カード紹介:スケイズ・ゾンビの名前について

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スケイズ・ゾンビ(Scathe Zombies)はカードセット「リミテッドエディション」(基本セット第1版)に収録されたクリーチャー・カードで、MTG史上初のゾンビでもある。

先日、こちらのスケイズ・ゾンビの記事を興味深く拝見した。

《スケイズ・ゾンビ》【MTGゾンビ雑談 その1】  - ゾンビの黙示録
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刺激を受けたので、こちらも何かスケイズ・ゾンビに語りたくなった。そもそもスケイズ・ゾンビの「スケイズ」とは一体何を意味する言葉なのか?「スケイズ(Scathe)」は「害する」という意味の英単語であるが、実はドミナリア次元の地名であるという説もあるのだ。今回はこれについて考えたいと思う。

スケイズ・ゾンビの解説

スケイズ・ゾンビ(Scathe Zombies)

データベースGathererより引用

スケイズ・ゾンビ(Scathe Zombies)はカードセット「リミテッドエディション」(基本セット第1版)に収録されたMTG史上初のゾンビであり、基本セット第10版まで再録されていたMTG初期の定番カードであった。

カードのスペックを見ると、3マナでパワー/タフネスが2/2のバニラ・クリーチャー1であり、最初期でもカードパワーは低く、特筆すべき点は無い。

ストーリー作品では、スケイズ・ゾンビはドミナリア次元のドメインズ地方で存在が確認されている。

そして、このカードにおいて一番気になるポイントは日本語版のカード名「スケイズ」である。次節では「スケイズ」の意味を重点的に語っていきたい。



「スケイズ」って何?

スケイズ・ゾンビ(Scathe Zombies)

別イラスト版のスケイズ・ゾンビ(Scathe Zombies)
データベースGathererより引用

スケイズ・ゾンビ(Scathe Zombies)の「スケイズ」とはいったいどういう意味だろう……何らかの固有名詞なのだろうか?

「スケイズ」の辞書的な意味

辞書を調べると、「スケイズ」と訳された「Scathe」は「害する・傷つける・ダメにする」といった意味だと分かった。しかし、カード名では何故かカタカナで音写した「スケイズ」になっていて、ちょっと不思議である。例えば「害悪のゾンビ」みたいな和訳だってできたはずだ。

これを疑問に思った日本のファンは少なからず居て、日本のMTG wikiなんかでは「まだ翻訳の方針が確立していなかった頃に訳されたためか」なんて推測が記載されていたりもする。

最初のMTG和訳スタッフは「Scathe」をなぜ「スケイズ」にしたのだろうか?私は当時の翻訳裏事情なんて知らないので、以下はあくまで想像の話である。

「スケイズ」と訳した理由は?

もしかすると、翻訳スタッフが「害する」という意味を知らなかった、あるいは、うまく日本語化でいなくてカタカナ音写にした…そういう可能性はあるかもしれない(「Scathe」はあまり普通の英和辞書では見かけない単語ではある)。

だが、それでは面白く無いので、私は古参ヴォーソスらしい切り口で別の可能性を考えてみた。つまり、スケイズ・ゾンビの「Scathe」の意味は「害する」ではなかったのでは?という可能性だ。

というのも、私には思い当たる「小説」があったのだ。

小説ささやきの森

スケイズ・ゾンビが登場したストーリー作品には小説2作品がある。ドミナリア次元ドメインズ地方を舞台にした小説シリーズだ。

まず1つ目の登場作品は小説ささやきの森である。

この小説から一部抜粋して紹介しよう。

“Gods of Urza!” squeaked Lily. “Zombies of Scathe!
The woodcutter had no time to wonder where a dancing girl had learned of zombies and whence they came, if Scathe was a place.
「ウルザの神々よ!」リリィが金切り声で言った。
スケイズのゾンビだわ!
ただの踊り子が、どこでゾンビと–スケイズというのが地名だとして–その出どころのことを知ったのか、悩んでいる暇はなかった。
引用:小説ささやきの森
上が英語原文。下が邦訳版(改行の仕方が英語原作と違うのは原文ママ)

これが作中でゾンビが名称を呼ばれるシーンだ。注目してほしいのは、作中での表記は「Zombies of Scathe」であり、カード名の「Scathe Zombies」とは違っていることだ。

さらに、主人公の1人の木こりのガル(Gull the Woodcutter)が「スケイズのゾンビ」と聞いて、スケイズを地名だとみなしていることも確かめられる。

小説Shattered Chains

小説ささやきの森は三部作小説の1作目で、その続編が小説Shattered Chains2だ。この2作目にもスケイズ・ゾンビは登場している。

a line of zombies. Of Scathe, Gull remembered. He’d seen them before, in the burned forest.
ゾンビの群れだ。スケイズの…、ガルは覚えていた。奴らを見たことがあった。あの森の焼け跡でだ。
引用:小説Shattered Chains
上が英語原文。下が私家訳

再びガルはゾンビと遭遇していて「スケイズの(Of Scathe)」という名称を思い浮かべていた。やはりこちらでもカード名の「Scathe Zombies」とは表記が異なっていた。

