エルドレイン:美女と野獣

スポンサーリンク

カードセット「エルドレインの王権」とカードセット「エルドレインの森」の「美女と野獣」モチーフのカードをまとめた。

追記(2023年9月27日):公式記事Ten Stories Tallにおいて10種類のアーキタイプの簡単なストーリー解説が行われた。「美女と野獣」アーキタイプに関しては、イェナ(Yenna)のプロフィールと物語上での役割について、更に野薔薇のアルコン(Archon of the Wild Rose)に関して新情報が確認できた。本記事内にそれらを反映する再編集を実行した。

美女と野獣の解説

エルドレインの森版「美女と野獣」のアーモント卿

エルドレイン次元は騎士とおとぎ話をイメージした世界だ。その中には「美女と野獣」をモチーフとしたカード群が含まれている。

最初のカードセット「エルドレインの王権」では、「美女と野獣」をカード1枚でそのまま想起させる恋煩いの野獣(Lovestruck Beast)が収録されていた。

エルドレインに再訪したカードセット「エルドレインの森」では、「美女と野獣」は緑白のアーキタイプとなり、その上、関連カードの多くにはMTG的なアレンジが施されている。



「エルドレインの王権」の「美女と野獣」

エルドレインの王権版「美女と野獣」の恋煩いの野獣

カードセット「エルドレインの王権」には、恋煩いの野獣(Lovestruck Beast)が収録されている。

恋煩いの野獣

His mind chose solitude, but his heart disagreed.
理性は孤独であることを選んだが、感情はそれに背いた。
引用:恋煩いの野獣(Lovestruck Beast)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

恋煩いの野獣(Lovestruck Beast)

恋煩いの野獣(Lovestruck Beast)
データベースGathererより引用

恋煩いの野獣(Lovestruck Beast)カードセット「エルドレインの王権」に収録されたクリーチャー・カードである。出来事は切なる想い(Heart’s Desire)だ。

このカードの中に童話「美女と野獣」の要素が込められており、これ1枚で完結できている。カード自体が「野獣」を表し、出来事の方では「美女」に相当する人間トークンを生成するのだ。野獣は恋する相手がいないと本来の力が出ない。

イラストには、手前に「野獣」、奥に「美女」が互いに背を向けている。薄暗い室内ではテーブルの上に白い薔薇があり、野獣は薔薇の花弁をむしって花占いをしているようだ。

「美女と野獣」では、野獣の住む城に薔薇が咲いており、それを父親が娘の土産にと折ったことが切っ掛けとなり、娘は野獣と一緒に暮らすことになってしまう。イラストは、美女・野獣・薔薇と3要素が揃っている。

恋煩いの野獣(Lovestruck Beast)

恋煩いの野獣(Lovestruck Beast)
公式カードギャラリーより引用

恋煩いの野獣にはショーケース・フレームの特別デザイン版も存在している。

こちらのイラストでは、美女と野獣は向かい合っており、画面は明るい。薔薇の色は鮮やかな赤で野獣はその香りを楽しんでいる。通常版イラストよりも物語は後の場面、2人が愛し合うようになってから、を描いているのかもしれない。

「エルドレインの森」の「美女と野獣」

エルドレインの森版「美女と野獣」のアーモント卿

カードセット「エルドレインの森」では、「美女と野獣」は緑白のアーキタイプのモチーフとなっている。

主人公の「美女」ラ・ベルの役はアーモント卿(Syr Armont)で、「野獣」役は赤歯砦(Redtooth Keep)の人狐エルフである。

ただし、エルドレインの森版「美女と野獣」はアレンジが加えられている。

本記事におけるエルドレインの森版「美女と野獣」の物語は、これまでの記事(初回記事リンク)と同様にMTG30周年記念展示の「エルドレインの森ワールドガイド」の情報を基に、カードやMTGアリーナ豆知識の情報を加えて構成したものだ。

これまでと同様に「美女と野獣」でも、個別のどのカードがストーリー上でどういう役割や関わり合いをどの順にしたのか、あるいは、物語の結末がどうなったのか、というところまではワールドガイドは触れていない。

