エルドレイン次元における童話「シンデレラ」モチーフのカードを取り上げる。
「エルドレイン:シンデレラその2」と題した今回はカードセット「エルドレインの森」の範囲を扱っている。
前回のカードセット「エルドレインの王権」はこちらを参照。
追記(2023年9月27日):公式記事Ten Stories Tallにおいて10種類のアーキタイプの簡単なストーリー解説が行われた。「シンデレラ」アーキタイプは「ワールドガイド」の内容からいくつか大きな変更が加わっていて、「シンデレラ」寄りの設定になっている。本記事では、「ワールドガイド」と記事とを併記した後に、両者間の齟齬を呑み込んで両立できる解釈を提示した。
「エルドレインの森」の「シンデレラ」
カードセット「エルドレインの森」では、「シンデレラ」は赤白のアーキタイプのモチーフとなっている。
主人公のシンデレラ役はアッシュ(Ash)で、王子様役に相当するのがゴドリック(Goddric)となっている。
エルドレインの森版「シンデレラ」には色々とアレンジが加えられている。ただし、「白雪姫」や「眠れる森の美女」に比べれば大分素直でわかり易いアレンジだ。
これまでの回と同じく「シンデレラ」でも、個別のどのカードがストーリー上でどういう役割や関わり合いをどの順にしたのか、あるいは、物語の結末がどうなったのか、というところまではワールドガイドは触れていない。
アッシュの物語
AR4562年、エルドレイン次元は新ファイレクシアによる侵略を受けた。アッシュの故郷エンバレスにも戦火が広がった。エンバレスの騎士団は侵略軍に一歩も引かずに立ち向かったものの、敗退してしまった。エンバレスだけでなく、王国の5宮廷は全てファイレクシアの侵攻で陥落してしまった。
こうしてアッシュの一家は住む場所を失った。
他のエンバレスの多くの難民と同じく、アッシュの家族もドワーフの地下都市デルヴァーホウ(Delverhaugh)に匿われた。アッシュ一家はドワーフの仕事を手伝って生活することになり、そのうちアッシュはドワーフの創造性と職人技に惚れ込んだ。
侵略戦争が終結した後は、多くのドワーフが元通りの仕事に戻ったが、デルヴァーホウにはお祭り騒ぎに熱中する者たちもいた。AR4563年現在のデルヴァーホウのドワーフの大広間の数々では大餐会(The Grand Ball)が開かれ、終わらぬお祭り騒ぎに耽っている。
アッシュはずっと大餐会に参加したかった。けれど、両親は決して許してはくれなかった。
しかし、アッシュに味方する人物もいた。ドワーフのおばあちゃん鍛冶親方である。おばあちゃんは正体がばれないように武具一式を用意してやり、アッシュはこれで変装して大餐会へと忍び込んだのだ。
アッシュはドワーフたちと歌い踊って大餐会を楽しんだ。彼女はそこで謎めいた異邦人と出会い、恋に落ちることになる。
アッシュにダンスの相手を願い出たハンサムな男性、名をゴドリック(Goddric)といった。大餐会に招かれた貴賓の1人で、はるか遠くの山脈から旅してきたのだという。実はゴドリックもアッシュと同じく自分の真の姿を偽っており、2人は似た者同士であった。
ドワーフの宴会が賑わう一方で、それに憎しみの目を向ける一団が迫っていた。レッドキャップはドワーフの仇敵であるが、その中でも特に悪意に満ちた血みどろブーツ族の襲撃部隊である。
レッドキャップの強襲によってデルヴァーホウの大餐会はたちまち戦場となった。手元に武器のないドワーフですら、料理を手に闖入者に立ち向かったのである。
アッシュは炎の剣を抜いてレッドキャップに立ちはだかり、ゴドリックを守ろうとした。
また、ゴドリックの方もデルヴァーホウの大餐会を危機から救うため、レッドキャップにドラゴンの炎を放った。ゴドリックの正体は、魔法で変身したドラゴンだったのである。正体をばらすのは不本意ではあったものの、これまでは人間をあまり良く思っていなかったゴドリックは、アッシュに出会ったことで考えが変わっていたのだ。
こうしてレッドキャップは撃退された。
さて、大餐会に真夜中を告げる鐘の音が響き渡った。兜をはたき落されてしまったアッシュは、自分が誰か気づかれてはならないとその場から一目散に逃げだしたのであった。
アッシュとゴドリック、恋に落ちた2人の行く末はいかに……!?
