兄弟戦争:スランの遺物

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今回はカードセット「兄弟戦争」から5000年前のスラン時代の遺物を表現したカード群を取り上げる。

スランの遺物の解説

鋼の熾天使(Steel Seraph)

鋼の熾天使(Steel Seraph)
データベースGathererより引用

兄弟戦争期にはスラン時代の遺物が多く発掘され、活用されていた。それらはAR-5000年に滅んだスランの遺した古代のテクノロジーであった。

遺物の外見的特徴を一言で表すなら「洗練された機能美」だ。

色は単調。外装は滑らかで、でこぼことした装飾はほぼない。パーツの分割線がキッチリ嵌って細い線となり、それが簡素な飾りになっている。ボルト止めや溶接の痕跡などは見当たらず、内部の機械構造はほとんど隠されて見えない。

人や動物を模した造りであっても、生物的でなく、抽象化されたシルエットを有している。

スランの遺物の中でも多く見られたタイプは、羽ばたき飛行機械(Ornithopter)と、スー=チー型を始めとする人型自動機械であろう。

こうしたパワーストーンを動力源とする機械や装置の数々は、兄弟戦争当時のテクノロジー・レベルを遥かに凌駕していた。



スランの遺物の起源と歴史

トカシアの採掘場(Tocasia's Dig Site)

トカシアの採掘場(Tocasia’s Dig Site)
データベースGathererより引用

スラン帝国はパワーストーンを動力とした進んだテクノロジーを有した古代文明で、AR-5000年頃の戦争で短期間のうちに滅亡した。大量破壊兵器ストーンチャージャー1などの使用によりスラン人はほとんど遺体も残さず歴史から消え去った。

兄弟戦争期2の考古学者や工匠は、5000年前に滅んだスラン帝国の遺物を発掘して研究していた。パワーストーンと古代テクノロジーを解析し活用することで、人々は恩恵を享受し、工業を発展させた。

スランの夜警(Thran Vigil)

スランの夜警(Thran Vigil)
データベースGathererより引用

驚くべきことにスランの機械装置の中には、5000年の時を経ても活動し続けるものすら存在していた。コイロスの洞窟では、誰にも発見されずに稼働可能な自動機械が警備を続けていた。そして他にも、生きた遺物が地下に埋もれ忘れられたまま、見つけ出される時を待っていたのだ。

スランの紋章

囁きの大霊堂(Vault of Whispers)

コイロスの入り口に掘られたスランの紋章
囁きの大霊堂(Vault of Whispers)
データベースGathererより引用

遺物には、スランを象徴する意匠が凝らされていることがある。

スランの紋章を確認するミシュラ
コミック版アンティキティー戦争 vol.2より引用

この漢字の「中」に似たデザインはアルマダ・コミック時点で既に描写されていたものだ。

スランの紋章
スランの戦争機械より引用

ウルザ・ブロック期の複数のカードでもスランの紋章は発見できる。

カードセット「兄弟戦争」でも継承されており、統率者デッキの囁きの大霊堂(Vault of Whispers)の新イラスト(上記参照)や、鋼の熾天使(Steel Seraph)のイラストに確かに取り込まれている。

次節ではスランの遺物カードを実際に見ていこう。

スランの遺物を表したカード群

カードセット「兄弟戦争」の範囲内で、スラン帝国の遺物を表現したカードをピックアップした。アーティファクト・クリーチャー8種類と、装備品1種類の合計9種類のカードだ。

最初の4種類のカードは、小説The Brothers’ Warにおいて登場したスラン時代の遺物である。この4種類は概ね小説登場順に紹介する。

トカシアのオニュレット

トカシアのオニュレット(Tocasia's Onulet)

トカシアのオニュレット(Tocasia’s Onulet)
データベースGathererより引用

トカシアのオニュレット(Tocasia’s Onulet)カードセット「兄弟戦争」収録のアーティファクト・クリーチャー・カードである。

アルガイヴ人の考古学者トカシアがスランの遺物を基に設計した発明である。トカシアの発掘キャンプでは疲れることのない荷役獣として、運搬作業に活用されていた。

更にカードのメカニズムとして「蘇生」を持っている。「蘇生」の原語は「Unearth」なので、「掘り出す」が本来の意味である。この和訳の意味のズレのせいでイメージがしにくくなっているが、実は「発掘遺物の活用」という背景を見事に言い表した能力を持たされているのだ。

