ドミナリア史:神話時代の再考証(異端版)

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ドミナリア次元の神話時代(Mythohistory)を、カードセット「団結のドミナリア」現在までの最新情報を基に再考証する。

前回記事では、現時点でのウィザーズ公式が公開している情報と、この4年でウィザーズが進めている方向性に沿った「正統」な歴史解釈を行った。それに対して、本記事は公式情報をアクロバットな読み替えた「異端」な解釈を行ったものとなる。

序文

この記事は当初は古龍戦争(The Elder Dragon War)の解説記事として投稿したものだ。ドミナリア次元の神話時代を再考証して、いわゆる「正統」な歴史解釈とは異なる新しい切り口での歴史の再構成を試みており、「異端」な歴史解釈と言うべきものだ。

この「異端」解釈では、古龍戦争を間断なく続く戦争ではないと捉えている。長命種であるドラゴンらしい遥かに長いスパンで断続的だが終わることのない戦いとして、何世紀も数千年にもわたって争い合っていた。そうした期間の総称が古龍戦争だと解釈した。

これに基づけば、上古族や神霊が支配する時代はそうした古龍戦争期間の途中の出来事だった、との解釈が許容できる。つまり、第1次古龍戦争の終了後に、上古族や神霊の支配期間があり、その後に第2次古龍戦争が開戦するといった具合になる。

「異端」解釈の利点は、全ての出来事を神話時代5000年間に時間的な無理することなく収められることだ。前回の「正統」解釈の記事でも問題点として挙げてものだが、神話時代の出来事は5000年を軽く300年、あるいは1000年以上も、はみ出してしまうため、「正統」解釈では余剰分の問題を解消するために、少々無理な解釈を通すことになるのだ。

2022年9月20日:ドミナリア史神話時代の再検証について
昨日投稿した「古龍戦争(巨竜戦争)」記事について、私はちょっとまずい状況かも知れないかと感じてきた。 この記事は私独自の新しい切り口で神話時代の解釈を試みたものだ。自分としては内容には自信がある。しかし、頂いた反応をつらつらを読んで行くと、...
ドミナリア史:神話時代の再考証
マジック・ザ・ギャザリング(MTG)のドミナリア次元の神話時代を考証する。2022年現在の最新情報を基に歴史解釈を行った。エルダー・ドラゴン、古龍戦争、上古族、神霊、悪魔的リバイアサンの歴史を掘り下げる。

ウィザーズの意図に沿った時系列を第一にした「正統」な解釈に対して、私の独自解釈は古龍戦争が複数回あったというアクロバットな読み替えを行っており、それゆえ「異端」である。「異端」解釈が公式に採用されることはまずないだろうが、残しておく価値は十分にあるとの自負がある。

そういった次第で、「異端」解釈の記録として、古龍戦争の記事を当初の内容のままここに転記して保存することとした。次の節から最後までが転記した内容である。



当初の古龍戦争記事

※※ ここから古龍戦争記事からの転記 ※※

古龍戦争(The Elder Dragon War)はドミナリア次元の神話時代に起こったエルダー・ドラゴンによる戦争である。別名「巨竜戦争」。

カードセット「団結のドミナリア」では英雄譚カードとなったので、改めて独立した記事にまとめてみた次第だ。

記事の前半では、古龍戦争の経緯を時系列順に解説している。本記事のために改めてより細かい検証を行ったものだ。

そして、記事の後半には情報の出典と検証課程をまとめてある。こちらは大抵のMTGユーザには退屈な内容だろうけれど、ドミナリア史に興味のあるヴォーソスならぜひご覧になっていただきたい。

古龍戦争の解説

対峙するエルダー・ドラゴンのニコル・ボーラス(左)とウギン(右)
巨竜戦争(The Elder Dragon War)一部拡大図

古龍戦争(The Elder Dragon War)はドミナリア次元の神話時代に起こったエルダー・ドラゴン(またの名を古龍)同士の戦争である。

エルダー・ドラゴンの兄弟姉妹やいとこは、その子や子孫共々に殺し合った。

終戦に至った時には、ドミナリア次元上のエルダー・ドラゴンはアルカデス・サボス(Arcades Sabboth)クロミウム・ルエル(Chromium Rhuell)ヴァエヴィクティス・アスマディ(Vaevictis Asmadi)パラディア=モルス(Palladia-Mors)、そしてピルー(Piru)しか生き残れなかった。