アッシュの物語に関係するカード
カードセット「エルドレインの森」のアッシュの物語に関わるカードを取り上げていく。概ね物語の進行順だと思われる流れで並べている。
ただし、ドワーフの大餐会に関連したカードはここに挙げた他にもまだあるのだが、それらは改めてデルヴァーホウのドワーフとしてまとめたいのでここでは割愛することにした。
パーティー破り、アッシュ
“Get up and dance! Let your feet thunder like forgehammers!”
「さあ踊りなさい!鍛冶鎚のように靴を鳴らすのよ!」
引用:パーティー破り、アッシュ(Ash, Party Crasher)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
パーティー破り、アッシュ(Ash, Party Crasher)はカードセット「エルドレインの森」に収録された伝説のクリーチャー・カードである。
アッシュはエンバレスからの戦争難民で、デルヴァーホウに住む若い人間女性だ。地下都市デルヴァーホウで暮らすうちに、ドワーフの創造性と職人技にすっかり心を奪われてしまった。両親に禁じられた大餐会に変装して忍び込み、予期せぬ出来事に巻き込まれる。
アッシュはエルドレインの森版「シンデレラ」の主役である。「アッシュ(Ash)」とは「灰」のことなので「灰かぶり姫(シンデレラ)」を意識しているのがはっきりと分かる。
アッシュの物語は「シンデレラ」とは色々と異なるアレンジや捻りが加わっているが、意地悪な義理の姉たちがいない代わりなのか、戦争難民の設定となっている。
カード名で「パーティー破り」と和訳されてしまっている「Party Crasher」とは、「招待されていないのにパーティーに押し掛ける人」を指す。そうしてパーティーを台無しにする者もいるが、アッシュはただ紛れ込んでドワーフたちと楽しんでいるだけだ。
アッシュの両親の設定
「ワールドガイド」ではアッシュの両親は実の肉親であり、エンバレスからの難民で、デルヴァーホウに移住してからドワーフの鍛冶仕事を手伝うようになったと記されていた(少なくとも私のメモと記憶している限りでは)。
しかし、公式記事Ten Stories Tallでは、アッシュの両親は鍛冶師の養父母だと書かれている。
鍛冶仕事手伝いの実の肉親か、鍛冶師の養父母か。この齟齬を解消するには、両方のソースに解釈を加えて読むか、記事で設定の上書きがされたとするしかない。
例えば、元々エンバレスにいる時から実の肉親ではなく養父母に育てられていたとして、デルヴァーホウで新たに鍛冶師の仕事に就いたと解釈すると、つじつまが合わせられる。
大餐会の参加を禁じられた理由
アッシュが大餐会への参加を禁じられていた理由も、「ワールドガイド」と公式記事Ten Stories Tallとで食い違っている。
「ワールドガイド」では両親が禁止していた。これはMTGアリーナの豆知識でも同じであった。
公式記事Ten Stories Tallの方では、アッシュだけでなく「大抵の人間が参加を許されない1」とされている。
これも解釈次第で両立が可能ではある。つまり、大餐会には普通は人間は招待されることがないのだが、それでもと願うアッシュに対して両親(養父母)は決して許可を与えはしなかった、と読めばいい。
擬態する歓楽者、ゴドリック
擬態する歓楽者、ゴドリック(Goddric, Cloaked Reveler)はカードセット「エルドレインの森」に収録された伝説のクリーチャー・カードである。
ゴドリックは若い男性のドラゴンで、普段は朱地洞山脈(Red Fell Mountains)の遥か彼方にある住み処から滅多に外出はしない。
デルヴァーホウの大餐会に招かれた貴賓の1人で、出席するためにはるか遠くの山脈から旅してきた。魔法を駆使してドラゴンの姿から人間に変身して正体を隠している。
彼は人間をあまり良く思っていなかったものの、アッシュに出会ってそれが変わった。
ゴドリックは、エルドレインの森版「シンデレラ」における王子様役に該当する。
公式記事Ten Stories Tallには、ゴドリックは大餐会でアッシュと出会い、ダンスの相手を願い出たと書かれている。
特注の戦闘装束
特注の戦闘装束(Bespoke Battlegarb)はカードセット「エルドレインの森」に収録された伝説の装備品アーティファクト・カードである。
アッシュはこの戦闘装束を着て変装し大餐会に紛れ込んだ。
特注の戦闘装束を用意したのは誰か?
