団結のドミナリア:ザルファーのフェイジング

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ザルファーのフェイジング(The Phasing of Zhalfir)カードセット「団結のドミナリア」収録の英雄譚エンチャント・カードである。

今回は、AR4205年のファイレクシア侵略戦争中にザルファーで起こった歴史的な出来事を紹介しよう。

ザルファーのフェイジングの解説

ザルファーのフェイジング(The Phasing of Zhalfir)

データベースGathererより引用

ザルファーのフェイジング(The Phasing of Zhalfir)AR4205年のファイレクシア侵略戦争での出来事を描いている。

ファイレクシアによるドミナリア次元の侵略では、ドミナリアのほぼ全土が戦場となる全面戦争であった。戦争初期、ファイレクシアの第一標的は白マナの代表勢力であった。ベナリアや新アルガイヴ、そしてザルファーだ。

プレインズウォーカーのテフェリー(Teferi)は故郷ザルファーが戦争で失われることを恐れ、ザルファーの大地ごと都市も住人も動物も、一切合切を別の時空へとファイズアウトして退避させたのだった。こうしてザルファーは戦禍を免れたのである。

その後、テフェリーは親友のジョイラ(Jhoira)の故郷シヴもフェイズアウトさせて、ファイレクシア侵略戦争の戦場から去って行った。テフェリーとジョイラがドミナリアに戻るのはAR4500年、つまり侵略戦争がとうの昔になった3世紀も後のことであった。

カードのイラストは、木彫りの杖の先端のようだ。透明な水晶球の中にはザルファーの都市の映像が浮かび、それを取り囲む丸い枠にはテフェリーの立ち姿も彫られている。



ザルファーのフェイジングのメカニズム

ザルファーのフェイジングのカード・メカニズムがどういった物語を描いているのかを解釈する。

第1章と第2章では、土地でもザルファーのフェイジングでもないパーマネントを1つずつフェイズアウトさせる。これはテフェリーがザルファーをファイズアウトさせた行為と同等のものだろう。土地カードが対象外なのがいささかストーリーとの齟齬を感じるものの、ゲーム上のバランス調整の結果と考えられるので仕方ない。

ファイレクシア侵略軍の門船
インベイジョンのプロモコミックより

第3章になると、戦場の全てのクリーチャーを破壊して、その代わりに破壊したのと同数の、黒の2/2ファイレクシアン・クリーチャー・トークンが登場する。これはフェイズアウトした以降のドミナリアの戦場において、残された者たちがファイレクシアの侵略軍によって征服されたことを表現しているのであろう。次元ほぼ全土が戦場となった大戦争の雰囲気が出ている。

第3章が処理されると、ザルファーのフェイジングが戦場から無くなるので、フェイズアウトしていたパーマネントがフェイズインできるようになる。これはファイレクシア侵略戦争から3世紀後にテフェリーがドミナリアへと帰還した状況に重なるものだ。

カードセット「団結のドミナリア」の英雄譚カードの中には、扱っている物語をうまく表現できていないものも少なくはない。トップダウン・デザインではなく、後から適当な物語の名前を被せたような感じを受けるものもあるのだ。そんな中で、このザルファーのフェイジングは物語の再現を、非常に高い精度で成し遂げている。

ザルファーのフェイジングの物語は、過去のカードセットで描かれたものだ。次の節では、関連するカード群と共にストーリーを振り返る。

ザルファーのフェイジングの関連カード

ザルファーのフェイジングで語られる出来事は、本来はカードセット「インベイジョン」で起こったもので、複数のカードで物語が描出されていた。また、それだけに留まらず、後年のカードセットでも度々取り上げられて新たな切り口でカード化がされてきたのである。それだけ印象的な歴史的大事件だったのだ。

ここでは概ね時系列順にザルファーのフェイジングに関連したカード群を紹介していこう。

カードセット「インベイジョン」と小説Invasionを参考にして構成した。

次元の門

The sky split, and the air crackled and roiled. The Phyrexian invasion of Dominaria had finally begun.
空は裂け、大気は割れてかき乱れた。ドミナリアへのファイレクシアの侵略がついに始まったのだ。
引用:次元の門(Planar Portal)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

次元の門(Planar Portal)

次元の門(Planar Portal)
データベースGathererより引用

次元の門(Planar Portal)カードセット「インベイジョン」収録のアーティファクト・カードである。

カードのイラストに描かれているのは、ファイレクシアの門船(Portal Ship)である。それ自体が巨大な次元門機能を有する飛翔艦で、ファイレクシア軍を次元転移で送り出してくるのだ。