ウギン(Ugin)ニコル・ボーラス(Nicol Bolas)も存命だったが、終戦時にはプレインズウォーカーとなってドミナリアを離れていた。

エルダー・ドラゴンの子供世代も、封印された上古族ドラゴン5体も含め、全滅であった。ドミナリア次元に残ったドラゴンはより遠い子孫たち、エルダー・ドラゴンから見れば下級ドラゴン1ばかりであった。

巨竜戦争

巨竜戦争(The Elder Dragon War)

巨竜戦争(The Elder Dragon War)
データベースGathererより引用

巨竜戦争(The Elder Dragon War)カードセット「団結のドミナリア」収録のエンチャント・カードである。古龍戦争の物語を英雄譚として表現している。

巨竜戦争と古龍戦争

この節では「巨竜戦争」と「古龍戦争」という2つの和訳表記について解説する。

ただし、ストーリーや設定にはほぼ関係が無い内容で冗長なので、折り畳み表示にしている。

巨竜戦争と古龍戦争(折り畳み表示)
「巨竜戦争」という和訳名称は「古龍戦争」を指し示すものだが、この2つの名称の関係はいささか入り組んでいる。

まず現在は「The Elder Dragon War」と表記されている「古龍戦争」は、公式ソースに初めて登場した際に「The Dragon War」と簡素な名称であった。この時の公式和訳が「巨竜戦争」であった。

ところがドミナリア史上には「The Dragon War」と呼ばれる戦いが既に存在していた。こちらは伝説時代シヴィトリ・スカーザム(Sivitri Scarzam)に関係するものだ。

2018年のカードセット「ドミナリア」期から、ウィザーズのクリエイティブは両者を明確に区別する名称として「The Elder Dragon War」を積極的に採用し始めた。和訳は少し遅れて、カードセット「基本セット2019」の連載ストーリーにおいて「古龍戦争」と翻訳した。

つまり、旧表記の「The Dragon War」が「巨竜戦争」で、現行表記の「The Elder Dragon War」が「古龍戦争」となっていたのである。

ところが、2022年のカードセット「団結のドミナリア」では和訳がごちゃ混ぜになった。英語原文は「The Elder Dragon War」と現行表記なのに、「巨竜戦争」と旧名称の和訳を当ててしまっている。

カードセット「団結のドミナリア」の和訳のいくつかは、ストーリー用語の扱いが刷新されずに、古くて間違ったままの訳を続けている。例えば、「シヴ山」という誤認識、「アルガイヴの」と「アーギヴィーアの」の和訳混同2など。「巨竜戦争」もそういった内の1つなのだ。

古龍戦争の経緯

古龍戦争の勃発から終戦までの大まかな経緯を整理した。

カードセット「団結のドミナリア」時点での情報を統合し、本サイト独自の解釈を含めて構成した内容となっている。公式ソースでの時系列情報をまず第一の基盤としているため、一般的に受け入れられているであろう解釈とは異なる部分も中にはある。あらかじめ注意されたい。

基本的な考え方として、古龍戦争は間断なく続く戦争ではないと捉えている。おそらくその実態は、長命種であるドラゴンらしい遥かに長いスパンで断続的だが終わることのない戦いとして、何世紀も数千年にもわたって争い合っていた。そうした期間の総称であると解釈した。

古龍戦争の始まり

暴虐の龍、アスマディ(Vaevictis Asmadi, the Dire)

データベースGathererより引用

エルダー・ドラゴンの誕生からゆうに数世紀は経過した頃、古龍戦争が勃発する。

戦争の切っ掛けは、ヴァエヴィクティス・アスマディ(Vaevictis Asmadi)とその眷属が数を増やし、パラディア=モルス(Palladia-Mors)を狩場から追い払うほどの勢力になった後、ニコル・ボーラス(Nicol Bolas)の統治する人間居住地を襲撃したことである。

