るつぼのゴライアス、ケテク(Kethek, Crucible Goliath)はカードセット「ファイレクシア:完全なる統一」に収録された伝説のクリーチャー・カードである。
今回は、「るつぼのゴライアス」のケテクに関する設定、および5年前の前身となる「炉焚き」のケテクをまとめて取り上げた。
追記(2023年2月17日):設定解説記事の公式和訳版に関して指摘する節を記事最後に新設した。
るつぼのゴライアス、ケテクの解説
るつぼのゴライアス、ケテク(Kethek, Crucible Goliath)は新ファイレクシア次元のファイレクシアンである。女性。
赤の法務官ウラブラスクと黒の法務官シェオルドレッドの同盟軍を指揮する将軍であり、AR4562年のエリシュ・ノーンに対する反乱において統一戦線を指揮した。
ケテクはゴライアスという名称通りの巨躯を誇る、無慈悲な多脚ビースト型ファイレクシアンだ。足は全部で5本あり、他よりやや短い前足が2本1組、中足も2本1組、後足は胴体最後部下側に1本だ。両前足の先端部は火炎放射器となっている。
胴体上部には(これまた二つ名通りの)「るつぼ」があり、アームで捕らえた敵を放り込んで熔解してスラグにしてしまう。イラストで確認できるアームは1本だけだが、ケテクにはハンマー状アームが多数備わっており、スラグを材料にして再び鍛え直して、消耗品の兵士を製造する。イラストではケテクの前方に2体の小型ファイレクシアンがおり、これらがケテクの生産物だ。彼女はさながら歩いて戦う工場だ。
るつぼのゴライアス、ケテクの設定
るつぼのゴライアス、ケテクの設定は、設定解説記事The Legends of Phyrexia: All Will Be Oneの解説を整理すると次の通りだ。
ウラブラスクはエリシュ・ノーンに対する反乱には同盟者が必要だと理解しており、非情なるシェオルドレッドが選ばれたのは当然の結果であった。親善の証として、同盟両陣営は力を合わせ、統一戦線を指揮する新たなファイレクシアンの将軍を創造した。こうしてケテクが完成した。
ケテクは無慈悲なゴライアス(巨人)であり、彼女は体内に組み込まれた火炎放射器で敵を熔解してスラグに変える。そして、ハンマーのような多数のアームを駆使し、それらをウラブラスクとシェオルドレッドのために働く消耗品の兵隊へと鍛造し直すのである。
るつぼのゴライアス、ケテクの関連カード
危険な爆風
The Machine Orthodoxy finds strength in numbers. The Quiet Furnace finds that amusing.
機械正典は数こそ力と考える。静かなる焼炉には愉快なようだ。
引用:危険な爆風(Hazardous Blast)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
危険な爆風(Hazardous Blast)はカードセット「ファイレクシア:完全なる統一」収録のソーサリー・カードである。
イラストには、ケテクが両前足の火炎放射器で敵の群れを焼き払っている場面が描かれている。
ウラブラスクの溶鉱炉
ウラブラスクの溶鉱炉(Urabrask’s Forge)はカードセット「ファイレクシア:完全なる統一」収録のアーティファクト・カードである。
カード名で「溶鉱炉」と訳されているが、「Forge」は「(鍛冶場の)炉」の他に「鍛冶場」や「鉄工所」といったもっと広い意味も含んでいる。
カード名やイラスト、カードの機能を総合的に見るに、これは赤陣営「静かなる焼炉」の巨大炉を表現したカードで、赤のファイレクシアン・ホラーの軍団を続々と生み出す生産工場でもある。イラストでは炉の右側から猟犬型ファイレクシアンが次々に出撃している。
「注目のストーリー・カード」であることから、これがウラブラスク反乱軍にとって重要な生産機械だと考えられる(おそらく同タイプが幾つもあるのだろう)。
さて、イラストの炉の形状を観察すると、ケテクの胴体部とよく似ていることが分かる。特にケテクの前面部がそっくりだ。溶鉱炉機能と生産能力の組み合わせもケテクと同一である。したがって、この種の炉の設計がケテクのボディに活用されたのは間違いあるまい。
炉焚きのケテク
設定解説記事The Legends of Phyrexia: All Will Be Oneでは、ケテクは新規キャラクター枠に分類されている。だが実際は、ケテクは過去に登場済みの既存キャラクターなのである。
ケテクの初出はカードセット「ミラディン包囲戦」だ。「ファイレクシア:完全なる統一」の5年前、AR4557年時点で既に、ケテクは新ファイレクシアの赤陣営の一員だったのである。その証拠が次で紹介する核への投入(Into the Core)だ。
核への投入
“They believe they’re driving us back, but we’re leading them to their doom.”
