今回はドミナリア次元のテリシア地方の様々な地図を紹介する。
諸々のテリシアの地図は3年前からウィザーズ公式サイト内で閲覧が可能となっているが、その記事は一般ユーザーにはあまり認知されていないようだ。
本記事では地図を再掲している公式記事を紹介すると共に、諸々のテリシア地図の初出や簡単な解説をしたい。過去のドミナリア地図を取り巻く状況なども少し触れている。
はじめに
先日何日間かにわたり、私はツイッターでドミナリア暗黒時代のテリシア大陸西部の地理について連続ツイートしていた(リンク)。これに対する反応を色々と頂いた。
私がその中でも驚いてしまったのが、どうやらテリシアの公式地図をこれまで見たことがないストーリーファンは結構多そうだということだった。
確かに、本来はこういった地図は20数年前の大昔に雑誌やカレンダーに1回だけ掲載されたものばかりだ。非常にレアな存在ではあったのだ。
事情が変わったのは2018年の公式記事Dominarian Cartographyである。イーサン・フライシャー(Ethan Fleischer)がドミナリアの世界地図作成を論じた記事だが、この中で諸々の地図が再掲載されている。この記事のおかげでテリシア地図は今では誰でも閲覧可能な状態になったのだ。
公式サイトの背景世界記事(しかも定番の次元解説でなく地図の作成記事)となると、一般ユーザーには縁遠いものであるのだろう。しかも、日本ウィザーズ公式では和訳をスルーされている。日本のファンの認知度が低いのも仕方なかったのだ。
以上、認知度の低さに関する前置きはここまで。この後は、各種テリシア地図について初出がどこでいつなのか、当時を取り巻く状況などの解説を加えつつ紹介しよう。
テリシア地図の紹介
最初のテリシア地図
これは1994年発行の公式雑誌Duelist Suppliment誌に掲載された地図である。
アンティキティー戦争期のテリシアを描いたもので、MTG史上初のドミナリア次元テリシア大陸の地図でもある。
コミックUrza-Mishra War vol.1巻末には、カードセット「アンティキティー」の開発チームのスカッフ・エイリアス(Skaff Elias)のインタビュー記事が掲載されている。エイリアスによると、アンティキティーの制作では舞台となる大陸地図を描き、戦争の時系列やエピソードを考えて作り上げたという。小型のカードセットであったので通しのストーリーを組み込むことが可能だったが、翌年のカードセット「アイスエイジ」は大型のカードセットなので同じような通しのストーリーは無理だと判断されたようだ。
したがって、雑誌掲載されたこの地図はスカッフ・エイリアスら開発チームによる地図を基にデザインされたものと考えられる。
大作りな地図ではあるが、カードセット「アンティキティー」のカードやストーリー作品に登場する地名がしっかりと収められている。記載された地名はアルガイヴ(Argive)、トカシアの学び舎(Tocacia’s School)、コーリス(Korliss1)、ヨーティア(Yotia)、クルーグ(Kroog)、サルディア山脈(Sardian Mountains)、カー分水嶺(Kher Ridges)、アルゴス(Argoth)、シタヌール(Citanul)、トマクル(Tomakul)、ゼゴン(Zegon)、ラト=ナム(Lat-Nam)、ロノム氷河(Ronom Glacier)、サリンス(Sarinth)である。
それらに加えて、テリシア(Terisiare)という大陸名や、象牙の塔で有名なテリシア市(Terisia City)が確認できるが、それらはこの地図が初出のようだ。
氷河期の地図
2つめのテリシア地図は1995年発行の公式雑誌Duelist誌5号で公開された。この号はカードセット「アイスエイジ」特集号になっており、その舞台である氷河期のテリシア地図が掲載されたのだ。
アンティキティー戦争期から数百年が経過し、大陸の様相は大きく変化している。北からの大氷河が大きく迫り出して陸地を覆い、海面が下降して島が大陸と地続きになっている。
最初のテリシア地図を下敷きにしているが、変化が広範囲かつ大規模であることに加え、地図の解像度が上がったことで単純に2つの地図を重ね合わせて比較することは難しい。過去には都市であったいくつかの場所に廃墟(Ruins)と記されており、大陸東部を除くと文明が衰退し滅んでしまった状況が見て取れる。また、地名は昔の名称は残っておらず、カードセット「アイスエイジ」に登場するものに差し代わっている。
大陸の東部はキイェルドー(Kjeldor)という国家があり、都市キイェルド(Kjeld)、クロヴ(Krov)、ソルデヴ(Soldev)2の3つが確認できる。その南は森林地帯のフィンドホーン(Fyndhorn)と中心地のケルシンコ(Kelsinko)がある。かつてのヨーティアにはアダーカー荒原(Adarkar Wastes)とヤヴィマヤ(Yavimaya)がある。北に目を向けると、サルディア山脈はカープルーザン山脈(Karplusan Mountains)に名を変え、そのさらに北にはバルデュヴィアの大草原(Balduvian Steppe)がある。大陸北部中央にはリム=ドゥールの砦(Lim-Dûl’s Keep)3と霜の湿原(Frost Marsh)が存在する。東に比べて大陸の西部は不毛の土地であるが、西南端のラト=ナム島であった位置には見えざる者の学び舎(School of the Unseen)が築かれている。
改訂版地図
3つ目のテリシア地図は1999年の「ウルザズ・サーガ」カレンダーに付属したアンティキティー戦争期の地図だ。