破滅の龍、ニコル・ボーラス(Nicol Bolas, the Ravager)

破滅の龍、ニコル・ボーラス(Nicol Bolas, the Ravager)
データベースGathererより引用

ボーラスは人間の民人を殺された報復に、居住地を襲ったヴァエヴィクティスの子孫7体の内6体を配下の龍殺しの部隊の毒矢と魔術で殺害した。史上初のドラゴンによるドラゴン殺し。これが古龍戦争の始まりだ。

ヴァエヴィクティスとその兄弟リヴァイダス(Lividus)ラーヴァス(Ravus)ルブラ(Rubra)の計4体のエルダー・ドラゴンは、進撃するボーラスの部隊を迎え撃った。この戦いを生き残ったのはニコル・ボーラスとヴァエヴィクティス・アスマディの2体のエルダー・ドラゴンのみであった。

ボーラスはヴァエヴィクティスからの追撃を危惧し、その牽制としてリヴァイダス、ラーヴァス、ルブラの子孫に対してヴァエヴィクティスが裏切って兄弟たちを殺したと偽りの情報を植えつけた。

殲滅の龍、パラディア=モルス(Palladia-Mors, the Ruiner)

殲滅の龍、パラディア=モルス(Palladia-Mors, the Ruiner)
データベースGathererより引用

そして、狩り場を追われたパラディア=モルスを探し出しては、ヴァエヴィクティスがいかに弱体化しているかを吹き込んだ。

変遷の龍、クロミウム(Chromium, the Mutable)

変遷の龍、クロミウム(Chromium, the Mutable)
データベースGathererより引用

何年かの後3、こうしてボーラスが広め煽り立てたドラゴン同士の反目は、人間も巻き込んだ世界的な大戦争へと拡大していった。智者たるクロミウム・ルエル(Chromium Rhuell)は諍いから身を守るため、自分とは異なる姿に変身してやり過ごそうとした。

策略の龍、アルカデス(Arcades, the Strategist)

策略の龍、アルカデス(Arcades, the Strategist)
データベースGathererより引用

平和と秩序で自国の人間を統治していた賢明なるアルカデス・サボス(Arcades Sabboth)ですら、戦いに参加せざるをえなくなっていった。

上古族の時代

上古族の栄華な再誕(Primevals' Glorious Rebirth)

上古族全員を描いたカード
上古族の栄華な再誕(Primevals’ Glorious Rebirth)
データベースGathererより引用

AR-17000年頃、上古族(Primevals)がドミナリアを支配した。ラミデアリガズ(Rhammidarigaaz)リース(Rith)トリーヴァ(Treva)ドロマー(Dromar)クローシス(Crosis)の5体のドラゴンだ。

上古族ドラゴンはそれぞれエルダー・ドラゴンの子供世代に当たる者たちで、ドラゴンでありながら精霊の力4の顕現のような存在でもあった。上古族5体が揃えば、彼らは神のごとく強大となり、その暴政の下にドミナリア中のドラゴンを支配し、定命の種族を隷属化した。いかようにして上古族がそのような力を手にしたのかは不明である。

上古族の支配は300年続いた。

神霊の時代

AR-16700年頃、上古族の支配は終わりを迎え、3人の神霊(Numena)による時代が始まった。

定命の種族の中で最も力持つセメウス王(King Themeus)が、配下の5人の最高の魔術師5に上古族を封印させたのだ。

魔術師アヴェール(Averru)はラミデアリガズを封じてその魔法の権能を奪い取り、1人目にして最も強力な神霊となった。続いて、魔術師クベール(Kuberr)がクローシスを、魔術師ロワリン(Lowallyn)がドロマーをそれぞれ封じて第2第3の神霊となった。3人の神霊は、もし神霊が5人揃ってしまえば、上古族から受け継いだ魔法の権能によって自分たちが新たな暴君に成り代わるだけだと悟った。定命者による新時代を迎えるため、3人は残りの上古族を封じた2人の魔術師を殺して、最悪の事態を防いだ。

