地獄料理書(The Underworld Cookbook) はカードセット「モダンホライゾン2」 に収録されるアーティファクト・カードである。
地獄料理書はMTG最初のカードセット「リミテッドエディション(基本セット第1版)」 のフレイバー・テキストが初出である。その意味では、28年経ってカード化されたMTG史上最古のアーティファクトともいえるだろうか。
今回はカード化された地獄料理書とそこに収められた地獄料理の数々を取り上げていく。
追記(2021年5月31日): カードメカニズムをストーリー面から解釈する節を新設した他、新しいレシピの追加(ナメクジ・インプ・ピクシー)、そして既存項目への加筆(エイトグの可食部はどこかなど)を行った。
追記(2021年6月3日): モダンホライゾン2の全カードリストが公開されたことを受け、レシピ24:大理石のガーゴイルとサリッドとマンティコア の項目を新設した。
追記(2021年6月8日): モダンホライゾン2の食物トークンをシェフのおすすめ に追加。そしてワーム の項目にワーム肉の味を追加した。
地獄料理書の解説
公式カードギャラリーより引用
地獄料理書(The Underworld Cookbook) は、ドミナリア次元の料理人アスモラノマルディカダイスティナカルダカール(Asmoranomardicadaistinaculdacar) (通称:アスモー)のレシピをまとめた書物である。
収められているレシピを見るに、花崗岩のガーゴイルのような食材とは思えないものから知的人型種族まで、美味しければ何でも調理してしまう無節操さがある。だが、地獄のデーモンや美食家を虜にしたほどの魅力は確かにあるのだろう。
出版された年代は不明であるが、おそらくドミナリア近代の書物と考えられる。
旧枠版デザインのアスモラノマルディカダイスティナカルダカール(Asmoranomardicadaistinaculdacar)特別版公式カードギャラリーより引用
著者のアスモーも地獄料理書も、カードセット「リミテッドエディション(基本セット第1版)」 のGranite Gargoyle のフレイバー・テキストが初出である。後に、アスモーが主役の掌編Chef’s Surprise (短編集Distant Planes 収録)が発表され、地獄料理書の詳細も語られることになった。それ以降も2度、カードのフレイバー・テキストで取り上げられた。カードセット「モダンホライゾン2」 ではアスモーと地獄料理書だけでなく、アスモーの助手のインプやアスモーの料理がカードとなっている。
地獄料理書のカードメカニズム
地獄料理の発端となったヴィンセントは奈落の王(Lord of the Pit)であるデータベースGathererより引用
地獄料理書のカードメカニズムを掌編Chef’s Surprise での扱いと比較して読み解いてみよう。
伝説のアーティファクトではない:
このカードは「伝説」ではなく普通のアーティファクトである。地獄料理書はMTG史上最古かつ有名な書物ではあるのだが、掌編によると最初の地獄料理書は20冊同時に制作されている。アスモーの言葉を20体の墨インプ(Ink Imp)と呼ばれる地獄の生き物が口述筆記して20冊が作られたのだ。さらに掌編の最後では地獄料理書第2巻の構想を練っており、オリジナルから複製されたであろう写本の可能性まで含めるとさらに多くの地獄料理書が存在していたとみて間違いはない。そういうわけで、地獄料理書は伝説のアーティファクトではありえないのだ。
1つ目の起動型能力:
タップと手札1枚を捨てると、食物トークン1個が生成される。料理の手引きなので食物トークンができるのは至極当然だ。捨てる手札が食材なのだろう。
2つ目の起動型能力:
タップして4マナを払い、地獄料理書を生け贄に捧げることで、自分の墓地からクリーチャー・カード1枚を手札に回収できる。こちらもアスモーのストーリーを鑑みれば十分納得のいく説明ができる。
掌編ではアスモーは悪魔王ヴィンセントとの契約で7年と7日の間、専属シェフとして地獄で働き続けることになる。アスモーの料理の虜になったヴィンセントは契約が切れた後、アスモーの料理が食べられなくなることを心配し、レシピを書籍化するように指示した。こうして完成したのが「地獄料理書」である。時が過ぎ、ヴィンセントは別れを心底惜しみつつも、アスモーは契約期間を全うして地獄から解放された。名料理人は去ったが、ヴィンセントの手元には地獄料理書のレシピが残され、悪魔王が食事に難儀することはなくなったのだった。
