ドミナリア:ウル=ドラゴ

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ウル=ドラゴ(Ur-Drago)カードセット「レジェンド」収録の伝説のクリーチャー・カードである。

カードセット「レジェンド」のキャラクターとしては珍しく、ウル=ドラゴはストーリー作品で猫人の英雄ジェディット・オジャネン(Jedit Ojanen)の敵として現れただけでなく、オリジンから最期までしっかりと描かれている(さらに、死後数世紀の後に1度復活してすらいる)。

今回は、ウル=ドラゴのストーリー上の設定と活躍を解説を行う。記事の最後では、ウル=ドラゴと名前の似ているキャラクター「始祖ドラゴン(The Ur-Dragon)」との関連性についても触れる。

追記(2021年3月1日):マーク・ローズウォーターの記事発言に関して取り上げ、記事最後に大幅に加筆した。

追記(2023年7月16日):ビジュアルガイドでレジェンドサイクル1がAR3334年と明確化されたため記述を修正した。

ウル=ドラゴの解説

A horrific legendary creature, this monster conceals its hideous face behind a curved steel mask. Its hands and feet are said to end in scorpion-like pincers, and it needs neither to breathe nor eat — only to kill.
恐るべき伝説のクリーチャーであるこの怪物は、湾曲した鋼鉄の仮面で醜悪な顔を隠している。その両手両足の先端はサソリのようなハサミであると言われている。そして、呼吸も食事も必要なく–ただ殺戮のみを求める。
引用:1997年日めくりカレンダー
上が英語原文。下が私家訳版

Ur-Drago

データベースGathererより引用

ウル=ドラゴ(Ur-Drago)はドミナリア次元の怪物である。カード上のクリーチャー・タイプはエレメンタル。公式に和訳されたことがないため「ウル=ドラゴ」は本サイトでつけた暫定訳である。

ウル=ドラゴの設定情報は1997年の日めくりカレンダー(上記)と小説2作品に確認できる。カードセット「レジェンド」の伝説のクリーチャーの中でも、公開情報の量や登場作品数ともにかなり恵まれている方だ。

ドミナリア次元の猫人の創造神として知られるテレント・アメス(Terrent Amese)AR27世紀頃、陸亀と馬と雄牛から生み出した存在が、このウル=ドラゴである。ウル=ドラゴは筋骨隆々たる巨体と角、爪、そして硬い外皮を武器として肉弾戦で荒々しく戦う。殴り、体当たりをし、踏みつぶし、ぶち壊すのだ。



ウル=ドラゴの外見

ウル=ドラゴのカード・イラストは頭部と肩の一部しか描かれておらず全身像が分からない。小説Final Sacrificeの外見描写はイラストをきちんと踏襲しており、イラストから見えない部分も描写されている。

小説によると、身の丈は人間の1.5倍ほどあり、人型をしている。顔を覆う湾曲した鋼鉄の仮面(覗き穴は1つ、口は網状)を被り、側頭部からは2本の角がそそり立ち、茶色の馬のような太い首を持ち白い馬のようなたてがみが生えている。肌は海の石のように磨かれた岩に似ていて、体を守る金属の防具の帯のみを身に着けている。金メッキされた仮面と防具は所々錆びついている。両手両足の先はサソリのようなハサミ状の爪があり、脚部は捻じ曲がっている。

1997年の日めくりカレンダー(上記)の解説は小説描写を反映して拡張したものなのは明らかだ。

小説Hazezonの描写も概ね同様だが、体表の描写が異なっている。こちらでは生きた岩のような肌ではなく、斑模様の陸亀の甲羅1に包まれた身体となっている。この作品でウル=ドラゴの元となった生き物の1つが陸亀と明かされたことから、こちらの描写の方が正しいと思われる。一見して岩のようにも見間違えるが、実際はウル=ドラゴの体表は亀の甲羅状なのだ。

クレイトン・エマリィ!