しかし、エルドレインの森版「美女と野獣」は他のほとんどのアーキタイプのストーリーとは大きく異なり、収録カードのフレイバー・テキスト内で結末が示唆されている。物語が決着するので「美女と野獣」アーキタイプはスッキリと気持ちがいいのだ。

赤歯砦と人狐の呪い

まず、エルドレインの森版「美女と野獣」であるアーモント卿の物語を語る前に、物語の背景情報を説明しなければならない。
獣の血筋(Bestial Bloodline)

獣の血筋(Bestial Bloodline)
データベースGathererより引用

赤歯砦(あかばとりで:Redtooth Keep)は、エルドレイン次元の僻境に広がるチューインベイルの森の奥地に位置する。

遥かな昔1には、エルフが建造した城塞都市群が存在したが、赤歯砦はその中で現存する最後の都市の1つ2である。

凶暴な人狐(Ferocious Werefox)

凶暴な人狐(Ferocious Werefox)
データベースGathererより引用

かつてある魔女が旅人に化けて砦内に紛れ込み、赤歯砦のエルフに呪いをかけた。夜になるたびに、凶暴な獣同然の人狐エルフに変化してしまうのだ。

人狐の呪い(Curse of the Werefox)

人狐の呪い(Curse of the Werefox)
データベースGathererより引用

赤歯砦のエルフは呪いの影響で特異な外見になっている。昼のエルフ状態でも、目は黄色で、赤い髪は乱れ、隠しきれない獣性が滲みだしている。日没と共に、鋭い爪と牙を持つ、二足歩行の直立した人狐へと変身する。

赤歯の先兵(Redtooth Vanguard)

赤歯の先兵(Redtooth Vanguard)
データベースGathererより引用

呪われたエルフたちは困難な人生を歩んでいる。夜の人狐状態では我を忘れて野蛮な行為に喜びを感じるものの、変身が解ける昼には正気を取り戻し犯した行為に苦悩するのだ。

呪われて以来、何世紀もの昔から赤歯砦は孤立しており、同族のエルフとすら関係を断ってきた。ゆえに、赤歯砦の装束や道具、建造物などのデザインはエルフが帝国を築いていた往時のまま、古風な装いを残している。

こうして遥か昔から、赤歯砦の人狐の呪いは誰にも解かれることがなかったのである。だがそれもアーモント卿が訪れるまでのことだ。

アーモント卿の物語

救世主、アーモント卿(Syr Armont, the Redeemer)

救世主、アーモント卿(Syr Armont, the Redeemer)
データベースGathererより引用

アーモント卿(Syr Armont)AR4562年の新ファイレクシア侵略戦争の前から、その美しさとアーデンベイルへの献身によって王国中に名を知られる人物であった。

王国に破壊をもたらした侵略戦争が終わったものの、戦後は忌まわしき眠りがエルドレイン中を蝕み始めた。衰退した王国を再建する方法を求めるアーモント卿は、部下を率いて僻境探索へと赴き、チューインベイルの奥地で、偶然にも赤歯砦と呪われたエルフの民を発見する。

似通った生命(Parallel Lives)

似通った生命(Parallel Lives)
データベースGathererより引用

アーモント卿は「エルフの本性は昼の礼儀正しさと夜の野蛮さのどちらだろうか?このような怒れる獣性は、本当に呪いだけが原因なのか?」と熟考して心を決めると、恐ろしい獣へと変えてしまう呪いからエルフを救うと誓ったのだった。

赤歯の執政、イェナ(Yenna, Redtooth Regent)

赤歯の執政、イェナ(Yenna, Redtooth Regent)
データベースGathererより引用

赤歯砦の指導者イェナ(Yenna)は不信感が強く高慢であったが、アーモント卿の親切にその態度を軟化させていった。そして、イェナは呪いを解く魔法の薔薇についての情報をアーモント卿に明かしたのだ。

野薔薇のアルコン(Archon of the Wild Rose)