以上のストーリーの流れを踏まえると、2つ目の起動型能力は、地獄料理書を悪魔に贈った引き換えにアスモーが地獄から解放され地上に戻ってきた、このストーリーの再現になっていると解釈できる。
地獄料理書のレシピ集
旧枠版デザインの地獄料理書特別版公式カードギャラリーより引用
アスモーは様々な変わった食材を活用した美食や珍味を生み出している。地獄料理書には彼女のレシピが収められており、いくつかのカードのフレイバー・テキストや掌編Chef’s Surprise において、多彩な料理の存在が語られている。
個人的な話であるのだけれど、地獄料理書のレシピ集は一度まとめたことがある。今から13年以上前、日本のMTG wikiに地獄料理書の記事を作成して、料理を箇条書きに書き出したことがあったのだ。その時点でのカードを調べ、掌編Chef’s Surprise から料理の名称を抜き出してみたが、いくつかwikiには記載しなかった料理や食材もあった。
今回、めでたくアスモーと一緒に地獄料理書がカード化されたので、十数年振りのおさらいも兼ねてアスモーのレシピを振り返ってみたい。
各種料理や素材の解説では、かつて私がMTG wikiに寄稿したテキストを引用したり、適宜そこに情報を追加している。
レシピ1:花崗岩のガーゴイル
レシピ1:花崗岩のガーゴイル
“While most overworlders fortunately don’t realize this, Gargoyles can be most delicious, providing you have the appropriate tools to carve them.”
–The Underworld Cookbook by Asmoranomardicadaistinaculdacar
「幸いなことに地上世界のほとんどの人が気付いていませんが、ガーゴイルほど美味なものはありません。ただし切り分けるには適切な道具が必要ですが。」
–アスモラノマルデカダイスティナカルダカール、地獄料理書
引用:Granite Gargoyleのフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が私家訳
Granite GargoyleデータベースGathererより引用
ガーゴイルは非常に美味しい。だが皮膚が非常に堅く、調理は非常に難しい。
掌編Chef’s Surprise では、料理法の1つとして「花崗岩のガーゴイルの胸肉のはちみつ焼き (Honey-baked breast of granite gargoyle) 」が紹介されている。
メモ:UnderworldとOverworld
フレイバー・テキストでは「overworlders」という表現がされている。これは「地獄」料理書の「Underworld」と対になっていて、悪魔王が支配する世界に対する普通の地上世界を指している。つまり、フレイバー・テキストは、ガーゴイルの美味は地獄では知られているけれど、地上世界ではまだ気付かれていない、という対比になっているのだ。また、掌編Chef’s Surprise でも「Overworld」と「Underworld」は対の語として用いられている。
“A gargoyle’s meat can be carved with an ordinary cleaver, but for its petrous hide . . .”
—Asmoranomardicadaistinaculdacar, The Underworld Cookbook
「ガーゴイルの肉は包丁でもさばけますが、岩のように固い皮膚の方は……。」
–地獄料理書、アスモラノマルデカダイスティナカルダカール
引用:稲妻の斧(Lightning Axe)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
稲妻の斧(Lightning Axe)データベースGathererより引用
この稲妻の斧(Lightning Axe) のフレイバー・テキストから類推するに、花崗岩のガーゴイルの固い皮膚を捌くにはこのような魔法で出来た斧が必要ということだろう。
レシピ2:ビーブルのソテー
レシピ2:ビーブルのソテー
“Selecting the proper beeble is the key to a good sauté. The pinker the fur and the heartier the yelp, the more succulent the beeble will be when you pop it in your mouth.”
