スー=チー(Su-Chi)はカードセット「アンティキティー」収録のアーティファクト・クリーチャーのSu-Chiが初出の人型自動機械である。
Su-Chiのフレイバー・テキストおよびアルマダコミックで基盤となる設定が語られた後に、正史である小説The Brothers’ Warではさらに設定が深掘りされたことでカードセット「兄弟戦争」にまで繋がるスー=チーの定番となる姿が固められた。
カードセット「兄弟戦争」には、洞窟の番人、スー=チー(Su-Chi Cave Guard)が収録された他にもスー=チー関係カードが目に入る。
今回はスラン帝国のスー=チー型自動機械の系譜と設定、ストーリーでの扱いなどを取り上げる。
追記(2022年11月19日):スー=チー型自動機械が描かれた採掘場の師、トカシア(Tocasia, Dig Site Mentor)を見落としていたと気付いたため、関連カードに追加した。
追記(2022年12月19日):カードセット「ドミナリア・リマスター」再録バージョンのスランのゴーレム(Thran Golem)を追加した。
スー=チーの解説
スー=チー(Su-Chi)はスラン時代の人型自動機械の1種である。脚部は膝が後ろに曲がる、いわゆる「逆関節」なのが特徴である。
「スー=チー」という名称で認知されているが、後世の考古学者が発掘遺物に記された1組の文字を翻訳して命名した仮の呼称であり、スラン人による正式な名称とは限らない。
スー=チー型人型自動機械だと明示されたクリーチャー・カードは、カードセット「兄弟戦争」現在でSu-Chiと洞窟の番人、スー=チー(Su-Chi Cave Guard)の2種類が存在している。
スー=チーの登場ストーリー
スー=チー(Su-Chi)はストーリー作品では、コミック版アンティキティー戦争vol.2と小説The Brothers’ Warに登場している。
コミックではミシュラが発掘遺物であるスー=チーの復元作業に従事する場面が描かれたのみだが、その一方、小説ではスー=チーはより多くの役割と登場場面を持たされていた。
小説The Brothers’ Warでの登場場面を大雑把にまとめると以下の通りだ。
スー=チーの頭部パーツを発掘
AR10年夏までに、考古学者トカシア(Tocasia)の発掘チームが、この種の自動機械の頭部を発見した。
青い素材で作られた骸骨パーツの内側には1組のスラン文字が刻まれており、トカシアは大雑把に「スー=チー」と訳すことができたものの、その名前がこの機械自身なのか、所有者か、あるいは製造者かは判然としなかった。遺物の損壊は甚大で、仮に残りの身体の部分を見つけられたとしても復元は無理のように思われた。
コイロスのスー=チー守備隊
AR19年、トカシアとウルザ、ミシュラの兄弟はコイロスの洞窟(Cave of Koilos)の探索を行った。内部にはスー=チー型の複数の残骸があり、似た頭部形状をしていることに加え、膝が逆関節であることも確認できた。
3人はタグシンの広間(Hall of Tagsin)で大きなパワーストーンを目にするも、それが突然爆砕した。兄弟は残った2つの欠片「マイトストーン」と「ウィークストーン」を手に入れた。すると、それまで壁だったはずの場所に扉が開き、6体のスー=チーの巨体が現れ、侵入者である3人に迫ってきた。スラン人の滅亡から5000年後となってもまだ稼働中のスー=チー型が存在しており、この地を警備していたのだ。
ウルザがこれでコントールできるかもしれないと独断で、入手したばかりの石を使用すると、なんとスー=チー達の動きが活力を得たようにより強く、より早くなった。ウルザの石がスー=チー守備隊を強化してしまったのだ。
ならばと、今度はミシュラが自分の石を使おうとするも、ウルザは既にやって無駄だった、もっと強化されてしまう、逃げるぞ、と指示を飛ばした。
3人は必死に逃げるもののこのままでは無事では済まない。ミシュラは再び自分の石を使う決心をする。
ミシュラは、そっちは試したけれど、こっちのはまだだ、やらせてもらう、とウルザが制止するよりも素早く石の力を放った。すると先程とは打って変わって、スー=チー守備隊の先頭の1体が急に生気が抜けたように段差の前でうずくまった。すぐ後ろの1体は不意を打たれて後ろに滑ると、後続2体も巻き込んで階段を落ちてしまい、その3体のうち2体しか再び起き上がれなかった。
「停止しなかった。言っただろう。」とウルザ。「だが足止めにはなったぞ。」とミシュラは言い返した。
こうして何とか3人は、スー=チーに捕まらず無事に洞窟外には逃げてこられた。しかし、外には別の障害が待ち受けていた。→この続きはスランの蜘蛛の記事のストーリーを参照のこと。
スー=チー型を基にした人型自動機械の開発
