ドミナリア次元の神話時代(Mythohistory)を、カードセット「団結のドミナリア」現在までの最新情報を基に再考証する。
前回記事では、現時点でのウィザーズ公式が公開している情報と、この4年でウィザーズが進めている方向性に沿った「正統」な歴史解釈を行った。それに対して、本記事は公式情報をアクロバットな読み替えた「異端」な解釈を行ったものとなる。
序文
この記事は当初は古龍戦争(The Elder Dragon War)の解説記事として投稿したものだ。ドミナリア次元の神話時代を再考証して、いわゆる「正統」な歴史解釈とは異なる新しい切り口での歴史の再構成を試みており、「異端」な歴史解釈と言うべきものだ。
この「異端」解釈では、古龍戦争を間断なく続く戦争ではないと捉えている。長命種であるドラゴンらしい遥かに長いスパンで断続的だが終わることのない戦いとして、何世紀も数千年にもわたって争い合っていた。そうした期間の総称が古龍戦争だと解釈した。
これに基づけば、上古族や神霊が支配する時代はそうした古龍戦争期間の途中の出来事だった、との解釈が許容できる。つまり、第1次古龍戦争の終了後に、上古族や神霊の支配期間があり、その後に第2次古龍戦争が開戦するといった具合になる。
「異端」解釈の利点は、全ての出来事を神話時代5000年間に時間的な無理することなく収められることだ。前回の「正統」解釈の記事でも問題点として挙げてものだが、神話時代の出来事は5000年を軽く300年、あるいは1000年以上も、はみ出してしまうため、「正統」解釈では余剰分の問題を解消するために、少々無理な解釈を通すことになるのだ。
ウィザーズの意図に沿った時系列を第一にした「正統」な解釈に対して、私の独自解釈は古龍戦争が複数回あったというアクロバットな読み替えを行っており、それゆえ「異端」である。「異端」解釈が公式に採用されることはまずないだろうが、残しておく価値は十分にあるとの自負がある。
そういった次第で、「異端」解釈の記録として、古龍戦争の記事を当初の内容のままここに転記して保存することとした。次の節から最後までが転記した内容である。
当初の古龍戦争記事
古龍戦争(The Elder Dragon War)はドミナリア次元の神話時代に起こったエルダー・ドラゴンによる戦争である。別名「巨竜戦争」。
カードセット「団結のドミナリア」では英雄譚カードとなったので、改めて独立した記事にまとめてみた次第だ。
記事の前半では、古龍戦争の経緯を時系列順に解説している。本記事のために改めてより細かい検証を行ったものだ。
そして、記事の後半には情報の出典と検証課程をまとめてある。こちらは大抵のMTGユーザには退屈な内容だろうけれど、ドミナリア史に興味のあるヴォーソスならぜひご覧になっていただきたい。
古龍戦争の解説
古龍戦争(The Elder Dragon War)はドミナリア次元の神話時代に起こったエルダー・ドラゴン(またの名を古龍)同士の戦争である。
エルダー・ドラゴンの兄弟姉妹やいとこは、その子や子孫共々に殺し合った。
終戦に至った時には、ドミナリア次元上のエルダー・ドラゴンはアルカデス・サボス(Arcades Sabboth)、クロミウム・ルエル(Chromium Rhuell)、ヴァエヴィクティス・アスマディ(Vaevictis Asmadi)、パラディア=モルス(Palladia-Mors)、そしてピルー(Piru)しか生き残れなかった。
ウギン(Ugin)とニコル・ボーラス(Nicol Bolas)も存命だったが、終戦時にはプレインズウォーカーとなってドミナリアを離れていた。
エルダー・ドラゴンの子供世代も、封印された上古族ドラゴン5体も含め、全滅であった。ドミナリア次元に残ったドラゴンはより遠い子孫たち、エルダー・ドラゴンから見れば下級ドラゴン1ばかりであった。
巨竜戦争
巨竜戦争(The Elder Dragon War)はカードセット「団結のドミナリア」収録のエンチャント・カードである。古龍戦争の物語を英雄譚として表現している。
巨竜戦争と古龍戦争
