アイラーシ(Aerathi)はドミナリアの地名で、そこを故郷とする獰猛な戦士諸部族で知られている。
アイラーシの初出はカードセット「レジェンド」で収録されたクリーチャー・カード、「Aerathi Berserker」で、これが唯一のアイラーシを描いたカードである。しかし、コミック、短編、2つの小説三部作で言及あるいは登場しており、「レジェンド」出身でも露出はそれなりに恵まれている。
今回は、アイラーシと狂戦士で名高い蛮人を取り上げる。
※ 本来はアイラーシの英語表記は「Ærathi」だったのだが、2006年頃にウィザーズ社はカードで合字「Æ」を用いず「Ae」と表記する方針に変わり、現在では「Aerathi」表記が標準になっている。
アイラーシの解説
アイラーシ(Aerathi)は、ドミナリア次元ドメインズ地方のどこかにある島である(マダラ地方近くである可能性が高い)。そこを故郷とする赤毛の大柄で、獰猛な人間の蛮人で知られている。
アイラーシの蛮人は、故郷アイラーシだけでなく他の地方にも居住している。西ジャムーラ亜大陸の青色山脈(Blue Mountains)には多くのアイラーシ諸部族が暮らしている他、マダラ地方やコロンドール大陸でも存在が確認できる。
最初はレジェンドサイクル1三部作である。
レジェンドサイクル1のアイラーシ
レジェンドサイクル1小説三部作は、AR3334-3336年のヨハン戦争(Johan’s War)を舞台としている。
アイラーシの蛮人は青色山脈(Blue Mountains)に住む諸部族の集まりであり、北部地域を支配するヨハン皇帝のティラス軍に大勢が参加していた。1このシリーズ中では雪の高山に暮らす、大柄で赤毛、牙の生えた野蛮人と描写された。
ティラス軍には、最北の山脈の蛮人と表現される兵たちも確認できるが、これもアイラーシを意味するものだ。
ヨハン戦争と青色山脈のアイラーシ
AR3334-3336年のヨハン戦争においては、青色山脈のアイラーシ諸部族はヨハン皇帝に従って南部都市国家同盟と戦った。
ティラスの軍には元々アイラーシの兵の姿はあったが、AR3334年春、本格的な戦争勃発直前に青色山脈諸部族の族長3人の首を献上して、アイラーシ諸部族は公にヨハンの軍門に下ったといえる。
南部同盟との戦争は2年続き、AR3336年にヨハンが斃れたことで、諸部族は暴君の圧政から解放され、ティラスに反乱を起こした。
食人習慣の噂
小説Hazezonで、もし飛翔艦が青色山脈に墜落したら、蛮人たちに食われてしまうだろう、との件が出てくる。この噂は本当であろうか?
少なくとも南方人の集まりであるロバラン傭兵団から見て、アイラーシの蛮人には食人習慣があるという認識であったことは分かる。
真偽は不明であるものの、青色山脈には、オーガやオーク、コボルドと言った食人をしそうな人型種族も生息しているため、それらと混同されている可能性も十分ある。
次は少し時代が下ってレジェンドサイクル2小説三部作のアイラーシを紹介する。
レジェンドサイクル2のアイラーシ
レジェンドサイクル2小説三部作のアイラーシは、マダラ帝国の被征服部族であり、皇軍ケンツの戦士として組み込まれていた。
帝国内では下賤の生まれの野蛮人・未開人などとの差別的表現も見られた。
故郷の滅亡とマダラ帝国
アイラーシの故郷の島はマダラ帝国皇帝に反抗したため、皇軍ケンツによって国は攻め滅ぼされた。AR3457年以降からAR3500年代半ばまでのどこかの時点と推定。
生存者の戦士は1000人にも満たなかった。生き残る唯一の道は、誓いを捧げ、マダラ帝国に忠誠を確約する拘束呪文を甘受するしかなかった。こうしてアイラーシはケンツの一員として吸収されたのである。
AR3607年、ボーラス皇帝が成敗されてマダラ帝国が崩壊した。ケンツ軍に編入されていたアイラーシも他の被征服部族と同様に帝国の支配から解放された。
「粗暴」で「血に飢えた」
