ターグの落とし子、アーグ(Uurg, Spawn of Turg)はカードセット「団結のドミナリア」で初登場した伝説のクリーチャーである。
今回は、ドミナリア次元の蛙種族アヌーリッドのアーグを取り上げる記事だ。ついでに、父親のターグやアヌーリッドの命名法、アーグのカード開発にまつわるエピソードなども紹介しよう。
和訳製品版では「トゥーグの落とし子、ウゥーグ」と翻訳されているが、本サイトではこのカタカナ表記は発音の面から正しくないと判断し、「ターグの落とし子、アーグ」表記で通すこととした。記事の最後でより詳しく説明する(→リンク)。
ターグの落とし子、アーグの解説
アーグ(Uurg)はAR4560年代のドミナリア次元オタリア大陸の蛙系種族アヌーリッド(Anurid)の男性である。オタリア大陸を自由に歩き回って、相手が誰だろうと好きに喰らっている。
AR4300年頃のアヌーリッド、ターグ(Turg)の息子である。
アーグの父親ターグ
アーグの父親のターグ(Turg)は小説Odysseyに登場したキャラクターである。カードセット「団結のドミナリア」現時点カード化はされていない。
ターグはAR4300年頃にマーフォークのラクァタス(Laquatus)に仕える勇者1であった。野生に暮らしていた所を捕まって、ラクァタスによる魔法的な精神結合で従属している身分だが、訓練を受けて、知能も向上し、それほど悪くはない待遇のようだった。
ラクァタスはオタリア東方アイルズメア海を支配する海の帝国から陰謀団の本拠地カバル市へと派遣された駐在大使2であった。駐在先のカバル市では、ターグはピットファイター3として活躍することもあった。ラクァタスがミラーリ争奪戦に参加し、海の帝国に反逆しても、ターグはなお彼の下で戦い続けAR4305年に亡くなった。
しかし、ターグは死ぬ前に卵塊を遺していた(母親は不明)。陰謀団はそれらを使ってターグより巨体なピットファイターを生み出そうとしたが、オタマジャクシの1体が脱走した。それが現在は、父親ターグと同等に強く成長したアーグなのである。したがって、アーグの年齢はAR4562年現在で255歳ほどになると考えられる。
アヌーリッド式アルファベット順命名法
「ターグ(Turg)」の子供が「アーグ(Uurg)」だったことから、あるファンがアーグの子供は「ヴァーグ(Vurg)」で、ターグの親は「サーグ(Surg)」なのだろうか、それともただの偶然か、と質問をした(出典)。それに対してイーサン・フライシャー(Ethan Fleischer)は、アヌーリッドは本当にアルファベット順になってる、と回答をした(出典)。
これが冗談ではなく正式設定だったとしたら、一族の初代は「オールグ(Aurg)」で、未来の「ズァーグ(Zurg)」で一族断絶となるのかもしれない。
だから、次の節からは(本サイトはストーリー主軸なのであまりやらない)カード開発秘話に触れることにする。
アーグのカード誕生秘話
ターグの落とし子、アーグのカードは、カードセット「モダンホライゾン」の面白おかしいフレイバー・テキストから発想を得て誕生した(出典)。
それが掘削するアヌーリッド(Excavating Anurid)だ。
掘削するアヌーリッド
Turg’s spawn ruled long after he croaked.
トゥーグがくたばった後も長く、その子孫による支配が続いた。
引用:掘削するアヌーリッド(Excavating Anurid)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
掘削するアヌーリッド(Excavating Anurid)はカードセット「モダンホライゾン」のクリーチャー・カードである。
フレイバー・テキストでは、「ターグの落とし子の支配は、彼の死後も長い間続いていた。」との旨が書かれている。和訳製品版では「ターグ」が「トゥーグ」に「落とし子」が「子孫」に、と訳が違っているので分かりにくいが、これは現在のアーグの存在を示唆した内容だ。これを元にカードセット「団結のドミナリア」では、伝説のクリーチャーとしてアーグが生み出されることになったというわけだ。
この文章は、フレイバー・テキスト・ライターのLoreley Weisel-Librizziが仕込んでいたものだ(出典)。このカード以外にもヴォーソス心をくすぐるネタを潜ませる人物である。
このフレイバー・テキストにはもう1つネタが仕込まれている。和訳製品版で「くたばった」と訳されている原語は「croaked」だ。「croak」は俗的に「死ぬ・くたばる」の意味もあるが、「蛙がガーガー鳴く」との意味も持っている。アヌーリッドは蛙系種族なので、ガーガー鳴くものだ。したがって、フレイバー・テキストは「ターグが死んだ後」と「ターグが元気にガーガー鳴いていた頃よりも後」という2つの意味を含ませているのである。
面白いフレイバー・テキストである。しかし、実は掘削するアヌーリッドにも元ネタがあったのだ。それがもっと昔の吠え裂きアヌーリッド(Anurid Barkripper)である。
吠え裂きアヌーリッド
When it croaks, so do you.
