2023年は「兎年」ということで、正月ネタ記事を書くことにした。
一昨年が「丑年」でターンガース(Tahngarth)、去年「寅年」はジェディット・オジャネン(Jedit Ojanen)を選んだ。さて今年は……。
「兎(ウサギ)」に関することわざと言えば、古来から「獅子搏兎(ししはくと)」すなわち「獅子は兎を狩るにも全力を尽くす」が知られている。
そう「兎」と言えば「獅子」だ。
兎年最初の今回は、カードセット「兄弟戦争」からアルガイヴの「獅子」の謎を取り上げよう。
アルガイヴの「獅子」の紋章
カードセット「兄弟戦争」において、テリシア東岸の王国アルガイヴ(Argive)には「獅子」の紋章が新規に設定されている。
アルガイヴの「獅子」の紋章は顔のみなのが特徴である。獅子面を除き、それ以外の身体の部分は描かれていないのだ。
カードのイラストでは建造物やアルガイヴ軍の装具類(兜、胸当て、肩当て、盾など)に幾つも確認できる。
連載ストーリーの過去時間軸第1回(記事リンク)では、首都ペンレゴンには国王と宮廷を守る「獅子の堂(The Lion’s Hall)」という名の、ペンレゴン港を見下ろす絶壁上に建つ大城塞が言及された。
アルガイヴの「獅子」の紋章が描かれたカードの例
海に面した断崖の上、石造の「獅子」の口から大量の水が滝となって振り注いでいる。
ここは首都ペンレゴンであろうか?白亜の巨大な「獅子」の建造物が建っている。
「アルガイヴの盾」と称されるミュレル(Myrel)の盾にはもちろん「獅子」だ。
徴兵担当のこの士官は「獅子」の胸当て、肩当てを着ている。
胸の獅子面は多くのアルガイヴ軍人のイラストで目に入ってくるものだ。
兜の前面と胸当てに「獅子」がある。
額の丁度上に、金色の獅子面飾りがあるタイプの兜は、多くのカードに描かれている。ただ、カードサイズでは少々小さくて目立たず、見付けにくいかもしれない。
最終決戦の日のタウノス(Tawnos)も「獅子」の胸当てをつけて描かれている。
アルガイヴの「獅子」のルーツ
以上のように「獅子」は、アルガイヴの国と王族の象徴である。カードセット「兄弟戦争」で獅子面があれば、アルガイヴ陣営(ウルザ陣営)だと容易に見分けられるアイコンなのだ。
ただし、この「獅子」の紋章はルーツが定かではない。カードセット「兄弟戦争」で急に現れたものだ。
兄弟戦争の正史である小説The Brothers’ Warにも全く出て来ないし、その後の暗黒時代テリシアを語った小説Dark Legacyと小説The Gathering Darkにも見つけることはできなかった。
アルマダコミックのシリーズや記事、出版物に関しても、思い当たるものは当たってみたが、アルガイヴの獅子の紋章は言及すらなかったのである。
とはいえ、無から新規に生み出されたとは考えにくい。カードセット「兄弟戦争」の世界構築は、きちんと既存の設定や物語を踏まえてデザインされている。アルガイヴの獅子にも必ず元ネタが存在しているはずだ。
若返りの泉
The Fountain had stood in the town square for centuries, but only the pigeons knew its secret.