ファイレクシア侵略戦争が勃発し、ザルファー上空にも何隻もの門船が出現した。

カード紹介:次元門
マジック・ザ・ギャザリング(MTG)の「次元門(Planar Gate)」を紹介する。レジェンドに収録された同名カードや、ファイレクシアの門発生装置、大修復後の次元橋について登場作品を絡めて解説する。

撹乱

Teferi wanted no part of Urza’s battle plans, but both agreed the Phyrexian portal must be closed.
テフェリーはウルザの戦闘計画に加担する気はなかった。しかし2人はファイレクシアの門を閉じなければならないことでは意見が一致していた。
引用:撹乱(Disrupt)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

撹乱(Disrupt)

撹乱(Disrupt)
データベースGathererより引用

撹乱(Disrupt)はカードセット「インベイジョン」収録のインスタント・カードである。初出はカードセット「ウェザーライト」だったが、新規のイラストとフレイバー・テキストで再録された。

テフェリー(イラスト奥)とウルザ(手前)は、ザルファーに迫るファイレクシアの門船に対して協力して魔法を駆使し、次元門を閉じたのだった。しかし、テフェリーの意図はウルザの戦闘計画とは異なるものであった。

テフェリーの配慮

“If I do nothing else, I will protect my people.”
–Teferi
どんなことがあろうとも、私は皆を守ることだけはする。
–テフェリー
引用:テフェリーの配慮(Teferi’s Care)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

テフェリーの配慮(Teferi's Care)

テフェリーの配慮(Teferi’s Care)
データベースGathererより引用

テフェリーの配慮(Teferi’s Care)はカードセット「インベイジョン」収録のエンチャント・カードである。

イラストとフレイバー・テキストでも伺えるように、テフェリーは故郷の人々だけは守り抜こうと心に決めて行動していた。

テフェリーの濠

“Isolation is not the answer.”
–Urza, to Teferi
奴らを濠で隔てたぐらいじゃ、何の解決にもならないよ。
–ウルザからテフェリーへ
引用:テフェリーの濠(Teferi’s Moat)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

テフェリーの濠(Teferi's Moat)

テフェリーの濠(Teferi’s Moat)
データベースGathererより引用

テフェリーの濠(Teferi’s Moat)はカードセット「インベイジョン」収録のエンチャント・カードである。

イラストを見ると、向こう側にファイレクシアの大軍団がいて、テフェリーのいるこちら側との間で大地が切り立った断崖で分断されている。これをカード名では「濠」と称しているが、ストーリーの流れを考慮すると、ザルファーの大地がフェイズアウトしてドミナリアとは別の時空へと離れていく場面である。ザルファーの大地に濠を刻んだのではなく、大地ごと切り離されたのだ。

フレイバー・テキストの方は、和訳製品版がしっくりこない。原文は単に「Isolation」つまり「孤立」となっている部分に、言葉を盛り込んで「奴らを濠で隔てたぐらいじゃ」と作文している。「何の解決にもならないよ」と呑気な口振りなのも変だ。濠だけじゃ解決しないよ、それはそうだが、ここはそういう場面ではない。

「孤立は解決策にはならんぞ。」
–ウルザからテフェリーへ

より原文に素直に訳するこのようになるだろう。ストーリー上では、テフェリーはウルザにザルファーごと戦線離脱すると宣言して、ウルザは憤慨して断固反対するのだ。戦争を避けてザルファーやシヴだけが孤立しても、根本的な解決にはならないぞ、考え直せという訳である。

テフェリーの反応

テフェリーの反応(Teferi's Response)

テフェリーの反応(Teferi’s Response)
データベースGathererより引用

テフェリーの反応(Teferi’s Response)はカードセット「インベイジョン」収録のインスタント・カードである。

このカードのメカニズムは、あなたの土地を対象とした呪文や能力を打ち消して守り、カードも2枚引ける、というものだ。打ち消したのがパーマネントの能力だったなら、そのパーマネントは破壊される。

このカードの機能をカード名とイラストを踏まえて解釈すればこうだ。ファイレクシアによるザルファーへの攻撃にテフェリーが対応して土地を別時空に隔離して守りつつ、敵を撃退したのだ。

テフェリーの防御

テフェリーの防御(Teferi's Protection)

テフェリーの防御(Teferi’s Protection)
データベースGathererより引用

テフェリーの防御(Teferi’s Protection)はカードセット「統率者2017」初出のインスタント・カードである。

カードセット「インベイジョン」から17年後に再びカードとして取り上げられた。テフェリーがファイレクシアの攻撃からザルファーをフェイズアウトして守る、その一連の流れを1枚のカードで表現している。