コイロスの洞窟の探索から数年後、兄弟はそれぞれに人型自動機械を発明することになる。その基盤にはスランのスー=チー型を研究したデータがあった。
ウルザの人型自動機械第1号は、後に報復者型(アヴェンジャー)と呼ばれるシリーズの最初の1体であった。この開発の系譜が、改良した剣型や簡易量産型のヨーティア兵などの様々なバリエーションや、弟子のタウノスの粘土像型などの亜種を生み出すことになる。
ミシュラの方は、宮廷として建造した工廠に組み立て作業員を配備していたが、ギックスの分析によるとスー=チー型と同じ技術であった。
その後のコイロス
一方、コイロスでは兄弟が石を持ち去ってから9年の月日が流れた。
AR28年、ファイレクシア次元からコイロスの洞窟に法務官ギックス(Gix)が出現した。ギックスの信奉者がテリシア北部の僧院から夢の幻視に導かれて、この地に集まりギックスを出迎えた。ギックスはコイロスの洞窟を拠点として支配下に置く。信奉者はスー=チー型を修復して活用したのだった。
こうして兄弟戦争の終戦までは、整備を受けたスー=チー型たちが各々の役割を果たして活動し続けていたと考えられる。
次の節ではスー=チーのカード2種類を取り上げて詳しく見ていこう。
スー=チーの名を冠するカード
この節ではスー=チーの名を冠するアーティファクト・クリーチャー・カード2種類を紹介しよう。
カードセット「兄弟戦争」現在でSu-Chiと洞窟の番人、スー=チー(Su-Chi Cave Guard)の2種類が存在している。
この2種類のカードに対して、カード・メカニズムと数字へ拘る類似性を明らかにするとともに、外見デザインに関する考察を行っている。
Su-Chi
Flawed copies of relics from the Thran Empire, the Su-Chi were inherently unstable but provided useful knowledge for Tocasia’s students.
スー=チーはスラン帝国の遺物の複製品だが欠陥があり、本質的に不安定だったものの、トカシアの生徒達には有益な知識をもたらした。
引用:Su-Chiのフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が私家訳版
Su-Chiはカードセット「アンティキティー」収録のアーティファクト・クリーチャーである。このカードが最初のスー=チーである。
カード・メカニズムと数字の「4」
カード名の「Su」と「Chi」はそれぞれ北京語と台湾語で「4」を意味する言葉として名付けられたものだ。
カードのメカニズムは「4」に拘って揃えたデザインとなっている。呪文のコスト、パワー/タフネス、死亡誘発で出る無色マナは全て4なのだ。
Su-Chiの外見
イラストに目を向けると、頭部と肩辺りまでしか描かれていないため全身像が把握できない。2つの目がありコウモリに似た顔つきで、狼のような開いた口とその先に生えた牙、隙間からは結晶化した脳を覗かせている。こうした見えている分でも現在定番のスー=チーの姿とはかけ離れたデザインだ。
この独特な頭部のオリジナルデザインはアルマダコミックと小説The Brothers’ Warで踏襲された。ただし、見えていない体の方は、人型に近いコミックと、逆関節の膝の小説とで大きく異なっていた。
とはいえ、フレイバー・テキストを考慮して補完すれば、これはスランの遺物に足りない部分を継ぎ足して形に組み上げた欠陥有りの複製品である。外見上の違和感はそういった事情で生まれたものとして吸収してしまえばいいレベルだ。ミシュラが復元した姿とすれば、彼のアレンジが入っていると解釈もできよう。
Vintage Mastersバージョン
この別イラスト・バージョンはPCゲームMagic Online限定のカードセット「Vintage Masters」再録時のものだ(2014年)。
ブラッシュアップされた姿となっており、これはこれで素晴らしいものの、残念ながら小説The Brothers’ Warの描写には忠実ではなかった。設定重視のイラスト発注指示が出されず、スタイリッシュな自動機械のイメージで創作がされたのだろう。
Su-Chiのトリビア
MTGの多元宇宙の歴史において、スラン帝国(Thran Empire)は大きな影響力を後世に与えた文明であった。パワーストーンに裏付けられた工学知識。遺物として発掘される様々な機械。多元宇宙の脅威ファイレクシアの発祥。などなど。
実は、このスラン帝国にMTG史上初めてその存在に言及したカードというのが、このSu-Chiなのである。フレイバー・テキストに出てくる「the Thran Empire」の文字列。意外なことにカードセット「アンティキティー」には、これ以外のどこにもスランは登場していなかったのだ。Su-Chiが居なかったら歴史が変わっていたかもしれない?