この三部作ではカードセット「レジェンド」収録のカードを意識したかのような形容が何度もされている。特にアイラーシでも狂戦士に対して「粗暴」や「血に飢えた」という表現が顕著だ。
粗暴(The Brute)はカードセット「レジェンド」収録のエンチャント(クリーチャー)・カードである。パワーを+1し、再生能力を持たせる。
血の渇き(Blood Lust)はカードセット「レジェンド」収録のインスタント・カードである。パワーを一気に+4するが、その分タフネスを大幅に下げてしまうデメリットも併せ持っている。
以上2種類のカード共に、アイラーシの狂戦士と同じ赤のカードであるし、蛮人や狂戦士的な雰囲気を内包するカードである。
次は発行年代はもっと古いコミックと短編である。
コロンドールのアイラーシ
アルマダコミックのShadow MageシリーズのVol.1では、悪役プレインズウォーカーのラヴィデル(Ravidel)がアイラーシの戦士を1人呼び出し、刺客として送り込む描写がある。
舞台はAR4185年頃のコロンドール大陸だ。アイラーシは赤髪が定番だが、戦士は珍しい黒髪であった。名前は不明。このコミックシリーズではアイラーシはこの1人しか出てこない。
ラヴィデルは遠方に赤の魔力貯蔵器(Red Mana Battery)2の存在を感知したため、それを狙ってアイラーシの戦士を派遣したのだ。魔力貯蔵器の持ち主は、ラヴィデルに親と国を奪われた7歳のジャレッド・カルサリオン(Jared Carthalion)であった。
短編The Old Way to Vacar Slabのアイラーシ
短編The Old Way to Vacar Slabは短編集Distant Planesに収録された1篇だ。
アイラーシの説明の前に、この短編の概略を語っておこう。
この短編では、中毒者と呼ばれる1名を連行するため、元アクロン軍団兵のスピロカイ(Spirokai)が率いる護送団が砂漠を渡ることになるが、ヴァカル・スラブへの旅の途上で次々と命を落とすことになった。
主人公オフィーリア(Ophelia)は護送団の一員で、仲間の死を見届けながら進み、ヴァカル・スラブに到着したものの中毒者こと本名マークス(Markus)も絶命したため、最後の生存者として帰路に着いた。……彼女が去った後、聖地ヴァカル・スラブの不可思議な力によってスピロカイの遺体がゾンビとなって蘇るのだった。
以上、短編の概略終わり。
さて、この砂漠の旅で一行を襲う最初の脅威として、アイラーシの略奪団3が登場する。ケンレフィアを出てすぐの丘陵地で一行はアイラーシに襲われ、8人中2人が殺されてしまった。本作でのアイラーシはこれっきりだ。
この作品の時代設定や場所は作中からは読み取れない。しかし、アイラーシが登場し、砂漠の奥にヴァカル・スラブがあることが手掛かりである。イーサン・フライシャーはファンサイトでのドミナリア地理に関する議論において、レジェンドサイクル1におけるアイラーシ居住地域の北には(西ジャムーラ亜大陸北部の)大砂漠があることから、ヴァカル・スラブは大砂漠内に存在するとの見方を示していた。
つまり青色山脈のアイラーシが山を下りて略奪団を形成していたという解釈になる。十分な説得力があるため、私はフライシャー説を支持する。
次の節では、名前があるアイラーシのキャラクター4人を詳しく取り上げていこう。
アイラーシのキャラクター
ストーリーにはアイラーシが何度か登場しており、特にレジェンドサイクル1と2の両方では大勢の名無しのアイラーシが兵として出て来ていた。
その一方で、名前付きをキャラクターは数名しか見つけ出せない。
レジェンドサイクル1からはヴェッチ(Vetch)1名のみ。
レジェンドサイクル2からはマダラ帝国皇軍ケンツの軍人として3名。ジョーガン・ヘイグ(Jorgan Hage)、グナモ(Gunamo)、フロスガ(Hrothga)。
