ドミナリア地理:塩の湿地とレンナ

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塩の湿地(Salt Marsh)はカードセット「インベイジョン」に収録された土地カードである。この土地はファイレクシア侵略戦争期のドミナリア次元の国レンナ(Wrenna)を描いたものとされている。

ところが、ファイレクシア侵略戦争から3世紀が経過した現在、ドミナリア上からレンナの塩の湿地が消失してしまったようなのだ。

今回は土地カード「塩の湿地」と「レンナ国」を紹介する。塩の湿地とはそもそもどういう地形なのか、レンナとはどういう国なのか、そして、レンナから塩の湿地が消えた謎とは何か、その辺りを取り上げてみた。

塩の湿地の解説

Only death breeds in stagnant water.
–Urborg saying
よどんだ水の中で繁殖するのは死だけ。
–アーボーグの格言
引用:塩の湿地(Salt Marsh)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

塩の湿地(Salt Marsh)

データベースGathererより引用

塩の湿地(Salt Marsh)とは…
カード名で「塩の湿地」と訳されている「Salt Marsh」は海岸にある湿地・沼地で、潮の満ち引きの影響で陸地になったり冠水したりする地形である。訳例を調べてみると、塩沼(えんしょう)、塩水沼池、潟湿地、塩性沼沢、塩湿地、塩沼地…などなど多数の訳語が存在している。

このカードが収録されたカードセット「インベイジョン」は、AR4205年のドミナリア次元が舞台である。地球の2.5倍もの表面積を誇る広大なドミナリアならば、この塩の湿地に該当する土地は数え切れないほど存在するだろう。例えば、フレイバー・テキストのアーボーグ(Urborg)は沼地の広がる大きな島なので、塩の湿地は当然存在しているはずだ。

しかし、このカードはインベイジョン・ブロック期の特設サイト地図でレンナ(Wrenna)という国のイラストとして用いられていることから、ドミナリア上でも特にレンナの湿地帯を描いたものだと考えられている。

では次にレンナがどのような国であるかを解説しよう。



レンナの解説

レンナは地図の左上4分の1近くを占めるドメインズ地方のエローナ(Aerona)大陸にある
現代ドミナリア全体地図
公式サイト記事より引用

レンナ(Wrenna)はドミナリア次元の国である。ドメインズ地方の北エローナ大陸南部にある平坦な土地1を領土としている。レンナについては沼地の民2との表現も確認できるが、地図上に確認できる沼地・湿地帯は、内陸部の湖の周辺や南東海岸沿いの一部でしかなく決して広い地域ではない。

ファイレクシア侵略戦争以前のレンナと周辺地域
カレンダー付属ドメインズ地図より引用

レンナの東は鯨の海(Sea of Whale)に面しており、海岸沿いに騎士団で知られるジェンゲス(Jenges)の都がある。ジェンゲスのすぐ西側は名称不明の山々があり、海岸線に沿って南下するとこちらも名称不明の沼地あるいは山地(後述)がある。レンナの南の半島部は隣国ムロニア(Muronia)が支配している。西にはハールーン山脈(Hurloon Mountains)の広大な山地帯が連なっている。レンナの領土の北限ははっきりとはしないが、北上すれば最後にはベド山脈(Bade Mountains)煙山脈(Smoke Mountains)に行き当たり、北西ならば北エローナ最大の森林地帯であるささやきの森(Whispering Woods)へと到達する。

ジェンゲスはレンナ東端にある都市である。ジェンゲスの騎士団は、AR36世紀以前の昔には伝説的騎士団と讃えられる存在だったが、AR41世紀にはジェンゲス黒騎士団(Black Knights of Jenges)は傭兵として活動していた。

AR36世紀頃のレンナ

トルステン・フォン・ウルサス(Torsten Von Ursus)

トルステン・フォン・ウルサス(Torsten Von Ursus)
データベースGathererより引用

カードセット「ミラージュ」当時(1996年)の公式サイトの記事「Encyclopedia Dominia」によると、AR36世紀頃、ある悪辣なる魔術師がレンナの王座に就いた3。それを契機にジェンゲスの伝説的騎士団4に所属する偉大な戦士、トルステン・フォン・ウルサス(Torsten Von Ursus)は騎士団を離れ南西へと旅立った。後にトルステンはエローナ大陸西端に(レンナとは大陸の反対側)に大国ベナリア(Benalia)を興すことになる。

ドミナリア:トルステン・フォン・ウルサス
マジック・ザ・ギャザリング(MTG)の「トルステン・フォン・ウルサス(Torsten Von Ursus)」を紹介。レジェンドで収録され、団結のドミナリアでリデザインされた。ドミナリアを代表する強国ベナリアの開祖。トルステンの設定を解説する。

AR41世紀頃のレンナ

黒騎士(Black Knight)