神霊はセメウス王を打倒し、オタリア大陸を中心とした強大な帝国を築いた。アヴェールはドミナリアの中心であるとして山脈地帯を支配し、クベールはその片側にある低地の湿地帯を統べ、ロワリンは反対側の海を統治した。

邪神カローナ(Karona, False God)

邪神カローナ(Karona, False God)
データベースGathererより引用

神霊の時代は1000年間、AR-15700年頃まで続いたが、神霊3人は彼らが生み出した偽りの神カローナ(Karona)と共に滅んだ。

神霊の時代の古龍戦争

この1000年間の神霊の時代、上古族の暴政の魔力は失われて、ドラゴンは300年の支配から解放されたことになる。

神霊の視点では、ドラゴンの時代から定命者の時代に切り替わり、自分たちが全ドミナリアの支配者だとの認識であったが、その裏では世界は相も変わらずドラゴン同士の戦争が再燃してしたものと考えられる。

古龍戦争の終戦

覚醒の龍、ニコル・ボーラス(Nicol Bolas, the Arisen)

覚醒の龍、ニコル・ボーラス(Nicol Bolas, the Arisen)
データベースGathererより引用

AR-15700年頃からAR-15500年頃の間のどこかの時点で、ニコル・ボーラスはドミナリアの半分を支配下に置いた。

ボーラスの軍はジャムーラ大陸の戦いにおいて、アルカデス・サボスの軍を撤退させるほどの権勢を誇っており、ニコル・ボーラスの最終的な勝利は間近であったようだ。ところがこの戦いの最中、ボーラスは帰還したウギンと再会し、戦場を放棄してしまう。ウギンを通じてプレインズウォーカーの存在を知り、ボーラスは双子への嫉妬と怒りから灯が点火した。プレインズウォーカーとなったボーラスはドミナリアから旅立った。

ボーラスが行方不明となった後、アルカデス・サボスはボーラスが残していった勢力を自身の国へと吸収した。おそらくこの時点で古龍戦争は終結を見たのである。

戦後

遥かな時が流れて伝説時代、おそらくはAR-3000年からAR-1700年のどこかの時点でボーラスがドミナリアに帰還した。6

故郷ドミナリアでは地形が大きく変化して、古龍戦争は既に遠い過去となっていた。エルダー・ドラゴンとその子供世代は、クロミウム・ルエル、アルカデス・サボス、パラディア=モルス、ヴァエヴィクティス・アスマディを除いて全員が亡くなっていた。

ボーラスはアルカデス・サボスの王国を再訪すると、アルカデスの心に民への不信、密告の奨励、そして疑わしきは燃やせ、と悪意の種を植えつけて去った。これはアルカデスの王国崩壊を暗示しており、これでエルダー・ドラゴンの支配する時代が本当の終わりを迎えることになったのだろう。

命運の核心(Crux of Fate)

タルキール次元での戦い
命運の核心(Crux of Fate)
データベースGathererより引用

その後、瞑想領土を来訪したボーラスはウギンと再会。何世代も続く戦いの後にウギンの命を奪ったボーラスが勝者となった。しかし、それでも死亡したウギンは精霊龍として復活し、さらに何千年も先の未来……AR33世紀頃のタルキール次元での決闘、そしてAR4560年の灯争大戦まで、この双子2人きりの古龍戦争は幾度となく繰り返されることになるのであった。

以上ここまでが、一般のストーリーファン向けの内容だ。

残りの記事の最後までは、今回の記事を書くために行った設定や時代の考証過程の解説である。こっちは人を選ぶマニア向けだろう。



古龍戦争の設定・時代考証

この節では、前節で語った古龍戦争の解釈がどのように導き出されたものか、出典を示しつつ考証した過程を説明しよう。

各種公式ソースでは、千年万年というスケールで曖昧で大雑把な年代や時間が語られている。現在から20000年前とか1000年間の支配などという表現がざらに出てくる遥か太古の出来事だ。2-300年程度のずれは容易に生じて仕方ないものだ。