–Asmoranomardicadaistinaculdacar, The Underworld Cookbook
「美味しいソテーのコツは適切なビーブルを選ぶこと。毛色のピンクが濃くて、鳴き声が大きいほど、口に入れたときのビーブルのジューシーさが増すのです。」
–アスモラノマルデカダイスティナカルダカール、地獄料理書
引用:Sautéのフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が私家訳
SautéデータベースGathererより引用
ビーブルのソテー を作るなら、毛色が鮮やかなピンク色で、鳴き声がうるさいものを使うと良い。
Sauté つまり「ソテー 」とは、少量の油でさっと炒める調理法だ。このカードではビーブル(Beeble) のソテーが描かれている。
泡立つビーブル(Bubbling Beebles)データベースGathererより引用
ビーブルは小さくてコミカルな生き物だ。ドミナリアではトレイリアのアカデミー周りで2回カード化されている。ふざけた雰囲気だが一応MTGの正史に存在が許されたクリーチャーだ。
レシピ3:灰色オーガ
レシピ3:灰色オーガ
灰色オーガ(Gray Ogre)データベースGathererより引用
「灰色オーガの爪先、スイート・ブラック・ソースがけ (Gray ogre toes in a sweet black sauce)」はクローブをふんだんに使う。肉は腐りかけが丁度良い。ソースが決め手。
灰色オーガ(Gray Ogre) はドミナリア次元で見られるオーガである。MTG最古のカードの1種でもある。
掌編Chef’s Surprise は、食材として爪先を狙われる灰色オーガが、元凶であるアスモーに復讐するためにやって来るところから始まる。
レシピ4:ペガサスとドラゴンフライ
レシピ4:ペガサスとドラゴンフライ
メサ・ペガサス(Mesa Pegasus)データベースGathererより引用
翆玉トンボ(Emerald Dragonfly)データベースGathererより引用
「ペガサスのサイコロステーキ、レッド・ソースがけ。添え物にドラゴンフライ (Cubed Pegasus in red sauce with dragonfly garnish)」
掌編Chef’s Surprise 当時のカードで考えて、ペガサスとドラゴンフライ(トンボ)と言えばメサ・ペガサス(Mesa Pegasus) と翆玉トンボ(Emerald Dragonfly) であろう。
メサ・ペガサス はドメインズ地方南エローナ大陸サーシ が住み処として有名だ。翆玉トンボは小説Ashes of the Sun とコミックShadow Mage で言及があるのでドミナリアに生息していることが分かる。
レシピ5:バジリスクとジャスコニアス
レシピ5:バジリスクとジャスコニアス
茂みのバジリスク(Thicket Basilisk)データベースGathererより引用
島魚ジャスコニアス(Island Fish Jasconius)データベースGathererより引用
「バジリスクの目、ジャスコニアス・ペースト (Basilisk eyes in Jasconius paste)」
茂みのバジリスク(Thicket Basilisk) はMTG最古のカードの1種であり、MTG史上初のバジリスク・カードでもある。掌編Chef’s Surprise 当時のバジリスクといえばこのカードだ。
島魚ジャスコニアス(Island Fish Jasconius) はドミナリアではなくラバイア次元原産の巨大魚である。ドミナリアのティヴァン砂漠 は遥か昔からラバイアに繋がる次元門 が開いていた場所で、大量の砂と共にラバイアの住人がドミナリアに引き込まれてきた。このジャスコニアスもそうやってドミナリアに住み着いた種と考えられる。
レシピ6:ワーム
レシピ6:ワーム
大喰いのワーム(Craw Wurm)データベースGathererより引用
「大ワームのスープ、バジル風味 (great wurm soup with basil)」。ワームの味は魚に似ている。
大喰いのワーム(Craw Wurm) はMTG最古のカードであり、最古のワームである。ドミナリア次元には、大喰いのワーム系の四肢も翼もないドラゴンにそっくりのワームが各地で見られる。黎明期MTGでワームといえばこのカードであったためであろうが、初期ストーリー作品では大喰いのワームは頻繁に登場しているのだ。アスモーの食材となった大ワームもおそらくこの系統だろう。
レシピ7:スプライト
レシピ7:スプライト
スクリブ・スプライト(Scryb Sprites)データベースGathererより引用
Fire SpritesデータベースGathererより引用
「フローズン・スプライト・デライト、チョコレート・ソースがけ (Frozen Sprite Delight with chocolate sauce)」。デライトはデザートの一種。
スプライトは小さな羽の生えたいわゆる妖精だ。掌編Chef’s Surprise 当時のドミナリアのスプライトとしては2種類のカードが存在していた。
スクリブ・スプライト(Scryb Sprites) はMTG最古のカードであり、スプライトである。ドミナリアに存在を確認できるが、他の次元でも登場例がある。