野薔薇のアルコン(Archon of the Wild Rose)
データベースGathererより引用

赤歯砦を蝕む「人狐の呪い」は、月明かりの下で咲く神秘的な薔薇によってのみ解除できるのだ。その薔薇は近隣にある林間地にあるというが、アルコンが守っていた。

中心部の防衛(Defense of the Heart)

中心部の防衛(Defense of the Heart)
データベースGathererより引用

アーモント卿とイェナは薔薇を求めてこの林間地に赴いて、遂にその薔薇を手に入れる。薔薇のつぼみが膨らみ花開くにつれ、人狐の呪いは衰えていくのだった。

こうしてエルフの呪いを解くというアーモント卿の誓いは果たされたのである。

「美女と野獣」と「アーモント卿の物語」の比較

アーモント卿の物語をモチーフとなった童話「美女と野獣」と比べて、共通する要素やアレンジされたり、異なっている点をピックアップしてみよう。

まず童話「美女と野獣」では、父親が野獣の住む城の薔薇を娘ラ・ベルの土産にと折ったことで怒りを買い、ラ・ベルは野獣と暮らすことになってしまう。その内にラ・ベルは野獣を愛するようになって、呪いが解けて野獣は王子の姿へと戻った。

一方、エルドレインの森版「美女と野獣」では、薔薇の茂る赤歯砦に人狐エルフが住んでおり、美しいアーモント卿がそこを訪れエルフを救おうと尽力する。こちらでは、夜に咲く神秘の薔薇が人狐の呪いを解く鍵となっている。

薔薇の咲く城と砦。そこに住む野獣と人狐エルフ。美しいラ・ベルとアーモントが呪いを解く。といった辺りに共通する要素がある。

恋に落ちた騎士(Besotted Knight)

恋に落ちた騎士(Besotted Knight)
データベースGathererより引用

その一方で、「美女と野獣」では薔薇がラ・ベルと野獣の2人の関係の始まる切っ掛けであったことに対し、アーモント卿の物語では薔薇は呪いを解き物語を終わらせる鍵である。薔薇は「始まり」と「終わり」という正反対の役割に置かれている。

また、「美女と野獣」ではラ・ベルと野獣(王子)とが愛し合う展開であったが、アーモント卿がエルフの誰かと恋に落ちるといった件は言及されていない(イェナとの関係性をそうだと読み取るファンは存在するが)。その代わり、アーモントの部下のアーデンベイル騎士と人狐エルフの2人が愛し合うミニストーリー要素がカードから垣間見える程度だ。

主人公が戦う騎士になったり、野獣が人狐エルフになったりと見かけは大分違って感じるものの、カードセット「エルドレインの森」には重要な構成要素の取りこぼしなく収められていることが分かる。10種類のアーキタイプの中で、ゲームへの落とし込みの完成度がかなり高い。



アーモント卿の物語に関連するカード

カードセット「エルドレインの森」から、アーモント卿の物語に関連のあるカードを1種類ずつピックアップして紹介する。

赤歯砦の人狐エルフの呪いは物語の重要要素だ。カードにおいては、オーラ・カードや怪物役割トークン、クリーチャー・タイプ「エルフ・狐」として表現されている。ただし、昼間のエルフ状態だけを示したクリーチャー・カードの場合はクリーチャー・タイプに「狐」を含んでいない。

救済者、アーモント卿

救世主、アーモント卿(Syr Armont, the Redeemer)

救世主、アーモント卿(Syr Armont, the Redeemer)
データベースGathererより引用

救世主、アーモント卿(Syr Armont, the Redeemer)はカードセット「エルドレインの森」に収録された伝説のクリーチャー・カードである。

アーモント卿はアーデンベイルの騎士で人間女性だ。その美しさとアーデンベイル宮廷への献身によって王国中に名を知られている人物である。新ファイレクシア侵略戦争後、僻境探索中に彼女は赤歯砦の呪われたエルフと出会い、彼らの救済を誓うのである。

