カード紹介:白の魔力貯蔵器

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白の魔力貯蔵器(White Mana Battery)カードセット「レジェンド」収録のアーティファクト・カードである。

前回までに黒の魔力貯蔵器赤の魔力貯蔵器青の魔力貯蔵器と解説したので、今回も続けて白のバージョン取り上げることにした。

白の魔力貯蔵器は他のバージョンと違って巨大であると設定されている。そこを起点として、ドミナリア次元の月が白の魔力貯蔵器である可能性を探ってみた。

白の魔力貯蔵器の解説

白の魔力貯蔵器(White Mana Battery)


データベースGathererより引用

白の魔力貯蔵器(White Mana Battery)は任意の2マナを蓄積カウンター1個として蓄えておき、後で白マナ1点として引き出せるアーティファクト・カードである。白マナを引き出す際には、好きな数の蓄積カウンターを取り除いて、その数プラス1点分の白マナが手に入る(カウンターを消費しなくても最低白マナ1点は出せる)。



白の魔力貯蔵器のストーリー

白の魔力貯蔵器は(私が調査した限りでは)ストーリー作品に登場していない。少なくとも「White Mana Battery」という名称で登場した作品は1つも見つからなかった。

しかし、「白の魔力貯蔵器(White Mana Battery)」と直接的に書かれていないだけで、ストーリー上で超重要な人工物として登場していた事実を発見した。

実はドミナリアの月は「白の魔力貯蔵器」であり、ファイレクシアの暗黒神ヨーグモスを滅ぼしたのも「白の魔力貯蔵器」であったのだ。

なぜこの結論に至ったのか調査をした経緯順に語ってみたい。

白の魔力貯蔵器の大きさ

各種ストーリー作品を手当たり次第に調査を始めたものの、白の魔力貯蔵器の登場する作品はなかった。だが、その代わりにいくぶん設定に関係する記述は発見できた。1997年の日めくりカレンダーの以下の記述だ。

While the other battery artifacts can generally be wielded by hand or moved from place to place, many of the white mana batteries are natural in origin and are more akin to landmarks than magical items.
他の貯蔵器アーティファクトは一般的に手で操作したり、運搬が可能であるが、白の魔力貯蔵器の大部分は自然由来のものであり、魔法の物品というよりもランドマークに近いものである。
引用:1997年日めくりカレンダー
上が英語原文。下が私家訳

この記述だが、白の魔力貯蔵器のイラストが他の4色のバージョンと違って「岩山に埋まった巨大装置」であることに理由づけをした内容に思える。白の魔力貯蔵器は大抵こういったランドマークの形態を取るとのことだ。1

つまり「白の魔力貯蔵器は巨大」なのだ。

白以外の魔力貯蔵器はというと、カードのイラストだけでなくストーリー作品でも持ち運び可能なものとして描写されていることが確認できる。

黒の魔力貯蔵器
コミック版エルダー・ドラゴンvol.2より引用

赤の魔力貯蔵器
コミックShadow Mage vol.1より引用

上のコミックの抜粋を見ると一目瞭然である。黒の魔力貯蔵器(Black Mana Battery)はエルダー・ドラゴンに比べてあまりに小さい。赤の魔力貯蔵器(Red Mana Battery)も人が手に持てるサイズだ。

青の魔力貯蔵器(Blue Mana Battery)小説Hazezonで屋敷内を持ち運ばれている場面が出て来る。

白の魔力貯蔵器(White Mana Battery)


データベースGathererより引用

御覧のように、白の魔力貯蔵器は他のバージョンに比べて巨大な設備なのだ。

「白の魔力貯蔵器は巨大だ」
日めくりカレンダーの記述は無いよりもましという程度の内容ではあるのだが、私はヴォーソスとして、記述を残してくれた当時の担当者に感謝したい。

おかげでストーリー作品に登場した「巨大な白の魔力貯蔵器」に気付くヒントになったのだ。

ドミナリアの虚月

夜のとばり(Blanket of Night)

ドミナリアの2つの月が描かれたイラスト
夜のとばり(Blanket of Night)
データベースGathererより引用

白の魔力貯蔵器は巨大な建造物だ。この設定から、ドミナリアの虚月そのものが白の魔力貯蔵器はでないか?私はそう考えた。なぜなら虚月も「白マナを蓄えた巨大な人工物」だったのである。では虚月とはどういったものかから説明していこう。