メモ:
ちなみにガルがゾンビと最初に遭遇した「森の焼け跡」とは、ドミナリアのドメインズ地方ささやきの森にできた隕石のクレーターである。天から降って来た魔力の櫃(Mana Vault)によって森の一角にクレーターができ、その一帯を焼いたのだ。
この場所については以前に記事化しているので、位置の確認などはそちらを参照してほしい。
カード紹介:隕石のクレーター
マジック・ザ・ギャザリング(MTG)の土地カード「隕石のクレーター(Meteor Crater)」を紹介。プレーンシフトに初収録。ドミナリア次元各地の隕石のクレーターを解説する。

「スケイズ」地名説

スケイズ・ゾンビの登場ストーリー作品を2つ確認した。実はMTG史上初の小説三部作において「スケイズ=地名」として扱われていたのだ。少なくとも主人公ガルの認識としてはスケイズはゾンビの発祥地名だろうとみなしていた。

最初の和訳スタッフはもしかすると、この小説の記述を踏まえて「スケイズ」が地名である可能性を残しつつ訳したのかもしれない。

スケイズ・ゾンビがそう翻訳されたのはカードセット「基本セット第4版」の日本語版の時である(1996年4月発売)。そして、その1年前の1995年1月に小説ささやきの森(原題:Whispering Woods)が発表されていた(邦訳版は1996年7月)。

小説の発売は最初の和訳製品の発売の1年前になるので時期的には無理はない。一応の筋は通っている。

「スケイズ」は地名なのか?

スケイズは本当にドミナリアの地名なのだろうか?小説の登場人物の認識が必ずしも正しいとは限らない。

小説三部作の主役の1人であるガルは、片田舎の木こりの生まれで後に勇猛果敢な将軍にまでなるが、アンデッドの専門家でも博識な魔術師でもなく、頭より体を使うタイプだ。またガルに「Zombies of Scathe」の名称を教えた人物リリィ(Lily)も貧しい境遇の踊り子で、こちらも専門知識を学ぶ機会はなかった。

情報源はガルの推測とリリィの言葉だけで、それらはどれほど信じられるものだろうか…。

スケイズは果たして地名か否か?この20数年来のヴォーソスの長年の疑問に対してクリエイティブ部門からの回答が与えられた。

2018年のカードセット「ドミナリア」期の公式Podcastの質問コーナーで、イーサン・フライシャー(Ethan Fleischer)はスケイズは地名ではないと考えられる、と表明していたのだ。だから、フライシャーのドミナリア世界地図にはスケイズという沼地は作られていないというのだ。

The Magic Story Podcast5 Otaria and The Cabal(スケイズに関しては30分25秒辺りから)

したがって、小説由来の「スケイズ」地名説は無知な登場人物の思い込みであった、と考えるのが正しそうである。

その意味では「スケイズ・ゾンビ」というカード名は余りよろしくない和名であったことになる。だがまあ、20数年前のカードセット「基本セット第4版」翻訳時点では地名ともそうでないとも言えなかったわけなので、こればかりは仕方ない。もしも和訳が小説での解釈に引きずられた結果だったなら、当時としてはむしろ慎重な判断だったと思う。

さて、「スケイズ」という言葉にまつわる諸々は以上、こんなところである。



スケイズ・ゾンビのフレイバー・テキスト

スケイズ・ゾンビ(Scathe Zombies)

別イラスト版のスケイズ・ゾンビ(Scathe Zombies)
データベースGathererより引用

では最後にスケイズ・ゾンビのフレイバー・テキストを紹介しておしまいにしよう。2種類ある。

“They groaned, they stirred, they all uprose,
Nor spake, nor moved their eyes;
It had been strange, even in a dream,
To have seen those dead men rise.”
–Samuel Coleridge, “The Rime of the Ancient Mariner”
うなり、うごめき、そいつらは立ち上がる。
言葉もなし、その目に動きもなし。
それは夢だとしても、あまりに奇妙なこと。
こんな死人が蘇るなど。
–サミュエル・コールリッジ「老水夫行」
引用:スケイズ・ゾンビ(Scathe Zombies)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

まず最初は初出時からお馴染みのフレイバー・テキストだ。これはイギリスの詩人サミュエル・コールリッジの「老水夫行」からの引用である。雰囲気はあるがMTGの世界とは特に関係は無い。

Luckily for them, it doesn’t take much brains to slaughter and maim.
奴らにとって幸いなことに、虐殺や虐待にはあまり脳みそがいらんことだ。
引用:スケイズ・ゾンビ(Scathe Zombies)のフレイバー・テキスト(スターター1999バージョン)
上が英語原文。下が私家訳

2種類目のフレイバー・テキストは、スターター1999再録版のものだ。こちらは引用ではなく、ゾンビが殺したり痛めつけたりすることに脳みそは要らないとの旨をやや皮肉めかして語っている。個人的にはこのフレイバー・テキストはアッサリしていて物足りない。初めて引用でないテキストをもらえたのだから、もっとMTG世界固有の名詞とか差し込んで欲しかったところだ。

スケイズ・ゾンビについて語れることが尽きた。では、今回はここまで。

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  1. 何も特別な能力を持たないクリーチャー
  2. 初期小説の翻訳展開は2冊で終了しており、ささやきの森から始まる小説三部作の2、3作目は和訳されなかった