—Kethek, furnace stoker
「やつらは我々を押し返したと思っているんだろうが、こちらが奴らを破滅へと引き込んでいるのだ。」
—炉焚きのケセック
引用:核への投入(Into the Core)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
核への投入(Into the Core)はカードセット「ミラディン包囲戦」収録のインスタント・カードである。文章欄にファイレクシアの透かしが入っていることから、このカードは新ファイレクシアの赤陣営に属している。
注目すべきはフレイバー・テキストの発言者だ。和訳製品版では「炉焚きのケセック」と訳されていたが、原語は「Kethek, furnace stoker」つまり現在の和訳の「ケテク(Kethek)」その人である(赤派閥に同名のケテクが2人いるのはあまりにも不自然な設定なので別人とは考えにくい)。
新ファイレクシアがミラディンに侵略戦争を仕掛け征服していったAR4557年当時、ケテクは赤派閥「静かなる焼炉」所属のファイレクシアンで、当時の二つ名は「炉焚き(furnace stoker)」であった。
5年前の「炉焚きのケテク」がどのようなキャラクターであったのか、このフレイバー・テキスト1つしか情報はない。だから、後は推測するしかなくなる。
「炉焚き」から「るつぼのゴライアス」へ
設定情報では赤と黒の同盟軍の新たな将軍として、「るつぼのゴライアス、ケテク」が創られたとされる。「炉焚きの」ケテクは新将軍の素体となって大改造を施され、「るつぼのゴライアス」のケテクへと生まれ変わったと解釈するのが妥当に思える。
今のケテクの人格や記憶が、5年前の炉焚き時代と同じであるかは怪しいところだ。ファイレクシアは姿形や人格や記憶も含めて改造したり、複数人格を統合したりで変質させることを平気でやるのだから(直近の例を挙げるなら、ゲスを素材の1つとして創られたヴィシュグラズ)。
設定解説記事の公式和訳に関する指摘
公式記事The Legends of Phyrexia: All Will Be Oneでは、このキャラクターに関する解説文が公開されている。
公式和訳版『ファイレクシア:完全なる統一』の伝説たちの方は元記事の2週間遅れで公開されているが、その翻訳内容に怪しいと感じる部分があるのでその点を以下に書き残しておく。本サイトでの記述内容が、公式和訳版記事と食い違っている理由はここにある。
Urabrask knew he would need allies in his rebellion against Elesh Norn, and ruthless Sheoldred was the obvious choice. As a gesture of goodwill, these allies worked together to create a new Phyrexian general to lead their united front. Kethek is a merciless goliath who uses the flamethrowers built into her body to melt her enemies into slag. Then, with her many hammer-like arms, she reforges them into cannon fodder for Urabrask and Sheoldred.
エリシュ・ノーンへの反乱には仲間が必要とウラブラスクは認識しており、冷酷なシェオルドレッドは当然の選択であった。見せかけでも友好を示すために両軍は協力し、統一戦線を率いる新たなファイレクシア人の将軍を作り上げた。ケテクは無慈悲なゴライアスであり、身体に組み込まれた火炎放射器を用いて敵を金屑へと融かしてしまう。そして鎚のような何本もの腕でそれらを砲弾に変え、ウラブラスクとシェオルドレッドのために用いる。
引用:公式記事The Legends of Phyrexia: All Will Be One/『ファイレクシア:完全なる統一』の伝説たち
その1:ケテクの性別
公式和訳版ではケテクの性別が記されていない。原文においては「her body」「her enemies」「her many hammer-like arms」と3回もケテクを人称代名詞で「彼女」と記している。
ケテクは意識と知性を有するただの戦闘機械ではなくて性別が持たされており、しかも、ゴライアスという厳つい名前と姿なのに女性である。和訳から取りこぼされてしまったこの意外性こそが、ケテクというキャラクターの売りポイントかも知れない。
その2:見せかけでも友好を示すために
ウラブラスクとシェオルドレッドの両陣営はケテクを協力して造り上げた。この際に公式和訳版は「見せかけでも友好を示すために」と前置きを入れている。協力関係が「見せかけ」だと評しているが、原文にはそんな含みはなく、和訳で勝手に差し込んだ余計な解釈である。
原文は「As a gesture of goodwill」となっており、これは「親善の証として」とか「友好を表して」とかいった程度の意味に過ぎない。わざわざ「見せかけ」だなんてあからさまに書いちゃいないのだ。ウラブラスクとシェオルドレッドの同盟関係が実際のところはどうか、2人の腹の底はいかなる考えなのか、その辺は連載ストーリーでも言及されていない。
その3:砲弾
公式和訳版には、ケテクは敵を金屑(スラグ)にした後に、「それらを砲弾に変え」ると書かれている。ここの「砲弾」が誤訳である。
原文の「cannon fodder」とは直訳すれば「砲弾の餌食」となるが、これは「消耗品の兵士」「使い捨て要員」を意味する言葉なのだ。ケテクはイラストとカードの機能の両方でも、クリーチャーを別のクリーチャーへと変換している。明らかに生産物は「砲弾」ではなく「消耗品の兵士」だ。
さいごに
今回も、このところの流れを継続してカードセット「ファイレクシア:完全なる統一」の伝説キャラクター解説記事として書いてみた。
実は今日、設定解説記事の公式和訳版「『ファイレクシア:完全なる統一』の伝説たち」が公開された。元記事から2週間も経過したが日本語で紹介されたことは喜ばしい。
ただし、その和訳文については色々といいたいことがある。例えば、ケテクが実は「女性」であることとか公式和訳を読んでも分からないのだ。ケテクの項目だけでも他にもあるのだけれど、その辺は後ほど記述を書き足すかもしれない。→本記事の最後に既に加筆済み。
では今回はここまで。
るつぼのゴライアス、ケテクの関連記事
ファイレクシア完全なる統一:MTGアリーナの豆知識
ファイレクシア完全なる統一:ドミヌス
ファイレクシア完全なる統一:スクレルヴとダニ
ファイレクシア完全なる統一:ネズミの王、カルモニクス