カード紹介:スケイズ・ゾンビの名前について

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スケイズ・ゾンビ(Scathe Zombies)カードセット「リミテッドエディション」(基本セット第1版)に収録されたクリーチャー・カードで、MTG史上初のゾンビでもある。

先日、こちらのスケイズ・ゾンビの記事を興味深く拝見した。

《スケイズ・ゾンビ》【MTGゾンビ雑談 その1】  - ゾンビの黙示録
とあるゾンビについての覚書 フレイバー・テキストにみる文学作品 ボロクソに言われるスケイズ君 スケイズ君のここがすごい ウィザーズ最大の功績 MTGとゾンビの関係について ゾンビの歴史 MTG発売当時のゾンビを取り巻く状況 スケイズ君のゾンビ指数採点 終わりに とあるゾンビについての覚書 初めまして。ゾンビヲタクの不死...

刺激を受けたので、こちらも何かスケイズ・ゾンビに語りたくなった。そもそもスケイズ・ゾンビの「スケイズ」とは一体何を意味する言葉なのか?「スケイズ(Scathe)」は「害する」という意味の英単語であるが、実はドミナリア次元の地名であるという説もあるのだ。今回はこれについて考えたいと思う。

追記(2021年5月15日):イーサン・フライシャーのポッドキャスト発言に関する新たな事実を発見したため追記を行った。

追記(2022年1月23日):スケイズ・ゾンビの登場するストーリー作品を1つ見落としていたので情報を追加した。

スケイズ・ゾンビの解説

スケイズ・ゾンビ(Scathe Zombies)

データベースGathererより引用

スケイズ・ゾンビ(Scathe Zombies)カードセット「リミテッドエディション」(基本セット第1版)に収録されたMTG史上初のゾンビであり、基本セット第10版まで再録されていたMTG初期の定番カードであった。

カードのスペックを見ると、3マナでパワー/タフネスが2/2のバニラ・クリーチャー1であり、最初期でもカードパワーは低く、特筆すべき点は無い。

ストーリー作品では、スケイズ・ゾンビはドミナリア次元のドメインズ地方で存在が確認されている。

そして、このカードにおいて一番気になるポイントは日本語版のカード名「スケイズ」である。次節では「スケイズ」の意味を重点的に語っていきたい。



「スケイズ」って何?

スケイズ・ゾンビ(Scathe Zombies)

別イラスト版のスケイズ・ゾンビ(Scathe Zombies)
データベースGathererより引用

スケイズ・ゾンビ(Scathe Zombies)の「スケイズ」とはいったいどういう意味だろう……何らかの固有名詞なのだろうか?

「スケイズ」の辞書的な意味

辞書を調べると、「スケイズ」と訳された「Scathe」は「害する・傷つける・ダメにする」といった意味だと分かった。しかし、カード名では何故かカタカナで音写した「スケイズ」になっていて、ちょっと不思議である。例えば「害悪のゾンビ」みたいな和訳だってできたはずだ。

これを疑問に思った日本のファンは少なからず居て、日本のMTG wikiなんかでは「まだ翻訳の方針が確立していなかった頃に訳されたためか」なんて推測が記載されていたりもする。

最初のMTG和訳スタッフは「Scathe」をなぜ「スケイズ」にしたのだろうか?私は当時の翻訳裏事情なんて知らないので、以下はあくまで想像の話である。

「スケイズ」と訳した理由は?

もしかすると、翻訳スタッフが「害する」という意味を知らなかった、あるいは、うまく日本語化でいなくてカタカナ音写にした…そういう可能性はあるかもしれない(「Scathe」はあまり普通の英和辞書では見かけない単語ではある)。

だが、それでは面白く無いので、私は古参ヴォーソスらしい切り口で別の可能性を考えてみた。つまり、スケイズ・ゾンビの「Scathe」の意味は「害する」ではなかったのでは?という可能性だ。

というのも、私には思い当たる「小説」があったのだ。

小説ささやきの森

スケイズ・ゾンビが登場したストーリー作品には小説2作品とコミック1作品がある。3作品ともドミナリア次元ドメインズ地方を舞台にしており、小説の方は三部作シリーズの1-2作目だ。

