エラントとジアーダ(Errant and Giada)カードセット「機械兵団の進軍」収録の伝説のクリーチャー・カードである。
伝説キャラクター2人がコンビを組んで、1枚のカードとなったシリーズの1枚だ。色々な次元の異色コンビが収録されているが、この2人がニューカペナ次元の代表である。
今回はエラントとジアーダのコンビの背景ストーリーを解説し、「機械兵団の進軍」ニューカペナ編のエピソードの全体についても掘り下げてみた。
エラントとジアーダの解説
AR4562年、新ファイレクシアによる侵略がニューカペナ次元へと迫った。
世界の危機に際して、ニューカペナの路上芸術家エラント(Errant)と、希望の天使ジアーダ(Giada)がコンビを組んだ。ただし、エラント自身にはこのコンビの自覚はなかった。
エラントの略歴
エラント(Errant)はニューカペナの有名なグラフィティ・アーティストの人間女性で、スプレー的な装置で街中に絵を描いてきた。
最愛の妻パルネス(Parnesse)は肖像画家の吸血鬼女性で、2人はまだ新婚である。
エラントの父親は貴顕廊一家で長年ナンバー2であった吸血鬼アンヘロ(Anhelo)だ。貴顕廊の美術館・博物館の管理者・学芸員でもあった。新ファイレクシアンの侵略によって貴顕廊の多くの吸血鬼たちと同様にファイレクシアンに改造されてしまった。
エラントと家族の詳細は別記事を参照のこと。
ジアーダの略歴
孤児の少女ジアーダ(Giada)は、光素を生み出せる唯一無二の能力を持つ者として、舞台座一家に保護されていた。
オブ・ニクシリスの起こした抗争の混乱の中で、ジアーダはエルズペス(Elspeth)によって舞台座から連れ出された。
遂にジアーダは自分が天使だと自覚し、エルズペスに助成してオブ・ニクシリスを打倒すると、光となって消えた。そしてニューカペナ次元の天使たちが目覚め始めたのだった。
エラントとジアーダのストーリー
エラントとジアーダがコンビを組むに至ったストーリーは、公式記事The Legendary Team-Ups of March of the Machineで語られている。
2023年4月16日現時点では、公式和訳版は公開されていないため、本サイトでは記事中の文章を独自翻訳した。以下の通りだ。
ジアーダは聖なる光の波へと変身し、ニューカペナの天使の覚醒を促した。数週間後、アトラクサの軍勢がニューカペナの街を征服せんと脅かす中で、レジスタンスの闘士たちは最終作戦を打ち立てた。高街を崩落させて、アトラクサを圧殺するのだ。
計画の要が路上芸術家エラントで、超高層ビル群を倒壊させる爆発物の設置を任されていた。彼女は知らなかったが、今や完全な天使となったジアーダがその姿を見守っていた。計画が成功すれば、復活したニューカペナの天使たちが多元宇宙間戦争の潮目を変えるチャンスを得られるのだ。
エラントに自分の存在を気取らせはしなかったもののジアーダは常に共にあり、彼女の光素カートリッジに特別な効能を与え、最悪の被害から彼女の身を守っていた。そして、遂に高街が崩落したとき、転落死からエラントを救った天使を手配したのもまた、ジアーダであった。
以上のような経緯なので、エラントはジアーダが側にいることを露ほども知らずコンビを組んでいる自覚は無かったのだ(カードではばっちりジアーダが描かれているけれど)。
エラントとジアーダについてだけでなく、エピソードの全体像についても取り上げる。
高街崩落作戦とアトラクサの死
エラントとジアーダのストーリーは、短編New Capenna: The Fall of Park Heightsで語られていたものだ。侵略者アトラクサを倒す高街崩落作戦の詳細であり、短編タイトルがまさにその作戦である。
※ この短編は、2023年4月16日現時点で原文公開から3週間が経過したものの、まだ公式和訳版は公開されていない。
主役はエラントで、彼女は愛妻パルネスとニューカペナを守るために命を懸けた。
高街を爆破して崩壊させてアトラクサを圧殺する作戦で、エラントはヘンジー・トーリ(Henzie Torre)が調達した爆発物を適切な場所に設置する重要な役目を担った。
実は、ニューカペナのレジスタンスにとって「路上の落書き(tagger’s scrawl)」に隠された暗号が情報源になっていた。街のあちこちに都市の構造上の弱点となるポイントが描き込まれていたのである。
「路上の落書き」の読み取りは、諜報の専門家である常夜会のカミーズ(Kamiz)ですら手に余るものであった。だからこそグラフィティ・アーティストのエラントの読解力が求められ、皆が彼女を頼ったのだ。ニューカペナの5つの「一家」は大打撃を負っているものの、未だ健在なボスたちは組織の残滓を動かして反攻作戦に協力した。
