カードセット「兄弟戦争」の本格的なプレビューシーズンが間もなく始まる。
「兄弟戦争」の物語をより深く理解して楽しむ助けとなるように、アンティキティー戦争期のより細かな年表を作ってみようと思う。数回にわたって、各種公式の出典を調査して時系列を検証行っていく。
第1回目は兄弟戦争の正史、小説The Brothers’ Warの前編である。
小説The Brothers’ War
小説The Brothers’ Warは兄弟戦争(アンティキティー戦争)の正史となる小説である。この作品には兄弟戦争という一連の出来事の枠組みがしっかりと描写されている。時系列を探るならまずはこの作品から始める以外にない。
小説の構成
小説The Brothers’ Warは以下のような4部構成になっている。各部で描く時代の範囲があらかじめ明示されており、作中の記述を読み解けば、かなり詳細な年代が確定できるように配慮して書かれている。
プロローグ:AR63年
第1部:AR10-20年
第1-5章
第2部:AR21-28年
第6-16章
第3部:AR29-57年
第17-29章
第4部:AR57-63年
第30-34章
エピローグ:64年
プロローグの時系列情報
AR63年の大晦日前夜、つまり12月34日の夜。アルゴス島の戦場。
破滅的な戦争終結の1日前を最初に見せる導入部となっている。
第1部の時系列情報
小説の第1-5章が第1部である。
第1部はAR10-20年の期間の出来事であり、始まりがAR10年、終わりがAR20年、それぞれその年の出来事を描いている。
各章ごとに細かく情報を拾って行く。
第1章
年代:AR10年
物語の舞台:トカシアの発掘キャンプ
ウルザとミシュラがブライに連れられてトカシアのキャンプに来る。時期はこの年のシーズン中だが、予定した子供の受け入れが終わった後になる。
P.14 トカシアのキャンプは夏にペンレゴン貴族の子を受け入れる。
P.15 ロランは現在3シーズン目。
P.17 貴族が子供をキャンプに最初に送る歳は10-12歳くらい。
ロランは3年目になることから兄弟より3歳は少なくとも年上。13-15歳と推定。
第2章
年代:AR10-16年
物語の舞台:トカシアの発掘キャンプ
P.25 続く6年の夏シーズン、兄弟はペンレゴンに戻らなかった(現在はAR16年)。
P.25 ロランは5年間ペンレゴンに戻ったまま。
P.25 ウルザ12歳時にオニュレットの前足を分解(AR12年)。
P.26-27 4年間のうちに兄弟は生徒たちのリーダー格になる(AR10-14年)。
P.27 2年目の秋、兄弟の父の訃報が届く(AR12年秋)。
P.27 6年目の春、ロランがキャンプ再訪(AR16年春)。
P.28 1月前の砂漠の雨の後、羽ばたき飛行機械が発見される。その次の週から羽ばたき飛行機械の発掘と回収。キャンプに戻ったのはロラン到着2日前。
P.29 ロランがペンレゴンに帰還。
P.29 羽ばたき飛行機械修復で8か月間経過。AR16年の大晦日(12月35日)、飛行機械の初飛行試験。ミシュラがスランの地上絵を発見。
第3章
年代:AR17-19年
物語の舞台:トカシアの発掘キャンプ、コイロスの洞窟
P.35 地上絵の調査から塚山発見(AR17年)。
P.36 2年間で20の塚山を発見する(AR19年の元日で丁度2年になるから、この時点ではAR19年初頭と推定)。
P.42- 地上絵と塚山の情報からスランの秘密の中心地の位置を割り出す。兄弟とトカシアの3人が探索。スランの秘密の中心地を発見。コイロスと命名。遺跡内調査。(AR19年内と推定。第5章までの情報を考慮すると、AR20年初頭でもぎりぎりで成立はする)
第4章
年代:AR19年
物語の舞台:コイロスの洞窟
兄弟が石を獲得し、3人はキャンプに帰還。
第5章
年代:AR19-20年
物語の舞台:トカシアの発掘キャンプ
P.64- 帰還後の数か月間、兄弟の仲が悪化(AR19-20年)。