トカシアのオニュレットは、スランの遺物を復元あるいは一部に手を加えて再設計し活用した、当時の見本のような存在なのだ。

修復された飛行機械

From above, the brothers noticed strange glyphs etched into the desert sand.
兄弟たちは上空から、奇妙な象形秘文が砂漠の砂の上に刻みつけられているのに気づいた。
引用:修復された飛行機械(Reconstructed Thopter)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

修復された飛行機械(Reconstructed Thopter)

修復された飛行機械(Reconstructed Thopter)
データベースGathererより引用

修復された飛行機械(Reconstructed Thopter)カードセット「兄弟戦争」収録のアーティファクト・クリーチャー・カードである。

羽ばたき飛行機械(Ornithopter)もまた兄弟戦争期を象徴する機械だ。最初はスランの遺物として発見され、ウルザとミシュラの兄弟が飛行可能な状態に復元した。更に、当時の技術での再現にも成功したのである(ただし、最も重要なパワーストーン自体は生産できなかった)。

兄弟戦争期には、スランの遺物ではない新たな飛行機械が(主に東岸諸国で)大量に生産され、様々なバリエーションを生み出すこととなった。

洞窟の番人、スー=チー

洞窟の番人、スー=チー(Su-Chi Cave Guard)

洞窟の番人、スー=チー(Su-Chi Cave Guard)
データベースGathererより引用

洞窟の番人、スー=チー(Su-Chi Cave Guard)カードセット「兄弟戦争」収録のアーティファクト・クリーチャー・カードである。

スラン帝国時代のスー=チー型自動機械を表現したカードの1種だ。このタイプに関しては個別の記事を用意してあるのでそちらを参照のこと。

兄弟戦争:スー=チー型自動機械
マジック・ザ・ギャザリング(MTG)のアーティファクト・クリーチャー「スー=チー(Su-Chi)」を紹介。アンティキティーで初登場し、兄弟戦争で新バージョンが登場した。コミックや小説でどのように描かれていたのかを解説しよう。

スランの蜘蛛

スランの蜘蛛(Thran Spider)

スランの蜘蛛(Thran Spider)
データベースGathererより引用

スランの蜘蛛(Thran Spider)カードセット「兄弟戦争」収録のアーティファクト・クリーチャー・カードである。

スラン帝国時代の蜘蛛型自動機械である。このタイプは個別の記事を用意してあるのでそちらを参照のこと。

兄弟戦争:スランの蜘蛛
マジック・ザ・ギャザリング(MTG)のアーティファクト・クリーチャー「スランの蜘蛛(Thran Spider)」を紹介。兄弟戦争に収録。コミックや小説でどのように描かれていたのかを解説しよう。
以上ここまでは小説The Brothers’ Warにおいて実際に登場したスランの遺物である。



鋼の熾天使

鋼の熾天使(Steel Seraph)

鋼の熾天使(Steel Seraph)
データベースGathererより引用

鋼の熾天使(Steel Seraph)カードセット「兄弟戦争」収録のアーティファクト・クリーチャー・カードである。

スラン帝国時代の天使型自動機械だ。当時を描いた小説The Thranには、このタイプの機械は出て来ないものの、スラン人は正義や美の象徴としての天使を知っており、都市に巨大な天使の彫像が飾られている描写もあった。

スランの紋章
鋼の熾天使(一部拡大図)

鋼の熾天使の頭上にはスランの紋章が浮かんでいる。

カードのメカニズムでは、「試作」が持たされている。5000年前の機械技術を完全に近い形で再活用するには、その前段階として思考錯誤の過程があった、ということだろう。他の「試作」を持つスランの遺物カードにもこの解釈は適用できる。

高波エンジン

高波エンジン(Surge Engine)

高波エンジン(Surge Engine)
データベースGathererより引用

高波エンジン(Surge Engine)カードセット「兄弟戦争」収録のアーティファクト・クリーチャー・カードである。

見るからにスランの技術で作られた自動機械だ。人型をしているが頭部などどことなく蛙に似た雰囲気を漂わせている。

スランの紋章?
高波エンジン(一部拡大図)

