路上の師、リガ(Rigo, Streetwise Mentor) はカードセット「ニューカペナの街角」 収録の伝説のクリーチャー・カードである。
今回は、恵まれない生まれから出世した斡旋屋のリガを取り上げる。
路上の師、リガの解説
路上の師、リガ(Rigo, Streetwise Mentor)データベースGathererより引用
路上の師、リガ(Rigo, Streetwise Mentor) はニューカペナ次元の斡旋屋一家所属のレオニン男性だ。
公式記事The Legends You’ll Find in Streets of New Capenna によると、リガの設定は以下のようなものだ。
斡旋屋一家は、排他的な高街に拠点を持つにも関わらず、共同体の強さやストリートから得られる知識を決して軽視しない。仰ぎ見れば将来が見える、と彼らは言う。最高の執行人や契約魔道士は、カルダイヤやメッツィオの子供たちから生まれることがある。彼らは一家に入るために奮闘し、斡旋屋となってからも出世への意欲を失わない。
リガはそんな子供の1人であった。メッツィオの浮浪児リガは、ニューカペナの天使たちと一緒に働くことを夢見ていた。僅差で2番目の夢は斡旋屋になることだったので、採用担当者の目に留まるようにがむしゃらに働いた。若いうちに、リガは噂好き、スリ、靴磨き、運び屋、使い走りによるネットワークを築き上げ、メッツィオに配属された斡旋屋に情報を集め、流行を教え、養い、賄賂を渡して支えたのだ。目論見が当り、すぐにメッツィオの斡旋屋に採用されることになった。高街の事務所に出世しても、リガは勤労意欲を失いはしなかった。今や一人前の斡旋屋となったが、リガは自分の起源を忘れはしない。自発的にメッツィオに奉仕し、かつての自分を思い起こさせる子供たちに特別に目を掛けて世話しているのだ。
※ この設定解説文には公式の日本語訳も存在する。ところが内容に多々間違いが認められるため、本サイト独自解釈で訳してまとめた文章となる。公式翻訳の問題点は本記事の最後でまとめて指摘している。
路上の師、リガの性別設定
リガの性別は「男性」と設定されている。しかし、実は最初は「女性」設定で登場したキャラクター だった。
リガはカードのレビュー前に、短編「契約破り (The Contract Breaker ) 」で初登場したのだが、そこでの性別が「女性」だったのだ。
その後、カードがレビューされた際にウィザーズ社の編集部は短編で性別を取り違える誤りがあったと公表して、短編内の表記を「男性」へと書き改めたのである。短編The Contract Breaker には、冒頭にその旨が編集部註釈として明記されている。
一方、公式邦訳版の契約破り の方でも、本家サイトにやや遅れて、表記が修正された。この日本語版では性別表記だけでなく、言葉遣いもいわゆる「女言葉」から「男言葉」に書き換えられている。ただし、ウィザーズ本家サイトとは異なり、日本サイトには、当初性別が取り違えていたことや一部内容を書き替えたことを示す注釈は一切記載されないままとなっている。
メモ:リガ?リゴ?