一方、Fire Sprites こと「炎のスプライト 」はカードセット「レジェンド」 に収録されたMTG史上2番目のスプライトである。炎のスプライトはドミナリア次元のコロンドールや西ジャムーラ亜大陸南部で存在が確認されている。
レシピ8:ドラゴン
レシピ8:ドラゴン
シヴ山のドラゴン(Shivan Dragon)データベースGathererより引用
「ドラゴンの足のマリネ (Dragon foot marinade)」および「チェダーチーズとドラゴンの卵のオムレツ (Cheddar and dragon egg omelets)」。オムレツの味付けにはペッパーベリーを用いる。
シヴ山のドラゴン(Shivan Dragon) はMTG初のドラゴン・カードで、初期のMTGの顔となっていた1枚だ。掌編Chef’s Surprise 当時のドミナリアのドラゴンといえばこれだ。
ちなみに「シヴ山」と訳されているが、「シヴ」は1つの山ではなく赤マナが豊富な大きな島全体を指している。和訳最初期の味付け訳が適切ではなかった例であるが、シヴの地理的設定が公式で確定したのは数年後のことなので仕方がない面がある。
レシピ9:ドライアド
レシピ9:ドライアド
データベースGathererより引用
「パンケーキ (pancakes)。具はたっぷりの油で揚げたドライアドの樹皮 。濃いメイプルシロップに漬されている。」および「シャノーディンのサラダ (Shanodin salad)」
ドライアドは人間女性のような姿の樹木の精霊的種族だ。ドミナリアではシャノーディンのドライアド(Shanodin Dryads) が知られている。このカードもMTG最古のものだ。
レシピ10:ハイドラ
レシピ10:ハイドラ
Rock HydraデータベースGathererより引用
「胡麻ハイドラサラダ、細かく刻んだマッシュルームとピーカンナッツ付 (a sesame hydra salad, chopping up the mushrooms and pecans)」。材料のハイドラは赤ん坊のようだ。
Rock Hydra こと「岩ハイドラ 」はドミナリアに生息が見られる種だ。ドメインズ地方の他、マダラ地方にも生息している可能性がある。このカードもMTG最古の1枚だ。
レシピ11:ガズバンのオーガ
レシピ11:ガズバンのオーガ
ガズバンのオーガ(Ghazbán Ogre)データベースGathererより引用
「ガズバンのオーガのテンダーロイン (Ghazban ogre tenderloin)」。オーガ肉は癖が強い。
ガズバンのオーガ(Ghazbán Ogre) はラバイア次元のオーガである。島魚ジャスコニアスで先述したように、このオーガも次元を超えてドミナリアに移住したものだ。ガズバンのオーガがカードセット「基本セット第5版」に再録した際、新たなフレイバー・テキストが与えられており、その内容からドミナリアでの存在が確認できる。
余談だが、「Ghazbán」とはアラビア語で「treacherous(裏切る、不忠な、油断ならない)」であるため、和名で「ガズバンの…」と訳されているのは不自然さがある。
レシピ12:ヴォーデイリア産キャビア
レシピ12:ヴォーデイリア産キャビア
ヴォーデイリアの兵士(Vodalian Soldiers)データベースGathererより引用
「ヴォーデイリア産キャビア (Vodalian caviar)」
ヴォーデイリアはドミナリア次元サーペイディア大陸周辺海域発祥のマーフォーク国家である。近代以降はドメインズ地方のヴォーダ海にヴォーデイリア帝国を築いている。
掌編Chef’s Surprise の料理名は「Vodalian caviar」であるが、「ヴォーデリア産のチョウザメの卵」と素直に読める以外に、「ヴォーデイリア・マーフォークの卵」と解釈もできる。
レシピ13:エイトグと鉄の根のツリーフォーク
レシピ13:エイトグと鉄の根のツリーフォーク
エイトグ(Atog)データベースGathererより引用
鉄の根の樹人族(Ironroot Treefolk)データベースGathererより引用
「エイトグのパテ 。蜂蜜漬けの鉄の根樹皮 に盛られる(Atog Pate on honey-soaked ironroot bark) 」。エイトグの可食部は肝臓のみで、残りは木屑とグリースのような味しかしない。
エイトグ(Atog) はドミナリアに棲むクリーチャーで、大きな口でアーティファクトや金属を食べてしまう。エイトグには食性の異なる種類が他にもいる。
鉄の根の樹人族(Ironroot Treefolk) はMTG最古のカードの1種であり、ドミナリアに生息するツリーフォークだ。この種はドメインズ、テリシア、サーペイディアで確認できる。最初期翻訳のこのカードでは「樹人族」と訳されたが、それ以降は「ツリーフォーク」で訳が統一された。
レシピ14:セラの天使
レシピ14:セラの天使
セラの天使(Serra Angel)データベースGathererより引用
「セラの天使の翼のから揚げ。衣は粉々に砕いた蜂 (Crisped Serra angel wings, breaded with crumbled bees) 」
