カルドハイム:ニコ・アリス

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ニコ・アリス(Niko Aris)カードセット「カルドハイム」で登場する新キャラクターである。テーロス次元出身の人間のプレインズウォーカーである。

※ 2021年1月8日追記:ニコ・アリスのカードが公開されたので記事に追記と一部内容の修正を行った。例えば、ニコ・アリスの属性を青→白青に、「Shard」の訳語を「欠片」→「破片」に。

ニコ・アリスの解説

ニコ・アリス(Niko Aris)はテーロス次元出身の人間プレインズウォーカー。ノンバイナリー。2021年2月発売のカードセット「カルドハイム」で登場する新キャラクターだ。ニコ・アリスは、投げ槍の名手となる神託された「運命」に逆らい「英雄」を目指す人物である。ゲーム上の色は白青に属している。

2020年12月時点で判明している情報はまだ少なく、公式記事Creating Niko Aris(公式翻訳版:ニコ・アリスの創造)の内容がほぼ全てであった。年が明けて2021年1月8日(日本時間)には、プレインズウォーカー・カードとしてのニコ・アリスが公開され、およそ1日後にニコ・アリスの短編第1話Know Which Way the Wind Is Blowing公式和訳版)が掲載された。



ニコ・アリスの来歴

ニコ・アリス(Niko Aris)

ニコ・アリス(Niko Aris)
公式記事Creating Niko Arisより引用

ニコは子供の頃、決して外すことのない偉大な投げ槍選手となると神託を受けた。しかし、成長したニコは定められた運命に疑念を抱き、競技でわざと負けることで、運命に反抗できることを証明した。運命の神クローティスはその反抗を許さず、工作員を差し向けて元の運命に引き戻そうとしたことで戦いとなった。ニコは工作員との戦闘でプレインズウォーカーの灯が点火しテーロス次元を旅立った。

カードセット「カルドハイム」現在では、カルドハイム次元で「英雄」となろうと志し、そして「英雄」の何たるかを模索中のようだ。

ニコ・アリスの破片

ニコ・アリスは鏡状の魔法エネルギーの「破片(Shard)」を生成する。破片は様々な大きさで投擲が可能な武器である。短剣や槍として刺すこともできる。

さらに、破片は武器としてよりもっと特殊な性質を備えている。この破片は最初に接触した生物を超次元空間へと一時的に収納してしまう特性があるのだ。ただし、ニコ・アリス自身はこの特性で収納されない。

収納された者は外部に干渉できなくなり、まるで分厚い窓ガラス1を通すようにしか見たり話したりできなくなる。

この破片を利用すると敵を中に閉じ込めたり、仲間を避難させて守ったり、援軍を収納して運んだりできる。ただし、収納時間は短期間であり、普通の人でも数分間で破壊できるし、強大な存在なら数秒しか持たないだろう。

カード・メカニズムとしては、ニコ・アリスの機能の全てが「破片」を意識したものになっている。まず「破片トークン」を生成する能力がまさにそれだ。自軍クリーチャーをブロック不可にしたり、手札に戻したりも破片による一時的収納を表すものだ。タップ状態のクリーチャーへのダメージは投げ槍として破片を使った場合であろう。ちなみに、破片トークンはエンチャントで、2マナを払って生け贄に捧げると、占術1を行ってカードを1枚引くという能力があるとのことだ。

ニコ・アリスの翻訳記事

ニコ・アリスの情報は、公式記事Creating Niko Arisで制作陣の対話形式で語られている。この記事の公式翻訳版ニコ・アリスの創造の方で、いくつも気になる部分が目についた。

公式和訳記事に目を通して、引っ掛かりを覚えた中でも特にこれはと思った部分をピックアップして読み解いてみた。

気になるポイントその1

Katie Allison: We’re meeting Niko early in their story, so, to some degree, they’re still figuring that out!
ケイティ・アリソン:ニコとは物語の序盤で出会えるでしょう。ですからある意味、ニコはまだ見極めている最中です!
引用:上が原文記事。下が公式和訳版

気になるポイント1つ目は「ニコがカルドハイムのストーリー序盤で登場する」とは記事には書いていないことだ。

記事原文の「early in their story」の「their」は「ニコ」のことである。ノンバイナリーだから「his」でも「her」でもなく単数形で「their」となる。ニコ自身の物語でも早い時期ということだ。

一方で公式和訳版の「ニコとは物語の序盤で出会えるでしょう。」はニコ自身の物語であることが見えない。そして、この記事がカードセット「カルドハイム」のプレビュー記事という性質が加わると、誤読を引き起こさせてしまうのだ。つまり、「ニコはカルドハイムの物語の序盤で出会える」という旨に読み取られるのだ。この作文の曖昧さはよくない。

私たちは今、ニコの物語でも序盤に立ち会っているのです。

本来はこれくらいの意味合いではないだろうか?