その泉は何世紀もの間、街の広場に存在していたが、その秘密を知るのは鳩だけだった。
引用:若返りの泉(Fountain of Youth)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
若返りの泉(Fountain of Youth)はカードセット「ザ・ダーク」初出のアーティファクト・カードである。
小説The Gathering Darkでは、ドミナリア暗黒時代のテリシア東部において、このイラストに描かれたままの姿で登場した。
この泉は主人公のジョダー(Jodah)の人生に重要な影響を及ぼすことになるのだが、今回はその件は無関係だ。
注目すべきポイントは泉の形状すなわち「獅子」である。小説作中では、この泉には4つの「獅子」頭部があって、それぞれが東西南北の方角を向いており、口から水が湧き出ていた。
実は兄弟戦争期周辺で「獅子」を描いたイラストのカードはこれが唯一である。兄弟戦争を初めて描いたカードセット「アンティキティー」、アルゴスの最終決戦を扱ったカードセット「ウルザズ・サーガ」の緑、そして戦後の時期を扱う「ザ・ダーク」、これら3つのセットで若返りの泉だけが獅子を描いているのだ。更に言うと、獅子・ライオンである生きたクリーチャーもそれらのカードセットには見つからなかった。
若返りの泉のフレイバー・テキストに目を向ければ、「その泉は何世紀もの間、街の広場に存在していた」とあることから、暗黒時代の前のアンティキティー戦争期かそれ以前に作られたものだと考えられる。
再び小説The Gathering Darkを調べると、この泉があった位置は昔のアルガイヴの南方であると分かる。つまり、暗黒時代には名前も忘れ去られたアルガイヴの街、その広場の中央には4面の獅子が彫られた泉が設置されていたことになる。
街の中央広場にある何らかの象徴としての「獅子」の泉。四方全てに睨みを利かす「獅子」の像。これにはいったい何の意味がある?アルガイヴに関係する特別なものの可能性もあったはずだ。あるいは四方全てを領地と主張する王家のしるしか。
……こんな連想からの世界構築によって、カードセット「兄弟戦争」ではアルガイヴの紋章に「獅子」が取り入れられた……のではないか?
エウレカまで
昔のカード1枚のイラストに兄弟戦争期の「獅子」が描いてある。アルガイヴの「獅子」の紋章のデザインのルーツと言うには、これ1本だけでは根拠としては弱く感じる。もう一押し何かないものか。
次に私は兄弟戦争期からも、そして、テリシア大陸からも離れたところまで範囲を広げて考え続けた。折に触れ再考しつつ数週間が経過した。
そして、ある瞬間(具体的には2022年12月31日早朝起きざま)に全てが見えたと感じた。そうかテリシア大陸、渡来民の国アルガイヴ、「獅子」の紋章……それらの関係はすごく簡単な事だったんだ。
獅子のカルス起源説
私の出した結論から先に書いておこう。
これが私の説だ。
この説が通せるものなのか?確認して行こう。まずは獅子のカルスが登場したコミック版黒き剣のダッコンだ。
コミック版黒き剣のダッコン
コミック版黒き剣のダッコンは兄弟戦争の何世紀も前1のコロンドール大陸の物語だ。
このコミックの最後で、主人公獅子のカルス(Carth the Lion)は機械仕掛け魔法(Clockwork Magic)の豊かな土地と噂に聞くテリシア2を目指し旅立った。
デーモンのプレインズウォーカー、ディハーダ(Dihada)はコロンドール大陸を破壊しただけでなく、カルスの家族や故郷も滅ぼしてしまった。彼にはもはや何も残っておらず、コロンドールで起こった闘争を子孫へと引き摺ることない新天地、テリシアにおいて再出発を図ろうというのだ。
カルスは相棒の黒き剣のダッコン(Dakkon Blackblade)を誘って東へと向かった。ここでこのコミックは終結であるが、カルスの血統はドミナリア史に名を刻むカルサリオン家として遺ったのである。
要点1つ目。兄弟戦争の何世紀も昔、「獅子」の名を冠するカルスという人物が、コロンドール大陸からテリシア大陸に渡って行った。カルスはドミナリア史に名を刻むカルサリオン家の祖となった。