この節では「巨竜戦争」と「古龍戦争」という2つの和訳表記について解説する。
ただし、ストーリーや設定にはほぼ関係が無い内容で冗長なので、折り畳み表示にしている。
古龍戦争の経緯
古龍戦争の勃発から終戦までの大まかな経緯を整理した。
カードセット「団結のドミナリア」時点での情報を統合し、本サイト独自の解釈を含めて構成した内容となっている。公式ソースでの時系列情報をまず第一の基盤としているため、一般的に受け入れられているであろう解釈とは異なる部分も中にはある。あらかじめ注意されたい。
基本的な考え方として、古龍戦争は間断なく続く戦争ではないと捉えている。おそらくその実態は、長命種であるドラゴンらしい遥かに長いスパンで断続的だが終わることのない戦いとして、何世紀も数千年にもわたって争い合っていた。そうした期間の総称であると解釈した。
古龍戦争の始まり
エルダー・ドラゴンの誕生からゆうに数世紀は経過した頃、古龍戦争が勃発する。
戦争の切っ掛けは、ヴァエヴィクティス・アスマディ(Vaevictis Asmadi)とその眷属が数を増やし、パラディア=モルス(Palladia-Mors)を狩場から追い払うほどの勢力になった後、ニコル・ボーラス(Nicol Bolas)の統治する人間居住地を襲撃したことである。
ボーラスは人間の民人を殺された報復に、居住地を襲ったヴァエヴィクティスの子孫7体の内6体を配下の龍殺しの部隊の毒矢と魔術で殺害した。史上初のドラゴンによるドラゴン殺し。これが古龍戦争の始まりだ。
ヴァエヴィクティスとその兄弟リヴァイダス(Lividus)、ラーヴァス(Ravus)、ルブラ(Rubra)の計4体のエルダー・ドラゴンは、進撃するボーラスの部隊を迎え撃った。この戦いを生き残ったのはニコル・ボーラスとヴァエヴィクティス・アスマディの2体のエルダー・ドラゴンのみであった。
ボーラスはヴァエヴィクティスからの追撃を危惧し、その牽制としてリヴァイダス、ラーヴァス、ルブラの子孫に対してヴァエヴィクティスが裏切って兄弟たちを殺したと偽りの情報を植えつけた。
そして、狩り場を追われたパラディア=モルスを探し出しては、ヴァエヴィクティスがいかに弱体化しているかを吹き込んだ。
何年かの後3、こうしてボーラスが広め煽り立てたドラゴン同士の反目は、人間も巻き込んだ世界的な大戦争へと拡大していった。智者たるクロミウム・ルエル(Chromium Rhuell)は諍いから身を守るため、自分とは異なる姿に変身してやり過ごそうとした。
平和と秩序で自国の人間を統治していた賢明なるアルカデス・サボス(Arcades Sabboth)ですら、戦いに参加せざるをえなくなっていった。
上古族の時代
AR-17000年頃、上古族(Primevals)がドミナリアを支配した。ラミデアリガズ(Rhammidarigaaz)、リース(Rith)、トリーヴァ(Treva)、ドロマー(Dromar)、クローシス(Crosis)の5体のドラゴンだ。
上古族ドラゴンはそれぞれエルダー・ドラゴンの子供世代に当たる者たちで、ドラゴンでありながら精霊の力4の顕現のような存在でもあった。上古族5体が揃えば、彼らは神のごとく強大となり、その暴政の下にドミナリア中のドラゴンを支配し、定命の種族を隷属化した。いかようにして上古族がそのような力を手にしたのかは不明である。
上古族の支配は300年続いた。
神霊の時代
AR-16700年頃、上古族の支配は終わりを迎え、3人の神霊(Numena)による時代が始まった。
定命の種族の中で最も力持つセメウス王(King Themeus)が、配下の5人の最高の魔術師5に上古族を封印させたのだ。
魔術師アヴェール(Averru)はラミデアリガズを封じてその魔法の権能を奪い取り、1人目にして最も強力な神霊となった。続いて、魔術師クベール(Kuberr)がクローシスを、魔術師ロワリン(Lowallyn)がドロマーをそれぞれ封じて第2第3の神霊となった。3人の神霊は、もし神霊が5人揃ってしまえば、上古族から受け継いだ魔法の権能によって自分たちが新たな暴君に成り代わるだけだと悟った。定命者による新時代を迎えるため、3人は残りの上古族を封じた2人の魔術師を殺して、最悪の事態を防いだ。