洞窟の番人、スー=チー
洞窟の番人、スー=チー(Su-Chi Cave Guard)はカードセット「兄弟戦争」収録のアーティファクト・クリーチャー・カードで、スー=チーの名前を冠するMTG史上2番目のカードでもある。
小説The Brothers’ Warでは、コイロスの洞窟のスー=チーは「Su-Chi Guardians」つまり「スー=チー守備隊」とも呼ばれている。このカードはそこからの命名に違いない。
カード・メカニズムと数字の「8」
カードのメカニズムに目を向けると、オリジナルが「4」で揃えていたように、今度は倍の「8」に拘っている。呪文のコスト、パワー/タフネス、死亡に出るマナの数が8点に倍化だ。スー(4)とチー(4)で、4が2つで合計8だとでもいうように。
ただし、この強化にはストーリー的な裏付けがあるように思える。
上述したように、ストーリー上ではコイロスの洞窟から脱出する際にスー=チー守備隊が追ってきた場面がある。このカードのイラストには、若いウルザ(手前)とミシュラ(奥)の2人が書き込まれており、逃走場面に当てはまる状況だと分かる。
とすれば、この時のスー=チーはウルザのマイトストーンで性能強化された状態だ。それゆえ諸数値が2倍の8になった、というのは理屈が十分通っている。
これは個人的には言いたくはない言葉なのだが、やむを得ない面もあるとはいえウルザの独断が皆を更なる窮地に追いやってしまったという、流石にこの流れでは言われても仕方がないよなと思う。また「ウルザのせい」だって。
洞窟の番人、スー=チーの外見
カードセット「兄弟戦争」の他のキャラクターやその他の外観や装束のデザインと同じように、この新バージョンのスー=チーも小説The Brothers’ Warを下敷きにしつつも、既存イラストとはまた違ったアレンジを加えている。
膝が逆関節なのは小説に忠実であるが、大きく様相が異なるのは頭部である。この新バージョンでは目も口もないのっぺりとした滑らかな金属の塊のような頭部へと差し替わっている。
頭部デザインが大幅に変わってしまったけれど、単純に顔有りタイプと、顔無しタイプの2種類のスー=チーがあるのかもしれない。あるいは、新バージョンの外装を剥いだ下には、オリジナルと同じ目や顔が隠されている可能性もある(どんな理由があるのかは見当はつかないが)。
次は関連カード群をずらずらっと並べて本記事はお終いになる。
スー=チーのその他の関連カード
記事の最後は、スー=チーに関係するその他の諸カードの紹介である。
いくつかのカードは私の独断と偏見で選抜しているので、あらかじめ留意されたい。
※ スー=チーと近い直系でないカードや、ドミナリア次元のスラン起源でないカードは選考から省いている。例:ミラディン次元のマイアの月帯び(Myr Moonvessel)のような別次元、異なる時代のもの。
採掘場の師、トカシア
採掘場の師、トカシア(Tocasia, Dig Site Mentor)はカードセット「兄弟戦争」収録の伝説のクリーチャー・カードである。アルガイヴ人女性の考古学者で発掘キャンプの主であり、ウルザとミシュラ兄弟の師匠である。
カードのイラストでは、採掘場のすぐ側の天幕の下でトカシアはスー=チー型自動機械の上半身の遺物を研究している。小説The Brothers’ Warでは、頭部パーツ発見までしか語られていなかったので、その後に胴体も掘り出されたということだろう。ただし、このイラストでもスー=チー型はのっぺりとした新デザインの頭部で描かれているので、狼に似た顔のある頭部とはまた別に、頭部から胴体込みの状態で新たに発見されたものなのかもしれない。
スランの夜警
Glacian built his automatons to last, and last they did, beyond even the Thran themselves.
グレイシャンはその自動機械を長持ちするように作ったが、実際にそれはスラン自身をも凌駕するほど長持ちした。
引用:スランの夜警(Thran Vigil)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
スランの夜警(Thran Vigil)はカードセット「兄弟戦争」収録のエンチャント・カードである。アンティキティー戦争期までの5000年間、稼働可能な状態で維持されていたスラン帝国の機械を表現している。
フレイバー・テキストは、スラン帝国末期の天才的工学者グレイシャン(Glacian)に言及しており、スー=チー型もまた彼の設計だったことが示されている。
イラストを見るとスー=チー型自動機械が描かれている。しかし、稼働しているスー=チーだけでなく、奥には残骸も存在している。こうして混在した状態は小説The Brothers’ Warでのコイロスの洞窟内描写と合致するものだ。
ウィークストーンの支配力
ウィークストーンの支配力(Weakstone’s Subjugation)はカードセット「兄弟戦争」収録のエンチャント・カードである。
ミシュラがコイロスの洞窟内で初めてウィークストーンの力を発揮させ、一行を追って来るスー=チーの速度を遅くし、動きを鈍化させた場面である。
このカードはマイトストーンの稼動力(Mightstone’s Animation)と対となるデザインである。
猿人の似姿
猿人の似姿(Simian Simulacrum)はカードセット「兄弟戦争」収録のアーティファクト・クリーチャー・カードである。
このカードはクリーチャー・タイプが類人猿で、カード名も猿人を模倣した自動機械であることを証明している。その点でスー=チー型とは異なっているものの、滑らかな外装や逆関節の膝など類似点は多く、同時代の同じ設計思想の兄弟機であることが伺える。
カード自体にはフレイバー・テキストもなく、スラン帝国製の遺物と断定する材料が足りなかったのだが、ウィザーズ社で伝承担当のアドバイザーをしているジェイ・アネリ(Jay Annelli)がスランの自動機械だとしてこのイラストを提示していた(出典記事リンク)。本サイトはそれに従った。
陰極器
Instead of creating a tool that would be damaged by heat, the Thran built one that was charged by it.
