今回から数回にわたって「オタリア・サーガ」の時系列検証を行っていく。
第1回目は小説Scourgeの検証を行う。この小説は同名のカードセット「スカージ」に対応する作品であり、オタリア・サーガの最後を飾るストーリーである。エピローグは次のミラディン・ブロックに向けての橋渡し役も担っている。
オタリア・サーガは2ブロック、合計6つのカードセットと小説三部作2シリーズを含む長大な物語である。その検証を結末の「スカージ」から手を着けるのは変則的である。けれども、この方が手っ取り早いと判断した。
注:2023年3月11日23時時点でおおむね記事の外形が埋まったので公開とした。後ほど詳細を詰めていく予定。現状は暫定版である。
追記(2023年3月26日):「ブレイズの最期」の節の内容を変更した。変更はブレイズがどのようにしてヴォニアン平野からトポスの影山まで移動してきたかに関する記述、および、ブレイズの享年。そして、固有名詞の和訳をいくつか変更した(「エローシャ」→「エローシア」、「影の山」→「影山」)。
小説Scourgeの概要
小説Scourgeは、カローナ再誕から始まり、再誕13か月目のカローナの最期で終幕となる。
カーンの発言により、ミラーリのドミナリア探査は5年間だと判明する。したがって、AR4305年開始のオデッセイ・ブロックから5年後、AR4310年でオンスロート・ブロックが終わる計算になる(本記事では詳しく書かないけれど、私は全部で5年間と仮定して、オデッセイとオンスロートの両ブロックが収まり切れると検証を終えている)。
小説Scourgeの物語
小説Scourgeをカローナの行動を主軸として時系列順に整理し、13か月間の物語の流れを解説していこう。
AR4309年:カローナの再誕
ドミナリア次元の魔法の化身カローナが2万年の時を経て再誕した直後から物語は始まる。開始時点の場所はオタリア大陸のコーリアン断崖にあるアヴェルー市だ。
カローナはこの時点で潜在的にはほぼ全能の力を持っている。カローナはただそこに存在するだけで、姿を見た者に跪かれて崇拝対象とされてしまう。しかし、カローナ自身はまだ自分が何者なのか、自分には何ができるのか、自分は何を成すべきなのかを知ることなく、知識も記憶もない状態であった。
人々は自分を神だと崇めてくるのだが……カローナの自分探しの物語が始まった。
再誕2日目:カマール
カローナはアヴェルー市を出て取りあえず東の砂漠を飛行した。アヴェルー市を戦場として戦っていた兵たちはカローナの崇拝者となり寝食を忘れて盲目的にその後を追った。また、遠方からも神々しく輝くカローナの姿を目指して人々が集まってくる。
再誕2日目、カローナは砂漠でカマール(Kamahl)と遭遇し会話すると更に東に飛んだ。カマールはカローナが世界の破壊者となると判断して、強力な武器となるミラーリ剣(Mirari Sword)を回収するためにクローサの森のゴルゴン山への帰路についた。
再誕3日目:サッシュとウェイストコート
再誕3日目、カローナは荒れ地でサッシュ(Sash)とウェイストコート(Waistcoat)と出会い、2人を従者として受け入れた。
同日中に更に東へ進んで、カローナら3人はアヴェルー市の戦いの前に脱出した難民たちのキャンプに辿り着くと、カローナは必ず戻ると告げて上空に飛んで消えた。難民もまたカローナの崇拝者となり、サッシュとウェイストコートを彼女の預言者と見做した。
サッシュとウェイストコートの指揮する崇拝者集団は、船旅でオタリア大陸の果てにある魔法都市エローシア(Eroshia)を目指すことになった。カローナ再誕前時点で、オタリア大陸は陰謀団とイクシドール信者の二大勢力が支配的であったが、エローシアはそれらに与せず独立を貫いた数少ない都市であった。
再誕2か月目目まで:魔法都市エローシア
船旅での時間経過は不明。エローシアに難民の崇拝者団が到着すると、カローナがその場に現れた。エローシアでもデレグ総督(Governor Dereg)を筆頭に彼女を崇拝するようになり、難民共々受け入れた。カローナは再び姿を消した。
カローナはドミナリアの世界中を見て回り、1か月後にエローシアに帰還し1、この都市を住居と定めた。
カローナのエローシア滞在から1か月2が過ぎた。エローシアの湾岸や西のヴォニアン平野(Vonian Field)には、大陸中に存在するあらゆる種類の種族から成る幾つもの軍団が集結した。誰もがそれぞれの理由で狂信的にカローナを求めていた。この時がカローナを巡る最初の部族戦争(the first tribal war)とされる。
カローナは争い合う人の姿に辟易し、サッシュとウェイストコートを連れてエローシアを離れ、トポスの影山上空へと移動した。火球のように空を翔け、移動にかかった時間は一瞬であった。
