エルドレイン次元のリッチ騎士(Lich Knight)とアンデッド騎士カード全般について解説する。
追記(2023年9月12日):MTG30周年記念展示で公開された「エルドレインの森ワールドガイド」に基づいて、リッチ騎士の解説に影の城ディニスタンや影の女王などについて書き加えた。それと同時に、記事全体の体裁を整えるなどの編集を行った。
追記(2023年10月6日):ショーケース・フレームの特別デザイン版やリンクを追加した他、細かな修正を行った。
エルドレインのリッチ騎士の解説
エルドレイン次元のリッチ騎士(Lich Knight)とは、小説「Throne of Eldraine: The Wildered Quest」に登場した僻境でアンデッド化した騎士である。リッチ騎士は死人のような姿をしている。騎乗する馬もアンデッドで死骸のように見える。
「エルドレインの森ワールドガイド」には、リッチ騎士の本拠地と支配者が噂レベルで言及されている。
王国の人々に広まっている伝説によると、ダンバロウの沼地の奥にリッチ騎士の城があるという。それが影の城1ディニスタン(Dynnistan)だ。また、影の女王(The Shadow Queen)としてのみ知られる恐るべき力を有する魔女2がディニスタンの主だと言われている。
エルドレインの王権のカードと小説のリッチ騎士
カードセット「エルドレインの王権」には、小説同様の「リッチ騎士」の名称を持つカードは収録されてはいない。
しかし、アンデッドを意味するクリーチャー・タイプ「ゾンビ」または「スケルトン」を含む「騎士」カードが存在している。騎士の幽霊を表す「スピリット」カードも1種類存在する。
また意外なことに、エルドレインの王権には「騎士」でない「ゾンビ」と「スケルトン」は存在していない。騎士でなければアンデッドにはならない、という意味ではないだろうが、エルドレインでは妖精やドラゴンやその他のクリーチャーはアンデッドのイメージにそぐわないと判断されたのだろうか。
エルドレインのリッチ騎士に該当するカード
カードセット「エルドレインの王権」時点では小説のリッチ騎士そのもののクリーチャー・カードは存在しなかったが、「エルドレインの森」になると「リッチ騎士」とカード名に冠するソーサリー・カードが登場した。
ここでは「エルドレインの王権」と「エルドレインの森」の両方での、アンデッド化した騎士と関連カードを取り上げることとする。
穢れ沼の騎士
穢れ沼の騎士(Foulmire Knight)はカードセット「エルドレインの王権」に収録されたクリーチャー・カードである。
アンデッドのゾンビ騎士だ。
出来事は「不敬な洞察(Profane Insight)」である。神聖を汚すような洞察(Profane Insight)を行ったためにアンデッドの騎士となったとか、将来アンデッドとなる予兆としての冒涜的な将来の洞察(Profane Insight)がされていた、など解釈はいろいろできそうだ。
穢れ沼の騎士にはショーケース・フレームの特別デザイン版も存在している。
残忍な騎士
残忍な騎士(Murderous Rider)はカードセット「エルドレインの王権」に収録されたクリーチャー・カードである。
このカードはアンデッドのゾンビ騎士である。
出来事の方は「迅速な終わり(Swift End)」である。この騎士が命を落としたことを表しているのだろう。その後、クリーチャー・カードとしてアンデッド化した姿で戦場に出ることになる。
カード名の「Rider」が「騎士」と訳されている異例のカードである。MTGでは通例、カード名の「Rider」は「乗り手」か「騎手」と訳されてきた言葉である。カードセット「エルドレインの王権」においても、他の「Rider」カードは「乗り手」と訳されている。しかしなぜ、「Rider」と「Knight」は、それぞれ「乗り手」と「騎士」と区別して翻訳されていたのに、このカードだけは「騎士」にしたのだろうか?
残忍な騎士にはショーケース・フレームの特別デザイン版も存在している。
失われた軍団
Even death cannot diminish the persistence of the kights of Locthwain.
死でさえも、ロークスワインの騎士の執念を弱めることはできない。
引用:失われた軍団(Lost Legion)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
失われた軍団(Lost Legion)はカードセット「エルドレインの王権」に収録されたクリーチャー・カードである。
アンデッドの騎士の中でも「ゾンビ」でも「スケルトン」でもなく「スピリット」である騎士。MTGでは、アンデッドでもいわゆる非実体な幽霊(Ghost)のクリーチャー・タイプは「スピリット」に分類される。
このカードに関しては別の記事で解説している。
不死の騎士
“Headed to the wilds? Beware the dead riders who serve the Shadow Queen.”