ロバラン傭兵団七人衆のヴェッチ
ヴェッチ(Vetch)は西ジャムーラ亜大陸青色山脈のアイラーシ女性だ。長身で、赤毛のポニーテール、牙のような歯をしている蛮族戦士である。
レジェンドサイクル1小説三部作の最終作小説Hazezonで登場した。
ヴェッチはかつてはティラス軍所属のアイラーシであったが、ひょんなことからアディラ・ストロングハート(Adira Strongheart)のロバラン傭兵団(Robaran Mercenaries)の七人衆に加わったキャラクターである。
ヨハン陣営からロバラン傭兵団へ
ヴェッチとロバラン傭兵団の切っ掛けはこうだ。
ロバラン傭兵団はティラスの造船場から飛翔艦を強奪した。飛翔艦には労働者の奴隷やティラス陣営の者たちが乗船していた。敵の都から逃走したロバラン傭兵団だったが、飛翔艦が磁石の山の力で操舵不能となり、東南へ引き寄せられて墜落した。ロバラン傭兵団とティラスの兵は雪山で遭難してしまった。
ティラス人と蛮人の多くは北西の青色山脈を目指して去ったが、ヴェッチら4人の冒険者だけはロバラン傭兵団に同行して東を目指すことにした。ヴェッチの他3人は、雷鳴諸島のローレンス(Lorens of the Thunder Islands)、ドワーフ兄弟のチャル(Chal)とハダグ(Hadag)だ。彼らはアディラの許可を経て新たな七人衆メンバーとなった。
ティラス陣営にいたヴェッチらは離反者だが、ヨハンへ心からの忠誠心を誓ったわけではなかった。ヨハンが斃れると、ヴェッチは「これで諸部族は反抗を始める」「アイラーシや青色山脈のドワーフは解放される」と、自分たちはヨハンの暴政にやむなく屈していたとの旨を語っていた。
ヴェッチは海が見たい
さて、七人衆にあっさりと採用されたヴェッチは、当初西の故郷に帰るつもりだった。ところが、アディラから「雪山から東のミドマーシアン海まで抜けてそこから南回りの海路でブライスの街まで戻る」という帰還計画を聞いたことで心変わりし、「私も海を拝みたくなってきたよ」と西に向かうのを止めたのだ。
こんな参加動機が始まりなためか、ヴェッチの役どころはただの蛮人戦士だけに留まらなかった。初めて海を見て浮かれていたり、すぐに船に乗るわけではないと知ってしょげたり、その後、南海の冒険では初めて見る様々なものに興味津々、といった描写が散りばめられていた。
とはいえ、ヴェッチの登場場面はかなり少ない。ただし、同期の(空気同然な)ローレンス、チャル、ハダグよりは多めで恵まれてはいた。
ヴェッチのその後
物語のエピローグでは、アディラの跡を継いだジェディット・オジャネン(Jedit Ojanen)が三代目頭領となって、ロバラン傭兵団の輝ける新時代の幕開けとなる。ヨハンとの戦争がようやく終わり、この機会に傭兵団を去る者も中にはいたが、ヴェッチはジェディットの下でも七人衆として変わらぬ忠誠を捧げたのである。ちなみに、同期の3人の内チャルだけが生き残り、ヴェッチと共にジェディット配下の最初の七人衆となった。
まず初めはジョーガン・ヘイグだ。ヴェッチとは比べ物にならない、物語に関わる重要キャラクターの1人である。
マダラ帝国のジョーガン・ヘイグ元帥
ジョーガン・ヘイグ(Jorgan Hage)はアイラーシの狂戦士、男性。レジェンドサイクル2小説三部作を通して登場した、本シリーズにおけるアイラーシの中心キャラクターである。
ジョーガン・ヘイグ元帥は、マダラ帝国皇軍ケンツの最高司令官マーホルト・エルスドラゴン御大将(General Marhault Elsdragon)に次ぐケンツ軍副将軍4、という高い地位にあった。後に、アイラーシ初にして唯一のケンツ軍御大将となった。
ジョーガン・ヘイグは、狂戦士流の赤毛長髪を緩やかに肩まで伸ばし、細い金属製ダイアデムを頭に嵌めている。こうしたアイラーシ風の装束の他は、ケンツの精鋭士官の正式な鎧と制服を着用している。目は赤く、(作中の言及は少ないが)長い顎ひげを蓄えている。