セラの天使(Serra Angel) はプレインズウォーカーのセラが創造した天使だ。このカードもMTG最古の1枚で、天使としても最古のものだ。
レシピ15:コカトリス
レシピ15:コカトリス
コカトリス(Cockatrice)データベースGathererより引用
シュガーフロストを塗ったコカトリスのギブレッツ、マリオンベリー・ソースかけ (Suger-frosted cockatrice giblets in marionberry sauce)。ギブレッツは鶏の臓物またはそれを使った料理。マリオンベリーはブラックベリーの一種。
コカトリス(Cockatrice) もMTGの最古からあるカードだ。ドミナリアを舞台としたいくつかのストーリー作品でコカトリスは登場している。
レシピ16:ハールーンのミノタウルス
レシピ16:ハールーンのミノタウルス
データベースGathererより引用
「ハールーンのタルタル・ステーキ、ホースラディッシュ添え (Hurloon tartar with horseradish)」
ハールーンのミノタウルス(Hurloon Minotaur) はドミナリア次元エローナ大陸のハールーン山脈に棲む種族だ。初期のMTGの顔となっていた1つでもある。
レシピ17:タックル蛆
レシピ17:タックル蛆
タックル蛆(Takklemaggot)データベースGathererより引用
「タックル蛆のジャム (Takklemaggot jam)。」朝食のトースト用に。
タックル蛆(Takklemaggot) は巨大な蛆虫だ。小説Johan でドミナリア次元スクールヴィア砂漠に生息が確認された。
レシピ18:ベナリア人
レシピ18:ベナリア人
ベナリアの勇士(Benalish Hero)データベースGathererより引用
ベナリア人の赤子 。マージョラムをもっと効かせてみようかな…
ベナリア人は、かつて私が日本のMTG wikiに記載するのを省いた食材だ。なぜなら、作中で材料として登場したが完成形の料理は描写されなかったことに加え、食人というだけでなく、それが赤ん坊であったことで書き込むのをためらったのだ。
レシピ19:喉笛狼
レシピ19:喉笛狼
Throat WolfデータベースGathererより引用
喉笛狼のリブのバーベキュー。コーンブレッドとベイクドビーンズ付き (Barbecued throat wolf ribs with corn bread and baked beans)
Throat Wolf つまり「喉笛狼 」もMTG wikiに書き込まなかった食材だ。この狼は元々が冗談である。MTG初期の頃、先制攻撃よりも早く攻撃できるThroat Wolfというカードが収録される予定だ…というネタがあったのだ。掌編Chef’s Surprise にはこの喉笛狼が言及されたが、該当カードが存在しなかったのと、元が冗談だったためスルーしたのだ。
掌編Chef’s Surprise での描写は、明日の夜会に出すご馳走が用意できるかと急に問われ、アスモーが喉笛狼でも料理できると豪語して、悪魔王ヴィンセントが舌を巻くといった感じだ。このことから、他の食材となった生物と同じく、喉笛狼もドミナリアに生息していると考えられる。
ちなみに現在では、カードセット「Mystery Booster」の開発部プレイテストカードの枠でThroat Wolfは製品化されている。
レシピ20:ナメクジ
レシピ20:ナメクジ
大ナメクジ(Giant Slug)データベースGathererより引用
掌編Chef’s Surprise において、アスモーの助手となったインプたちが沼ナメクジ(Swamp Slug) を採集する描写が出てくる。食材として利用するものと思われるが、具体的なナメクジ料理は登場していない。
掌編Chef’s Surprise 当時には、沼地に生息していそうなナメクジ・カードには、大ナメクジ(Giant Slug) がいたが、イラストでは小山のような巨体であり、作中の沼ナメクジには合致しない。
メモ:MTG世界のナメクジ食
腐食ナメクジ(Molder Slug)データベースGathererより引用
脱線するが、日本のMTGファン界隈では「ナメクジ食」がネタとして取り上げられることがしばしばある。というのは、2つの小説で主人公がナメクジを食べる場面が出てくるからだ。
陽光を求める者グリッサ(Glissa Sunseeker)データベースGathererより引用
小説The Moons of Mirrodin では、ミラディン次元でエルフ女性のグリッサ(Glissa) がカリカリに焼いた腐食ナメクジ(Molder Slug) を食事している。
ニッサ・レヴェイン(Nissa Revane)データベースGathererより引用
そして、小説Zendikar: In the Teeth of Akoum では、ゼンディカー次元のエルフ女性のニッサ(Nissa) がナメクジを調理して食べている。
多元宇宙では、ナメクジ食はある種のエルフ食文化において定番のようである。
レシピ21:ウーズとアヌーリッド
レシピ21:ウーズとアヌーリッド
“Order up! Ooze aspic and jellied anurid eyes!”