気になるポイントその2

Imagine Niko “missing” and throwing a shard behind an enemy, only to have Garruk or Ajani burst out and flank their foe.
ニコが「いなくなって」、敵の背後に欠片をひとつ投げ、ガラクやアジャニが弾け出て敵を挟み撃ちにする、というのを想像してみてください。
引用:上が原文記事。下が公式和訳版

気になるポイント2つ目はかなりひどい。

この流れで「Niko missing」を「ニコが失踪する」と解釈するのは無理がある。もちろん原文の「missing」は「的を外す・狙いを外す」の意味だ。

もし仮に「いなくなって」が正しい解釈だったとして、なぜどうやってニコはいなくなったのだ?破片の中に本人が退避したとでもいうのだろうか。だが、「ニコ自身は触れても取り込まれない」旨が先に断られているので、前提を無視することになる。それにニコがいなくなったら、破片から出現した1人だけになるので挟撃状態が成立しない。やはり「いなくなって」解釈は無理だ。

したがって、こんな感じになるだろう。

想像してみてください。ニコが「わざと外して」投げた破片が敵の背後に落ちると、突然ガラクやアジャニが出現して、敵を挟み撃ちにしている場面を。

ニコが投げた破片が『狙いを外れて』敵の背後に落ちた…にも拘らず、ガラクやアジャニが突如出現して挟撃!なにからなにまで狙い通りだぜって感じだ。

気になるポイントその3

We wanted a power set that would enable Niko to make creative use of both their cleverness and their physical prowess.
器用に、かつ肉体的な力の両方で創造的に使用できる力をニコに与えたいと思いました。
引用:上が原文記事。下が公式和訳版

すんなり入ってこない日本語…。副詞の「器用に」と名詞の「(肉体的な)力」を並列して「両方」とまとめるのは不自然だ。

私たちはニコに、賢さと身体能力の両方を創造的に活用できるような能力の組み合わせを持たせたかったのです。

こういうこと?

気になるポイントその4

We wanted to create a set of abilities that was effective because of how they used it, not a cannon of raw power.
脳筋ではなく、使用法によって効果的となる能力の組み合わせを作りたかったのです。
引用:上が原文記事。下が公式和訳版

「脳筋」って言葉選びはどうかと思う。もともとこの言葉は人を馬鹿にするニュアンスがある。

原文を確認すれば、「a cannon of raw power」=「パワーそのものを打ち出す大砲」だ。どこにも「脳筋」の含みはない

つまり、この文には、特殊能力が何らかのエネルギー弾であったとしても「パワーそのものを打ち出す大砲キャラ」に過ぎなければ、それが鏡でも火炎でも稲妻でも結局は同じになってしまう、という危惧が含意されているわけだ。違いを持たせて個性を引き立てたいだけで、「大砲キャラ」を馬鹿にするニュアンスだってそもそもない。

それに、そういう「パワーをぶっ放す大砲キャラ」が「脳筋」であるわけでもない。

ヤヤ・バラード(Jaya Ballard)

ヤヤ・バラード(Jaya Ballard)
データベースGathererより引用

古参キャラクターの中に口も頭も回る大砲キャラいるよね?ヤヤ・バラード(Jaya Ballard)という女傑が。

ただのエネルギー大砲ではなく、使い方次第で効果を発揮できる能力の組み合わせにしたかったのです。

だからまあ「脳筋」なんて単語を持ち出さないで、こんなふうに訳せばいいんじゃないかと思うのだ。

ニコ・アリスが頭が切れて一筋縄ではいかない実力者だって魅力を語る時に、他の属性を下げる訳語をわざわざ選ぶ必要はないのだから。



気になるポイントその5

AS: There’s a lot of me in Niko. At one point, while discussing their color identity, I said that I thought of myself as having the morality of white with the methodology of blue, and that helped guide us to put Niko into a similar spot. As far as Niko’s gender is concerned, I don’t have non-binary lived experience to draw on. Being a binary-gendered woman, the closest I have is the vaguely adjacent experience of being trans. So instead, I applied lessons we learned from making Alesha back in Fate Reforged (of which I was a central part) and took my cues from the non-binary folks in the room.
アリソン:ニコの中にはたくさんの私を込めました。ある時、ニコの色について議論していた際に私は言いました、「私自身は白の独特性と青の方法論を持っていると思う、そしてニコを同じところへ持っていく助けになるだろう」と。ニコの性別に関して、頼ることのできるノンバイナリーな体験は私にありませんでした。男性女性で言うなら女性として、一番近いのは、トランスジェンダーに漠然と近づく経験です。そのため代わりに、過去に『運命再編』でアリーシャを作り上げた際に学んだレッスンを応用し(私はその中心でした)、ノンバイナリーの人々を集めてヒントを得ました。
引用:上が原文記事。下が公式和訳版