ドミナリアには月が2つあるが、そのうちの1つ虚月(Null Moon)は人工衛星である。虚月はスラン帝国末期(AR-5000年頃)にスラン人によって打ち上げられたものだ。

ヨーグモス(Yawgmoth)
InQuest Magazineより引用

この虚月は、カードセット「アポカリプス」と小説Apocalypseのストーリーでファイレクシアの暗黒神ヨーグモス(Yawgmoth)を消滅させて倒す究極兵器のエネルギー源となった。小説Apocalypseから一部抜粋して紹介する。

“White mana,” Gerrard murmured without willing it. “White mana could wash Yawgmoth away, could slay him.”
Tahngarth growled. “The Phyrexians have already harvested Benalia. Zhalfir is gone. They targeted white mana sites first. We could never marshal enough to make a difference.”
“But there is another ally here,” Karn interjected. When Gerrard turned toward him, the silver golem jabbed a finger skyward. “The Null Moon. It is full of white mana.
“What?” Gerrard asked.
In ancient days, the Thran took over the spherical transmission base meant to control artifact engines. They slew the crew of the orb, planted levitation charges, and sent the Null Moon into the heavens. There it has remained to this day, gathering white mana from Dominaria, weakening the world against this coming invasion. But we can strengthen the world again. We can harvest the mana of the moon.
「白マナ」ジェラードは思わずつぶやいた。「白マナはヨーグモスを浄化して、殺すことさえできるかもしれない。」
ターンガースはうなった。「ファイレクシア軍はすでにベナリアを降した。ザルファーは消えた。奴らが最初に狙ったのは白マナの地域だったんだ。俺達が満足に動かせるものなんて残ってやしないぞ。」
「しかし、ここにまだ味方がいます。」カーンが口を挟んだ。ジェラードが彼の方を向くと、銀のゴーレムは天を指さした。「虚月ですよ。白マナで満たされています。
「何だって?」ジェラードは聞き返した。
古代、スラン人はアーティファクト・エンジン制御用の球状伝送基地を打ち上げました。球体の乗務員は殺害されて、浮揚装置をチャージした虚月は天空へと運ばれたのです。今日まであそこに浮かび、ドミナリアから白マナを収集し続け、この来たるべくして起こった侵略に対抗する世界の力を削いでいます。とはいえ、私達は世界に力を取り戻せるのです。月のマナは回収可能ですからね。
引用:小説Apocalypse
上が英語原文。下が私家訳

AR4205年にファイレクシアによるドミナリアの侵略戦争が勃発した。そして暗黒神ヨーグモスがドミナリアに降臨し、ウェザーライト号の主人公たちはヨーグモスを倒す鍵が白マナだと気付いた。ならば、虚月に蓄えられた大量の白マナを利用すればよいのだ。

虚月は古代スラン人が建造した人工衛星で白マナを収集し貯蔵する装置であった。

レガシーの兵器(Legacy Weapon)

レガシーの兵器(Legacy Weapon)
データベースGathererより引用

虚月から9000年を越えて蓄積された白マナが引き出され、飛翔艦ウェザーライト号のレガシーの兵器(Legacy Weapon)に充填される。

名誉回復(Vindicate)

名誉回復(Vindicate)
データベースGathererより引用

そして、レガシーの兵器から放たれた白マナ・エネルギービームがヨーグモスを跡形もなく消滅させた。ファイレクシア侵略戦争はこうして終結した。

虚月は「白マナを蓄えた巨大な人工物」だと確認ができた。だからといって、これだけで虚月が白の魔力貯蔵器だと結論付けられるわけではない。そう考えられる証拠は他にもちゃんとある。小説The Thranだ。



虚月と白の魔力貯蔵器の共通点

虚月が開発され天空に打ち上げられた件は小説The Thranで詳しく書かれている。2

虚月は天空に浮かぶ月となる以前は「虚無球(Null Sphere)」と呼ばれていた。虚無球はスラン帝国内のアーティファクトを制御する伝送基地3であったが、ヨーグモス陣営の「ファイレクシア」と反対陣営の「スラン同盟」との内乱に突入した際に、ファイレクシアの兵器に転用されたものだ。

小説The Thranの虚無球(虚月)に関するポイントは2つ

  1. 虚無球は元々は山に埋め込まれた形で建造された巨大建造物であった。
  2. 虚無球にはマナを収集して蓄える機能があり、作中で「mana batteries」すなわち「魔力貯蔵器」と呼称されている。