ウル=ドラゴはクレイトン・エマリィの2作品で強敵として登場する。1995年発行の小説Final Sacrificeと、2002年発行の小説Hazezonである。以下では発行順ではなく、時系列順に解説を行う。

小説Hazezon

小説Hazezonでは、ウル=ドラゴの起源と創造主から課せられた使命が語られた。ウル=ドラゴは、テレント・アメス(Terrent Amese)の力により、大型で斑模様の陸亀、茶色の毛に雪のような白いたてがみの馬、がっしりとした黒い雄牛から創造された。仮面もテレント・アメスから授かったものだ。

The Tabernacle at Pendrell Vale

ペンドレル峡谷の礼拝堂(The Tabernacle at Pendrell Vale)
データベースGathererより引用

ドミナリアの神話によると、テレント・アメスは虎と人間から虎人を、そして様々な人型種族をも創り出した。西ジャムーラ亜大陸のスカーウッド(Scarwood)の中心「ペンドレル峡谷の礼拝堂(The Tabernacle at Pendrell Vale)」はテレント・アメスの聖地であり、最初の虎人オジャネンの下で繁栄を築いていた。しかし、ドミナリア氷河期中のAR27世紀頃、オジャネンはテレント・アメスに反逆し、スカーウッドを捨てて西のスクールヴィア砂漠のオアシスへと虎人を率いて移住してしまう。

激怒したテレント・アメスは自由意思を得て反逆したオジャネンに報復するための殺戮者ウル=ドラゴを創り、廃都となったペンドレル峡谷の礼拝堂へと遺したのだった。

Jedit Ojanen

ジェディット・オジャネン(Jedit Ojanen)
データベースGathererより引用

それから7世紀が経ったAR3336年2、オジャネンの子孫ジェディット・オジャネン(Jedit Ojanen)が亡霊の住む廃墟となったペンドレル峡谷の礼拝堂を来訪する。テレント・アメスの使命に従いウル=ドラゴはジェディットの命を求めて獰猛に襲い掛かった。礼拝堂での激闘の末にウル=ドラゴはジェディットの手で屠られてしまった。テレント・アメスの遺した報復者は排除された。これがきっかけとなり、ペンドレル峡谷は再び虎人の聖地へと再建されることになるのだった。

ウル=ドラゴはこの時点で死亡したが数世紀後に再び出現する。それが残りの1作品、クレイトン・エマリィ小説Final Sacrificeである。

小説Final Sacrifice

小説Final Sacrificeでは、ウル=ドラゴは主人公グリーンスリーヴズ(Greensleeves)の敵の配下として登場する。この小説の時代設定はAR4077年である。

この時代、ウル=ドラゴは「沼の災い魔(Scourge of the Swanp)」の別名で呼ばれ、子供が怖がる昔話に出てくる怪物と伝えられていた。その伝説の怪物が戦闘で突如現れ、ドメインズ地方ささやきの森(Whispering Woods)の大ドルイド、グリーンスリーヴズに襲い掛かった。怪物はあっという間にグリーンスリーヴズの護衛の命を奪いあるいは重傷を負わせた(ウル=ドラゴ単独で、名前ありのサブキャラクターが何人も殺されている)。

グリーンスリーヴズは即座にウル=ドラゴに対する解決手段を模索する。ウル=ドラゴの遭遇前からかけていた泥沼(Quagmire)の魔法は沼に生息するこの怪物には効果がない。

Quagmire

泥沼(Quagmire)
データベースGathererより引用

茨の壁(Wall of Brambles)や石の槍の壁(Wall of Spears)……

茨の壁(Wall of Brambles)

茨の壁(Wall of Brambles)
データベースGathererより引用

…あるいは、大地の壁(Wall of Earth)でも怪物を押しとどめることはできないだろう。3

Wall of Earth

大地の壁(Wall of Earth)
データベースGathererより引用

そこで、グリーンスリーヴズが考え出した解決法は、送還(Unsummon)の呪文によってウル=ドラゴを深淵(The Abyss)へと放逐することだった。

The Abyss

深淵(The Abyss)
データベースGathererより引用

魔法が深淵への穴を開く、ウル=ドラゴは暗黒に呑み込まれ、穴が閉じると完全に消えてしまった。

実は作中でのウル=ドラゴとの遭遇はたった4ページしかないが、この短期間の大暴れでグリーンスリーヴズ陣営の人的資源に対し見過ごせない損害を与えている。

ところで、ウル=ドラゴは数世紀前に死んだはずなのになぜ生きているのだろう?