「ワールドガイド」によると、この変装用武具を誂えたのが、ドワーフの「鍛冶の親方(forgemaster)」あるいは「おばあちゃん鍛冶師(grandmother-blacksmith)」と表現されている人物だ。つまり、シンデレラに魔法をかけた魔女あるいはフェアリー・ゴッドマザー役である。本記事では「おばあちゃん鍛冶親方」とした。
しかし、公式記事Ten Stories Tallには、ドワーフのおばあちゃん鍛冶親方には言及していない。アッシュの鎧の調達はハツカネズミたちが手伝ったとのみ記されている。
ここにも齟齬が認められる。私としては、おばあちゃん鍛冶親方は物語に依然として存在しており、ハツカネズミも手伝ったと解釈したい。本記事はその解釈で通す。
武器庫のネズミ
They help ensure that the forges of the dwarves are always squeaky clean.
彼らはドワーフの鍛冶場を常にきれいに保っているのだ。
引用:武器庫のネズミ(Armory Mice)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
武器庫のネズミ(Armory Mice)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたクリーチャー・カードである。
童話「シンデレラ」では、ハツカネズミは魔法をかけられてかぼちゃの馬車の「馬」に変身するなどしてシンデレラを助ける役回りであった。「エルドレインの森」では、ハツカネズミはドワーフの鍛冶場の掃除をしているようで、アッシュの戦闘装束を作る際の手助けをしていたと考えられる。
大餐会の客人
It takes a lot to pull a master blacksmith from their work, but Maurice couldn’t pass up an invitation to a lavish Delverhaugh feast.
名匠を作業場から引っ張り出すのは大変なことだが、モーリスには贅を尽くしたデルヴァーホウの宴会への招待を受けない手はなかった。
引用:大餐会の客人(Grand Ball Guest)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
大餐会の客人(Grand Ball Guest)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたクリーチャー・カードである。
和訳製品版のフレイバー・テキストでは「名匠」と中途半端に訳されているが、原文は「a master blacksmith」なので「鍛冶職人の名匠」なのである。イラストでドワーフの歓待を受けている人間男性が、フレイバー・テキストの鍛冶の名工モーリス(Maurice)なのだろう。
ゴドリックはこのカードと同様の大餐会の客人である。アッシュはこうした貴賓に紛れて大餐会へと潜り込んだのだ。
名誉の害獣
They dash—then dine.
奴らは全速力で走る——そして餌にありつくのだ。
引用:名誉の害獣(Pests of Honor)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
名誉の害獣(Pests of Honor)はカードセット「エルドレインの森」の特殊ブースターに収録されたクリーチャー・カードである。
まずカード名は和訳の「名誉の害獣」では何のことかサッパリだろうが、英語では「Pests of Honor」なので、これは「Guest of Honor(パーティーの主賓や貴賓のこと)」の捩りである。
次に和訳製品版のフレイバー・テキストだが、これは雰囲気が全くよろしくない。「奴ら」「餌」「ありつく」と表現が擦れてて荒っぽいのだ。原文の「dine」つまり「夕食をとる・晩餐を開く」を「餌にありつく」と卑しく落とす意図はこれの主語がネズミだからなのだろうか?だが、このカードはネズミはネズミでも「ハツカネズミ」なのだ。持たされているイメージが違う。
「ハツカネズミ(Mouse)」というクリーチャー・タイプは、ウィザーズがわざわざ「ネズミ(Rat)」とは別に設定したものだ。ドブネズミなどのイメージの「ネズミ(Rat)」とは違い、ハツカネズミの方はもっと小さく、可愛らしく、綺麗な役どころのイメージを持たされているのである。
だから、このカードの場合は童話の憎めないコメディリリーフ的な調子で読まないと、全然らしくないのだ。
さあ急げ——晩餐会が待ってるぞ。
直訳するなら「彼らは全速力だ——この後は晩餐だ。」くらいになるが、童話世界エルドレインを意識してこんな風に訳してみた。原文の韻の雰囲気を活かそうとして「走って急げ——帰って宴。」なんてパターンも考えた。
ハツカネズミたちは大餐会に招かれた貴賓ではないけれど、彼らだって楽しい晩餐には参加したいと夢見たって不思議じゃない。だから、このハツカネズミたちは御馳走をちょっぴり頂いて、自分たちの宴を開いているって寸法だ。
分かち合う憎しみ
“The feud between dwarves and redcaps had raged for so long that no one could quite recall how it started. Few would believe it was sparked by a long-ago dispute over a spoon.”