今回の考証では、それを重々承知した上で、100年単位の概算を行って時代の特定を行う方針を選んだ。

その1:ドミナリア神話時代という枠組み

まず初めに大枠となる神話時代を確認する。設定集The Art of Magic: The Gathering – Dominariaによると、神話時代AR-20000年頃からAR-15000年)はエルダー・ドラゴンの誕生に始まり、古龍戦争、上古族の時代、神霊の時代を含んでいる。

その2:ボーラス年代記

2018年の公式サイトで発表されたストーリー連載「ボーラス年代記(Chronicle of Bolas)」(全8話)において、ウギンとニコル・ボーラスの2つの視点から神話時代の歴史が語られた。これで古龍戦争の期間がより狭められる。

※ あまりにも冗長なので折り畳み表示にした。

ボーラス年代記の時系列情報(折り畳み表示)
第1話のエルダー・ドラゴンの誕生はAR-20000年頃だ。アルカデス・サボス、クロミウム・ルエル、パラディア=モルス、メレヴィア・サール(Merrevia Sal)、ウギンとニコルの双子が兄弟姉妹として卵石から孵化した。メレヴィア・サールは誕生すぐに殺され、殺害した人間たちとその共同体は龍殺しとなる。

第3-4話。龍殺しが最初のドラゴン(メレヴィア・サール)を殺したときに、龍殺しの長は若者であった。ニコル・ボーラスが龍殺しの長や後継者候補たちを謀殺し国を乗っ取った時点かつウギンの灯が点火した時点で、龍殺しの長は老齢であった。それに加えて、アルカデス・サボスの国の老賢者テ・ジュー・キは人間だが、ウギンやニコル・ボーラスらエルダー・ドラゴンより年上であった。したがって、エルダー・ドラゴンの誕生からウギンの灯の点火までほんの数十年程度しか経過していないことが分かる。

第5話では、ニコル・ボーラスの下で龍殺しの国が繁栄し、人間の何世代もかけて魔法の研究が進められた。国外ではドラゴンが子孫を増やし数を増やすだけの時間が経過した。そして古龍戦争勃発となる。正確な開戦時期は不明なれど、エルダー・ドラゴンの誕生から軽く数世紀は経過しているはずだ。

第6話によると、ウギンは灯が点火しプレインズウォーカーとなってドミナリアを離れてから、ドミナリアに(2度目の)帰還を果たしてニコル・ボーラスと再会した時点で、4000年か5000年が経過していた。

第6-7話によれば、その時点でニコル・ボーラスはドミナリアの半分を支配下に置き、アルカデス・サボスが撤退を余儀なくされるほどの権勢を誇っていた。しかし、ウギンとの再会がきっかけとなってニコル・ボーラスも灯が点火し、戦争を放棄してドミナリアを旅立った。ニコル・ボーラスが残した軍勢はアルカデス・サボスに吸収された。

さて、ウギンの灯の点火までの数十年は誤差としてAR-20000年頃だったとすると、4000年から5000年後の帰還はAR-16000年頃からAR-15000年頃の間だと導き出せる。

第7話において、多元宇宙を探索した末、ニコル・ボーラスがドミナリアに戻った時には、地形が大幅に変化しており既に古龍戦争は終結しており、エルダー・ドラゴンとその子供世代は、クロミウム・ルエル、アルカデス・サボス、パラディア=モルス、ヴァエヴィクティス・アスマディしか生存していなかった。

第7-8話では、ボーラスはアルカデスと会った後、瞑想領土においてウギンと再会。ボーラスとウギンの何世代も続く戦いが始まる。多元宇宙を転戦し、最終的に瞑想領土に戻りウギンが殺されて決着した。

第8話では、死亡したウギンは精霊龍として復活した。復活までの期間は1年、1世代、1000年が経過したかもしれないし、一瞬だったかもしれないとある。つまり即座に復活から1000年経過の間で、どうとでも解釈できる。