赤マナの魔法を操って炎や電撃を出す描写も少ないもののあるが、狂戦士として血沸き肉躍る肉弾戦を好み、武勲を誉れとしている。巨大な戦槌を愛用しており、まるで重さを感じていないかのように軽々と振るって敵を叩きのめす。戦槌は普段は背負っている。
ジョーガン・ヘイグのイラスト
小説Emperor’s Fistの表紙のアイラーシは、ジョーガン・ヘイグをイメージしたイラストであろう。
また、マーホルト・エルスドラゴン御大将のイラストに描かれたケンツ軍のような甲冑をジョーガン・ヘイグは装備していたはずだ。このイラストで、マーホルトの左背後には、両手持ちの戦槌らしきものを持つ武将がいるが、この人物はジョーガン・ヘイグを想定しているのかもしれない。
ジョーガン・ヘイグのストーリー
ジョーガン・ヘイグは、マダラ帝国三頭政治の一角である帝国暗殺官ラムセス・オーヴァーダーク(Ramses Overdark)をケンツの脅威と見做し、部下を引き連れて襲撃するも返り討ちに遭ってしまった。ラムセスの魔法でヘイグは洗脳を受け、能力も強化され、無自覚な刺客と化してエルスドラゴン御大将の下に戻った。
ケンツは皇帝の命を受け、エデミ諸島の反乱鎮圧の任務を負って出陣した。
ヘイグ元帥がエデミ諸島のクショ島では陣頭指揮を執り、爆破専門術師5コロー・メハ(Kolo Meha)や梅澤家から出向したアーイシャ・タナカ(Ayesha Tanaka)らを差配して攻めた。ヘイグ自身はクショの中心人物の1人ゴスタ・ダーク(Gosta Dirk)と武器を交え打ち負かしている。
惜しいことに孤狼カシミア(Kasimir the Lone Wolf)の横槍が入ったため、ゴスタ・ダークのトドメまではさせなかった。
こうして軍務に当たっていたが、ヘイグはラムセスの刺客として働き始める。マーホルト・エルスドラゴン御大将と2人きりの会談中、戦槌の一打で御大将の頭を吹き飛ばして殺してしまうと、殺害犯は梅澤哲雄(Tetsuo Umezawa)だと宣言し、自分の罪を被せたのだった。これでラムセス・オーヴァーダークの政敵2人、マーホルト・エルスドラゴンと梅澤哲雄を帝国三頭政治から排除できた。
ジョーガン・ヘイグは新たな御大将となり皇軍ケンツを掌握し、影の主人であるラムセスの指令に従って行動し続けるのであった。
ジョーガン・ヘイグの最期は梅澤哲雄の手で下された。ヘイグ御大将は帝国に反旗を翻した梅澤哲雄との一騎打ちとなり、左肩から脇腹へと刀で袈裟懸けに斬り捨てられた。ケンツ史上初にして唯一のアイラーシの御大将はこうして命を絶たれた。
ほどなくして皇帝が斃れ、マダラ帝国は長年虐げられてきた被征服部族の反抗で滅んでいく。指導者ジョーガン・ヘイグを喪ったアイラーシもそうした被征服部族の1つであるが、アイラーシには梅澤家一党との確執が遺された……。
アイラーシの名前付きキャラクターはあと2人残っているが、どちらもレジェンドサイクル2での脇役である。
では1人目がマダラ帝国皇軍ケンツのグナモ団長だ。
マダラ帝国のグナモ団長
グナモ団長(Commander Gunamo)は戦斧で武装した長身のアイラーシの男性だ。マダラ帝国皇軍ケンツの団長である。
小説Emperor’s Fistに登場して死亡したキャラクターであるが、より詳細な死に様は小説Champion’s Trialにおいて軍務報告として語られた。
グナモ団長は、エデミ諸島アージェンティ島の南の森林を探索する部隊を指揮した。部隊はグナモ自身を含むケンツ戦士50人と、武具師アーイシャ・タナカの合計51人。そこは森の化身ロード・マグナス(Lord Magnus)が支配する領域であった。
グナモの探索部隊は森のドルイドや植物などの脅威に襲われながらも、森の知恵(Sylvan Library)と呼ばれる場所まで到達した。アーイシャ・タナカはその奥へと取り込まれ、ケンツも大勢が森に襲われて命を落としてしまう。グナモも殺人蔦によって身体を両断されてしまった。