カードセット「ウルザズ・サーガ」と小説The Brothers’ Warは、アンティキティー戦争の物語をより精密に語り直したものだ。この地図もそれに合わせて、過去の地図よりもよりリアルに細かくもっともらしいデザインになっている。
この地図は当時のコンティニュイティ・マネージャーであるピート・ヴェンタース(Pete Venters)が作り直した地図をベースにしている。公式記事Tea and Biscuits with Pete Ventersでは、ヴェンタースは最初のアンティキティー戦争期の地図を「つぶれたジャガイモ」と評しており、そのままでは通用しないと判断したようだ。
改訂版となったアンティキティー戦争期の地図は、小説The Brothers’ Warに完全対応になっていて、作中で言及される地名はほぼ網羅されている。
この緻密なテリシア地図が公開された後、20年近くテリシアの地図が封印された暗黒期になってしまう。次節ではその期間について説明する。
失われたデータと封印されたドミナリア球
1999年のカレンダー地図を最後に、テリシア地方の地図は公開されなくなってしまう。テリシアはストーリーの舞台としては何度も登場していたというのに、まともなテリシア地図が登場するのはおよそ20年後の2018年まで待たなければならなかった。
公開できる地図が無かったわけではない。ピート・ヴェンタースがコンティニュイティ部門で働いていた期間には、テリシア以外にもドメインズ地方やジェムーラ西北部の地図が制作されて公開されていたばかりか、ドミナリア球4が作られており、おおよその世界地図までは確定していたのだ。ところが、ヴェンタースが担当を辞した後、なぜかウィザーズ社はドミナリア球を封印してしまうのである。その影響で20年近くドミナリアのかなりの部分が未公開状態となってしまった。
未公開地図はドミナリア球だけではない。公式記事Dominarian Cartographyによれば、実はピート・ヴェンタースが制作した地図は4つのレイヤーから成っていたのだ。前節で紹介したアンティキティー戦争期の地図だけでなく、他の時代のテリシア地図も同時に作られていたのだという。それが「氷河期の地図」、氷河期直後の「洪水時代の地図」、そしてテリシアが群島となった「近代の地図」であった。残念であるが、それらの別時代地図は公開されることは無く、現在ではすでにデータは失われてしまった。
上のイラストは、ピート・ヴェンタースがドミナリア球を基に描いたドミナリア惑星である。左の隅の影になった見にくいところにテリシアの群島が部分的に確認できる。これだけが近代以降のテリシアの姿を知れる手掛かりであった。
地図が封印されたこの時期を思い返すと、熱心なヴォーソスたちは群島となった近代以降のテリシア地方の地形を心の底から欲していたのだ。ストーリーでヤヴィマヤや新アルガイヴが出てくるたびに考察が行われたり、その考察や既存情報(上記地図など)を基に非公式地図を自作したり、とそんな状況が十数年続いた。ドミナリア球上で群島の形は確定されていてそこに答えがあったのに、正解は封印されたままじっとじらされ続けることになったのだ。本当にひどい時期だった。
MTG Tacticsの地図
これはMagic: The Gathering – Tacticsというオンラインゲームに出てきたテリシア地図である。MTG Tacticsは2011年から2014年にサービスが展開されていた。
このテリシア地図はイーサン・フライシャーの公式記事Dominarian Cartographyでは言及されていないものだが、ここで紹介しておく。
かつてイーサン・フライシャーはこの地図に関して、非常に歪んでいるし他のテリシア地図と重ね合わせても何がどこにあるか正確に知ることができない、と酷評した(イーサン・フライシャーのコメント)。
カードセット「ドミナリア」期の公式Podcastではイーサン・フライシャーとケリー・ディグズ(Kelly Digges)は、この地図の中には過去のどんなソースを調査しても正体不明の都市(画面左上)があることに言及した。最終的にラース次元から次元移動してきたコーの安息所の廃墟であったという新設定を拵えることにしたと説明していた。
現在の地図
そして、これが最新のテリシア地図だ。AR4560年現在の姿を描いたものだ。作成者はイーサン・フライシャー。
この地図の作成は公式記事Dominarian Cartographyで詳細に語られている。簡単に言えば、ドミナリア球のテリシア群島を出発点として、既存の過去地図や地理情報が記載されているほとんどありとあらゆるカード・記事・ストーリー作品を掘り起こし、整合性が取られるように配置したものだ。
地名の出典は多岐に渡っている。2018年当時に私が調査した出典元一覧が以下の表だ。
私はヴォーソスの中でもドミナリア地理に関する知識には自信がある方だが、それでもわからない地名が2つ残ってしまった。それで当時、イーサン・フライシャー本人に確認して回答を頂いている(リンク)。1つは出典短編中に地名が出ているのを見逃していたもので、もう1つは私が所持していないビデオゲームにしか登場していない地名であった。
とにかく、この現代テリシア地図はすごい。本当に膨大なデータを下敷きにしているし、それらを整合性の無理なく収めているのは離れ業である。出典元を調べても位置が特定できない地名も少なくないが、そういう地名の中には、登場ストーリーでのその地名の扱われ方や作中での登場人物の行動履歴まで考慮して合理的な場所に配置されているとしか思えない、そんな場所もいくつか含まれている。細部へのこだわりが尋常ではない。私はこのレベルの地図をドミナリアの各地域で作成してほしいと常々願っている。
さあて、紹介できるテリシア地図はこれで弾切れになった。では今回はここまで。