P.66-76 帰還10か月後のある夜、トカシアとアーマールの会話。ミシュラとウルザの争い。トカシアの死。ミシュラの失踪。以上、同日夜に発生。(AR20年)
P.76-78 トカシアをキャンプ地に埋葬。訃報を受けてロランとリッチローがペンレゴンからキャンプを訪れ発掘品や資料など回収。キャンプの解体。
P.78 ウルザキャンプ地を去る(AR20年)。
第1部と第2部の間の時系列情報
年代:AR20-21年
ウルザがファラジのキャラバン隊と共にクルーグに到着してラスコー時計店に就職。
ミシュラはコイロスを目指すがスワルディ族に捕まって奴隷になる。石は取り上げられ長王が所有する。
第2部の時系列情報
小説の第6-16章が第2部である。
第2部はAR21-28年の期間の出来事であり、始まりがAR21年、終わりがAR28年、それぞれその年の出来事を描いている。
各章ごとに細かく情報を拾って行く。
第6章
年代:AR21-22?年
物語の舞台:ヨーティア(ウルザ陣営)
p.87 ウルザとラスコーの初対面は3か月前。クルーグに到着したウルザは最初に寺院学校、次にギルドでの雇用を求めたが、それぞれ宗教的訓練の欠如とアルガイヴ貴族の血統を理由に断られる。その後ギルドとのつながりの薄いラスコー時計店に職を見つける。
p.89 ウルザとカイラの遭遇時点で既にカイラの婚約者は死亡している。クルーグの大将軍は喪が明けた翌月に婚約者選びの試験を宣言。
p.90 試験は毎月1日に実施。1回目の試験。
p.92- 1回目の試験終了後。ウルザは試験への挑戦を決意。ウルザ初の自動人形(後に報復者タイプと呼ばれる最初1体)を制作する。
p.96- 3回目の試験。ウルザ挑戦、完遂。
p.102 結婚式。
この章はAR21年から始まる。ウルザとカイラの出会いがあり、その後おそらくあまり間を置かず、試験の告知。次に、記述がないが試験を周知させる期間があるはず。そして試験は3か月目で終了。その次も記述がないが結婚式は国事であるため準備と告知期間がある程度取られたはず。そうして、この章は結婚式で終わる。最短で見積もって4か月弱になるが、おそらく半年かそれを超える時間が経過している。AR21年内に全ての出来事が十分収まるとはいえ、年を跨いだ可能性も否定はできない。
第7章
年代:AR21-22?年
物語の舞台:ファラジのスワルディ族(ミシュラ陣営)
p.106 ミシュラは奴隷として3か月前から肉体労働に従事。
p.107-110 ミシュラはハジャルの口添えで長王に謁見し、言語に関する教養と暗算能力を示して長王の息子の教師になる。
p.111 長王の息子10歳。短気。言語・計算に興味なし。
p.113 数か月後(several months)、長王は息子の学習は来年末までに終わるかと問い、ハジャルは終えられるでしょうと返答する。
p.116 しかし来年の末になる前に多くのことが発生する。
p.120-124 ある夜、マク・ファワがスワルディ族キャンプを襲撃。長王死亡。ミシュラが石でマク・ファワを鎮静化。息子が新長王になりミシュラを奴隷から魔術師に引き上げる。このとき、何か月前(months before)に父の長王がやったように手を上げる動作をする(父の長王の同じ動作はp.110参照)。
以上から、この章はAR21年に始まり、several months以上の何か月間に発生した出来事で、翌年のAR22年の末になるまでには終了していることとなる。長王とハジャルの会話からマク・ファワ襲撃の夜までの間がどれだけ経過しているかは不明。AR21年内にすべてが終わっているとも、年を越してAR22年内で終わっているとも、どちらでもありうる。
第6章から第8章の間
年代:AR21-24?年
物語の舞台:クルーグ(ウルザ陣営)
クルーグの王宮に工匠宮が建設される。ウルザは複数の助手・徒弟をもつ。ウルザは発明品のおかげで、(カイラを除く)周囲との関係は良好であり、クルーグは栄えている。
第8章
