ウルザ、タイタンズを組織する(Urza Assembles the Titans)はカードセット「団結のドミナリア」収録の英雄譚エンチャント・カードである。
今回は、AR4205年のファイレクシア侵略戦争でウルザが結成した9人のプレインズウォーカー戦隊を取り上げる。
ウルザ、タイタンズを組織するの解説
ウルザ、タイタンズを組織する(Urza Assembles the Titans)は、AR4205年のファイレクシア侵略戦争においてウルザ(Urza)が8人のプレインズウォーカーを集めて、「ナイン・タイタンズ(The Nine Titans)」と呼ばれる戦隊を組織した物語である。
ファイレクシアという未曽有の脅威を前に、過去の様々な因縁を乗り越えた9人のプレインズウォーカーがドリームチームを組んだのだ。
ウルザ、タイタンズを組織するのイラスト
イラストには、中段に発起人のウルザ(Urza)が大きく描かれている。
上段には、ウルザの召集した8人のプレインズウォーカーがいる。左から右に順番に、ウィンドグレイス卿(Lord Windgrace)、テイジーア(Taysir)、森のクリスティナ(Kristina of the Woods)、ガフ提督(Commodore Guff)、フレイアリーズ(Freyalise)、ボウ・リヴァー(Bo Levar)、テヴェシュ・ザット(Tevesh Szat)、ダリア(Daria)である。
そして下段には、敵のファイレクシアを象徴する門船(Portal Ship)と、中央にファイレクシアの文様がある同心円の重なりというデザインが描かれてる。
下段の円がファイレクシア次元を表すとするなら、ウルザの背後にある日の出の海原は、タイタンズが守るべきドミナリア次元であろう。
ウルザ、タイタンズを組織するのメカニズムとストーリー
このカードのメカニズムでは、第1章でプレインズウォーカーのメンバーを探し出し、第2章でプレインズウォーカーが戦場に登場し、第3章ではプレインズウォーカーが通常比2倍の大活躍をする。
まさにストーリーで描かれた通りのナイン・タイタンズ結成から無双する場面までの再現となっている。完璧だ。
具体的にストーリー作品にどう対応しているかというと……。
第1章:小説Invasion終盤でウルザがメンバーを招集して9人が合意に達してチーム結成となる場面である。
第2章:小説Invasion最終盤、コイロスの戦場にドミナリア連合の加勢に現れて、ファイレクシア軍を蹴散らす場面だ。ドミナリアの頼もしい味方が来てくれた。
第3章:2冊目の小説Planeshiftの序盤で、タイタンズは世界各地の戦場に分散して連合軍を助け、無双の活躍を見せたのだ。
いかがだろう?ナイン・タイタンズ結成から、ドミナリア各地で無双する場面「まで」の再現としては、完璧なのだ。
そう、ここ「まで」は。
ナイン・タイタンズはドミナリア次元での各地の戦いで無双した後、敵本拠地ファイレクシア次元に乗り込んでから一気に陰りを見せ始め、崩壊まっしぐらになるのだから……。
この英雄譚カードは、ナイン・タイタンズの物語の一番いい所を切り出したものだったのである。
ナイン・タイタンズとは
「ナイン・タイタンズ(The Nine Titans)」とは文字通り「9人のタイタンたち」という意味で、戦隊名として定着したストーリー用語である。9人全員がウルザ製作の強力な機動兵器「タイタン・エンジン(Titan Engine)」に搭乗したことから、この戦隊内では9人自身も「タイタン(巨人:The Titan)」と呼ばれていた。
ただし、出典元となるインベイジョン・ブロック小説三部作では、チーム名が「ナイン・タイタンズ」と定まっている訳ではなかった。あくまで、地の文で「その場にいるメンバーの人数+タイタンズ」という表現がされていただけなのだ。
ナイン・タイタンズの本人たちが「我々はナイン・タイタンズだ」と名乗ったりもしていない。
全員いた頃の「ナイン・タイタンズ」表記が一番多かったものの、欠員が出ると「ファイブ・タイタンズ」などと表現は変化していた。その他に「タイタン戦隊(The Titan Squadron)」という表現もあった。
ナイン・タイタンズのメンバー
この節ではナイン・タイタンズの9人を紹介しよう。
紹介は小説Invasionで登場した順番に行う。
ウルザ
ウルザ(Urza)はドミナリア次元テリシア地方アルガイヴ出身の人間男性のプレインズウォーカーである。