ウル=ドラゴの生死問題

以上のように、ウル=ドラゴは一度死亡したにも関わらず、数世紀後には何もなかったように暴れているのだ。同じ作者の2作品でどうして食い違いが起こっているのだろうか?

まず初めに明言しておきたいが、作中にこの食い違いを説明する記述はない。クレイトン・エマリィ小説Hazezon執筆後に待遇を不服としてウィザーズ社の作家業から一切手を引いてしまった。クレイトンはその経緯を当時の自サイトで明かしており、かなり腹に据えかねる怒りが積み重なってたようだ(リンク)。今更クレイトンに事情を聴くのは野暮だと思うし、もしかしたらウィザーズ社との決別のために整合性は初めから考慮していなかったのかもしれない。

それなら、既存の情報から納得できる説明が可能かを探ってみたい。結論から言うと「魔法による復活」か「本物のコピー」の2通りの可能性があるだろうか。

魔法による復活説

MTGの世界では魔法的手段による死からの復活は可能である。ただし、カードゲーム上では死者は墓地からお手軽に生き返るが、各種作品ではそれほど頻繁には死者は蘇らない(物語上の都合だろう)。死者復活は物語ではあまり万能ではないものの可能性はあるだろう。

ウル=ドラゴは種族を創造する力を有するテレント・アメスが生み出した怪物だ。強大な力を振るうテレント・アメスなら死者復活くらいできてもおかしくはないと思える。

本物のコピー説

MTGでは召喚呪文(クリーチャー呪文)の基本設定は、本人を魔法で呼び出すのではなく、霊気(Aether)によるコピーを呼び出す魔法とされている。本物が死亡していても、コピーを呼び出すなら生死は関係はなくなる。

ただし、初期のMTGにはこの基本設定は無かったので、小説Final Sacrificeが霊気コピーを念頭に入れて執筆されていたとは考えられない。その一方、死者復活系のカードは最初期から複数存在していたものだ。その点から言ってコピー説より死者復活の方が当時のMTG事情からすると自然な発想かもしれない。

個人的に霊気コピー説を推す

両説共に決め手に欠け、甲乙つけがたいのだが、私は個人的に「霊気による本物のコピー説」の方を支持している。

その理由は小説Final Sacrificeの以下の記述だ。グリーンスリーヴズが深淵(The Abyss)とは何なのだろうかと考える件である。

This was the abyss, an infinite well of darkness that lay–Greensleeves knew not where. Between worlds? Between planes? Between life and death? Between reality and dream?
これが深淵だ、無限なる暗黒の井戸…グリーンスリーヴズはそれがどこか知らなかった。世界の狭間?次元の狭間?生死の狭間?夢現の狭間?
引用:小説Final Sacrifice
上が英語原文。下が私家訳版

現在のMTGの宇宙観設定によると、次元と次元の間は久遠の闇(Blind Eternities)が広がっている。そこは無限の広がりを持つ空間と言われ、霊気で満ちている。

次元の狭間には霊気があるのだ。深淵の正体が次元の狭間だったとしたら、深淵と久遠の闇はイコールで結ばれる。そして先述のように、ウル=ドラゴは送還呪文で深淵へと消し去られているのだ。

とすると、小説Final Sacrificeでのウル=ドラゴの最期の場面は、召喚呪文で作られた霊気のコピーが送還呪文で元の霊気があるべき場所へと戻された描写、と解釈できるのではないだろうか?後付け設定からの推測ではあるがこう読むこともできる。

ウル=ドラゴと始祖ドラゴンの関係

始祖ドラゴン(The Ur-Dragon)

始祖ドラゴン(The Ur-Dragon)
データベースGathererより引用

MTGの世界設定にはウル=ドラゴ(Ur-Drago)とよく似た名前の始祖ドラゴン(The Ur-Dragon)が存在している(英語原文だと1字違い)。

英語でない言語では「drago」が「ドラゴン」を意味するものもある。

Ur-Drago–was it some dragon construct, with that name?
ウル=ドラゴ…その名前からして、ある種のドラゴンの構成物なのだろうか?
引用:小説Final Sacrifice
上が英語原文。下が私家訳版