年代:AR24?年
物語の舞台:クルーグ(ウルザ陣営)
タウノスがウルザと対面して徒弟となる。
P.125 この時点までに、タウノスはジョリリンからクルーグに長い旅をして到着し、ウルザに謁見するためにコネのないタウノスはクルーグで働きかけをした。
p.127 過去数年間(the past few years)、タウノスはジョリリンで玩具職人として働いていた。
p.131 結婚して最初の数年間(the first few years)のウルザと寺院との関係は友好的に推移する。
p.133-136 タウノスが徒弟となった同日、枢密院で和平会議が提案される。
精確な年代は特定できない。少なくとも「結婚後の最初の数年」は既に経過した後である。第6章の最後をAR22年の頭と仮定し、そこから数えてthe few yearsとすると、最短で2年経過でAR24年頭となる。AR24年以降のいずれかの年が条件を満たすことになる。
これから第10章までの間に、タウノスの助言を得て羽ばたき飛行機械の新型が実用化されるため、それだけの十分な期間が必要。
第9章
年代:AR25?年
物語の舞台:ファラジ帝国(ミシュラ陣営)
ファラジ帝国軍はゼゴンに降伏勧告する。アシュノッドがミシュラと交渉してゼゴンは無血降伏し、アシュノッドはミシュラの徒弟になる。
p.137 ここ数年間(In the last few years)、長王はファラジ諸部族の征服を進めてきた。トマクルをすでに降伏させた。
精確な年代は特定できない。第8章と同様に考えてAR24年以降のいずれかの年が条件を満たすことになる。
長王はトマクルとゼゴンを征服したことでファラジ内に標的はなくなったと思われる。ファラジ帝国の統一が達成できたならば、次の狙いはヨーティア北部のスワルディの土地の奪還なのは明白であり、短気な長王はすぐに取り掛かるはず。つまり、ゼゴン征服からコーリンダの和平会議までにあまり長い期間を空けてしまうと、長王らしからぬ状況となってしまう。第12章の情報から和平がAR26年夏とするとゼゴン征服は前年のAR25年(あるいはAR26年初頭でも可能か)が妥当と考えられる。
第10章
年代:AR26年夏(この章では不明瞭。第12章と第16章の検証の結果確定)
物語の舞台:コーリンダ
p.157 この年の夏、コーリンダで和平会議が行われる。
第11章
年代:AR26年(この章では不明瞭。第12章と第16章の検証の結果確定)
物語の舞台:クルーグ(ウルザ陣営)
p.169 国葬10日間。
p.170 遺体が聖廟に収められた後、数々の事件・騒動あり、新兵募集ひと月で3倍に。
p.170-171 1か月かけて(Over the course of the month)、コーリンダに行った操縦士はそれぞれ転任処分となった。
p.171 ファラジは沈黙。
p.171 大将軍の死後翌月のウルザの実際の動向。
カイラとウルザの和解。それから数日後。
第12章
年代:AR26年冬(この章では不明瞭。第16章の検証の結果確定)
物語の舞台:コイロスの洞窟、ファイレクシア(ミシュラ陣営)
p.179 コーリンダの虐殺と同年の冬、ミシュラとアシュノッドはコイロスに行き、ファイレクシアから新たなドラゴン・エンジン3体を獲得する。
p.188 2人が去った後、これからさらに数年間(for another few years)はコイロスの洞窟は静寂することになる。
ギックスの出現は第16章つまりAR28年の出来事である。それより数年(another few years)前となると、最短2年としてAR26年なので、この第12章はAR26年かそれ以前と推定される。第8章と9章はAR24年以降と計算できることから、コーリンダの和平会議はAR25年かAR26年のどちらであると考えられる。ただし、各国が和平の段取りを詰める時間や、ウルザとタウノスが関係を深めかつ羽ばたき飛行機械の改良に成功する時間を、ある程度持つことができないと不自然になるため、間に1年の余裕が取れるAR26年が個人的には説得力があると感じる。