以上がボーラス年代記全8話から拾い上げた時系列情報だ。

最低限言えるのは、古龍戦争の始まりはエルダー・ドラゴン誕生から数世紀は経った後であり、戦争の終わりは神話時代最後の1000年間のどこかの時点(AR-16000から-15000年)だったということだ。

その3:上古族と神霊

神話時代に起こった上古族そして神霊の時代が、いつどのくらいの期間の出来事であったかを確定させる。

※ こちらも折り畳み表示とした。

上古族と神霊(折り畳み表示)

上古族の支配期間

短編Hero of the People短編集The Dragons of Magic収録)によれば、上古族に仕える副王的なドラゴン5体がミトロキン村(Mitrokin village)に現れて300年間支配した後に上古族が封じられた旨が書かれている。

これにより上古族の支配は300年間と考えられる。

上古族の封印と神霊の時代

上古族の封印と神霊の時代に関しては、小説Scourgeに情報が見つけられる。この小説の時代設定はAR4310年前後と計算できる。そして、神霊が滅んだのはそれから20000年前で、神霊の時代は1000年間だったとも語られている。

4300-20000=-15700なので、神霊の時代の終わりはAR-15700年頃で、上古族の封印はAR-16700年頃となる。

そして前節において、上古族の統治は300年間と分かっているため、-16700-300=-17000となり、上古族の時代の始まりがAR-17000年と導かれる。

古龍戦争と上古族の時代との時系列

ここでカードセット「団結のドミナリア」の伝説のキャラクターの設定解説記事(リンク)を見てみれば、上古族5体は古龍戦争後にドミナリアを支配した7との旨が述べられている。

これは一般的なストーリーファンの考える歴史認識と同じなのだが、どうやっても既存の時系列情報とは噛み合わない。古龍戦争の途中で上古族の時代が始まって、神霊の時代までもが戦争中に終わってしまいかねない。2-300年程度は誤差として前後にずらしたくらいではどうやっても当てはまらないのである。

上古族の時代の解決策

ここで私は計算した年代を優先して考え直してみることにした。古龍戦争の途中に上古族(と神霊)の時代を入れ込むことは本当にできないのだろうか、と。

ここまでの情報で判断するに、古龍戦争は数千年(最大で4500年近く)にわたる超長期の戦争である。いくら長命なドラゴン8とはいえ、何百、何千年と戦争行為を続けているとはとても考えられない。断続的だが終わることのない戦いが、世界各地で何度も繰り返し発生し続ける。そうした数千年間の総称が古龍戦争であったとするのが、より現実的に思える。

この仮説に従えば、上古族の時代はそうした古龍戦争期間の途中の出来事だった、と解釈が許されるのではないか。つまり、第1次古龍戦争の終了後に、上古族による300年間の支配があり、その後に第2次古龍戦争が開戦するといった具合だ。

十分な説得力が備わっている、と私は判断した。本記事はこの考え方に基づいて記述している。

その4:ボーラスとアルカデスの戦い

「ボーラス年代記」のニコル・ボーラスとアルカデス・サボスの戦いの時期をより細かく割り出し、古龍戦争の終わりを探る。

これまでに、この戦いはAR-16000年頃からAR-15000年頃の間の出来事だとまでは判明済みだ。

※ こちらも折り畳み表示とした。

ボーラスとアルカデスの戦い(折り畳み表示)

神霊の時代以降

ボーラスはアルカデスとの戦いの時点で、ドミナリアの半分を支配下に置いている。

小説Scourgeによれば、神霊は全ドミナリアを支配していたとされている。たとえそれが神霊側の主観で誇張された表現だったとしても、神霊の時代中に世界の半分を支配するボーラスが同居するのは不合理である。

したがって、AR-15700年頃に神霊が滅んで以降、ボーラスの支配が世界の半分にまで拡大したことになる。

ボーラスと悪魔的リバイアサンの決闘

小説Future Sightでは、ドミナリア次元マダラ地方でのニコル・ボーラスと悪魔的リバイアサンの戦いが、史上初のプレインズウォーカー同士の決闘であったと語られている。

