクシアへの貢ぎ物(Phyrexian Tribute)はアーティファクトを破壊できる黒としては珍しいカードだが、ハーパープリズム小説シリーズで先に描かれていた「アーティファクトのための地獄」を意識しているように感じさせる。
小説のファイレクシアン・デーモンはアーティファクトをファイレクシアに持ち帰り、引き裂き完全に分解してしまう存在と語られていた。それゆえ「アーティファクトのための地獄」と呼ばれていた。しかし、これまでのファイレクシア関連カードは「アーティファクトを何らかのコストとして生け贄に捧げる」という破壊自体が目的なカード群ではなかった。
それに比べてこのカードはアーティファクトを能動的に破壊しており、「アーティファクトのための地獄」をMTG史上で初めて描けたカードだと解釈できるものだ。
さてMTG史上初の……と取り上げては見たものの、この系譜を継ぐ黒単のアーティファクトを狙い撃ちして破壊するファイレクシア関連カードは登場しなかったし、ファイレクシアの「アーティファクトのための地獄」という認識も次第に変化していくことになった。
ミラージュとアルマダコミック
続いて、ファイレクシアン・ドレッドノート(Phyrexian Dreadnought)だが、Duelist誌13号のピート・ヴェンタースのコメントによると、イラストの右下に小さく描かれた人物はプレインズウォーカーのテイジーアである。
ファイレクシアを訪れるテイジーアのエピソードは、アルマダコミック・シリーズのPCゲームBattlemageで語られたものだ。テイジーアはレシュラックをファイレクシアに封じた後に別の戦いで一旦死亡するが、数世紀後に復活してレシュラックが改心しているなら解放してもよいか、とファイレクシアを再訪しているのだ。
更に同ゲーム中の描写から「ミラージュ」「ビジョンズ」のミラージュ戦争と、Battlemageのプレインズウォーカー戦争は同時期に発生している。このカードのテイジーアはもしかするとレシュラックの解放を判断するためにファイレクシアを再訪した姿かもしれない。
ビジョンズ
1997年3月、カードセット「ビジョンズ」では新たにファイレクシアの機械生物カードが2種類増えた。ファイレクシアの歩行機械(Phyrexian Walker)とファイレクシアの略奪機(Phyrexian Marauder)だ。
このセットのファイレクシアはメインストーリーに絡むことも、ファイレクシアに関する情報の追加も特になく終わった。
基本セット第5版
1997年4月、カードセット「基本セット第5版」が発売されたが、ファイレクシア関連カードは収録されていなかった。この基本セットは過去カードへの深掘り設定や言及が豊かで、ハーパープリズム小説とアルマダコミックに関連付けたフレイバー・テキストが何種類も含まれていた。
当時のコンティニュイティ部門の働きを象徴する作りだが、不思議なことにファイレクシアは省かれていたのだ。次のカードセット「ウェザーライト」からはファイレクシアは敵役としてずっと描かれ続けることになるので、ここでは1回お休みさせたのかもしれない。
「基本セット第5版」再録版の寄せ餌(Lure)のフレイバー・テキストは「ジアドロン・ディハーダ2(Geyadrone Dihada)」という人物のコメントである。
このジアドロン・ディハーダ(Geyadrone Dihada)なる人物はアルマダコミックの登場キャラクターであったが、この事実に気付けたユーザーはほとんどいなかっただろう。24年後の2021年になって、ディハーダはカードセット「モダンホライゾン2」でカード化されたが、彼女を知るのは当時ですらよっぽどのマニアだけだったのだ。
この例のように当時のコンティニュイティ部門の頑張りは細かく深く、そして何よりニッチな方向だったように思う。すごい職人仕事をやってのけていて、ごく小数の分かる人には分かるものだったが、大部分のユーザーには気付かれず目にも入らなかった。
何となく定番になったファイレクシアの存在
このように「アライアンス」「ミラージュ」「ビジョンズ」と3セット連続で「ファイレクシア」関連カードは収録されてきた。ファイレクシアは何となくいつもいる定番の存在になったのだ。
「アライアンス」のように裏設定ではある程度ストーリーに関わっていたかもしれないが、カードセットだけを目にする大部分のユーザーにはそれは見えないものだ。それゆえ、ファイレクシアはそれが地名か人名か組織名か何かはよく分からんが、カードセットで毎回何枚か登場するMTGの定番らしい、くらいにしか認識されなかった……少なくとも私個人の観察してきた限られた範囲内では日本国内国外問わずそう感じさせるものだった。
次回予告
以上のようにカードセット「アライアンス」から「基本セット第5版」までをカード中心に見てきたが、次回は視点を変えてウィザーズ社のストーリー記事や設定記事に注目する。
「アライアンス」から「基本セット第5版」期の公式専門誌のDuelist誌を見ると、ストーリー系の連載記事やQ&Aが、以前よりも遥かに数も質も充実したものだと分かる。担当はコンティニュイティ部門のピート・ヴェンタースやスコット・ハンガーフォードらであった。
次はDuelist誌とDuelist Onlineからファイレクシアに関する情報を拾っていこう。→その3へ
では今回はここまで。