–Assault on Delverhaugh
「ドワーフとレッドキャップとの抗争はあまりに長く続いており、なぜその確執が始まったのが、誰一人として覚えていなかった。スプーンを巡る大昔の争いが、その抗争の発端だったなどとは、誰も信じはしないだろう。」
–「デルヴァーホウへの強襲」
引用:分かち合う憎しみ(Shared Animosity)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
分かち合う憎しみ(Shared Animosity)はカードセット「エルドレインの森」のおとぎ話という特別枠で再録されたエンチャント・カードである。カードセット「モーニングタイド」が初出だ。
ワールドガイドによると、エルドレイン次元のゴブリンであるレッドキャップ(Redcap)はドワーフとは長年の宿敵同士である。そのレッドキャップの中でも特に悪意に満ちた氏族が血みどろブーツ族(The Bloody Boots)であり、デルヴァーホウの大餐会を襲撃したのである。
フレイバー・テキストの「デルヴァーホウへの強襲(Assault on Delverhaugh)」が血みどろブーツ族の襲撃事件だ。
レッドキャップの盗賊
“Shiny is best. Then sharp. Sharp is good. Anything else is basically trash.”
「光るものが一番いい。その次が鋭いものだ。鋭いものもいい。それ以外のものはゴミ同然だ。」
引用:レッドキャップの盗賊(Redcap Thief)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
レッドキャップの盗賊(Redcap Thief)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたクリーチャー・カードである。
デルヴァーホウの大餐会を襲ったレッドキャップを表したゴブリン・カードはこれ1種類だ。
イラストでは、ドワーフの死体が床に幾つか転がっており、それを踏みつけたレッドキャップは略奪品の盃を掲げて満足そうな笑みを浮かべている。
晩餐会の好戦漢
晩餐会の好戦漢(Belligerent of the Ball)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたクリーチャー・カードである。
このカードはゴブリンではなく、レッドキャップに同行してデルヴァーホウの大餐会を襲ったオーガである。
英語のカード名は、「パーティーの華」や「舞踏会の美女」、「社交界の花」といった意味の「Belle of the Ball」を捩ったものだ。「belle」とはフランス語の美しいの女性形で「美人」のこと。それを「交戦している者」を意味する「belligerent」に置き換えたのだ。
また、カード名で「晩餐会」と訳された「the Ball」だが、「エルドレインの森」の文脈ではデルヴァーホウの大餐会(The Grand Ball)を指し示している。
大食い戦争
With no time to gather weapons, the dwarves fought the redcaps with anything within reach.
武器を集める時間がなかったドワーフたちは、手もとにあるものをなんでも使ってレッドキャップと戦った。
引用:大食い戦争(Food Fight)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
大食い戦争(Food Fight)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたエンチャント・カードである。
童話「シンデレラ」では、お城のイベントは「ダンスパーティー」だったが、大餐会で起こるのは「レッドキャップの強襲による大乱闘」であった。
乱入
乱入(Cut In)はカードセット「エルドレインの森」に収録された伝説のクリーチャー・カードである。
デルヴァーホウの大餐会に対するレッドキャップの強襲。その乱戦の中で、武装したアッシュは抜剣してゴドリックを守るように立ちはだかった。
カードの効果で「若き英雄」役割トークンが付与されるのは、アッシュがただの普通の娘から恋する相手を守る英雄になった瞬間を表現するものであろう。
侵入者の放逐
When a redcap raid threatened the Grand Ball at Delverhaugh, Goddric had no choice but to reveal his true identity and douse the invaders in dragonfire.