黒騎士(Black Knight)
データベースGathererより引用

AR4070年代、ジェンゲス黒騎士団のテリル(Terrill)ら多くの騎士が傭兵として、鎧に身を固めた魔術師ハーコン(Haakon)5に雇われていた。ちなみにジェンゲス黒騎士団とハーコンは邦訳された小説ささやきの森でも登場している。ただし、名前と素性が明かされるのは続編の小説Shattered Chainsにおいてである。

blighted Muronia and Wrenna, both succumbing to corruption’s cold embrace, but from different causes
荒廃したムロニアとレンナ、両国共に腐敗の冷たい抱擁に屈しつつあるが、それぞれ原因は別にある
引用:ドメインズ地図付属カレンダー
上が英語原文。下が私家訳

ファイレクシア侵略戦争前の時代、レンナは荒廃しており、原因は語られていないが、腐敗に屈しつつあった。そして、荒廃した状況は南の隣国ムロニア(Muronia)でも同じであった。

5世紀前、トルステン・フォン・ウルサス(Torsten Von Ursus)がジェンゲスを見限った頃からすでにレンナの衰退は始まっていたのだろう。

ファイレクシア侵略戦争期のレンナ

WRENNA
Darkness and death is not unfamiliar to the folks of the marsh. But the Phyrexian philosophy of ‘life’ is more of a torturous imprisonment.
Many nations that secretly strive to be like Yawgmoth will yet stand against him.
レンナ
闇と死はこの沼地の民にとって馴染みの薄いものでない。だが、ファイレクシアの人生哲学では「生命」はむしろ拷問に満ちた投獄としている。
密かにヨーグモスを模範にしようとしている国は多いが、今にヨーグモスと敵対することになるだろう。
引用:インベイジョン・ブロック期の特設サイトの地図リンク
上が英語原文。下が私家訳(意訳強め)

AR4205年のファイレクシア侵略戦争では、ドミナリア次元のほぼ全土が戦場となった。特設サイトの地図ではレンナが記載され、解説と共に塩の湿地のイラストが掲載された。

解説文によると、レンナは沼地であり、その民人には闇と死は近いものであった。さらにレンナはヨーグモスを見倣おうという多くの国々のうちの1つであるとされたが、それらの国もいずれはファイレクシアに敵対すると予測されていた。いくらレンナの民が闇と死に親和性があるとはいえ、ファイレクシアは「生命」そのものを拷問に満ちた投獄とみなしており、決して相容れるものではないと思われていたようだ。

ファイレクシア侵略戦争以前のレンナと周辺地域
カレンダー付属ドメインズ地図より引用

先述の通り、地図を確認するとレンナの海岸沿いに沼地・湿地帯が存在していることが分かる。ここがカード「塩の湿地」であると考えて間違いない。平地の広がるレンナの中では決して広い地域ではないものの、沼の民と呼ばれていることから察するに、この時代はレンナの中心地は塩の湿地であったのではないだろうか。いや、少なくとも密かにヨーグモスの思想に傾倒した者たちがこの湿地帯に集まっていた、とまでは言えそうだ。



レンナから消えた塩の湿地

さて、本記事では塩の湿地とはどのような地形であるかを確認し、レンナとはどのような国か歴史を振り返って解説してきた。かつては伝説的騎士団で知られた国が数世紀を経て衰え荒廃して、遂には侵略者ヨーグモスの思想に傾倒するまで落ちぶれてしまった。レンナの凋落には目を覆いたくなる。

それから3世紀が経過したカードセット「ドミナリア」現在はAR4560年である。ドミナリア世界地図にはレンナの名は記載されてはおらず、「The Art of Magic: The Gathering – Dominaria」にも記述はない。したがってレンナの現状は不明である。

だが、現代ドミナリア地図を細かく見ると、レンナの国土にある大きな違和感に気付くことになる。下の比較図を確認してほしい。

新旧地図の比較

………

………………

お分かり頂けただろうか?

なんと3世紀前に存在した塩の湿地が無くなっているのである!かつての湿地帯には山がそびえ立っている。これはどうしたことだろうか?(現代ドミナリア地図作成上のミスでないとしたら)何らかの理由があるはずだ。

仮説を2つ考えてみた。「魔法説」と「次元被覆説」である。

魔法説

「魔法説」は、何らかの魔法的手段によって塩の湿地帯を山地へと変える大変動が起こった、という仮説である。

地形を変化させるような魔法はMTGの最初期から存在している。例えば、MTG最初のカードの1つである変換(Conversion)ならば平地を山へと変えてしまうのだ。

変換(Conversion)

変換(Conversion)
データベースGathererより引用

世界地図上で確認できるほどの面積を変化させるには、かなりの大魔法が使われたに違いない。並の魔導士の手には負えるはずもなく、強力なプレインズウォーカーや神のような存在が関わっていたと思われる。