円形のパーツの一部が見える。鋼の熾天使(Steel Seraph)のものに幾分似ているので、見えない背面にはスランの紋章があるのかもしれない。

高波エンジン(Surge Engine)

高波エンジン(Surge Engine)
特別版公式カードギャラリーより引用

こちらは特別イラスト版の高波エンジンだ。人型により近いプロポーションに作られている。

鉄管の破壊者

鉄管の破壊者(Iron-Craw Crusher)

鉄管の破壊者(Iron-Craw Crusher)
データベースGathererより引用

鉄管の破壊者(Iron-Craw Crusher)カードセット「兄弟戦争」収録のアーティファクト・クリーチャー・カードである。

和訳製品版のカード名で「管」と訳されている「Craw」は、「動物の胃袋」を意味する言葉である。クリーチャー・タイプが「ワーム」であることを踏まえて考えると、このカードは大喰らいのワーム(Craw Wurm)を意識した設計だと推測できる。

大喰らいのワーム(Craw Wurm)

大喰らいのワーム(Craw Wurm)
データベースGathererより引用

大喰らいのワームとその同類はドミナリアの各地方に広く見られる、この次元に典型的なワームである。兄弟戦争期のテリシア大陸では中央北のサリンス周辺の森林地帯で存在が確認されている。

おそらく5000年前のスラン帝国時代にも大喰いのワームはテリシアに生息していて、それをモチーフにこういった機械のワームが製造されていたのだ。「Iron-Craw Crusher」というカード名は「鉄製の大喰いのワーム型の破壊機械」といった命名であったろう。

スランの魔力鎧

スランの魔力鎧(Thran Power Suit)

スランの魔力鎧(Thran Power Suit)
データベースGathererより引用

スランの魔力鎧(Thran Power Suit)カードセット「兄弟戦争」収録のアーティファクト装備品カードである。

スラン帝国時代の人間用の全身鎧系装備だ。頭部形状はスー=チー型自動機械にも似て前に張り出している。

カード名で「魔力鎧」と訳されてしまっているが、「Power Suit」はスラン機械文明の基盤を支える「パワーストーン」を用いた「パワード・スーツ」の類に違いあるまい。現実世界の目から見れば、スランの機械は十分に「魔法的」であるけれど、あくまでも「機械」技術なのだ。「魔力」という言葉選びは相応しくない。

小説The Brothers’ Warによれば、スラン人が人間である証拠は見つかっていないとされていた。少なくともAR20年までの、ウルザとミシュラを含むトカシアのキャンプにおいてはスラン人の種族は不明であったのだ。したがって、この鎧装備は兄弟の知らぬ発掘遺物であったか、あるいはAR20年よりも後の時代に発見されたもの、と考えなければ辻褄が合わない。

猿人の似姿

猿人の似姿(Simian Simulacrum)

猿人の似姿(Simian Simulacrum)
データベースGathererより引用

猿人の似姿(Simian Simulacrum)カードセット「兄弟戦争」収録のアーティファクト・クリーチャー・カードである。

カードのイラストで外装の隙間から、植物の根のようなものが何本も絡みつきこぼれ出ていることから、アルゴスの魔法にコントロールを乗っ取られたスランの自動機械だと考えられる。

しかし不可解だ。このカードは「猿人の似姿」という名称で、クリーチャー・タイプも「類人猿」なのだが、何度イラストを確認しても猿の要素が全く見えてこないのだが……。



さいごに

山(Mountain)

スランの遺物が描かれている
山(Mountain)
データベースGathererより引用

以上にて、スランの遺物をカード化した9種類を解説し終わった。

その他にも、カードセット「兄弟戦争」にはスランの遺物は、巨大建造物の遺跡や何らかのパーツといった形で、様々なカードに顔を覗かせている。それら全部を拾い上げるのは無理なので、ハッキリそれと分かる(主にクリーチャーの)カードに絞ってまとめてみた。

では、今回はここまで。

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  1. 原文「Stone-charger」つまり「パワーストーン充填爆弾」のこと。こちらの記事も参照。
  2. カードセット「兄弟戦争」は、アンティキティー戦争期から暗黒時代の初め頃を時代設定としている。概ねAR1世紀の100年間。