アーモント卿はエルドレインの森版「美女と野獣」の美女ラ・ベル役である。

カード名の二つ名は「the Redeemer」であるが、公式和訳では「救世主」と大それた言葉に訳されてしまっている。辞書的な訳例にあるとはいえ「救世主」は言葉が強く行き過ぎている。彼女の物語はエルドレインの世界を救うなんて話はしてなく、赤歯砦の人狐エルフたちの範囲にすぎない。ゆえに「救済者」くらいが妥当である。

本サイトでは、なるべく「救済者アーモント卿」と書いていきたい。

赤歯の執政、イェナ

“My people are both bloom and thorn.”
「私の民は、花でも茨でもあります。」
引用:赤歯の執政、イェナ(Yenna, Redtooth Regent)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

赤歯の執政、イェナ(Yenna, Redtooth Regent)

赤歯の執政、イェナ(Yenna, Redtooth Regent)
データベースGathererより引用

赤歯の執政、イェナ(Yenna, Redtooth Regent)はカードセット「エルドレインの森」に収録された伝説のクリーチャー・カードである。

イェナは赤歯砦の執政を務めるエルフ女性である。

「執政」と訳された「Regent」は「摂政(王の代理として政務を司る者)」のこと。赤歯砦はエルフが王国を統治していた昔からずっと孤立し続けているという歴史を鑑みると、往時の王国を統べていた王に代わって赤歯砦を統治する者くらいの役職なのだろう。

カードのイラストを担当したJustyna Duraはイェナのイラストの発注指示を公開している(リンク)。それによると、イェナは人狐の呪いの解除法を探るエルフの女性戦士。場所はおそらく赤歯砦の中庭である。雰囲気は呪われたエルフと指定されている。

公式記事Ten Stories Tallで新たに追加された情報では、イェナは「不信感が強く高慢3」だという。しかし、アーモント卿の親切により態度を軟化させて、呪いを解く魔法の薔薇を教えた、とも記されていた。

人狐の呪い

人狐の呪い(Curse of the Werefox)

人狐の呪い(Curse of the Werefox)
データベースGathererより引用

人狐の呪い(Curse of the Werefox)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたソーサリー・カードである。

イラストでは、夜の赤歯砦で人狐エルフが野蛮な獣性に我を忘れ、アーデンベイル騎士を襲っている場面だ。

アーモント卿一行とエルフとの初遭遇は、このカードのような暴力的なものだったのかもしれない。

凶暴な人狐

Each night, the elves of Redtooth Keep transform into feral, monstrous beasts.
赤歯砦のエルフは夜な夜な、おそろしい怪物のような獣へと変身する。
引用:凶暴な人狐(Ferocious Werefox)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

凶暴な人狐(Ferocious Werefox)

凶暴な人狐(Ferocious Werefox)
データベースGathererより引用

凶暴な人狐(Ferocious Werefox)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたクリーチャー・カードである。出来事は守り手の交代(Guard Change)だ。

これは赤歯砦の人狐エルフが夜になって変身する流れを描出しているカードだ。

出来事は変身する過程を表し、クリーチャー・カードとしては変身後の人狐エルフ状態である。

イラストは変身途中の姿となっている。

赤歯の先兵

“I’m just as deadly during the day.”
「私の狂暴さは昼夜ともに変わることはない。」
引用:赤歯の先兵(Redtooth Vanguard)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

赤歯の先兵(Redtooth Vanguard)

赤歯の先兵(Redtooth Vanguard)
データベースGathererより引用

赤歯の先兵(Redtooth Vanguard)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたクリーチャー・カードである。

赤歯砦のエルフはたとえ昼間でも、呪いの影響による獣性を隠し切れないのだ。

獣の血筋

“There is a fierce joy in losing yourself to savagery, and a bitter pain in regaining your senses afterward. You could never understand.”
「我を忘れると残虐行為に激しい快楽を覚えて、正気に戻ると苦痛に襲われる。あなたには理解できないでしょうね。」
引用:獣の血筋(Bestial Bloodline)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

獣の血筋(Bestial Bloodline)

獣の血筋(Bestial Bloodline)
データベースGathererより引用

獣の血筋(Bestial Bloodline)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたエンチャント・カードである。