「一丁上がり!ウーズの煮凝りとアヌーリッドの目のゼリーだ!」
引用:台所のインプ(Kitchen Imp)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
台所のインプ(Kitchen Imp)公式カードギャラリーより引用
ウーズの煮凝りとアヌーリッドの目のゼリー
台所のインプ(Kitchen Imp) は、地獄料理書と共にカードセット「モダンホライゾン2」 に収録される新カードだ。掌編Chef’s Surprise に登場したアスモーの助手であるインプたちをカード化したものである。余談だが、掌編ではインプの他に骸骨やグールの助手もつけられていた。
フレイバー・テキストによると、ウーズ(Ooze) とアヌーリッド(Anurid) を食材にした料理ができ上ったところだ。ウーズは不定形のスライム上の生き物で、アヌーリッドはドミナリアの蛙人である。
始源の軟泥(Primordial Ooze)データベースGathererより引用
掌編Chef’s Surprise 当時のウーズは、カードセット「レジェンド」 収録の始源の軟泥(Primordial Ooze) が唯一の該当カードである。
掘削するアヌーリッド(Excavating Anurid)データベースGathererより引用
アヌーリッドはドミナリアのオタリア大陸の蛙系種族だ。一応人型に近いもののあまり知的な種ではない。
レシピ22:インプ
レシピ22:インプ
Action: Show an imp that’s a kitchen helper for Asmor , the Underworld Cook.
指示:地獄の料理人アスモル の台所で助手をしているインプを描く。
引用:台所のインプ(Kitchen Imp)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
スケッチデザインの台所のインプ(Kitchen Imp)特別版公式カードギャラリーより引用
インプ のシチュー…じゃ旨味が足りないし筋張り過ぎてる。それとも、大蛇のクリームスープで使ってみるのはどうかしら。それとも、マーフォークの切り身(Merfolk fillet)の付け合わせに刻んだインプの翼 なんていいかも?
台所のインプ(Kitchen Imp) の特別版イラストでは、スケッチ段階のイラストが使用されていて、フレイバー・テキストの方はイラスト発注の指示文となっている。
掌編Chef’s Surprise では、アスモーは助手のインプたちを脅して要求を通す描写がある。お前たち自身を料理にして悪魔王に提供してもいいんだけれど…と。震え上がったインプたちは言うことを聞くのだった。一応は脅しだけで、インプたちが調理される描写はない。
ちなみにこのフレイバー・テキスト(イラスト発注の指示文)では、アスモラノマルディカダイスティナカルダカールは愛称の「Asmor」と表記されている。和訳製品版は「アスモル」と訳しているが、個人的にこの語感が良くないと感じる。本サイトでは、(公式の表記でないが)従来通りの「アスモー」で通すことにしている。
レシピ23:ピクシー
レシピ23:ピクシー
“Everyone loves a dash of crushed pixie … except the pixie.”
「つぶしたピクシーの風味は誰でも大好きさ……当のピクシー以外はね。」
引用:具眼の味覚(Dicerning Taste)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
具眼の味覚(Dicerning Taste)公式カードギャラリーより引用
つぶしたピクシー
具眼の味覚(Dicerning Taste) では地獄の厨房で働くアスモーが描かれている。助手をしているインプや骸骨は掌編Chef’s Surprise とそっくりそのままだ。
フレイバー・テキストによると、ピクシーを粉砕して隠し味に加えると、その風味は誰もが好むものだという。ちなみにピクシー(Pixie) は上述したスプライトと大体同じような、羽の生えた小さな妖精である。
レシピ24:大理石のガーゴイルとサリッドとマンティコア
レシピ24:大理石のガーゴイルとサリッドとマンティコア
“Once past the stony exterior, the meat is exquisite and can be stuffed with thallids or simmered in a broth of manticore venom.”