4200年を越える生涯のほとんどをファイレクシアとの戦いに捧げた非凡な英雄であった。ファイレクシア侵略戦争において、ナイン・タイタンズを結成した。
テイジーア
テイジーア(Taysir)はラバイア次元出身の人間男性のプレインズウォーカーである。5色の魔法の使い手で、賢人にして、かつては最強の名を誇っていた。クリスティナは氷河期にはパートナー関係にあった。
アルマダ・コミック系のキャラクターで、カードではカードセット「ホームランド」のフレイバー・テキストに登場していた。
ファイレクシア侵略戦争時には、老人の姿になっているはずなのだが、ウルザ、タイタンズを組織するのイラストでは、全盛期の壮健な姿のままである。英雄譚カードが史実でなく、語り継がれる物語だという特性の現れといえよう。
ちなみにテイジーアは旧世代プレインズウォーカーなので、その気になれば肉体を元に若返らせることは可能である。だが、一旦老化して肉が痩せ落ち弱体化した肉体を、自分が過去に犯した過ちへの罰として、敢えてこのままで回復しないことにしたのだ。
テイジーアは、インベイジョン・ブロック期の日本の雑誌記事で「テイザー」と訳されていたため、誤った呼び方が定着してしまっている。
原典であるアルマダ・コミックを紐解けば、巻末発音ガイドで「TAY-seer」と書かれており、つまり「テイザー」は間違いで「テイジーア」の方がより正しいことが明らかなのだ。
それに、カードセット「基本セット第5版」のフレイバー・テキストでは「テイジーア」表記だったので、元々こちらの方が公式なのである。
ダリア
ダリア(Daria)はウルグローサ次元出身の人間女性のプレインズウォーカーである。9人の内で最年少で、テイジーアは義理の父親だ。クリスティナとフレイアリーズとも親しい。
義理の父と同様にアルマダ・コミック系のキャラクターで、カードではカードセット「ホームランド」のフレイバー・テキストに登場していた。カードセット「プレーンシフト」収録のオーラの旋風(Aura Blast)がダリアの姿を描いた唯一のイラストであった。アルマダ・コミックですら、ダリアのイラストは出て来ていない。1
ウルザ、タイタンズを組織するでダリアはオーラの旋風と同じ姿で再登場した。
ダリアは本来はナイン・タイタンズのメンバーではなかった。しかし、当初予定していたテフェリー(Teferi)が戦線を離脱してしまったため、欠員補充としてダリアが採用されたのである。
テフェリーが戦線離脱した件はこちらの記事で解説している。
フレイアリーズ
フレイアリーズ(Freyalise)はドミナリア次元テリシア出身のハーフエルフ女性のプレインズウォーカーである。テイジーアとフレイアリーズは氷河期以来の友人で、ダリアとも親しい。ウルザとテヴェシュ・ザットを嫌悪しているが対ファイレクシアを前に協力関係を結んだ。
カードセット「アイスエイジ」において、森の女神という想定で創作されたキャラクターだったが、具体的な設定やストーリーの肉付けはアルマダ・コミックで語られたものだ。
森のクリスティナ
森のクリスティナ(Kristina of the Woods)はドミナリア次元コロンドールの人間女性のプレインズウォーカーである。テイジーア、ダリア、フレイアリーズとは親しい。テヴェシュ・ザットは氷河期以来の敵である。
アルマダ・コミック系のキャラクターでカードにちゃんと登場したのは、今回のウルザ、タイタンズを組織するが初となる。
クリスティナもダリアと同様にナイン・タイタンズの想定メンバーではなかったが、本来ウルザが勧誘予定のパーチャー(Parcher)に代わって参加することになった。ちなみに「Parcher」は、MTG小説関連の編集者ピーター・アーチャー(Peter Archer)の名前に由来すると言われている。
アルマダ・コミックの未刊行作品では、クリスティナはジャレッド・カルサリオン(Jared Carthalion)との間に子供を設けていた。
カードセット「団結のドミナリア」でジャレッドが2度目のカード化となったのだが、その背景解説においてクリスティナとの息子について触れられていた。未刊行の没設定が20数年を経て公式化されたのである。
ボウ・リヴァー
ボウ・リヴァー(Bo Levar)はドミナリア次元テリシア地方ヨーティア出身の人間男性のプレインズウォーカーである。次元間商人とも煙草の密輸人とも称された。