このカードは人狐の呪いをオーラ・カードとして表現している。

赤歯砦の人狐の呪いは、エルフの血統に引き継がれ世代を超えて苦悩をもたらしているようだ。

カード機能として墓地からの回収が可能なのは、前の世代が死しても呪いは消えず子孫にも同様に作用し続けることを表しているのだろう。

似通った生命

“Brave Syr Armont mused: Was the elves’ true nature that of day’s civility or night’s savagery? Could such bestial rage be bestowed by curse alone?”
–Curse of the Werefox
「勇敢なるアーモント卿は考えた。はたしてかのエルフの本性は昼の礼節さにあるのか、それとも夜の野蛮さにあるのか?斯くの如き獣の怒りは、はたしてただ呪いのみでもたらされるものなのだろうか?」
–「人狐の呪い」
引用:似通った生命(Parallel Lives)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

似通った生命(Parallel Lives)

似通った生命(Parallel Lives)
データベースGathererより引用

似通った生命(Parallel Lives)はカードセット「エルドレインの森」のおとぎ話という特別枠で再録されたエンチャント・カードである。カードセット「イニストラード」が初出だ。

フレイバー・テキストでは、アーモント卿が熟考している。彼女は上記したカード群で語られている「赤歯砦のエルフと人狐の呪いの特性」を遂に知ったのだ。そこで、彼女は昼と夜のどちらが本性なのかと自問する。夜の怒れる獣性は呪い由来なのか、それとも……と。

こうした思考の後に、アーモント卿と騎士たちはエルフが救われるべき弱者であると見ることができるようになって、呪いの解除を決意したのだろう。

似通った生命のカード名

カード名の「Parallel Lives」は「似通った生命」と和訳されているが、どうも赤歯砦のエルフを語るフレイバーに合わない感じがする。

そこでまずカード名を英単語ごとに見ると、「Parallel」は「並行した・相似した」の意で、「Lives」は「生命・生涯・人生」を意味する「life」の複数形だ。

似通った生命(Parallel Lives)

「イニストラード」初出時の似通った生命(Parallel Lives)
データベースGathererより引用

次に初出時の「イニストラード」版で考える。この時には、人狼などの捕食者が増え続けその内に互いを餌食にし合うほかなくなる、との旨のフレイバー・テキストが持たされていた。それゆえ、カード名が「似通った生命」と解釈できるものだった。

しかし、今回の「エルドレインの森」版では、赤歯砦の人狐エルフが昼と夜で異なる人生を歩むという意味合いを持たされている。つまり、カード名「Parallel Lives」は「(昼と夜で)並行した(呪われたエルフの)生涯」と解釈されるものとなった。

英名の「Parallel Lives」が表わしうる範囲はある程度の広さがあり、和名は初出時の雰囲気に合わせてしまっている。だから、和名の「似通った生命」が上手くハマらなくなってしまった、というわけだ。

人狐のボディガード

人狐のボディガード(Werefox Bodyguard)

人狐のボディガード(Werefox Bodyguard)
データベースGathererより引用

人狐のボディガード(Werefox Bodyguard)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたクリーチャー・カードである。

イラストでは、武装した人狐エルフの騎士が、木の根元にうずくまったアーデンベイル騎士を守って立ちはだかっている。

夜になって呪いで獣と化してしまっても、こうして人を守ろうと動ける者も存在している。こうした気高い行いを目の当たりにすれば、アーモント卿も改めてエルフは呪いから救われるべきだと確信したに違いない。

恋に落ちた騎士

“You are no monster to me, my love.”
「愛しい人よ、私にとってあなたは獣などではありません。」
引用:恋に落ちた騎士(Besotted Knight)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

恋に落ちた騎士(Besotted Knight)

恋に落ちた騎士(Besotted Knight)
データベースGathererより引用

恋に落ちた騎士(Besotted Knight)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたクリーチャー・カードである。出来事は獣との婚約(Betroth the Beast)だ。

このアーデンベイル騎士は、赤歯砦の人狐エルフに恋し、求婚している。イラストとフレイバー・テキストでは、夜の人狐エルフ状態の相手に、発光する赤い薔薇を差し出し愛の告白をしたのだ。たとえ獣の姿でもあなたは怪物ではありません、と。差し出す花こそが、呪いを解くという神秘の薔薇なのだろうか?