アルマダコミックのシリーズでは、テリシア大陸にカルスの血統はカルサリオン家として根付いており、コミック版アイスエイジではジェイソン・カルサリオンとジェウール・カルサリオンの2名が登場した。さらに1000年も後となると、カルスの故郷コロンドール大陸でもカルサリオン家は盛り返しプレインズウォーカーのジャレッド・カルサリオンが誕生した。
テリシア大陸のカルサリオン家は、カードセット「団結のドミナリア」でジェンソン・カルサリオン(Jenson Carthalion)がカード化されており、AR4562年現在まで連綿と続いていると確定している。
獅子のカルスに続いては、アルガイヴの国の創設を確認しよう。
アルガイヴの創設
アルガイヴ(Argive)は海を渡ってテリシア大陸にやって来た移民が興した国である。
アルガイヴの暦は「ペンレゴン創設暦(PF)」だ。PF912年がAR0年、つまり、AR-912年に首都ペンレゴンが創られたことになる。
テリシア東岸の三国、アルガイヴ、コーリス(Korlis)、ヨーティア(Yotia)は同じ起源を持つと考えられる。王家・貴族の国アルガイヴ、豪商が治める商業国コーリス、辺境国ヨーティアと異なる性格の国々だ。
想像するに、テリシア東岸に最初に入植しペンレゴン(Penregon)の街を興した創設者たちが後世のアルガイヴの王族や貴族となり、大陸東岸地域の発展とともに、南の都市群がコーリスとして独立、さらに砂漠の民ファラジと境界を面する西の辺境がヨーティア国となったのだ。
要点2つ目は、AR-912年にテリシア大陸に渡来した人々が首都ペンレゴンを建設し、アルガイヴを興した。創設者は王族・貴族となったと考えられる。
ストーリーラインの統合
では以上のようにして、別々のストーリーラインから拾い上げた2つの要点を統合してみよう。辻褄が合う解釈が成立できるであろうか。
- 兄弟戦争の何世紀も昔、「獅子」の名を冠するカルスという人物が、コロンドール大陸からテリシア大陸に渡って行った。カルスはドミナリア史に名を刻むカルサリオン家の祖となった。
- AR-912年にテリシア大陸に渡来した人々が首都ペンレゴンを建設し、アルガイヴを興した。創設者は王族・貴族となったと考えられる。
両者の発生年代に問題はない。コミック版黒き剣のダッコンの物語が紀元前10世紀中の出来事とすれば、AR-912年のペンレゴン創設に十分間に合う。「兄弟戦争の何世紀も前(centuries before the Brothers War)」という表現にも収まる。
アルガイヴ創設者の中に、獅子のカルスおよび黒き剣のダッコンのコンビが存在したなら、英雄的な活躍を成し遂げたであろうことは想像に難くない。渡来人にとって未到の大地を目指す航海や街の建設では、幾多の危険や敵が待ち受けていたことだろう。カルスとダッコンは開拓者の希望であり指導者的立場になって当然だ。としたなら、カルスの二つ名から「獅子」が彼自身のそしてそれに従う者たちの象徴や旗印になっていったのは自然な流れである。
「獅子のカルス」はその原文表記「Carth the Lion」から「カルサリオン(Carthalion)」という家名を持つ一族の祖である。それがアルガイヴ王国の王家の始まりとなった。いや、たとえ王家で無かったとしても少なくとも建国の英雄たる名家の始まりであったのではないだろうか。
このようにしてアルガイヴには「獅子」の紋章が生まれたのである。
どうだろうか?私には不自然さはないと感じるのだが。
獅子面の理由
もう1つ付け加えると、「獅子」の紋章が頭部のみであるのは、若返りの泉という先例に揃えたためだと私には思える。
まあ獅子面がそんな特異なデザインかと言うと違うだろう。ありふれたものだ。若返りの泉と似ているのもただの偶然かも知れない。
でもカードセット「兄弟戦争」の世界構築デザインが、既存の設定や物語を踏まえているのは間違いない。だから、細部へのこだわりから若返りの泉に揃えていると思わせるのだ。
さいごに
「獅子は兎を狩るにも全力を尽くす」
「兎」と言えば「獅子」。ということで「兎年」の記事として、アルガイヴの「獅子」の紋章を考察してみた。
まあこじつけだ。「兎」として掘り下げるだけのネタが無かったのだから仕方なかったんだ。
一応過去記事には「ウサギとカメ」があるので、もう少しまともな「兎」ネタを望む方はそちらをご覧いただきたい。
では今回はここまで。
関連記事
カードセット「兄弟戦争」の関連記事
「丑年」の記事
「寅年」の記事