イラストを見ると、中央に両手を挙げて背を向けたテフェリーがおり、上空にはファイレクシアの門船群、フェイズアウトして消えていくザルファーの大地と象や人々などが描かれている。

テフェリーの防御(Teferi's Protection)

テフェリーの防御(Teferi’s Protection)
データベースGathererより引用

カードセット「ストリクスヘイヴン:魔法学院」では、ミスティカル・アーカイヴとして別イラスト・バージョンが収録されていた。

元のイラストと同じ要素を別の角度から描写している。

ここまでがザルファーのフェイジング自体を語ったカードである。それ以降の流れは別の一連のカード群として描かれている。ついでに紹介していこう。



地盤の揺らぎ

“Think of the problems we’ll face if you uproot entire continents,” said Urza.
“I have,” replied Teferi, “but the alternative is worse.”
「君が大陸をすべて引き揚げてしまったら、我々がどうなるか考えてみたまえ」とウルザは言った。
「考えました」とテフェリーは答えた。「でもそうしなければ、もっと悪くなるんです」
引用:地盤の揺らぎ(Tectonic Instability)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

地盤の揺らぎ(Tectonic Instability)

地盤の揺らぎ(Tectonic Instability)
データベースGathererより引用

地盤の揺らぎ(Tectonic Instability)はカードセット「インベイジョン」収録のエンチャント・カードである。

テフェリーはザルファーをファイズアウトさせた後、次にはシヴ大陸の大部分をもフェイズアウトさせてしまう。シヴは親友ジョイラの故郷であり、ドミナリアにとって重要な施設マナ・リグがある。ファイレクシアに破壊させるわけにはいかないものだ。

このカードは、テフェリーがシヴをフェイズアウトさせる際に地盤が不安定になっている場面を描いている。

フレイバー・テキストでは、ウルザが最後の説得をしているところだが、テフェリーは取りつく島もなかった。シヴの大部分、マナ・リグ、住人の人間やヴィーアシーノ、ドラゴンのほとんどが別時空に消えたのだった。

ザルファーの魔道士、テフェリー

To save this plane, he must forsake all others.
この次元を救うため、彼はそれ以外のすべての次元を捨てねばならない。
引用:ザルファーの魔道士、テフェリー(Teferi, Mage of Zhalfir)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

ザルファーの魔道士、テフェリー(Teferi, Mage of Zhalfir)

ザルファーの魔道士、テフェリー(Teferi, Mage of Zhalfir)
データベースGathererより引用

ザルファーの魔道士、テフェリー(Teferi, Mage of Zhalfir)はカードセット「時のらせん」収録の伝説のクリーチャー・カードである。プレインズウォーカーの力を失ったテフェリーのカード化だ。

ザルファーとシヴがフェイズアウトしてからドミナリアでは3世紀が経過。AR4500年にテフェリーはドミナリアに帰還し、フェイズアウト状態のザルファーとシヴの大地を元通りドミナリアに戻そうした。

しかし、大陸を引き裂く大規模なファイズアウトは、ザルファーとシヴのあった位置に時の裂け目を生じさせていた。これらを含むドミナリア中の時の裂け目によって、ドミナリアのみならず多元宇宙規模の大災厄が起こり始めていたのだ。

テフェリーはまずシヴの時の裂け目を閉じて元の位置に戻そうと奮起し、自身のプレインズウォーカーの灯を捧げた。シヴは無事にフェイズインしたがテフェリーはプレインズウォーカーの力を失ってしまった。

ザルファーの虚空

“The wind whispers, ‘come home,’ but I cannot.”
–Teferi
「風は『故郷に帰ろう』とささやく。だが私には不可能だ。」
–テフェリー
引用:カード名のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

ザルファーの虚空(Zhalfirin Void)

ザルファーの虚空(Zhalfirin Void)
データベースGathererより引用

ザルファーの虚空(Zhalfirin Void)はカードセット「ドミナリア」収録の土地カードである。

ザルファーの時の裂け目は、プレインズウォーカーのジェスカ(Jeska)の手で閉じられたが、その結果ザルファーはフェイズアウト状態のままドミナリアから永久に失われた。そうしてAR4560年代現在、過去にザルファーだった海はザルファーの虚空と呼ばれており、蜃気楼のようにかつての面影を空に映すのみとなっている。

ファイレクシア侵略戦争期にドミナリアに取り残されたザルファー人の末裔の中には、テフェリーをザルファーの破壊者と糾弾する者も少なくはない。

AR4560年に、テフェリーはジョイラの助けでプレインズウォーカーの灯を回復させた。AR4562年現時点でザルファーは失われたままではある。しかし、テフェリーは今でも故郷を取り戻す希望を失ってはいない。プレインズウォーカーのレン(Wrenn)との出会いで、テフェリーは何かヒントを掴んだようだが……。



おまけ:テフェリーの心情

以上のようにファイレクシア侵略戦争でのテフェリーの行動を振り返った。

当時のテフェリーは次元規模の大戦争が勃発するや、自分と親友の故郷だけをフェイズアウトで守って、早々に退場してしまうのだ。テフェリーは自分勝手な臆病者だったのだろうか?