ボウ・リヴァーはインベイジョン・ブロック期の前年、短編集The Colors of Magic収録の作品Expeditions to the End of the Worldで主役として登場済みであった(ただしボウ・リヴァーと名乗る前)。
「Bo Levar」という名前は、MTG小説関連の編集者ジェス・ルボウ(Jess Lebow)の名前に由来すると言われている。
ボウ・リヴァーがプレインズウォーカーになる前のストーリーは過去記事で詳しく取り上げている。
ガフ提督
ガフ提督(Commodore Guff)は人間男性のプレインズウォーカーである。出身次元は言及されていない。無限書庫と呼ばれる図書館の主。
ガフ提督は未来を知っており、そのため常軌を逸したような言動や、突飛な発想をしたりする「分かりやすく狂っている」人物としての描写が散見される……のだが、インベイジョン・ブロック小説三部作ではずっとドミナリア側の味方として一貫してファイレクシアと戦い続けた。その意味でまともであり、私個人の感想としては、ガフの狂気の分かりやすさは「本物」に比べて見掛け倒しの道化役にしか感じないものだった。
ガフ提督は9人の中でただ1人、インベイジョン・ブロックの完全新規キャラクターである。
「Guff」という名前は、MTGの小説作者でコンティニュイティ担当でもあったスコット・マクゴウ(Scott MacGough)の名前に由来すると言われている。
テヴェシュ・ザット
テヴェシュ・ザット(Tevesh Szat)はドミナリア次元サーペイディア出身の人間男性のプレインズウォーカーである。遥か昔に人間から怪物の姿に変貌してしまっている。テイジーア、クリスティナ、フレイアリーズは氷河期以来の敵対関係にあった。
テヴェシュ・ザットはカードセット「アイスエイジ」のカード名にちらりと登場しているものの、ほとんどアルマダ・コミックのキャラクターであった。
ウィンドグレイス卿
ウィンドグレイス卿(Lord Windgrace)はドミナリア次元アーボーグの黒豹人男性のプレインズウォーカーである。アンティキティー戦争期最後の酒杯爆発の余波によって黒豹人の王国が壊滅した経緯から、ウルザを嫌っている。
ハーパープリズム初期小説シリーズにおいて、短編2作に猫人の神として名前が登場していたキャラクターであった。カード上に黒豹人として姿が描かれたのはインベイジョン・ブロック期が初めてのことだ。
しかし、後年の調査によって判明したところによれば、実はアルマダ・コミックの未発行の制作途中作品で、既にウィンドグレイス卿は黒豹人のプレインズウォーカーとして出てくる予定があったのだという。アルマダ・コミックの末期はカードセット「ミラージュ」「ビジョンズ」の頃だが、ドミナリアの黒豹人はこの時のカードに初登場した種族であった。時期的に重なるため、カードとコミックは連携して、黒豹人の種族とウィンドグレイス卿を描く予定だったのだろう。この没設定がインベイジョン・ブロックで活用されたと考えられる。
ナイン・タイタンズの末路はまた機会を改めて語ることもあるだろう。
さいごに
英雄譚カードを切っ掛けに、ナイン・タイタンズをざっと振り返る記事を書いてみた。
ナイン・タイタンズが初登場したインベイジョン・ブロック当時、大概のストーリー・ファンは9人のことをほとんど新キャラクターだと受け取っていたと思う。当時の日本の専門誌の連載記事でも、9人中3人が初登場だと堂々と書いていたくらいだ(それ以外にも、連載記事はタイタンズ各人の解説などもかなり不正確あるいは滅茶苦茶であった)。現在でもそういう誤った認識のままの方も少なくないだろう。
だから本記事では、ガフ提督以外の8人が既存キャラクターの再登場だった事実を注記しておくことにした。十数年前に日本のMTG wikiのキャラ個別の記事内に少々書き散らしておいたことはあるが、9人揃った1つの文章内で触れたことはなかったはずだ。
カードセットだけを追っていると「誰?知らん奴らが出てきたぞ」となるのは仕方がない(大部分の人はそうだろう)。でも本当はコミックや小説作品から選抜した(最初で最期の)ドリームチームだったのだ。9人のことを頭の隅にでも覚えておいてもらえたら、彼らも浮かばれることだろう。
では、今回はここまで。
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