残りの1つがコミック版セラの天使だが、これはスケイズ・ゾンビの名称解明の手掛かりにはならないのでここでは取り上げない(本記事の最後におまけの節で紹介する)。

ではまず、1つ目の登場作品は小説ささやきの森である。

この小説から一部抜粋して紹介しよう。

“Gods of Urza!” squeaked Lily. “Zombies of Scathe!
The woodcutter had no time to wonder where a dancing girl had learned of zombies and whence they came, if Scathe was a place.
「ウルザの神々よ!」リリィが金切り声で言った。
スケイズのゾンビだわ!
ただの踊り子が、どこでゾンビと–スケイズというのが地名だとして–その出どころのことを知ったのか、悩んでいる暇はなかった。
引用:小説ささやきの森
上が英語原文。下が邦訳版(改行の仕方が英語原作と違うのは原文ママ)

これが作中でゾンビが名称を呼ばれるシーンだ。注目してほしいのは、作中での表記は「Zombies of Scathe」であり、カード名の「Scathe Zombies」とは違っていることだ。

さらに、主人公の1人の木こりのガル(Gull the Woodcutter)が「スケイズのゾンビ」と聞いて、スケイズを地名だとみなしていることも確かめられる。

小説Shattered Chains

小説ささやきの森は三部作小説の1作目で、その続編が小説Shattered Chains2だ。この2作目にもスケイズ・ゾンビは登場している。

a line of zombies. Of Scathe, Gull remembered. He’d seen them before, in the burned forest.
ゾンビの群れだ。スケイズの…、ガルは覚えていた。奴らを見たことがあった。あの森の焼け跡でだ。
引用:小説Shattered Chains
上が英語原文。下が私家訳

再びガルはゾンビと遭遇していて「スケイズの(Of Scathe)」という名称を思い浮かべていた。やはりこちらでもカード名の「Scathe Zombies」とは表記が異なっていた。

メモ:
ちなみにガルがゾンビと最初に遭遇した「森の焼け跡」とは、ドミナリアのドメインズ地方ささやきの森にできた隕石のクレーターである。天から降って来た魔力の櫃(Mana Vault)によって森の一角にクレーターができ、その一帯を焼いたのだ。
この場所については以前に記事化しているので、位置の確認などはそちらを参照してほしい。
ドミナリア:隕石のクレーター
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「スケイズ」地名説

スケイズ・ゾンビの登場ストーリー作品を2つ確認した。実はMTG史上初の小説三部作において「スケイズ=地名」として扱われていたのだ。少なくとも主人公ガルの認識としてはスケイズはゾンビの発祥地名だろうとみなしていた。

最初の和訳スタッフはもしかすると、この小説の記述を踏まえて「スケイズ」が地名である可能性を残しつつ訳したのかもしれない。

スケイズ・ゾンビがそう翻訳されたのはカードセット「基本セット第4版」の日本語版の時である(1996年4月発売)。そして、その1年前の1995年1月に小説ささやきの森(原題:Whispering Woods)が発表されていた(邦訳版は1996年7月)。

小説の発売は最初の和訳製品の発売の1年前になるので時期的には無理はない。一応の筋は通っている。

「スケイズ」は地名なのか?

スケイズは本当にドミナリアの地名なのだろうか?小説の登場人物の認識が必ずしも正しいとは限らない。

小説三部作の主役の1人であるガルは、片田舎の木こりの生まれで後に勇猛果敢な将軍にまでなるが、アンデッドの専門家でも博識な魔術師でもなく、頭より体を使うタイプだ。またガルに「Zombies of Scathe」の名称を教えた人物リリィ(Lily)も貧しい境遇の踊り子で、こちらも専門知識を学ぶ機会はなかった。

情報源はガルの推測とリリィの言葉だけで、それらはどれほど信じられるものだろうか…。

スケイズは果たして地名か否か?この20数年来のヴォーソスの長年の疑問に対してクリエイティブ部門からの回答が与えられた。

2018年のカードセット「ドミナリア」期の公式Podcastの質問コーナーで、イーサン・フライシャー(Ethan Fleischer)はスケイズは地名ではないと考えられる、と表明していたのだ。だから、フライシャーのドミナリア世界地図にはスケイズという沼地は作られていないというのだ。

The Magic Story Podcast5 Otaria and The Cabal(スケイズに関しては30分25秒辺りから)