神霊はセメウス王を打倒し、オタリア大陸を中心とした強大な帝国を築いた。アヴェールはドミナリアの中心であるとして山脈地帯を支配し、クベールはその片側にある低地の湿地帯を統べ、ロワリンは反対側の海を統治した。
神霊の時代は1000年間、AR-15700年頃まで続いたが、神霊3人は彼らが生み出した偽りの神カローナ(Karona)と共に滅んだ。
神霊の時代の古龍戦争
この1000年間の神霊の時代、上古族の暴政の魔力は失われて、ドラゴンは300年の支配から解放されたことになる。
神霊の視点では、ドラゴンの時代から定命者の時代に切り替わり、自分たちが全ドミナリアの支配者だとの認識であったが、その裏では世界は相も変わらずドラゴン同士の戦争が再燃してしたものと考えられる。
古龍戦争の終戦
AR-15700年頃からAR-15500年頃の間のどこかの時点で、ニコル・ボーラスはドミナリアの半分を支配下に置いた。
ボーラスの軍はジャムーラ大陸の戦いにおいて、アルカデス・サボスの軍を撤退させるほどの権勢を誇っており、ニコル・ボーラスの最終的な勝利は間近であったようだ。ところがこの戦いの最中、ボーラスは帰還したウギンと再会し、戦場を放棄してしまう。ウギンを通じてプレインズウォーカーの存在を知り、ボーラスは双子への嫉妬と怒りから灯が点火した。プレインズウォーカーとなったボーラスはドミナリアから旅立った。
ボーラスが行方不明となった後、アルカデス・サボスはボーラスが残していった勢力を自身の国へと吸収した。おそらくこの時点で古龍戦争は終結を見たのである。
戦後
遥かな時が流れて伝説時代、おそらくはAR-3000年からAR-1700年のどこかの時点でボーラスがドミナリアに帰還した。6
故郷ドミナリアでは地形が大きく変化して、古龍戦争は既に遠い過去となっていた。エルダー・ドラゴンとその子供世代は、クロミウム・ルエル、アルカデス・サボス、パラディア=モルス、ヴァエヴィクティス・アスマディを除いて全員が亡くなっていた。
ボーラスはアルカデス・サボスの王国を再訪すると、アルカデスの心に民への不信、密告の奨励、そして疑わしきは燃やせ、と悪意の種を植えつけて去った。これはアルカデスの王国崩壊を暗示しており、これでエルダー・ドラゴンの支配する時代が本当の終わりを迎えることになったのだろう。
その後、瞑想領土を来訪したボーラスはウギンと再会。何世代も続く戦いの後にウギンの命を奪ったボーラスが勝者となった。しかし、それでも死亡したウギンは精霊龍として復活し、さらに何千年も先の未来……AR33世紀頃のタルキール次元での決闘、そしてAR4560年の灯争大戦まで、この双子2人きりの古龍戦争は幾度となく繰り返されることになるのであった。
残りの記事の最後までは、今回の記事を書くために行った設定や時代の考証過程の解説である。こっちは人を選ぶマニア向けだろう。
古龍戦争の設定・時代考証
この節では、前節で語った古龍戦争の解釈がどのように導き出されたものか、出典を示しつつ考証した過程を説明しよう。
各種公式ソースでは、千年万年というスケールで曖昧で大雑把な年代や時間が語られている。現在から20000年前とか1000年間の支配などという表現がざらに出てくる遥か太古の出来事だ。2-300年程度のずれは容易に生じて仕方ないものだ。
今回の考証では、それを重々承知した上で、100年単位の概算を行って時代の特定を行う方針を選んだ。
その1:ドミナリア神話時代という枠組み
まず初めに大枠となる神話時代を確認する。設定集The Art of Magic: The Gathering – Dominariaによると、神話時代(AR-20000年頃からAR-15000年)はエルダー・ドラゴンの誕生に始まり、古龍戦争、上古族の時代、神霊の時代を含んでいる。
その2:ボーラス年代記