余談。「リガ」の名前は英語の綴りは「Rigo 」であり、普通は「リゴ」と読みそうなものだ。ニューカペナではイタリア語風な雰囲気の名前が目につくが、イタリア語では男性名の最後は「-o」、女性は「-a」になることが多いという特徴がある。そこからのファンの憶測として、当初の女性設定を考慮して「リゴ」でなく「リガ」と読むことにしたのではないか?との声もちらほらと聞こえて来ていた。
路上の師、リガの二つ名
カードのリガには「路上の師(Streetwise Mentor) 」という二つ名が持たされている。この意味を考えてみた。
MTGではカード名にある「Mentor」は「師・教師・指導者」 などの意味を持っている。「Mentor」カードはパワー1以下のクリーチャーとの関係で利益が発生するものが多く、路上の師、リガもその系譜に連なるカードだ。
「Streetwise」 はこのカードでは「路上の」と訳されているが「都会で生き抜く術を持つ」とか「世渡りに長けた」みたいな意味合い がある。設定解説によればリガはストリートチルドレンの情報網を持っていて子供たちの面倒をあれこれ見ている。そしてリガ自身もストリートチルドレンで斡旋屋で成り上がったという過去を持っている。
そういう背景を反映させてのカード名「路上の師(Streetwise Mentor) 」なのだ。
以上でリガ本人のデータ確認は終わりだ。次の節ではリガの登場したストーリー作品と描写を取り上げよう。
路上の師、リガの登場ストーリー作品・記事
路上の師、リガ(Rigo, Streetwise Mentor) は短編「契約破り (The Contract Breaker ) 」に脇役として登場している。
粉砕者、ペリー(Perrie, the Pulverizer)データベースGathererより引用
この短編の主人公は斡旋屋の処罰者ペリー(Perrie) だ。リガはペリーが任務中に街で喧嘩騒ぎを起こしたと聞きつけて、現場を訪れることになる。
ペリーの喧嘩は遂行中の任務とは無関係なもので、むしろ捜査対象を逃がしてしまうという余計な騒ぎであった。斡旋屋にとってルールや契約は絶対厳守のものだ。ところが、最近ペリーがそれを破ったと噂され、とうとう落ち目になったと舐められていたのだ。今回の喧嘩騒ぎはペリーが面子を保ち、以前と同様に仕事をするためには必要なものだったのである。
ペリーは任務を続行しようとするが、リガはそんなペリーに対して喧嘩で憂さ晴らしできたか?任務は誰かに引き継げと告げる。そして、正式に任務解除の通信が入るものの、ペリーは契約を完遂する姿勢を崩さない。そこでリガはこう言ったのだ。
“You’re choosing now to worry about the letter of the law?” One of Rigo’s thick eyebrows arches with amusement. “Didn’t worry you when you balked about that kid.”
「今更だろ、契約文を気にして迷ってるのか?」太い眉が弧を描き、リガは面白がっている。「気にしちゃいなかっただろ、あの子供のことで尻込みした時はよ。」
上は原文引用、下は本サイトの独自翻訳
実はペリーはある子供を庇って、斡旋屋の決まりを破っていたのだ。その子供は斡旋屋の仕事を途中放棄したため、当然ながら処罰の対象になったのだが、ペリーはほんの子供を処罰することに尻込みしてしまい、結果として決まりに厳格なはずのペリー自身も契約を破ってしまったのだ。それがペリーの契約破りの真相である。
このやり取りの後、ペリーは心を決めて指令通りにリガと共に斡旋屋本部に出頭することにした。ここでリガの出番は終了となる。
リガの登場シーンはそれほど長くはない。だが、子供にまつわるミニエピソードに関するゲストに、浮浪児の世話に力を入れるリガが選ばれたのはまさに適任であった。そう私には思えてならない。
リガはどこか楽し気な雰囲気でペリーとやり取りしている。その様はまるで、頑固な大男が子供1人のために信念を曲げたことに意外だという純粋な驚きと、幼気な子供を守ろうとした正義の心への感服、そういう想いがないまぜになってリガの態度に現れたように感じさせるのだ。
リガ自身も契約に厳格な斡旋屋の一員だが、かつては天使と共に働くことに憧れ、今でも恵まれない生まれの子供たちを支援している人物だ。リガには武骨なペリーが子供の正義の味方、いわば天使のように見えていたのかもしれない。リガの背景設定を読んでからは、ますますそんな気がしてならないのだ。
リガの登場した短編の話はここで切り上げる。本当はこの短編のそこかしこにある翻訳の不備についてもあげつらいたい気持ちはないわけではないが、今回は自重する。次の節はおまけだ。リガの設定解説文に関する解釈と公式翻訳版への指摘になる。
設定解説記事の公式和訳に関する指摘
特別版イラストの路上の師、リガ(Rigo, Streetwise Mentor)データベースGathererより引用
公式記事The Legends You’ll Find in Streets of New Capenna では、このキャラクターに関する解説文が公開されている。
公式和訳版『ニューカペナの街角』の伝説たち も公開されているが、その翻訳内容に怪しいと感じる部分があるのでその点を以下に書き残しておく。本サイトでの記述内容が、公式和訳版記事と食い違っている理由はここにある。
原文と公式和訳の解説文引用(長文で冗長なので折り畳み表示)
The Brokers, for all their Park Heights exclusivity, never discount the strength of community or the knowledge that comes from the streets. Looking up, they say, is looking forward. Some of their best enforcers and contract mages come from strivers, kids out of the Caldaia and Mezzio who hustle to get themselves into the family and keep that drive with them to advance up the Brokers’s ranks.