作品の時代設定はAR4500年であり、決闘は20000年前(また20000年前だ)とあるので、AR-15500年頃に起こったことになる。つまり、少なくともこの時点までにボーラスの灯が点火していなければならないし、ボーラスとアルカデスの戦いやウギンとの再会はそれ以前の出来事となる。

古龍戦争の終戦へ

以上から、AR-15700年頃からAR-15500年頃の間のどこかの時点で、ニコル・ボーラスはドミナリアの半分を支配下に置き、アルカデスと戦争していたことになる。

そして、帰還したウギンと再会したことで灯が点火、古龍戦争を放棄して多元宇宙に旅立った。アルカデスはボーラスが残して行った軍勢を自国に受け入れた。

世界の半分を支配する最大勢力の長が行方不明となり、その残党はアルカデスに吸収された。その上、神話時代は残り5世紀程度しか残っていない。プレインズウォーカーになったボーラスはアルカデスがドミナリアを支配することを暗示している。とすれば、アルカデス・サボスはこの時点で古龍戦争の最終勝利者となって、戦争の時代が終わったと考えられる。

その5:ボーラスの帰郷とウギンとの戦い

ニコル・ボーラスは多元宇宙からドミナリアに帰郷し、その後ウギンと戦い殺すことになる。

これがいつ頃のことかを調べる。

※ こちらも折り畳み表示とした。

ボーラスの帰郷とウギンとの戦い(折り畳み表示)

古竜戦争は遠い昔

「ボーラス年代記」の記述によれば、ボーラスがドミナリアに帰還した際、人の尺度で膨大な時が流れており、ドミナリアは地形が大幅に変化しており、古龍戦争は遠い昔に終わっていた。9

地形が変わるほどの時間経過が起こっているので、ボーラスが旅立って残り5世紀余りだった神話時代は既に終わっている。

エルダー・ドラゴンの生存者の状況:ピルー

エルダー・ドラゴンの生存者に関して、「ボーラス年代記」の該当部は先の節で確認した通りだ。

列記された生存者の中にピルーが含まれていなかった。ピルーは(マイナー・キャラクターなので)古龍戦争の生存者から省略されがちである。しかし、もし記述通りにピルーの死後だったとするなら、この帰還はコミック版黒き剣のダッコンよりも後の時代となる。

アルマダ・コミックの時系列情報によれば、ピルーの死は「スラン帝国の崩落から数千年後」から「兄弟戦争より数世紀前」までの期間内となる。つまり、伝説時代中で、AR-3000年から、AR0年より数世紀前の間だ。

ボーラスの旅立ちより1万年以上が経っているので、地形が変化していて何も不思議ではない。ピルーの死後という解釈のまま話を進める。

エルダー・ドラゴンの生存者の状況:残り4体

エルダー・ドラゴンの生存者の残り4体(クロミウム・ルエル、アルカデス・サボス、パラディア=モルス、ヴァエヴィクティス・アスマディ)の描写を確認する。

クロミウム・ルエルは親切な観察者として振舞いながら人型種族の中をさまよっていた。アルカデス・サボスは王国を統治していた。ヴァエヴィクティス・アスマディは概ね単独で放浪の略奪生活をしており、時折、パラディア=モルスと組んでいた。昔とほとんど変わらない様子だ。

この時は伝説時代中なので、コミック版エルダー・ドラゴンとの比較ができる。注目はヴァエヴィクティス・アスマディとパラディア=モルスだ。コミック現在時間軸では、ヴァエヴィクティスはファラリンの魔法で幼体状態に変えられてしまっていた。パラディア=モルスの方は、コミック現在から80年前に封印されてしまっていた。したがって、コミック版エルダー・ドラゴンよりも昔なのが明らかだ。このコミックの時代設定は兄弟戦争より数世紀前である。