公式和訳は要点がさっぱりわからない。

アリソンは原文で「There’s a lot of me in Niko.」つまり「ニコの中には私と多くの共通点がある。」と述べただけで、公式和訳の「ニコの中にはたくさんの私を込めました。」みたいに、能動的に自分の要素を込めて創作した、とまでは言っていない。

その上、「独特性」という言葉の意味が分からないし、議論中の発言の区切りもおかしい。その直後に、話題の切り替わりがあるのに意識的な書き分けが見られないために、前半で振った「ニコを同じところへ持っていく助けになる」という話が回収されぬままに文章が続いていく…。

ゆえに、公式和訳は要点がさっぱりわからない。

では訳してみる。

ニコの中には私と多くの共通点があります。ある時、ニコの固有色について議論していた際に、私はこう言ったのです。私は青の方法論を備えた白の倫理感を持っていると自分では考えています、と。するとそれが私たちの指針となって、ニコは似たような位置に収まりました。でもニコの性別に関する限り、私には参考にできるノンバイナリーな体験がありません。バイナリー・ジェンダーの女性である私にとって最も近いものは、トランス・ジェンダーとの関わりが漠然とですが隣り合った経験になります。そこで私は、「運命再編」で(私が中心的な役割を果たした)アリーシャの創作において学んだ教訓を応用することにし、その場にいたノンバイナリーの人たちからヒントを得ました。

アリソンはニコと共通点が多い。アリソンが「青の方法論を備えた白の倫理感を持っている」ならば、ニコも同じようになるのではないか?その方向からアプローチした結果として、ニコの色はアリソンと似た位置の「白青」に収まった。前半はそういう流れだ。

2021年1月8日追記:ニコ・アリスのカードが白青であると判明したため一部記述を変更。公式記事Creating Niko Arisの記述を合わせて考えるに、ニコ・アリスは元々「青」のキャラクターとして創作が開始されたが、固有色の議論で「白青」へと変わっていった、という推移であろう。追記ここまで

そして、後半は話が切り替わる。前半がアリソンとニコの共通点だったのに対して、今度はアリソンが体験として分からない部分に切り込む。バイナリーな自分にはノンバイナリーの体験はない。しかし、過去にトランス・ジェンダーのキャラクター(アリーシャ)を創作した経験があるので、今回はその時の教訓をもとにして創作することを選んだのだと。

以上のように、原文は前半は共通項からのアプローチで、後半は過去の教訓を生かした創作法という、きれいな話の流れになっているのが分かるだろう。

このアリソン・スティールの発言は引用していない部分も含めると、自分の経験や思考と異なる属性に対して、真摯に向き合い模索する話でもあるのだ、と私は感じる。アリソンはニコと共通する要素を自分が持っている、でも自身の経験として共有できない要素もあるのは事実だ、と潔く認める。その上で、ではニコという人物像への理解を深めるために、過去の自身の創作事例を踏まえ、今回はこれこれこういう働きをした。チーム全体で活き活きとした創造性を発揮できたと結んでいる。

アリソンの前段ではクリス・ムーニイがニコの創作において自身の思考や経験を組み込んだ、と別のアプローチを語っていることからも対比となっているし、それらが同居してニコ・アリスの創作が完成に導かれた事実もまた素晴らしい、と私には感じられてならない。

だから、余計に「アリソン:ニコの中にはたくさんの私を込めました。……」という公式和訳の切り口はよろしくない。これでは、前段のクリスの発言に対して、アリソンが私だって自分をニコの中に込めたんですよ、と張り合い始めたようになっているではないか。翻訳担当(Tr)と翻訳スーパーバイザー(TSV)は真摯に原文に向き合ってほしいと願う。

ニコ・アリス自身の解説よりも、公式和訳記事に関する部分が長くなってしまった。では、今回はここまで。

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  1. 公式和訳記事では「分厚いガラスの板」だが、原文は「a thick pane of glass」