「エルドレインの森」では、童話「美女と野獣」における愛し合う要素は、主役のアーモント卿ではなく、このカードが担っているのだ。

恋に落ちた騎士のフレイバー・テキスト

私は個人的に、このカードの和訳製品版のフレイバー・テキストに納得がいっていない。気になるのが「獣など」という部分だ。

結論から先に述べると「獣など」でなく「怪物」の方が適した言葉選びだと考えるからだ。

「あなたは怪物ではない、愛しい方よ。」

こんな感じに読みたい。

恋に落ちた騎士のフレイバー・テキストの説明

では順を追って説明する。

まず「エルドレインの森」ではほとんど、「beast」は「獣」と、「monster」は「怪物・化け物」と訳されている。原語の英語で単語を分けているように日本語でも意識して区別しているようだ。

だが、このカードの中では、出来事では「beast」を「獣」と他に揃えているものの、フレイバー・テキストの「monster」も同じ「獣」にしている(何故かこのカードだけ「怪物・化け物」ではない)。

恋に落ちた騎士のフレイバー・テキストの解釈

で、ここからはカードの解釈の問題に踏み込む。

出来事では「獣(beast)」に告白して婚約している。これは「相手が獣であるというありのままを受け入れている」と読み取れるものだ。イラストでも、昼のエルフではなく夜の人狐形態に対して求婚をしていることから、この見方は正しいと感じられる。

他のカードで見てきたように、人狐状態では外見だけでなく内面までも野蛮な獣性に支配されてしまうのだ。獣であることは愛する相手に備わった性質なのである。

それだのに、「あなたは獣などではありません」と告げ、しかも「私にとっては」である。

相手の本性を知っていながら、それを見ない振りして自分の見たい型に嵌めて愛を囁く。これは独り善がりな欺瞞だ。

恋に落ちた騎士のフレイバー・テキストの結論

恋に落ちた騎士(Besotted Knight)

恋に落ちた騎士(Besotted Knight)
データベースGathererより引用

「あなたは怪物ではない、愛しい方よ。」

私は「獣」であるあなたのありのままを受け入れている。あなたは「獣」であってもなお、私はあなたを「怪物」だなんて決して思ってない。

英語原文は「beast」を用いずに、「monster」ではないと告げる愛の告白だ。ゆえに、私にはこのカードがこう読み取れるのだ。

恋に落ちた騎士の話だけで少し熱く語ってしまった。

さて、アーモント卿の物語の関連カードの流れに戻って進めよう。

野薔薇のアルコン

The curse of Redtooth Keep could only be broken by a mystical rose that blooms in moonlight.
赤歯砦の呪いは、月明かりに咲く神秘的な薔薇でのみ解くことができる。
引用:野薔薇のアルコン(Archon of the Wild Rose)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

野薔薇のアルコン(Archon of the Wild Rose)

野薔薇のアルコン(Archon of the Wild Rose)
データベースGathererより引用

野薔薇のアルコン(Archon of the Wild Rose)は、カードセット「エルドレインの森」で収録されたクリーチャー・カードである。

フレイバー・テキストによれば、人狐エルフの呪いは月明かりの下で咲くという神秘的な薔薇によって打ち破れるとのことだ。

公式記事Ten Stories Tallの新情報では、神秘の薔薇は赤歯砦近隣の林間地にあり、このアルコンが守っている、とされている。

命運の掌握

“The witch wrapped her heart in briar vines, hid it away in the ancient keep in the depths of the forest. If none could find it, the prophecy could never come to pass.”
–Beyond the Great Henge
「魔女は自分の心臓を茨のつるで包み、森の深くにある古代の砦に隠した。誰もそれを見つけられなければ、予言は決して実現しないだろう。」
–「グレートヘンジを超えて」
引用:命運の掌握(Grasp of Fate)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