虚月と白の魔力貯蔵器との共通点がこの2つのポイントだ。解説をしよう。

ポイント1:虚無球は山に埋め込まれた巨大建造物である

パワーストーンの技師、グレイシャン(Glacian, Powerstone Engineer)

虚無球の設計者であるパワーストーンの技師、グレイシャン(Glacian, Powerstone Engineer)
データベースGathererより引用

虚無球はアーティファクト制御用の伝送基地で、スランの天才技師グレイシャン(Glacian)が設計した。真珠色をした巨大な球体であるが、元々は山脈のクレーターに埋め込んだ形で建造されており、その時の外見は半球ドームで下の半球は外からは見ることはできなかった。

表に出ている上の半球は土台の山からマナを収集する下向きのアンテナであり、下の半球は天からのマナを集め取る上向きのアンテナの機能があった。このように球体の部分部分が色々な向きのアンテナとなっている。パワーを収集するだけでなく、スラン帝国内のアーティファクトを監視し、制御し、停止する命令すら伝送するように設計されていた。

更に虚無球は都市を超える巨大建造物であるにもかかわらず、天才グレイシャンによる軽量で強靭なデザインであったため、ファイレクシアが浮揚装置を組み込んで飛行要塞化することすら可能であった。

以上のように、虚無球は元々は空飛ぶ球体ではなく、山のクレーターに半分埋まった真珠色の巨大建造物で、マナを収集する機能があった。これは白の魔力貯蔵器のカードのイラストと設定に合致する特徴である。

Mox Pearl

真珠と白マナの繋がりを示す一例
Mox Pearl
データベースGathererより引用

また、虚無球の「真珠色(Pearled)」は、MTGにおいて白マナに属するカードを連想させるものでもある。例えばMTG最初のカードの中には、モックス・パール(Mox Pearl)真珠色の一角獣(Pearled Unicorn)がある。4

ポイント2:虚無球は魔力貯蔵器である

スランの医師、ヨーグモス(Yawgmoth, Thran Physician)

まだ人の姿をしていた頃のヨーグモスのカード化
スランの医師、ヨーグモス(Yawgmoth, Thran Physician)
データベースGathererより引用

ヨーグモスは虚無球を強襲して制圧し、勤務する工匠たちを脅迫と死の暴力で従わせた。敵対するスラン同盟軍のアーティファクトを制御して同盟軍兵士と同士討ちさせたり、敵対都市の上空から大量破壊兵器「ストーンチャージャー」を投下して大虐殺を行った。

メモ:
ストーンチャージャー(Stone-charger:パワーストーン充填爆弾)はスラン=ファイレクシア戦争で使用された大量破壊兵器である。パワーストーンが周囲からエネルギーを吸収する性質を利用したもので、土地一帯の全生命力を引き出し空のパワーストーンに急激に充填させて破壊的な死の雲の大爆発を発生させる。ストーンチャージャー1発で軍隊を消し飛ばすことも、大都市を消滅させることも可能だ。
ストーンチャージャーもグレイシャンの設計で、元はパワーストーンを充填するメカニズムに過ぎなかったが、ヨーグモスが兵器に転用したのだ。ヨーグモスがグレイシャンから盗んだものは数多い。

虚無球のマナ収集機能はストーンチャージャー投下後に使われている。そして、その時に「the mana batteries」という語句が登場するのだ。

“What shall we do with that much raw power? It will overload the mana batteries.”
「あれほどの未精製のパワーで何をやらせるつもりですか?魔力貯蔵器に過大な負荷がかかることになります。」
引用:小説The Thran
上が英語原文。下が私家訳

この場面の流れはこうだ。メゲドン隘路の戦い(Battle of Megheddon Defile)において、ヨーグモスはスラン同盟軍にストーンチャージャーを投下して殲滅した。立ち上った死の雲は純粋なエネルギーだ、崩壊する前にあれからマナを収集せよ、とヨーグモスは虚無球の乗務員に命令を下した。それに対する返答が、虚無球の魔力貯蔵器に多大な負荷がかかってしまうという警告であった。