第13章
年代:AR27-28年(この章では不明瞭。第16章の検証の結果確定)
物語の舞台:ヨーティア(ウルザ陣営)
P.189 ヨーティア北方砂漠の境界地域での半常態化した戦いが続いた一年間の後(after a year of …)、ファラジから和平交渉の提案。
ファラジの騎兵がヨーティアの前哨基地に長王の親書を届け、それを羽ばたき飛行機械が空輸し、クルーグ枢密院で協議となる。
p.192 ファラジへ和平交渉受諾の返信(翌月最後の日、クルーグにて和平交渉)。
指定日に交渉使節到着
第14章
年代:AR28年(この章では不明瞭。第16章の検証の結果28年に収まるが、27年の可能性は捨てられない)
物語の舞台:クルーグ
交渉使節がクルーグに到着した日の夜の事件。
第15章
年代:AR28年(この章では不明瞭。第16章の検証の結果確定)
物語の舞台:クルーグ(ウルザ陣営)
p.219 和平交渉の日の夜、ミシュラとファラジの部隊はクルーグを去る。アシュノッドは捕虜。
p.219-230 それから4か月間、ウルザはミシュラ捜索でクルーグを離れたまま。その期間中に、カイラの妊娠発覚、タウノスによるアシュノッドの尋問。
p.230-238 長王のファラジ軍がクルーグを襲撃。クルーグ陥落。アシュノッド解放。長王死亡。カイラとタウノスは西に逃走。タウノスの指示でウルザの研究資料などは羽ばたき飛行機械で東に退避。
第16章
年代:AR28年
物語の舞台:ヨーティア(ウルザ陣営)、コイロスの洞窟(ギックス陣営)
p.239 ひと月近くかかってウルザは軍を再編成しつつクルーグの廃墟に帰還。
p.241 ウルザはヨーティア残存軍に南下して港湾地域の防衛を命令。ウルザ本人は東に。
p.241- コイロスの洞窟にギックス出現。
p.242 僧院から1年を超える旅をしてコイロスにきたギックス教団の修道士たちがギックスを出迎える。(AR26年に出発AR28年に到着)
クルーグ陥落(第17章の情報も考慮に入れて)はAR28年で確定。
偽りの和平交渉も同年のAR28年中に収められる。したがって、第13章の半常態化した戦いの1年間はAR27年になる。すると、その前年がコーリンダの和平会議の年となってAR26年(夏が和平会議、冬がミシュラとアシュノッドがファイレクシアに行く)と導き出せる。
仮に偽りの和平交渉とクルーグ陥落の間で年を跨いでいるとしたならどうか?ここでクルーグ陥落AR28年1月1日で偽りの和平交渉はAR27年8月末日と仮定する(可能な限り前倒しした仮定)。そこから「半常態化した戦いの1年間」を引くとAR26年8月末日。場合分けして、コーリンダの和平会議が起こった年をAR25年夏とAR26年夏で考えてみる。AR25年夏の場合、和平会議失敗の後に空白が1年も開いてしまうため、小説の状況と整合性が取れない。AR26年夏の場合、和平会議失敗直後のファラジ沈黙は1月強で終わってそこから「半常態化した戦いの1年間」だったとすることも可能なために、一応はつじつまが合う。
したがって、コーリンダの和平会議AR26年で動かせず確定。ミシュラの偽りの和平交渉はクルーグ陥落4か月前は確定だが同年とは決まらない(AR28年頃とぼかすのが妥当か)。
第2部と第3部の間の時系列情報
年代:AR28-29年
物語の舞台:ファラジ帝国(ミシュラ陣営)
ミシュラがファラジ帝国の工匠長王となる。ファラジ帝国がヨーティアの国土を蹂躙し占領する。ヨーティア領内の、途方もなく巨大な枯れた木(マグニゴスと推定)のうろにミシュラは宮廷・工廠を建造する。
さいごに
時系列検証の第1回目は小説The Brothers’ Warの第2部で終了とする。次回では小説残り全てを扱う。
では、今回はここまで。
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