ジョーガン・ヘイグのケンツ本隊に帰投できたのは、チャダ兵長(Sergeant Chada)ら5人のみであった(アーイシャは森と一体化して戻れなかったものの、存命である)。
マダラ帝国のフロスガ団長
フロスガ団長(Commander Hrothga)はケンツ所属のアイラーシ男性だ。小説Champion’s Trialで登場。
ジョーガン・ヘイグが御大将に出世したことを受けて、フロスガ自身も自分の価値を部族全体に証明してみせようと意気込んでいた。
帝国に離反した梅澤哲雄の領地へと出向いたものの、ネコルーの女王、ワシトラ(Wasitora, Nekoru Queen)と交戦してフロスガの部隊は全滅した。
続いては、アイラーシの関連カードを確認しておこう。ジョークカードを除けばたった1種類しかない。
アイラーシの関連カード
Aerathi Berserker
Aerathi children who show promise are left to survive for a year in the wilderness. Those who return are shown the way of the Berserker.
将来有望なアイラーシの子供は、1年間生き延びろと野外に放置される。帰還できた者には狂戦士の道が開かれる。
引用:Aerathi Berserkerのフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が私家訳
「アイラーシの狂戦士」を意味する「Aerathi Berserker」はカードセット「レジェンド」収録のクリーチャー・カードである。MTG史上初のクリーチャー・タイプ「狂戦士」を持ったカードでもある。
このカードを基盤として、各種ストーリー作品でドミナリア次元の蛮人部族アイラーシの設定が創作されていった。アイラーシのオリジンである。
ちなみに、カード画像に注意するとカード名が「rathi Berserker」となっていることが確認できる。これは頭の文字「Æ」が欠落したミスである。
Bloodletter
“That’s not an A, it’s an Æ. Wait, don’t-”
–Hœbrus Væm, Ærathi librarian, last words
こいつは「る」じゃない。「ゑ」だ。おい、それに—
–ヱーラシーの司書、ハグブラス・ヴァヰムの最後の言葉
引用:Bloodletterのフレイバー・テキスト
上が英語原文。下はJNR準公式訳
Bloodletterはジョーク・カードセット「アンヒンジド」に収録されたクリーチャー・カードである。フレイバー・テキストにアイラーシの人物が登場しているが、ジョーク・カードなので真に受ける必要はないだろう。
このカードはアルファベットの合字(æとかÆなど)をネタにしており、それに応じて、JNR準公式訳では現代ではほぼ使われない仮名(ゑやヱなど)を当てはめている。「ヱーラシー」と訳されているのも合字を活用したかったからであろう。
アイラーシの検証
この節には、本記事を作成するにあたり公式ソースを総合して行った諸々の検証や考察、本サイトとしての考えを記しておく。
検証その1:Aerathiの発音
アルマダコミックのShadow Mage Vol.2巻末解説において、「Aerathi」は「ay-RATH-i」すなわち「アイラーシ」だとの発音ガイドが付記されていた。
私が個人的に見てきた限りでは、日本において「Aerathi」は非公式に「イーラシ」「エイラーシ」「ヱーラシー」あるいは「イーラスの」などといった不統一なカタカナ表記が行われてきた言葉だ。綴りから類推した表記としてはそれなりに説得力が持たされていた。