この記述によって、虚無球のマナを蓄える機構が「魔力貯蔵器(Mana Battery)」であることが明らかになった。

余談だが、ヨーグモスが魔力貯蔵器に過負荷を与えてまで何をしようとしたのかというと、スラン帝国内全てのアーティファクト・エンジンの停止命令の発信である。虚無球の老工匠から、ライフラインを奪われて数千の無辜の民が死ぬことになります、と抗議を受けても、一時的な処置にすぎず勝利したら再起動すればよかろう、と強行しようとした(ファイレクシア側は停止命令の影響がないように調整済みである)。この時に敵の飛翔艦隊が新たに出現して応戦しなければならなくなったため、全停止命令は幸いにも実行には至らなかったが、その代わり戦場は拡大し、いくつものスランの都市がストーンチャージャーで消滅することになった。

更に余談。この場面で抗議した老工匠は最後に工匠団と共にファイレクシアに反乱を起こし虚無球を天空へと急上昇させた。酸欠によって乗務員の工匠は全滅。工匠の自己犠牲で虚無球は無力化された。これがドミナリア二番目の月、虚月の誕生である。5

ゆえに虚月は白の魔力貯蔵器である

ではいい加減に長くなったのでまとめに入ろう。

ドミナリアの虚月はスラン帝国時代の人工衛星だ。山に埋め込まれた真珠色の巨大伝送基地をファイレクシアが浮遊要塞に改造し、後にドミナリアの第二の月となった。スラン帝国のアーティファクトを制御する基地であるが、マナを収集し放出できる魔力貯蔵器の機能も備えている。収集できるマナは白マナに限定されていなかったものの、天に浮かぶ無人の月となった後は自動的に白マナを蓄積し続け、9000年以上かけて集まった多量の白マナがヨーグモスを滅ぼす決め手となった。

山に埋まった真珠色の巨大人工物として建造され、特に白マナの貯蔵器としての機能がストーリー上でクローズアップされた。ゆえにドミナリアの虚月は白の魔力貯蔵器であるとみなしても過言ではないのだ。

次のおまけの節で本記事は〆である。



おまけ:減衰球

A Thran relic, it has spent ten thousand years doing absolutely nothing.
スランの秘宝だが、1万年間まったく何もしていない。
引用:減衰球(Damping Sphere)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

減衰球(Damping Sphere)

減衰球(Damping Sphere)
データベースGathererより引用

カードセット「ドミナリア」には減衰球(Damping Sphere)というスラン帝国の遺産が収録されている。このカードがあると、2点以上のマナを出す土地は無色1マナしか出せなくなり、複数の呪文を唱えるためには追加のマナがかかるようになる。このカードは周囲のマナの枯渇させているように思える。

カードのメカニズムにフレイバー・テキストを加味して考えれば、虚無球(虚月)が9000年以上白マナを自動収集し続けたエピソードから、このカードの設定が生み出されたと気付ける。カード名も「虚無球(Null Sphere)」に対して「減衰球(Damping Sphere)」、すなわち「無(Null)」と「減衰する(Damping)」の球体(Sphere)であり非常に似通っている。

この減衰球は虚無球から「マナ貯蔵器」という特性をオミットし、「マナ吸収機能」に限定して焦点を当てた下位バージョンのカード化とも考えられる。あるいはスラン帝国の小規模の伝送基地・中継基地であったのかもしれない。

白の魔力貯蔵器とは(アーティファクトであることを除いて)まったく似ても似つかないカードであるが、設定から辿っていくと実は近い存在であったと分かってくる。ヴォーソス的なアプローチは常に興味深い発見をもたらしてくれるものだ。

では今回はここまで。

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  1. 「白の魔力貯蔵器の大部分(many of the white mana batteries)」との表現からすると、運搬可能な小型バージョンもおそらく存在しているのだろう。
  2. 上記引用した小説Apocalypseの虚月の説明は小説The Thranを簡略化したものだ
  3. 原文は小説The Thranでは「broadcast station」で、小説Apocalypseでは「transmission base」である。本記事では訳し分けずに「伝送基地」に統一した
  4. それらの同期には真珠三叉矛の人魚(Merfolk of the Pearl Trident)という青のカードも存在しているが、このマーフォークの「真珠」とはドミナリアの「月」だと設定されている。
  5. 小説Apocalypseの記述では、ファイレクシアンではなくスラン人が虚無球(虚月)を打ち上げ、スラン人が乗務員を殺害して天空に送った、とカーンは語っている。ファイレクシアン第一世代はスラン人なのでその意味では間違いではない。それに、カーンは9000年以上過去の出来事を伝聞で知っただけであり、彼の歴史認識が不正確であってもそうおかしいことではない