–Asmoranomardicadaistinaculdacar, The Underworld Cookbook
「表面の石質を何とかすれば、肉は絶品で、サリッド詰めにしてもいいし、マンティコア毒でスープ煮にしてもいい。」
–アスモラノマルデカダイスティナカルダカール著、地獄料理書
引用:大理石のガーゴイル(Marble Gargoyle)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
大理石のガーゴイル(Marble Gargoyle)公式カードギャラリーより引用
大理石のガーゴイル のサリッド 詰め、あるいは、マンティコア 毒のスープ煮。
大理石のガーゴイル(Marble Gargoyle) はカードセット「モダンホライゾン2」 収録の新カードである。
このカードはGranite Gargoyle こと「花崗岩のガーゴイル 」の色を、赤から白へと変更したバリエーションだ(MTGの色の特性を考えると、このカードは本来は赤より白の方がふさわしい)。カードの性能に限らず、カード名やフレイバー・テキストもネタ元をはっきりと意識している。もちろん皮膚が固いが肉は美味しい。
サリッド(Thallid)データベースGathererより引用
サリッド(Thallid) は暗黒時代 のサーペイディア大陸発祥の菌類系種族。元々ヘイヴンウッド・エルフが食糧難を解決するために育種した食用生物だが、(低いながらも)知性を獲得して反乱を起こし、逆にエルフを滅ぼした。その後サーペイディアからドミナリアの各地に生息域を拡大している。
大理石のガーゴイルの肉にはサリッドの詰め物が相性良いようだ。
深紅のマンティコア(Crimson Manticore)データベースGathererより引用
マンティコアはライオンの体に老人の顔、サソリの尻尾、コウモリの羽根を持つクリーチャーで、ドミナリア次元でも生息が確認できる。掌編Chef’s Surprise 当時に存在したマンティコアといえば深紅のマンティコア(Crimson Manticore) である。このカードはカードセット「レジェンド」 収録であり、MTG史上初のマンティコア・カードである。
食材に利用するというマンティコア毒は、尻尾のサソリ由来のものだ。
レシピ25:シェフのおすすめ
レシピ25:シェフのおすすめ
“Cooked to perfection, of course.”
「もちろん、焼き上がりも完璧。」
引用:シェフのおすすめ(Chef’s Kiss)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
シェフのおすすめ(Chef’s Kiss)公式カードギャラリーより引用
アスモラノマルディカダイスティナカルダカール(Asmoranomardicadaistinaculdacar)公式カードギャラリーより引用
こちらの2枚のカードには料理の仕上げをするアスモーと、皿を運ぶインプたちが描かれている。
見たところでは、牙のびっしり生えた大口を持つ生き物が食材だ。黒いサソリやリンゴのような果実が添えられている。
モダンホライゾン2の食物トークンには、アスモーの料理が描かれている牙の生えた大口とサソリの尻尾は全く同一の料理だ。
地獄のサソリ(Pit Scorpion)データベースGathererより引用
食材のサソリにはおそらく特定のカードを意識しているのではないのだろうが、黒い体色がカードセット「基本セット第5版」再録バージョンの地獄のサソリ(Pit Scorpion) をどことなく想起させる。この地獄のサソリは複数のストーリー作品において、ドミナリアのテリシアやジャムーラなどで生息が確認されており、アスモーが入手可能な食材であることも注記しておきたい。
さて、以上でアスモーの料理は紹介終わりだ。
おまけ:地獄料理書のイラスト制作
地獄料理書のイラストを担当したJoe Slucher はツイッターで制作の裏話をいくつか語っている。
当初は地獄料理書の表紙には英語で書名が記されたデザインを模索したが、最終的に文字のないデザインでまとまったとのこと(リンク )。また、イラストのデザインそのままで、実際に本を制作している(リンク :短い動画あり)。
さて、地獄料理書とアスモーの料理について十数年ぶりに振り替えることができた。掌編Chef’s Surprise (短編集Distant Planes 収録)は読み返してみたが、やっぱり楽しい雰囲気の作品であった。満足だ。
では今回はここまで。
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