Rigo was one of those kids. A street kid in the Mezzio, Rigo had dreams of working with New Capenna’s angels. The Brokers were a close second, and so he hustled to catch the eye of Brokers recruiters. As a youth, Rigo built his own network of newsies, pickpockets, shoeshine kids, porters, and errand runners to help Brokers deployed to the Mezzio keep informed, stylish, fed, and paid under the table. He was successful and found himself quickly adopted by the Mezzio’s Brokers. Advanced up the chain to the finer firms in Park Heights, Rigo never lost that striver’s drive. Now a full-fledged Broker, Rigo never forgets where he came from: he volunteered to serve in the Mezzio, taking special care to look after the kids that remind him so much of himself.
斡旋屋は、高街の上流階級を顧客としていても、 共同体の力や街路の知識を決して侮ってはいない。彼らいわく、見上げることは憧れること。 彼らの中でも最高の執行人や契約魔道士には、カルダイヤとメッツィオから這い上がってきた者たちがいる。彼らは自らの力で一家の一員となり、斡旋屋の中でも上昇志向を持ち続けている、
リガもそういった出自を持つひとりである。メッツィオの浮浪児であったリガには、ニューカペナの天使とともに働くという夢があった。斡旋屋に入るのはそれに次ぐ夢であり、そのため彼は斡旋屋の新人勧誘員の目にとまるべく奮闘した。若いうちに、リガは自身のネットワークを築いた。噂好き、スリ、靴磨き、運び屋、使い走りといった人々を配置して斡旋屋の力となり、メッツィオに情報を行き渡らせ、流行を追わせ、養い、賄賂を渡した。 それは成功し、彼は素早くメッツィオの斡旋屋に採用された。高街の綺麗な部署に昇った今でも、リガはかつての意欲を失っていない。 斡旋屋の立派な一員となっても、リガは自らの出身を決して忘れてはいないのだ。彼は無償でメッツィオに奉仕し、 過去の自分を思い起こさせる子どもたちを特に気にかけて支えている。
引用:公式記事The Legends You’ll Find in Streets of New Capenna /『ニューカペナの街角』の伝説たち
その1:高街の上流階級を顧客としていても
その1:高街の上流階級を顧客としていても(冗長なので折り畳み表示)
「高街の上流階級を顧客としていても」と訳されているが、原文では「for all their Park Heights exclusivity」であり、内容は全然違っている。「上流階級を顧客とし」に相当する意味合いは原文にはない。
では直訳すると「for all …」は「…でも関わらず」、「exclusivity」は「排他性」なので、「彼ら(斡旋屋一家)の高街の排他性にも関わらず」となる。これはどういう意味かというと、斡旋屋一家の拠点がある高街は富裕層やエリートの暮らすニューカペナの最上層に置かれ、住人はより下層のメッツィオやカルダイヤの人々を見下す傾向がある。それが高街の排他性である。
言い換えれば、斡旋屋は「排他的な高街に拠点を持つにもかかわらず」排他的ではない特徴を持っている、との文章になっているのだ。
公式翻訳は想像するに、「彼ら(斡旋屋一家)の高街の排他性」を分かりやすくしようと試みて「高街の上流階級を顧客とする」と換言したのだろう。しかし、これでは斡旋屋の描写と食い違ってしまう。各種ストーリー作品によれば、斡旋屋の顧客は高街の上流階級に限らず、他の階層にもいるのだ。したがって、公式翻訳の表現は誤っていると言わざるを得ない。
その2:見上げることは憧れること
その2:見上げることは憧れること(冗長なので折り畳み表示)
「彼らいわく、見上げることは憧れること。」と訳された原文の該当部は「Looking up, they say, is looking forward.」である。これは「上を見ることは、彼らが言うには、先を見ることと同じだ。」くらいの意味になる。
公式翻訳は「憧れること」と解釈しているが、本サイトでは「将来を見る」と取った。そして、言い回しをモットーや標語風に整えて「仰ぎ見れば将来が見える」と言い換えてみた。
その3:メッツィオに情報を行き渡らせ
その3:メッツィオに情報を行き渡らせ(冗長なので折り畳み表示)
今度の指摘は長いが、丸々引用しよう。
As a youth, Rigo built his own network of newsies, pickpockets, shoeshine kids, porters, and errand runners to help Brokers deployed to the Mezzio keep informed, stylish, fed, and paid under the table.