2018年の公式サイトで発表されたストーリー連載「ボーラス年代記(Chronicle of Bolas)」(全8話)において、ウギンとニコル・ボーラスの2つの視点から神話時代の歴史が語られた。これで古龍戦争の期間がより狭められる。
※ あまりにも冗長なので折り畳み表示にした。
以上がボーラス年代記全8話から拾い上げた時系列情報だ。
最低限言えるのは、古龍戦争の始まりはエルダー・ドラゴン誕生から数世紀は経った後であり、戦争の終わりは神話時代最後の1000年間のどこかの時点(AR-16000から-15000年)だったということだ。
その3:上古族と神霊
神話時代に起こった上古族そして神霊の時代が、いつどのくらいの期間の出来事であったかを確定させる。
※ こちらも折り畳み表示とした。
その4:ボーラスとアルカデスの戦い
「ボーラス年代記」のニコル・ボーラスとアルカデス・サボスの戦いの時期をより細かく割り出し、古龍戦争の終わりを探る。
これまでに、この戦いはAR-16000年頃からAR-15000年頃の間の出来事だとまでは判明済みだ。
※ こちらも折り畳み表示とした。
その5:ボーラスの帰郷とウギンとの戦い
ニコル・ボーラスは多元宇宙からドミナリアに帰郷し、その後ウギンと戦い殺すことになる。
これがいつ頃のことかを調べる。
※ こちらも折り畳み表示とした。
その6:ウギンは悪魔的リバイアサンではない
「ボーラス年代記」でのボーラスとウギンの戦いを発端として、「悪魔的リバイアサンの正体はウギンだ」との説はよく見かけた発想だったと記憶している。千年万年が経過して情報が歪められて伝わった結果だというのだ。
今回の検証を通して、ボーラスとウギンの戦いは、悪魔的リバイアサンとの戦いより遥か後の時代の出来事だったと判明した。ウギンは悪魔的リバイアサンではない。
しかし、もしピルーの存在が省かれていないという前提が間違いだったとしたら、どうなるだろうか?今回の検証に基づいて計算すると、ボーラスの灯の点火からリバイアサンとの戦闘まではどんなに時間を取っても3世紀がいい所である。この間に地形が変化し、古龍戦争が遠い過去扱いになるはずもない。やはり、ウギンと悪魔的リバイアサンは別存在と結論を出すほかはないのだ。
これにて検証作業は終了である。
さいごに
古龍戦争が英雄譚カード化されたので、改めて神話時代の再検証を試みた。今までとは発想を転換しアプローチも変えてみた。
その結果は私自身も驚かせるものであった。本サイトの年表を書き換えざるをえないほどである。「神話時代」と「伝説時代」、近い内にこの2つを見直さなくてはならないな。
では今回はここまでだ。
古龍戦争の関連記事
ドミナリア神話時代
古龍戦争
- ボーラス年代記より原文「lesser dragon」。公式和訳版では「劣等な龍」。ドミナリア次元のドラゴンについて「elder」に対して「lesser」という表現は、非公式なファン側からは昔からされていたものの、公式ではこの時がおそらく始めてだ。
- 英語原文は「Argivian」と「Argivia’s」で明確に使い分けており、前者は「アーギヴィーアの」とは訳せない
- 連載ストーリー「ボーラス年代記」第5話、原文「In years to come」
- 原文「elemental forces」
- 小説Scourgeより原文「greatest sorcerers」
- ただし、これが初めての帰郷とは限らない
- 記事原文「one of the five ancient Primeval Dragons who ruled Dominaria sometime after the Elder Dragon War」
- エルダー・ドラゴンと上古族なら寿命は無さそうだ
- 「ボーラス年代記」第7話より原文「There I found the wars between the elder dragons over long since.」。公式和訳版は「そして古龍らが長きに渡って戦っていた。」と誤訳しているので日本語からは正しい意味の読み取りが不可能である。
- 当初は「6000年以上前」との表記だったが後に「6000年前」で定着した