エラントはぎりぎりで爆発物を仕掛け終え、アトラクサが絶好の位置に来たまさにその瞬間に起爆が成功した。こうして崩落したニューカペナの都市の大重量がアトラクサの頭上へと圧し掛かってその命脈を断ったのである。
高街崩落作戦とアトラクサの死の感想
以上のような流れが、短編New Capenna: The Fall of Park Heightsで語られた「高街崩落作戦とアトラクサの死」のエピソードである。
短編作中にジアーダの姿を見ることは叶わないけれど、設定解説に準ずれば見えざる守護天使としてエラントをずっとサポートしていた。
この短編はファイレクシアンに改造された父アンヘロとの対決も個人的には見どころであった。どっちが強いかの単調なバトルではなく、芸術に携わった父と娘の2人らしい対立として描かれていた。
新ファイレクシアのストーリーアークでは、ずっと「家族」と「故郷」がキーワードとなる縦糸となって全体を繋げていると私は読んできた。この短編では、エラントは家族である最愛の妻パルネスを守るため、敵に改造された亡き父アンヘロと対峙し芸術家として戦ったのだ。このエピソードもやはり「家族」と「故郷」の話であった。
一本筋が通っていて私はこの短編とエピソードが気に入っている。
高街崩落作戦とアトラクサの死の全体像
「高街崩落作戦とアトラクサの死」は、「機械兵団の進軍」収録のカードや連載ストーリー第9話The Old Sins of New Phyrexiaでもさらりと語られている。そちらを見るだけでは、エラントやジアーダの関与は窺い知ることができない。
つまり「高街崩落作戦とアトラクサの死」というエピソードは、短編・エラントとジアーダの背景設定・連載ストーリー・カード、これらを当たらなければ全容が見えてこないのだ。
とはいえ、それぞれのソースで視点を変えて多角的な見方ができるとも考えることができるわけで、「機械兵団の進軍」のストーリーの中でも「高街崩落作戦とアトラクサの死」はだいぶ贅沢な造りのエピソードといえるだろう。
それでも全然物足りないのは事実である。
事実ではあるのだが、ほとんどカードの画面外で処理されたカルドハイム次元のラグナロク的顛末(星界モンスターが続々とファイレクシア化し退治され、世界樹が崩壊したなど)に比べたら、本当に恵まれている。私はそうしみじみ感じる。
高街崩落作戦とアトラクサの死への反応
日本においては、ストーリー短編の翻訳が大幅に遅れている。短編New Capenna: The Fall of Park Heightsは3週間が経過しても未だ公式和訳版は公開されていない。
この遅延の影響は、「高街崩落作戦とアトラクサの死」というエピソード自体に対する評価を大分悪くさせている。
なぜなら、短編でのエラントを始めとするニューカペナの人々の奮闘が語られぬまま、日本では連載ストーリー第9話邦訳版が公開され、ほとんど序盤の地の文だけでアトラクサが崩壊に巻き込まれて死んだことが語られたのだ。
日本の読者には「新ファイレクシアの指導者エリシュ・ノーンの副官アトラクサが、地の文で崩れた建物に潰されてあっさり死んだ!?」と非常に間が抜けた最期に見えてしまった(新ファイレクシア法務官たちのあっけない最期も相まって、公開当日から強敵たちの雑な退場描写に関する悪評は嫌になるほど目にした)。
原文の方では、ニューカペナ編の短編が公開された翌日が連載ストーリー第9話の公開であった。詳細は短編で既に明かされており、それを受けての状況が連載ストーリーに引き継がれるという順番だ。だから、受ける印象は日本読者に比べたら大幅にましだったのだ。
短編和訳の遅延は日本ウィザーズからツイッター上でアナウンスがあったので納得していたし、そのうちニューカペナ編邦訳版が公開されれば世間の見方も変わっていくだろうと期待していた。時間をかけて誤りのない翻訳を届けてくれるなら、遅れても我慢はできる。
しかし、もうすぐ1か月、「機械兵団の進軍」のプレリリースも始まってしまっている、こんなに遅れてしまうとは予想外だよ。
さいごに
今回はエラントとジアーダのコンビの背景ストーリーと、彼女たちが関わった「高街崩落作戦とアトラクサの死」のエピソードを取り上げてみた。
個人的にニューカペナは好みの世界だし、エラントは家族を含めて魅力豊かなキャラクターだとお気に入りだ。この度の侵略戦争で大分滅茶苦茶にされてしまったけれど、それでも語られたエピソードは「機械兵団の進軍」にしては結構悪くなかったな、と納得できている。エラントは、前回のカード化は見向きもされてなかったが、ニューカペナ編のメインキャラクターに大抜擢されて、ちょっと嬉しかった。忌まわしい戦争も終わったので、彼女たちのその後が早く見たいものだ。
では、今回はここまで。