若いうちに、リガは自身のネットワークを築いた。噂好き、スリ、靴磨き、運び屋、使い走りといった人々を配置して斡旋屋の力となり、メッツィオに情報を行き渡らせ 、流行を追わせ、養い、賄賂を渡した。
この文章は特に「メッツィオに情報を行き渡らせ」の部分がおかしい。
では文章を分解して順番に見ていこう。
As a youth, Rigo built his own network of newsies, pickpockets, shoeshine kids, porters, and errand runners
若いうちに、リガは噂好き、スリ、靴磨き、運び屋、使い走りによるネットワークを築いた
どういう目的で?
to help Brokers deployed to the Mezzio
メッツィオに配属された斡旋屋を助けるため
具体的には?
(Brokers) keep informed, stylish, fed, and paid under the table.
(斡旋屋に)情報を集め、流行を教え、養い、賄賂を渡し続けた
若いうちに、リガは噂好き、スリ、靴磨き、運び屋、使い走りによるネットワークを築き上げ、メッツィオに配属された斡旋屋に情報を集め、流行を教え、養い、賄賂を渡して支えたのだ。
まとめると大体こんな文章になるだろう。
御覧のように「人々を配置して斡旋屋の力となり、メッツィオに情報を行き渡らせ」ているのではなく、原文は「メッツィオに配属された斡旋屋のメンバーに情報を集めて手助けする」という内容なのだ。
その4:高街の綺麗な部署に昇った今でも
その4:高街の綺麗な部署に昇った今でも(冗長なので折り畳み表示)
「高街の綺麗な部署に昇った今でも、リガはかつての意欲を失っていない。」の部分は時制が間違っている。「今でも……失っていない」と現在と解釈しているのが間違いなのだ。
原文「Advanced up the chain to the finer firms in Park Heights, Rigo never lost that striver’s drive.」は過去形であり、「今でも」に相当する語句はない。そしてこの直後の文章は「Now a full-fledged Broker」つまり「今や一人前の斡旋屋となった」とあり、こちらが現在のリガを語っている文章だ。
したがって、メッツィオで採用されたリガが、出世の次の段階として高街のもっと良い事務所に栄転した時の話は、現在よりも過去の話になる。その時のリガはエリートや金持ちの高級街に移ったところで、勤労意欲は相変わらずに旺盛であった。
その5:彼は無償でメッツィオに奉仕し
その5:彼は無償でメッツィオに奉仕し(冗長なので折り畳み表示)
これが最後の指摘だ。「彼は無償でメッツィオに奉仕し」の所は、日本でよく見る間違った認識が現れている。
原文は「he volunteered to serve in the Mezzio,」であり、訳せば「彼はメッツィオで自発的に奉仕する」となる。ポイントは「volunteer to do」で「ボランティアで……する」「 進んで……しようと申し出る」「自発的に……することを引き受ける」の意味合い。
要は日本ではボランティアは無償奉仕のように勘違いされるが、決して無償ではないというよく言われる話だ。
さいごに
以上でリガに関して思いついた話題は吐き出せた。
本文中でも書いたが、短編のリガの登場シーンは結構気に入っている。リガにとって処罰者ペリーが天使に見えた。この解釈は自分でもなんかいい感じじゃない?と思うのだ。斡旋屋がただ単純な冷徹な銭ゲバの冷血漢じゃないってところは、ボスのファルコ、ペリー、そしてリガによって描かれているもいいよなぁ(これで翻訳がちゃんとしてれば……)。
では今回はここまで。
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