カローナがエローシアから旅立ったこの時点で、再誕から2か月目でなければ作中の他の部分と辻褄が合わない。したがって、上述した時間経過表現の2回の「1か月」は「1か月未満」であり、難民のキャンプからエローシアまでの船旅はその2つの「未満」を埋めるごく短い期間であったと解釈することになる。エローシアを去った時点を余裕をもって「再誕2か月過ぎ」としておくと丁度いい。
再誕2か月間のその他のキャラクター
カローナがエローシアを去るまでの2か月間、その他のキャラクター達がどのような行動をしどこに居たのかを説明する。
カマールとイクシドール(神霊ロワリン)
カマールはカローナ再誕の瞬間にアヴェルー市から砂漠に弾き飛ばされた。そして上述の通り、再誕2日目にカマールはカローナと遭遇してクローサへの帰路についた。
まずカマールはクローサのゴルゴン山の地下に潜って、ラクァタスの死体が変異した巨人ゾンビを倒してミラーリ剣を回収した。
次にカマールはトポスに移動しニヴィアの魂を持つ死のワームを屠って、その体内からイクシドール(Ixidor)を強制的に取り出した。イクシドールは亡き恋人ニヴィアの魂が解放されたことを嘆くものの、神霊ロワリン(Lowallyn)の転生者となる宿命を受け入れて覚醒した。
カローナがトポスの影山に到着した時点で、カマールと神霊ロワリン(イクシドール)は同じトポスに居た。
小説ではカローナ再誕3日目を描く章の前後に、カマールがゴルゴン山に潜ってミラーリ剣を回収する章が配置されている。しかし、カマールは空を飛んだり、瞬間移動したりはできないため、3日目はまだコーリアン悪地を移動途中であるはずで、ゴルゴン山の出来事は実際にはもっとずっと後の出来事を語っていることになる。
大雑把に、再誕1か月頃にゴルゴン山、再誕2か月目の少し前にトポスでの死のワームとの戦い、としておく。
陰謀団の神霊クベールとブレイズ
陰謀団の神として崇拝される神霊クベールは大闘技場のある闘技場島から2か月間動かなかった。
クベールはカローナ再誕をすぐに察知しており、ブレイズ(Braids)に軍団を編成させてカローナの討伐に向かわせた。再誕2か月頃のヴォニアン平野の諸軍団の中には、ブレイズ将軍が率いる陰謀団軍が確認できる。
カローナがトポスの影山に到着した時点の位置は、クベールは大闘技場で、ブレイズはヴォニアン平野である。
ストーンブラウ
アヴェルー市では、カローナ再誕2日目の時点でストーンブラウ1人が残っていた。ここで戦っていた者はカローナを崇拝しその後を追って去った。ストーンブラウも再誕直後はカローナの姿に畏敬の念を抱き跪いたのだが、崇拝よりも飢餓を満たす欲求が勝ったことで、アヴェルー市に留まることができた。金ピカ魔道士の酒場(The Gilded Mage pub)で2日振りの飲食を摂れたのだった。
再誕2か月過ぎ:影山でのカローナ
再誕2か月過ぎ、トポスの影山の場面に戻る。
カローナはサッシュとウェイストコートに相談しながら、自分には何ができるのかを改めて調べた。輝月3を再生させて再び破壊するなど思いのままであり、ほぼ全能の力を示した。
影山のカローナを目指して大軍勢が押し寄せてきた。カローナは見境なく自分を求める人の群れを固い地面を消し去ることで対処すると、底なしの奈落に落下して数多の命が失われた。
ブレイズの最期
ブレイズもカローナを求めてその場に居た。ヴォニアン平野から遥々ここまで移動してきたのだ。4カローナの力で地面が失われても、ブレイズは空間連続移動で上昇してカローナの足に必死に縋りついた。
この時、ブレイズは人間女性とクズリの半ばのような異形に変貌しており、顔を知るはずのサッシュとウェイストコートですら「何ですかこいつは?」と彼女だと判別できないほどだった。5
救済を求めるブレイズだったが、カローナにすげなく払い落とされた。ブレイズは落下する途中で狂気空間に逃避したものの、空間内のホラーたちに襲われて死亡した。享年AR4310年。
余談だが、2世紀半後(AR4561年頃)にブレイズは復活している。陰謀団が狂気魔術の儀式により狂気空間から呼び出したのだ。ブレイズは自分の狂気空間内で、自分の生み出したホラーに襲われて絶命した。それゆえに、復活したブレイズ自身も今や狂気魔術のナイトメアと化している。
再誕2か月過ぎ:カローナによる招来
騒動が落ち着くと、次にカローナは神に等しいと評される5つの存在を順に呼び出して自分が何者かを見定めようとした。彼らは5色のマナにそれぞれ対応する強力な者たちだったが、本当の意味での神では無かった。
青の存在としてイクシドールが招来されたことから、神霊ロワリンは自分たち神霊がカローナに見られてしまったと分かった。カマールと神霊ロワリンは、もう1人の神霊クベールを味方につけるために大闘技場に向かった。