発音ガイドは初期コミック出典で参照がされにくいソースである。しかし、公式ソースとして発音ガイドが存在する以上はそれに倣うのが正統であろうと私は考える。
検証その2:アイラーシの位置
アルマダコミックのShadow Mage Vol.2巻末解説において、アイラーシはドメインズ地方の一地域だと明記された。
次にアイラーシの居住地域が言及されたのはレジェンドサイクル1小説三部作であったが、そこは西ジャムーラ亜大陸の大山脈地帯の中でも最北部で、青色山脈という名称であった。ドメインズでなくジャムーラ、地名はアイラーシでなく青色山脈と全く重なる部分が無い。したがって、青色山脈はアイラーシからの入植地と考えられる。
続いて、レジェンドサイクル2小説三部作ではアイラーシの故郷の島が言及された。先述した通りマダラ帝国皇軍ケンツにアイラーシの国は滅ぼされていた。作中では島の名称が「アイラーシ」だと明記されてまではいないものの、「They once had an island home」「The kentsu tore the Ærathi nation to pieces.」の意味するところは「島国アイラーシ」であろう。
カードセット「ドミナリア」期に公開されたドミナリア世界地図において、マダラ地方はドメインズ地方の南に配置された。ここでドメインズ地方南端にある名称不明の島々のどれか1つをアイラーシ島と仮定すると、自然に全ての地理情報が収められると分かる。それらの島の中でも、アイラーシが赤に属することから、山のある島がより相応しい。
したがって、アイラーシはドメインズ地方に属する地域で、マダラ地方におそらくかなり近い南の島であると考えられる。
検証その3:アイラーシの故郷の滅亡
アイラーシの故郷の島はマダラ皇帝に反抗したことでケンツによって滅ぼされた。小説Emperor’s Fist現在(AR3607年)でもう何年もずっと昔6の出来事と語られている。
マダラ帝国の建国はビジュアルガイドによると、AR3227年である。しかし、小説三部作によれば「ニコル・ボーラス皇帝」がこの国を簒奪したのはレジェンドサイクル2現在から遡ること150年前、つまり3607-150=3457なので、AR3457年頃である。
以上を考慮に入れると、アイラーシの故郷の滅亡は、AR3457年以降からAR3500年代半ばまで、この期間内のどこかの時点と推定できる。
さいごに
アイラーシを何とかまとめ終えた。
アイラーシのような類は記事化に労力と時間がかかってしまう。つまり「ウィザーズ社が公式にこれこれこうだ、と整理した解説や設定を公開してくれない」類は。その上、日本でのカタカナ表記や和訳やらでは定説が存在していないから、そこに気を回さなければならないので無駄に疲れるのだ。
十年以上前から頭の中にあったものを文字として出力したわけだが、本記事の内容は、有名ヴォーソスやwikiなどのサイトと比べると、異なる部分があるかもしれない。例えば、アイラーシの位置となると諸説出てくるだろう。だから、可能な限り出典を示すようにしたし、実際の検証過程も記事の最後に記した。
アイラーシのキャラクターでも網羅的になるように心掛けた。ファンの間ではジョーガン・ヘイグ(Jorgan Hage)は知名度が一番高く、グナモ(Gunamo)とフロスガ(Hrothga)は脇役だが海外有名wikiにも名前は取り上げられる程度に認知されている。
一方、「ロバラン傭兵団七人衆のヴェッチ(Vetch)」は注目した人が他に誰もいなさそうな超マイナー・キャラクターだ。彼女の同期の雷鳴諸島のローレンス(Lorens of the Thunder Islands)、ドワーフ兄弟のチャル(Chal)とハダグ(Hadag)の3人も。この辺を紹介できたのでこの記事を書いた意義はあったかも知れないな。
では、今回はここまで。
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