したがって、小説由来の「スケイズ」地名説は無知な登場人物の思い込みであった、と考えるのが正しそうである。

その意味では「スケイズ・ゾンビ」というカード名は余りよろしくない和名であったことになる。だがまあ、20数年前のカードセット「基本セット第4版」翻訳時点では地名ともそうでないとも言えなかったわけなので、こればかりは仕方ない。もしも和訳が小説での解釈に引きずられた結果だったなら、当時としてはむしろ慎重な判断だったと思う。

さて、「スケイズ」という言葉にまつわる諸々は以上、こんなところである。

追記(2021年5月15日):ポッドキャストのイーサン・フライシャー発言について新事実が判明したため追記する。

上記した通り、フライシャーは質問に対しスケイズは地名ではないと考えられると発言していたが、それを受けて質問を出した当人は小説ささやきの森(原題:Whispering Woods)で言及されていたことをMTGのファンサイトで改めて指摘した。すると、フライシャーは小説の件は忘れていたと認めた上で、当時のドメインズ地方地図にはスケイズという地名が記載されていなかったことを引き合いに出し、もし地名であったなら記載したはずであるため、やはりスケイズは地名ではないと考えられると回答をした。しかし、質問者はランドヴェルト のような地名も地図には記載されていないことから、地図にないことは決定的な証拠にはならないと反論をした。

現状はクリエイティブはスケイズは地名ではない方針ではあるようだが、地名として改めて設定される可能性はまだ残されていると感じる。追記ここまで



スケイズ・ゾンビのフレイバー・テキスト

スケイズ・ゾンビ(Scathe Zombies)

別イラスト版のスケイズ・ゾンビ(Scathe Zombies)
データベースGathererより引用

では最後にスケイズ・ゾンビのフレイバー・テキストを紹介しておしまいにしよう。2種類ある。

“They groaned, they stirred, they all uprose,
Nor spake, nor moved their eyes;
It had been strange, even in a dream,
To have seen those dead men rise.”
–Samuel Coleridge, “The Rime of the Ancient Mariner”
うなり、うごめき、そいつらは立ち上がる。
言葉もなし、その目に動きもなし。
それは夢だとしても、あまりに奇妙なこと。
こんな死人が蘇るなど。
–サミュエル・コールリッジ「老水夫行」
引用:スケイズ・ゾンビ(Scathe Zombies)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

まず最初は初出時からお馴染みのフレイバー・テキストだ。これはイギリスの詩人サミュエル・コールリッジの「老水夫行」からの引用である。雰囲気はあるがMTGの世界とは特に関係は無い。

Luckily for them, it doesn’t take much brains to slaughter and maim.
奴らにとって幸いなことに、虐殺や虐待にはあまり脳みそがいらんことだ。
引用:スケイズ・ゾンビ(Scathe Zombies)のフレイバー・テキスト(スターター1999バージョン)
上が英語原文。下が私家訳

2種類目のフレイバー・テキストは、スターター1999再録版のものだ。こちらは引用ではなく、ゾンビが殺したり痛めつけたりすることに脳みそは要らないとの旨をやや皮肉めかして語っている。個人的にはこのフレイバー・テキストはアッサリしていて物足りない。初めて引用でないテキストをもらえたのだから、もっとMTG世界固有の名詞とか差し込んで欲しかったところだ。

おまけ:コミック版セラの天使のスケイズ・ゾンビ

スケイズ・ゾンビは先述した小説2作品の他に、コミック版セラの天使に登場している。

この作品の悪役、魔術師ドライガー(Dreygar)は数々の黒クリーチャーを使役している。その中にはスケイズ・ゾンビ1体がおり、曲刀を持ってセラの天使に襲い掛かり左の肩口に軽い傷を与えたが、反撃の一閃で首を刎ねられた。ぶっちゃけて言えば、登場したコマはわずか3コマのみのやられ役に過ぎなかった。

このコミックは舞台がドメインズ地方の西のどこかで、時代設定は氷河期終焉後の数年か数十年後である。

もし仮にスケイズが今後ドメインズの地名と設定された場合は、このコミックの描写によってAR3000年頃には既にスケイズと名付けられた場所が存在していた証拠となるはずだ。

さいごに

さて、スケイズ・ゾンビについて語れることが尽きてしまった。

では、今回はここまで。

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