小説Final Sacrificeの主人公グリーンスリーヴズも、ウル=ドラゴはドラゴンと関係する名前なのかもしれないと疑問を抱いていた。

真実はいかに…?始祖ドラゴンは多元宇宙の全ドラゴンの源流たる存在であり、ドラゴンという概念そのものである。テレント・アメスが陸亀と馬と雄牛から創造したいわば合成生物のウル=ドラゴとは何の関係性もない。したがって、身も蓋もないが、名前は似ているだけで設定は何の関係もない別ものであった。

追記(2021年3月1日):
マーク・ローズウォーター(Mark Rosewater)公式記事How Trivial – Legendary Creatures公式和訳版)の第3問で、「ウル=ドラゴは始祖ドラゴンに関連がある」と記述しているが、本記事で解説してきたように少なくともストーリーや設定上で両者に関係は全くない。

始祖ドラゴンの末裔(Scion of the Ur-Dragon)

始祖ドラゴンの末裔(Scion of the Ur-Dragon)
データベースGathererより引用

ローズウォーターの認識では、レジェンド収録のウル=ドラゴにインスパイアされてカードセット「時のらせん」の始祖ドラゴンの末裔(Scion of the Ur-Dragon)とカードセット「統率者2017」の始祖ドラゴン(The Ur-Dragon)の2つが作られたとしている。これも怪しい。始祖ドラゴンは元々カードセット「インベイジョン」時のフレイバー・テキストが初出の存在で、その時にもウル=ドラゴとは無関係であった。始祖ドラゴンと始祖ドラゴンの末裔は、そのフレイバー・テキストにまつわる設定に直接繋がるキャラクターなのだから、ウル=ドラゴと結び付けることはできない。

実はローズウォーターが間違った内容を記事化してしまうことは今回が初めてではない。例えば、このトリビア記事の前回記事でも間違った情報を発信していたのだ。公式記事A Trivial Pursuit公式和訳版)では第6問と第13問の答えの内容に誤りがある。

Clockwork Gnomes

Clockwork Gnomes
データベースGathererより引用

第6問では、MTG史上初のアーティファクトのノームはカードセット「ミラージュ」の人造ノーム(Ersatz Gnomes)だとしているが、正しくはその1年前のカードセット「ホームランド」のClockwork Gnomesである。

第13問の方は「ラース次元の種族ヴェク、ダル、サルタリー、サラカス、ダウスィーの出身次元はまだ不明だ」と書いてあるが、こちらも間違いである。それらはドミナリア次元発祥であり、「サルタリー、サラカス、ダウスィー」の3種族に至ってはラース次元初出のカードセット「テンペスト」期に公式雑誌Duelistで設定が公開済みであった。→本サイトでは以前にラース:種族の起源で解説している。

ラース:種族の起源
マジック・ザ・ギャザリング(MTG)のラース次元に生息する人型種族の出身次元について解説する。コー、ヴェク、ダル、サルタリー、サラカス、ダウスィー、スカイシュラウド・エルフ、ルートウォーター・マーフォーク、モグの起源はどこにあるのか?

人は時に間違いを犯す、ローズウォーターのように注意深く配慮した良記事を書く人物であっても例外ではない。私が見たところ、ローズウォーターはクリエイティブ部門の範疇(ストーリーやキャラクターや背景設定関係)になると途端に脇が甘くなることが多いのだ。

したがって、ウル=ドラゴからのインスパイアで始祖ドラゴンが作られたというローズウォーターのコメントは信用に足らずと言わざるを得ない。

MTGは発売以来今年2021年で28年目を迎えた。マーク・ローズウォーターが1人で把握するには歴史とカードを積み重ね過ぎてしまったように感じる。
追記ここまで

では、(追記も終わったので)今回はここまで。

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レジェンド
マジック・ザ・ギャザリング(MTG)のカードセット「レジェンド」収録のカードの中からピックアップしてストーリーや設定を解説する。
  1. 原文で「tortoise shell」となっているので「陸亀の甲羅」と普通に訳したが、甲羅でなく「陸亀の硬い外皮」を表している可能性もある。
  2. ビジュアルガイドでレジェンドサイクル1はAR3334年と明確化されたが、この小説三部作は小説Hazezonの終盤時点で三部作の最初から2年が経過しており、この時点でAR3336年と導き出される
  3. ゲーム的に見ると、茨の壁(Wall of Brambles)の再生能力や、Wall of Earthの高いタフネスで対処できるのだが…。