疾風のデルヴィッシュ(Whirling Dervish)はカードセット「レジェンド」収録のクリーチャー・カードである。
疾風のデルヴィッシュの解説
疾風のデルヴィッシュ(Whirling Dervish)はラバイア次元とドミナリア次元で存在が確認される修道僧である。カード・イラストでは中東風の曲刀を携えた黒衣の騎兵の姿で描かれている。
かつてのドミナリアは複数の次元間ポータルでラバイアと繋がっており、遥かな昔から多くのラバイアの民や文化がもたらされた。その歴史的経緯から考えて、ドミナリアのデルヴィッシュも同様にラバイアからの移民やその末裔、あるいはラバイア文化の影響で誕生した団体という可能性は十分にあるだろう。
現実世界のデルヴィッシュ
MTG独自のデルヴィッシュについて解説する前に、そもそも「Whirling Dervish」は現実世界ではどういう存在かを確認しておきたい。
「デルヴィッシュ(ダルヴィーシュ)」とは、現実世界のイスラム神秘主義(スーフィズム)の修道僧を指す。身体を激しく回転させて踊る宗教行為で知られており、「Whirling Dervish」つまり「回転するデルヴィッシュ」と呼ばれる。日本語では「旋舞教団」との呼称もある。「whirling dervish」で検索すると回転して踊る修道僧の画像や動画を見ることができる(検索結果)。
このカードはそういったデルヴィッシュをモチーフにして、MTG風にアレンジしたカードと言えるだろう。カードのデルヴィッシュは回転して踊ってはいないが、小説作品の中には回転するデルヴィッシュ(ムロニア教団:以下参照)も登場する。もちろんこのカードと現実の宗教とは関係はない。
ラバイア次元のデルヴィッシュ
アラビア風次元のラバイアにもデルヴィッシュは存在する。
プレインズウォーカーに目覚める前のテイジーア(Taysir)1は大都市バッズーラ(Bassorah)のデルヴィッシュであった。デルヴィッシュは慈悲深く、病の治療を行う聖人である。ただし、カードと異なり、デルヴィッシュのテイジーアは緑でなく白に属している。
ドミナリア次元のデルヴィッシュ
ドミナリア次元のデルヴィッシュは、ドメインズ地方ムロニアと、西ジャムーラ亜大陸スクールヴィア砂漠で確認できる。
ムロニア教団の聖なるデルヴィッシュ
AR41世紀のドメインズ地方では、北エローナ大陸のムロニア教団(Muronian Order)が知られる。ムロニア教団の聖なるデルヴィッシュ(Holy Dervish)は全宇宙の滅びを信じており、その終末論を説教したり宗教冊子を配るなどして各地で布教している。ムロニア教団は外部の者から非常に煙たがられている。ムロニア教団のデルヴィッシュには回転する描写がある。
ファイレクシア侵略戦争以前のこの時代、ムロニア(Muronia)と北の隣国レンナ(Wrenna)は、それぞれ別の原因によってではあるが、両国共に腐敗の冷たい抱擁に屈しつつあった(出典:ドメインズ地図付属カレンダー)。想像するに、ムロニアの腐敗は教団の終末論の蔓延が原因であったのではないか。
ジャムーラのデルヴィシュ
AR34-35世紀頃、西ジャムーラ亜大陸スクールヴィア砂漠(Desert of Sukurvia)にもデルヴィッシュが確認できる。この砂漠のデルヴィッシュの詳細は分からない。
この地方の砂漠と周辺都市国家には多種多様な種族と宗教が入り混じって存在している。砂漠のデルヴィッシュの他にパルミラ(Palmyra)やブライス(Bryce)などの街の住人、砂漠の遊牧民、砂漠エルフ、ドワーフ、レプラコーン、ブラウニー、信仰の守り手(Keepers of the Faith)、砂漠のドルイド、沈める海(Sunken Sea)のマーフォークなどなど。登場作品中では、砂漠のデルヴィッシュはその他大勢の一部といった描写でしかない。
疾風のデルヴィッシュのストーリー
ラバイア次元のデルヴィッシュのテイジーアは、コミック版Arabian Nights全2巻に登場する。