命運の掌握(Grasp of Fate)

命運の掌握(Grasp of Fate)
データベースGathererより引用

命運の掌握(Grasp of Fate)はカードセット「エルドレインの森」のおとぎ話という特別枠で再録されたエンチャント・カードである。カードセット「統率者2015」が初出だ。

フレイバー・テキストは、赤歯砦と人狐の呪い、その呪いをかけた魔女を暗示するかのようだ。「魔女」と「茨のつる」は「赤歯砦の魔女」のようだし、「森の深くにある古代の砦」は「チューインベイルの奥地の赤歯砦」と読める。後半は人狐の呪いの解除に関する予言とその方法の暗示である。

茨のつるで包んで赤歯砦に隠された魔女の心臓を見つけ出すことが、人狐の呪いを解く鍵であると読むとなれば、その心臓とは「神秘的な薔薇」に結び付けられるものであろう。

中心部の防衛

“And as the rose began to bloom, the curse of Redtooth Keep began, at last, to wither.”
–Curse of the Werefox
「そして、薔薇のつぼみが膨らみ始めるにつれ、赤歯砦の呪いも、ついには衰え始めたのである。」
–「人狐の呪い」
引用:中心部の防衛(Defense of the Heart)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

中心部の防衛(Defense of the Heart)

中心部の防衛(Defense of the Heart)
データベースGathererより引用

中心部の防衛(Defense of the Heart)はカードセット「エルドレインの森」のおとぎ話という特別枠で再録されたエンチャント・カードである。カードセット「ウルザズ・レガシー」が初出だ。

イラストの2人の人物は、左が赤歯砦のイェナ、右がアーモント卿だと思われる。公式記事Ten Stories Tallで新たに追加された物語では、アーモント卿とイェナは魔法の薔薇を求めて林間地に赴いたとあるため、イラストは彼女たち2人で間違いない。

フレイバー・テキストによれば、神秘の薔薇を手に入れたことで人狐の呪いが解かれていく場面である。

このカードの存在によって、アーモント卿の物語がきちんと落ち着くべきところに落着できたと確認できるのだ。

余談だが、このカードのイラストに向かい合ったイェナとアーモント卿が描かれているとして、2人は愛し合い、そして薔薇の力で呪いを解いたとの旨(かそれに似た類)のファン解釈を目にしたことがある。「美女と野獣」を主役に求めると相手がそうなるという主張は分からなくない。

中心部の防衛(Defense of the Heart)

中心部の防衛(Defense of the Heart)
データベースGathererより引用

中心部の防衛にはアニメ版特別イラストもある。

薔薇を守っているという場面には関連性がありそうに思われるものの、描かれている2人はアーモント卿の部下のアーデンベイル騎士でも赤歯砦のエルフでもない。右の人物は若干ギャレンブリグらしさがあるが両名とも所属がよく分からない。

以上までが、エルドレインの森版「美女と野獣」であるアーモンド卿の物語との関連性が高いと判断して選別したカードだ。

他にも赤歯砦のエルフや人狐の呪いに関連したカードは残っているので、それらも続けて紹介しよう。

失われし伝承の歩哨

失われし伝承の歩哨(Sentinel of Lost Lore)

失われし伝承の歩哨(Sentinel of Lost Lore)
データベースGathererより引用

失われし伝承の歩哨(Sentinel of Lost Lore)は、カードセット「エルドレインの森」で収録されたクリーチャー・カードである。

赤歯砦の人狐エルフの騎士で、「失われし伝承」を守る歩哨を務めている。

この騎士が守っている「失われし伝承」とは正確に何を指し示すのかは曖昧だ。もし「人狐の呪いとエルフを含む赤歯砦そのもの」と解釈するなら、この騎士が立っているのは赤歯砦の門になる。あるいは、砦内のどこかに「失われし伝承」の保管所があるとするなら、そこの警備となるだろう。

エルフの文書管理人

エルフの文書管理人(Elvish Archivist)