では、なぜそんな強力な存在が地形を変化させたのだろうか?答えはファイレクシア侵略戦争期のレンナに見つけられた。

ファイレクシア戦争ではヨーグモスに傾倒した者たちがレンナの塩の湿地に存在していた。彼らもいつかはファイレクシアに敵対すると予想されていたが、そうはならなかったとしたら…?レンナの塩の湿地はドミナリア陣営にとって敵の拠点となってしまう。だから、敵対勢力を一網打尽にするため地形ごと山へと変えてしまったのだ。地形の大隆起に巻き込まれた者は死滅するし、ファイレクシアの黒マナ源となる沼地を潰す利点も見いだせる。

一応もっともらしい理由付けはできた。問題は誰がやった(やれた)のか?インベイジョン・ブロックの物語に関与した登場人物から候補者を洗い出してみる。

テフェリー、バリン、ムルタニの3人は地形を変化させる魔法を扱えるだけの十分に強力な存在で、インベイジョン・ブロックの物語中でそれぞれ大魔法を扱っている(テフェリーは世界の一部を時空の狭間に退避させ、バリンはトレイリア島を抹消し、ムルタニはヤヴィマヤの森をアーボーグに転移させた)。だが、そういった大魔法は何度も使えるものだろうか。むしろ逆に、真っ先に候補から外される者たちだ。

モリモはムルタニと同格の森の化身だが、ラノワールの森から動いていないので除外される。

上古族ドラゴンは太古にドミナリアを支配した神のごとき5体のドラゴンであり、ファイレクシア侵略戦争中に復活している。上古族ならば山を造るくらいはできそうだ。しかし、小説Planeshiftを読むと、彼らは同胞を1体ずつ復活させるためにドミナリア中を最短距離で移動し、5体復活が完了したアーボーグで壊滅している。レンナに寄り道する余裕はない。

ナイン・タイタンズウルザの招集した9人のプレインズウォーカー集団である。9人とも十分に強力な存在で、ファイレクシア次元に侵攻するする前にドミナリアの各地で戦闘している記述が認められる。したがって9人全員にレンナを訪問する機会があったことになる。ただし、テヴェシュ・ザット(Tevesh Szat)は裏切り者で当初から他のメンバーを殺害するつもりであり、その時まで力を温存しているはずなので除外する。山を造る魔法は、本質的に工匠のウルザ的ではないのでウルザも除外。ガフ提督は大魔法を使ってまで積極的に介入しそうにないため除外(ただしおよそ正気ではなく予測不能なガフなら案外やっていそうな雰囲気もなくはないが)。

したがって、ナイン・タイタンズの残るテイジーア6、ダリア、フレイアリーズ、クリスティナ、ウィンドグレイス卿、ボウ・リヴァーの6人が候補者となる。その内の誰か1人には絞れそうもないが「魔法説」が正しいとするなら彼らの他にいないだろう。

次元被覆説

次元の被覆(Planar Overlay)

次元の被覆(Planar Overlay)
データベースGathererより引用

この「次元被覆説」はファイレクシア侵略戦争での「ラースの次元被覆(Rathi Overlay)」が原因であるという仮説である。

ファイレクシアの侵略計画第二段階「ラースの次元被覆」は、人工次元ラース(Rath)を次元ごとドミナリアの表面に転移させるというものであった。ファイレクシアの前哨基地そのものが突然ドミナリアに出現するようなものだ。

この次元被覆により、ラースの中心基地である「要塞」はアーボーグへの転移に成功している。その他のラースの地形はドミナリア各地に出現しているが、無事に転移できずに破壊されたり、上手く転移できずに次元の狭間に喪失したものも少なくはない。

ではレンナの場合は何が起こったのだろうか?私の考えでは、ラースにあった山がレンナの塩の湿地帯に転移して地形を置き換えてしまった、というものである。もしそうであったなら、レンナのこの山々はラースを構成する「流動石(Flowstone)」と呼ばれるナノマシンの巨大な塊ということになる。ラースの次元の断片はドミナリア各地に散らばっているとはいえ、ここまでの巨大な塊は類をみないだろう。この山がファイレクシア技術の金鉱脈となるか、あるいは、次なる災厄の元となるのか…。

多勢の兜(Helm of the Host)

現代でも流用されている流動石技術の例
多勢の兜(Helm of the Host)
データベースGathererより引用

レンナの山の正体が何のか、ウィザーズ公式はどういった回答を用意してくれるのだろうか?次回のドミナリア再訪を楽しみに待ちたいものだ。

さて、想像の翼をはためかせるのにもここらが限界のようだ。今回はここまで。

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  1. 原文「plainsland」。出典は小説Shattered Chains
  2. 原文は「the folks of the marsh」。出典はインベイジョン・ブロック期の特設サイト
  3. 原文「a terrible mage claimed the throne of Wrenna」
  4. 原文は「legendary Knights of Jenges」
  5. 後のカードセット「コールドスナップ」で同名のストロームガルドの災い魔、ハーコン(Haakon, Stromgald Scourge)が収録されているが別人である
  6. 基本セット第5版のフレイバー・テキストで「テイジーア」、過去の雑誌記事では「テイザー」と表記されていた。公式の発音ガイドは「TAY-seer」なので、本サイトでは正確な表記を採用する