ムロニアのデルヴィッシュは登場作品数が他よりも多い。小説アリーナ 魔法の闘技場、小説Shattered Chains、小説Final Sacrificeの3作品に出番がある。これら3作品の時代設定はAR4070年代である。
小説アリーナ 魔法の闘技場ではムロニアから南西に離れたエスターク(Estark)の街で布教する姿が見られた。
小説Shattered Chainsでは、ムロニア教団のデルヴィッシュが複数名、ささやきの森のグリーンスリーヴズ(Greensleeves)の軍に加わっており、回転したり世界の破滅を声高に叫んだりしていた。
その続編である小説Final Sacrificeでは、グリーンスリーヴズ軍の馬車内でムロニア教団員の破滅の説教に耳を傾けるのはコーリスの殉教者(Martyrs of Korlis)のみ、という些細な一場面でのみ登場した。
スクールヴィア砂漠のデルヴィッシュは、レジェンドサイクル1小説三部作で描かれている。砂漠の民として「dervish」あるいは「desert dervish」、「whirling dervish」という表記で出てきている。物語上に特に役目は与えられておらず、砂漠とその周辺に暮らす様々な人々の一員(その他大勢)として描写されている。
疾風のデルヴィッシュのプロモカード版
Amid this whirling hurricane of blades, there is no calm eye in which the hapless can find shelter.
荒れ狂う刃の嵐の中には、哀れなる者が逃げ込む無風の目などありはしない。
引用:疾風のデルヴィッシュ(Whirling Dervish)プロモカード版のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
疾風のデルヴィッシュには、別バージョンのイラストのプロモカード版が存在する。2007年のイベントで配布された特別版であり、新規のフレイバー・テキストが設けられている。
このプロモカード版のイラストでもデルヴィッシュは回転する踊りをしていない。また、フレイバー・テキストの単語に「whirling」が含まれているが、「回転する踊り」ではなく「ハリケーンのように渦巻く刃」という別の意味合いが持たされている。
おまけ:和訳製品版カード名
最後に、このカードのカード名「疾風のデルヴィッシュ」について不思議だな、と思っていたことを書いて終わりにする。
このカードの原語名は「Whirling Dervish」である。本記事で示した通り、元ネタのように「回って踊るデルヴィッシュ」とも、「ハリケーンのように渦巻く刃のデルヴィッシュ」とも解釈できる名称である。どちらにしても「Whirling」は辞書通りの「ぐるぐる回る・渦巻く」の意味合いなのは間違いない。
しかし、和訳製品版では「Whirling」は「疾風の」となっている。「疾風」とは「早く吹く風」のことだ。「ぐるぐる回る・渦巻く」の意味合いがどこかに消えてしまっているのだ。
昔資料として購入した漫画「おこんないでね」には最初のMTG翻訳の舞台裏の様子がちらりと描写されている。「おこんないでね」によると、カード名の仮案が「回る僧侶」だったとのこと。つまり翻訳者は回るニュアンスは汲み取っていたはずなのだ。
「回る僧侶」が最終的に「疾風のデルヴィッシュ」になって製品化されたのはなぜか?それが不思議でならなかった。
個人的な想像なのだが、本当は「疾風」ではなくて「旋風のデルヴィッシュ」だったのではなかったのか。旋風とは「渦巻く風、つむじ風」のこと。こっちなら辞書的にも「whirling」の意味として合っている。
制作工程上で旋風が疾風に取り違えられたとか、転記する途中で誤記したとか、結構起こりそうな状況に思える。
まあ、「疾風のデルヴィッシュ」が「回る僧侶」よりも洗練された名前になっているのは幸いだ。今回はここまで。
疾風のデルヴィッシュの関連記事
カードセット「レジェンド」関連のリスト