–Scalan, Edgewall innkeeper
「僻境に向かうのか?影の女王に仕える騎士の亡霊には気を付けな。」
–エッジウォールの亭主、スカラン
引用:不死の騎士(Deathless Knight)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
不死の騎士(Deathless Knight)はカードセット「エルドレインの王権」に収録されたクリーチャー・カードである。このカードは骸骨の騎士だ。
フレイバー・テキストに関して3つ解説する。
まず初めに、フレイバー・テキストでは不死の騎士たちが仕える僻境の「影の女王(the Shadow Queen)」に言及しているが、カードセット「エルドレインの王権」時点では正体不明であった。
次に、フレイバー・テキストの発言者はエッジウォールの亭主(Edgewall Innkeeper)のスカラン(Scalan)である。
そして最後に、フレイバー・テキストの和訳製品版で「騎士の亡霊」と訳している部分は、原文は「dead riders」つまり「死者の騎兵団」くらいの意味である。この文だけで考えれば意訳の許容範囲内で、些細な違いに感じるかもしれないが、実はそうでもない。MTGではカード名で「亡霊」と和訳されるクリーチャーはほぼ全て非実体イメージを持つクリーチャー・タイプ「スピリット」のカードである。したがって、実体を備えたアンデッドを指して「亡霊」と訳を当てるのは、MTGの和訳が培ってきた言葉のイメージにそぐわないのだ。
不吉な騎手
不吉な騎手(Fell Horseman)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたクリーチャー・カードである。出来事は既死の馬(Deathly Ride)だ。
リッチの騎士の征服
In their rotting minds, they still quest for virtue and glory.
彼らの腐敗した心は未だに徳行と栄光を追い続けている。
引用:リッチの騎士の征服(Lich-Knights’ Conquest)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
不吉な騎手(Fell Horseman)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたソーサリー・カードである。
イラストでは、跳ね橋を渡ってリッチ騎士たちが征服へと出陣する様子を描写している。もしや、この跳ね橋は影の城ディニスタンの城門に続くものではないだろうか?
フレイバー・テキストでの和訳には不備がある。
王国の5宮廷の「virtue」の定訳は「美徳」であるが、「エルドレインの森」ではこれをちゃんと踏襲していない。このカードのフレイバー・テキストでは「徳行」と訳し、他のカード名では「徳目」といった具合だ。
王国の「美徳(virtue)」はストーリー用語として定義されており、カードや記事やストーリーで何度も言及される重要語句だ。日本語の意味合いとしては「美徳」も「徳行」も「徳目」も大体同じだからいいというものではないのだ。ここを蔑ろにする翻訳方針は甚だ不可解である。
これはバンドルという製品に保続した特別イラスト版(英語のみ)だ。
日本ウィザーズ社の独自記事
日本ウィザーズ社のサイトには、本社にはない日本独自のエルドレインの王権ストーリー記事と漫画がある。『エルドレインの王権』物語ダイジェスト:第5回 残忍な騎士とマンガで分かる! Magic Story『エルドレインの王権』編の2つの記事だ。
そこではリッチ騎士は記事タイトルで残忍な騎士(Murderous Rider)と呼ばれ、イラストも残忍な騎士をそのまま模写している。しかし上述の通り、原典である小説「Throne of Eldraine: The Wildered Quest」のリッチ騎士は残忍な騎士とイコールではない。想像するに残忍な騎士は強力なカードとしてデッキによく採用されてるため、日本ユーザーへの分かりやすさを優先した結果、リッチ騎士を残忍な騎士として描写したのであろう。
ちなみに漫画版では槍でタイタスを攻撃して突き殺してしまうが、小説ではそうではない。リッチ騎士は初撃こそ槍の一突きだったものの、その後は槍ではなく剣を抜いて襲い掛かって来た。そしてタイタスの命を奪った手段はリッチ騎士の致死性の魔法の霧である。
この漫画版は前回の灯争大戦の漫画同様に短い漫画として非常によくできている。ただし、設定考証的におかしい部分3が目につくのが前回同様に残念なところだ。
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