実はテフェリーが戦線離脱の決断を下したのには、前段階となる事件があった。ファイレクシア侵略戦争の数週間前に終結した、ジャムーラ大陸に対するケルド異端派による侵略、通称「プロフェシー戦争(Prophecy War)」だ。

小説Prophecyによると、テフェリーはケルドの襲撃に対応するため、恩師ウルザのいるトレイリアのアカデミーの援軍を頼った。しかし、ウルザは北ジャムーラ亜大陸への戦力投入を制限したため、前乗りして現地に来ていたバリンと、独自判断で行動したレイン他の少数しか救援を得られなかったのだ。ウルザには間近に勃発するであろうファイレクシアとの戦争に備えた合理的な判断と計画があったに違いないが、余りにもテフェリーの心情を顧みない決断を下してしまった。

テフェリーという人物は少年時代からウルザのお膝元トレイリアのアカデミーで学んでいたが、AR3355年頃に故郷ザルファーが内戦となったためアカデミーを去った。それ以来、故郷の内戦の平定に尽力し、宮廷魔術師となって国の立て直しと発展にと、何世紀にもわたって大いに貢献した。宮廷魔術師の職を既に辞していても、AR4195-4196年のミラージュ戦争では、英雄たちを幻視で導き侵略者ケアヴェクの打倒を助けた。

テフェリーにとってファイレクシアとの戦争も重要だが、故郷ザルファーは遥かに大切なのだ。郷土や民人に対する愛と責任は大きく深い。

一方のウルザはファイレクシアと戦う目的ために、合理的に判断して切り捨てる決断が下せる人物だ。元から対人関係が不得手な性質だったが、齢4000を超えた頃からは他者の感情を斟酌するのがますます下手になった、あるいは、大目的の前に倫理観は歪んだ上に他者の感情を気にしなくなっていった、そのように描かれていた(私にはそう見える)。だから、テフェリーの郷土愛など察することもなしに、プロフェシー戦争では援助をすげなくほぼ断ってしまったし、本番のファイレクシア侵略戦争ではザルファーは戦場となって滅ぶとの予想ができても、躊躇わずに計画通り戦わせるつもりでいた。合理的で必要だから。

プロフェシー戦争に話を戻そう。戦争は終結したとはいえ、旧友レインが死亡し、夫のバリンは悲嘆に沈んだ。戦いに関わった多くの人命が失われ、ジャムーラには疫病が蔓延していた。テフェリーは心を深く痛め、老師ウルザとのわだかまりに思いを巡らし、「私は故郷を守り、私を求める人々を守ると誓おう。しかし、ウルザの言いなりには決してならない。自分で道を切り拓くのだ。」と決断するまでになって小説Prophecyは終幕となった。

ウルザに一任したままでは大切なものは守れやしないし、捨て駒として戦わされてザルファーは壊されてしまう。絶対にそうなると思わせてしまったのだ。

全部ウルザのせいだ、なんてネタでも言うつもりはない。テフェリーの戦線離脱の判断も今更それはどうなんだ、ウルザにでなく、ドミナリアに対しての裏切り行為じゃないのかと感じるもするのだ。

でももしも、ウルザが他者の気持ちを汲んで言葉を選び、動ける人物であったとしたら?ほんのちょっとずつ対応に情が込められていたら?ウルザにもう少し人徳があったのなら?土壇場でテフェリーが見限ることもなく、当初計画通りにナイン・タイタンズのメンバーとして勇敢に戦ってくれただろうに、と思わざるを得ないのだ。

さいごに

カードセット「団結のドミナリア」の英雄譚カードをきっかけに、ザルファーのフェイジング関連をまとめてみた。ザルファーの回復は、現在のテフェリーの生涯の使命になっている。来年には新ファイレクシアとの決着がつき、多元宇宙に大きな変化の時が訪れると予告されている。あるいは、ザルファーもその際に取り戻されるのだろうか。侵略戦争の痛ましい死と破壊を我々は既に見せられている。なら少しばかり都合のいい将来を夢見たって罰は当たるまい。

では、今回はここまで。

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