そいつが鳴く時にゃ、おまえも泣く。
引用:吠え裂きアヌーリッド(Anurid Barkripper)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
吠え裂きアヌーリッド(Anurid Barkripper)はカードセット「ジャッジメント」収録のクリーチャー・カードである。
こっちのフレイバー・テキストにも「croak」が用いられている。「When it croaks, so do you.」という文章は、前半は「croak」の「蛙がガーガー鳴く」の方の意味、後半は「死ぬ」の方の意味合いで読むと意味が通る。つまり、「そいつがガーガー鳴くと、お前は死ぬ。」ということだ。
和訳製品版は巧いもので、「そいつが鳴く時にゃ、おまえも泣く。」と作文しており、「鳴く」と「泣く」で音を揃えた妙技で魅せてくれる。
またカード名の方もダブルミーニングの言葉遊びのようだ。「吠え裂き」と訳されている「Barkripper」だが、「bark」には動詞「吠える」と名詞「樹皮」があり、「ripper」は「引き裂く者」を意味する言葉だ。イラストを確認すると、アヌーリッドが「吠え」ながら「樹皮」を真っ二つに「引き裂いている」のである。
アヌーリッド:受け継がれる魂
というように、歴代のアヌーリッドのカードには色々と言葉遊びが仕込んであった。
「吠え裂きアヌーリッド」のフレイバー・テキストが、「掘削するアヌーリッド」に繋がり、更に「ターグの落とし子、アーグ」の誕生へと落着した。その上、アヌーリッドは「アルファベット順命名法」で名付けられる設定も生えた。
アヌーリッドとは、言葉遊びとは切っても切り離せない面白い蛙種族である。
ターグの落とし子、アーグの発音
では、最後に記事冒頭で注意事項として提示した発音とカタカナ表記についてより詳しく説明する。
公式和訳名は「トゥーグの落とし子、ウゥーグ」であるが、本サイトではこれは正しくないと判断して、「ターグの落とし子、アーグ」表記を採用している。
英語の綴りから見ても、ウィザーズ社の公式スタッフ陣の発音を聞いても、とても「トゥーグ」と「ウゥーグ」には読めず聞こえず、「ターグ」と「アーグ」の方がより正しいカタカナ音写なのである。
マーク・ローズウォーターによるイーサン・フライシャーのインタビューPodcast(リンク)では、14分頃から「Turg」と「Uurg」の発音が確認できる。ウィザーズ社でも責任ある両名とも「トゥーグ」や「ウゥーグ」でなく、「ターグ」や「アーグ」に近い発声をしていることが確認できる。
その他に、英語圏のプレイヤーの動画をチラホラと見ても、やはり「ターグ」や「アーグ」に近いものしか私には見つけられなかった。
ただし、「Uurg」の方は日本語では正確には表記できない音なのは確かだろう。私は「アーグ」が一番近いと感じる音だ。少なくとも「ウゥーグ」という日本語話者でもどう発音するか戸惑ってしまう表記にはならないのは明らかだ。
さいごに
これにてアーグとターグとアヌーリッドに関しての四方山話は幕である。言葉遊びと翻訳と発音と、で終始してしまった感がある。手をつけた時からそうなる予感はしていたが……。
では、今回はここまで。
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- 「champion」
- 公式翻訳記事『団結のドミナリア』にて待ち受ける伝説たちでは「陰謀団の大使であったマーフォーク」と誤訳している。原文記事The Legends You’ll Find in Dominaria Unitedは「the merfolk ambassador to the Cabal」つまり「陰謀団に派遣されたマーフォークの大使」という意味だ。
- 「pit fighter」闘技場の闘士のこと