熱で駄目になるような道具を作る代わりに、スランは熱で充電するような道具を作った。
引用:陰極器(Cathodion)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
陰極器(Cathodion)はカードセット「ウルザズ・サーガ」収録のアーティファクト・クリーチャーである。
カードのデザインはSu-Chiの直系に当たり、今度は数字の「3」で諸数値が揃えられている。
フレイバー・テキストによると、設定的にもスー=チーと同世代のスランの機械と考えられる。
ただし、イラストでは頭部のような部位こそあるものの、巨大な歯車群とケーブルと軸を組み合わせた剥き出しの動力機構といった外見で、人型自動機械には(アーティファクト・クリーチャーには)とても見えない姿だ。
陰極器は何度か再録を果たしている。カードセット「統率者2014」でフレイバー・テキストは据え置きのまま、イラストが刷新されたこのバージョンはスラン時代の同型機と見做せるものだ。オリジナルの陰極器に人型機械の外装を施せばこの形態になる、といった解釈は有りではなかろうか。
しかし、こうして人型形態となっても、どのスー=チーの外見とも似てはいない。内部機構的には同系統の兄弟機だとは思いたいのだが……。
スランの戦争機械
スランの戦争機械(Thran War Machine)はカードセット「ウルザズ・レガシー」収録のアーティファクト・クリーチャー・カードである。
このカードもスラン時代の遺物である自動機械のカード化である。
1999年の「ウルザズ・レガシー」と2022年の「兄弟戦争」では23年もの隔たりがあるため、同じスランの産物でもイラストの雰囲気が大分異なっているのは仕方が無いことだ。そこを差し引いて見れば、小説The Brothers’ Warのスー=チーと同系の逆関節膝で描かれており、ストーリー作品に忠実なスランの人型自動機械なのである。スー=チー型のような頭部が無いため、そういうバリエーション機なのかも知れない。
胴体前面にはスランの紋章がデザインされている。
イラストの担当者は、元コンティニュイティ・マネージャーのピート・ヴェンタース(Pete Venters)なので既存のストーリー作品設定をきっちり守る姿勢は納得である。
スランの崩落
スランの崩落(Fall of the Thran)はカードセット「ドミナリア」収録の英雄譚エンチャント・カードである。AR-5000年頃のスラン帝国の滅亡を物語として語るデザインだ。
このカードのイラスト下段右側には、スラン帝国の自動機械が描かれている。これもきちんと小説The Brothers’ Warのスー=チーに従って逆関節の膝で描かれており、スランの戦争機械と同型の頭部無しバージョンだ。
スランのゴーレム
Even after thousands of years, the wondrous creations of the Thran guarded the lost empire’s secrets with single-minded devotion.
数千年の時が経った今でも、スランの素晴らしい創造物は失われた帝国の秘密を揺るぎない信心で守り続けている。
引用:スランのゴーレム(Thran Golem)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
スランのゴーレム(Thran Golem)はカードセット「ウルザズ・デスティニー」初出のアーティファクト・クリーチャー・カードである。
これまで何度も再録されてきたカードだが、カードセット「ドミナリア・リマスター」再録版はフレイバー・テキストとイラストが新規に差し代わっている。
数千年経過しても、このゴーレムはスランの遺跡を守護しているとのことだ。イラストでは、逆関節膝のスー=チー型にリデザインされて描かれている。また、ゴーレムの後ろの出入り口はスランの紋章と同じ形である。
さいごに
スー=チーの新バージョン登場ということで、前々から書きたかったことを粗方吐き出せてスッキリした。
カードを眺めていると、今回は小説The Brothers’ Warから明らかに引用した場面が本当に沢山あって、見ていて飽きない。
では、今回はここまで。
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