精霊龍ウギン

「ボーラス年代記」では、ボーラスに敗死したウギンは精霊龍として復活している。

ここでゼンディカー・ブロックの歴史を振り返る。ゼンディカー・ブロック現在は検証によりAR4557年と導き出される。ウギンら3人のプレインズウォーカーはその6000年前10にゼンディカー次元にエルドラージを封印している。4500-6000=-1500なので、AR-1500年頃に封印が起こったことになる。その前に封印の準備にあれこれと1世紀ほどはかかっている。そして、その時点で既にウギンは精霊龍の姿であったから、ウギンの(1度目の)死はAR-1600年頃より前でなくてはならない。

ウギンとの戦闘期間

「ボーラス年代記」によれば、ボーラスとウギンが瞑想次元で遭遇した後に、多元宇宙を転戦しながら何世代にもわたる戦いを繰り広げた。「何世代」という表現は曖昧だが、少なく見積っても1世紀はかかっているだろう(場合によるとそれ以上)。

これで、戦闘開始はAR-1700年よりも前でなくてはならなくなった。

ボーラスの帰郷とウギンとの戦いの結論

以上から、ボーラスのドミナリア帰還と、その後のウギンの戦い、そしてウギンの死は伝説時代中であり、AR-3000年からAR-1600年の間に発生したと導き出せる。

その6:ウギンは悪魔的リバイアサンではない

「ボーラス年代記」でのボーラスとウギンの戦いを発端として、「悪魔的リバイアサンの正体はウギンだ」との説はよく見かけた発想だったと記憶している。千年万年が経過して情報が歪められて伝わった結果だというのだ。

今回の検証を通して、ボーラスとウギンの戦いは、悪魔的リバイアサンとの戦いより遥か後の時代の出来事だったと判明した。ウギンは悪魔的リバイアサンではない。

しかし、もしピルーの存在が省かれていないという前提が間違いだったとしたら、どうなるだろうか?今回の検証に基づいて計算すると、ボーラスの灯の点火からリバイアサンとの戦闘まではどんなに時間を取っても3世紀がいい所である。この間に地形が変化し、古龍戦争が遠い過去扱いになるはずもない。やはり、ウギンと悪魔的リバイアサンは別存在と結論を出すほかはないのだ。

これにて検証作業は終了である。



さいごに

古龍戦争が英雄譚カード化されたので、改めて神話時代の再検証を試みた。今までとは発想を転換しアプローチも変えてみた。

その結果は私自身も驚かせるものであった。本サイトの年表を書き換えざるをえないほどである。「神話時代」と「伝説時代」、近い内にこの2つを見直さなくてはならないな。

では今回はここまでだ。

※※ ここまでが古龍戦争記事からの転記 ※※

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古龍戦争

ドミナリア史:古龍戦争(巨竜戦争)
マジック・ザ・ギャザリング(MTG)の「古龍戦争(The Elder Dragon War)」を紹介。別名:巨竜戦争。団結のドミナリアでは英雄譚カードとなった。ドミナリア史のエルダー・ドラゴン同士の戦争を取り上げる。
  1. ボーラス年代記より原文「lesser dragon」。公式和訳版では「劣等な龍」。ドミナリア次元のドラゴンについて「elder」に対して「lesser」という表現は、非公式なファン側からは昔からされていたものの、公式ではこの時がおそらく始めてだ。
  2. 英語原文は「Argivian」と「Argivia’s」で明確に使い分けており、前者は「アーギヴィーアの」とは訳せない
  3. 連載ストーリー「ボーラス年代記」第5話、原文「In years to come」
  4. 原文「elemental forces」
  5. 小説Scourgeより原文「greatest sorcerers」
  6. ただし、これが初めての帰郷とは限らない
  7. 記事原文「one of the five ancient Primeval Dragons who ruled Dominaria sometime after the Elder Dragon War」
  8. エルダー・ドラゴンと上古族なら寿命は無さそうだ
  9. 「ボーラス年代記」第7話より原文「There I found the wars between the elder dragons over long since.」。公式和訳版は「そして古龍らが長きに渡って戦っていた。」と誤訳しているので日本語からは正しい意味の読み取りが不可能である。
  10. 当初は「6000年以上前」との表記だったが後に「6000年前」で定着した