エルフの文書管理人(Elvish Archivist)
データベースGathererより引用

エルフの文書管理人(Elvish Archivist)は、カードセット「エルドレインの森」で収録されたクリーチャー・カードである。

赤歯砦の人狐エルフの記録保管係である。

カード名で「文書管理人」と訳された「Archivist」は、保存価値のある情報を収集や整理しカタログ化したり管理する記録保管人のことで、その対象は文書に限ったわけでもない。

このカードのメカニズムでは、アーティファクトかエンチャントが戦場に出るたびに利得が発生していることから、このエルフは道具や装置、魔法的な知識も記録し保管すると解釈できる。

イラストでは、赤い薔薇の入った広口瓶をじっと観察している。この薔薇はひょっとすると呪いを解く神秘的な薔薇に繋がる研究対象物なのかもしれない。

赤歯の系図学者

Some family trees are thornier than others.
他と比べて棘が多い系統樹もある。
引用:赤歯の系図学者(Redtooth Genealogist)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

赤歯の系図学者(Redtooth Genealogist)

赤歯の系図学者(Redtooth Genealogist)
データベースGathererより引用

赤歯の系図学者(Redtooth Genealogist)は、カードセット「エルドレインの森」で収録されたクリーチャー・カードである。

赤歯砦における系図学者のエルフだ。

王のもてなし

“Stay your blades, peasants.”
「武器を下せ、愚民どもめ。」
引用:王のもてなし(Royal Treatment)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版

王のもてなし(Royal Treatment)

王のもてなし(Royal Treatment)
データベースGathererより引用

王のもてなし(Royal Treatment)は、カードセット「エルドレインの森」で収録されたインスタント・カードである。

「王のもてなし」と訳されたカード名「Royal Treatment」は、「(相手に対する)最高に丁重な扱い方・最高級のもてなし」といった意味合い。

次にフレイバー・テキスト。「peasant」は「農民」や「田舎者」、「精錬されていない者」という意味合い。だが、和訳製品版では「愚民どもめ」と非常に強い言葉である。「peasants」は相手に対して上の立場からの呼び方ではあるが、「愚民(おろかで無知な民衆)」の上に「どもめ」呼ばわりとは、身分の上下を明確化するに留まらずに蔑みが強く出過ぎている。原文はここまでではないだろう。

「刃物を収めるのだ、下々の者よ。」

私はフレイバー・テキストをこんな感じで読んだ。その態度が気高いと同時に傲慢でもあるのは事実だが、人狐エルフを無知で愚かなどと侮蔑するまでではない。

以上に加えてイラストやカードのメカニズムも合わせてこのカードを読み解くと、おそらく王族に繋がる高い社会的身分を持つ人物が、取り囲む人狐エルフたちにその身分を堂々と明かした場面のようだ。人狐エルフが驚き、手が出せなくなっている。



さいごに

エルドレインの森版「美女と野獣」のアーモント卿

今回はエルドレインの「美女と野獣」モチーフのカードを紹介した。

エルドレインの森版「美女と野獣」であるアーモント卿の物語は、分かってみると素直なMTG的翻案になっていた。しかも、連載ストーリー内でも全く取り上げられていないのに、収録カードだけでも物語の流れが大体分かり、ちゃんとした結末まで示されていた。同セット内の童話モチーフのアーキタイプ10種の中でも出色の完成度と言えるだろう。

アーモント卿と赤歯砦の人狐エルフについてもっと知りたくなってきた。それに、呪いが解けたと言っても、どのレベルまでなのかは分からない。人狐エルフのままで正気を失わなくなった、くらいの結末もあるいはあるかもしれないぞ。

では、今回はここまで。

エルドレインの「美女と野獣」の関連記事

カードセット「エルドレインの王権」関連のリスト

エルドレインの王権
マジック・ザ・ギャザリング(MTG)のカードセット「エルドレインの王権(Throne of Eldraine)」収録のカードの中からピックアップしてストーリーや設定を解説する。
  1. Eldraine’s ancient days
  2. one of the last elvish citadels
  3. 原文「distrustful and proud」