再誕10か月目まで:神霊3人とアリエン
数か月間に、カローナは大群衆と暴動、部族戦争と大量殺戮を何度も経験した。カローナとサッシュとウェイストコートは、アヴェルー市のあるコーリアン断崖上空を抜けて南の大闘技場に到着した。
大闘技場にはカマールと神霊ロワリンと神霊クベールが居た。3人は大闘技場を放棄して、残る最後の神霊アヴェルーの転生体そのものであるアヴェルー市に瞬間移動した。63人揃った神霊は、カローナと同等の存在アリエン(Arien)を創造して罠にかける作戦に取り掛かった。
再誕10か月目。大闘技場を廃墟へと変えたカローナは、神霊のいるアヴェルー市に瞬間移動すると、アリエンに対面した。自分そっくりの男性アリエンを対の存在として認め、カローナが心を許した時、その油断に乗じて神霊はカローナを滅ぼす罠を発動した。
カマールは、このままではカローナから神霊3人に世界の絶対支配者が挿げ変わるだけで根本の解決にならず、自分は神霊に欺かれていたと気付いた。カマールはカローナに対して次元移動ができるはずだと助言し、まさしくそうなった。
再誕10か月から12か月:カローナの多元宇宙放浪
カローナはドミナリア次元から久遠の闇に移動して、神霊たちが仕掛けたアリエンの罠から逃れられた。それと同時に、魔法の化身カローナが居なくなったドミナリア次元から魔法が消失した。
カローナら3人は再誕10か月目から12か月目までの2か月間、居場所を求めて多元宇宙を放浪した。
カローナがエローシアを去ってから多元宇宙放浪中の期間までを、作中では「1年近く」と表現している。また、カローナはアージェンタム時点で「再誕1年」7である。
「1年近く」とはどれくらいの期間が必要か、私は10か月程あればそう言えると想定した。そうした理由から、先述したようにエローシアを去った時点で「再誕2か月過ぎ」と置いた。
再誕12か月目:カローナのドミナリア帰還
再誕12か月目、カローナはドミナリア次元エローシアに帰還した。
カローナは魔法を手放さず自分の近くの崇拝者にのみ恩恵を分け与えるとしたことで、ドミナリアは依然として魔法が失われた状態であった。その中において、ドミナリアに属さない異世界の産物であるミラーリが唯一魔力を放っていた。
カローナはエローシアを征服すると、崇拝者から成る正義軍を従えて進軍し、アフェットを破壊した。無条件にカローナを受け入れ跪く者は救い、いかなる理由でも拒絶した者は滅ぼしたのだ。
再誕13か月目:カローナの最期
再誕13か月目、カローナがドミナリアに帰還して1か月が経過した。カマールと神霊ロワリン、神霊クベールが集合したアヴェルー市がカローナとの最後の決戦場となった。神霊はカローナによって滅ぼされ、カローナ自身もまたミラーリ剣で致命傷を負った。彼女が抱えていた魔法がドミナリアに戻され世界は救われた。
そこにプレインズウォーカーのカーンが現れて、瀕死のカローナとミラーリ剣をアージェンタム次元に運び去った。
AR4310年:エピローグ
カーンはアージェンタム次元においてカローナをプレインズウォーカーのジェスカ(Jeska)として蘇らせ、ミラーリの方は金属人メムナーク(Memnarch)に変身させて次元の管理者に任命した。
カーンは弟子ジェスカを導くためにアージェンタムをメムナークに任せて、多元宇宙へと旅立つのだった。
さいごに
以上でオタリア・サーガの時系列検証の1回目、小説Scourgeの検証を終了する。取りあえずの暫定公開とする。
- 1か月間サッシュとウェイストコートをもてなした、との旨の記述がある
- この1か月でデレグ総督が急激に憔悴した、との旨の記述がある
- 別名:虚月。ドミナリアの人工の月
- 作中では、ブレイズがどのような手段で長距離移動を成し遂げたのか詳細はない。しかし、陰謀団には長距離瞬間移動ができるポータルを作る魔法かあるいは魔法の道具が存在していると小説Judgmentで既出である(おそらく出発点と到着点に魔法道具が2つ必要なタイプ)。あるいは、小説Onslaughtではザ・ファーストが魔術の翼で空を飛び砂漠を越えたり、ブレイズ自身もこれまでの作品中で狂気魔術生物を乗り物として召喚して利用した。いずれかの手段を用いたのであろう。
- 尋常でない狂気魔術の行使によって歪められた結果だと思われる。小説Chainer’s Tormentでのチェイナーの最期でも同様の異形化が見られる。
- 神霊ロワリンの水から水へ跳ぶ能力である。水面から水面へとポータルで結んで瞬間移動する魔法はオデッセイ・ブロック小説三部作で海の帝国の秘術として既出であり、水と風の神霊ロワリンが同種の魔法を行使できるのは当然と言える。
- この1年間、自分が何者なのか、自分には何ができるのか、自分は何を成すべきなのかを探究して来た、との旨の記述がある