レッドキャップの強襲によってデルヴァーホウの大餐会が危機にさらされたとき、ゴドリックは不本意ながらその正体を明かして侵入者をドラゴンの火で焼くしかなかったのだ。
引用:侵入者の放逐(Expel the Interlopers)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
侵入者の放逐(Expel the Interlopers)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたソーサリー・カードである。
こちらのイラストでは、乱入(Cut In)とは逆にゴドリックがアッシュを守るように立っており、その身からドラゴンの火を放ってレッドキャップを撃退している。
正体を隠していたゴドリックは、この危機的状況に至ってドラゴンの力を明かしたのである。
怒り狂う戦闘ネズミ
怒り狂う戦闘ネズミ(Raging Battle Mouse)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたクリーチャー・カードである。
大餐会の会場でレッドキャップと戦うハツカネズミである。
エルドレインの森版「シンデレラ」では、ハツカネズミは装束の用意だけに留まらず、宴の料理をこっそりと頂戴し、更には大乱闘にも参戦しているのであった。
略奪の爆撃
“For slaying dozens of redcaps using only fruit and cakes, the dwarven survivors were dubbed the Gluttoneers.”
–Assault on Delverhaugh
「果物やケーキだけで何十体ものレッドキャップを殺したことから、生き残ったドワーフたちは大食漢隊と呼ばれることになった。」
–「デルヴァーホウへの強襲」
引用:略奪の爆撃(Raid Bombardment)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
略奪の爆撃(Raid Bombardment)はカードセット「エルドレインの森」のおとぎ話という特別枠で再録されたエンチャント・カードである。カードセット「エルドラージ覚醒」が初出だ。
イラストにはドワーフから手当たり次第に物を投げつけられ、撤退していくレッドキャップが描かれている。
フレイバー・テキストでは、「デルヴァーホウの強襲」のその後が語られている。
真夜中の一撃
The assembled partygoers fell silent and stared. As the helmet came to a clattering stop, the only sound was Ash’s distant footsteps.
会場に集まった客は静まり返り、視線が彼女に注がれた。兜の転がる音が鳴り止むと、遠のくアッシュの足音だけが鳴り響いていた。
引用:真夜中の一撃(Stroke of Midnight)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
真夜中の一撃(Stroke of Midnight)はカードセット「エルドレインの森」に収録されたインスタント・カードである。
和訳製品版で「真夜中の一撃」と訳されてしまった「Stroke of Midnight」とは、「真夜中を告げる鐘の音」を意味する表現だ。この場合の「stroke」は「時計などの鐘を打つこと」の意で、「stroke of (時間を表す語句)」で「……時ぴったり」となる。例えば、「at the stroke of six」なら「6時ちょうどに」となる。
カードのメカニズムを見ると、土地でないパーマネント1つを1/1の人間トークンに変えてしまうような効果だ。これはカード名が「真夜中の鐘の音」なことを踏まえれば、童話「シンデレラ」で真夜中の鐘が鳴って魔法が解けてお姫様からただの娘に戻ってしまう場面を、カードへと落とし込んだのは明白だ。
真夜中の鐘が鳴った時、兜を落とされてしまったアッシュは、素顔を見られて自分の正体が誰なのかみんなにバレてしまわないように、一目散に大餐会の会場から逃げ出していった。後には兜だけが残されていた。
この後どうなったかは「ワールドガイド」には記されていなかった。「シンデレラ」のように、兜にピタリと合う者の捜索が始まってしまうのだろうか?あるいは、ドラゴンの正体を明かしたゴドリックはどうなったのであろうか?
さいごに
エルドレインの森版「シンデレラ」のまとめは以上でおしまいである。
アッシュの物語は、「エルドレインの森ワールドガイド」を読むまでは全体がぼんやりした印象だったものの、細部の設定を知ってしまえば、なるほど大分素直な「シンデレラ」になっているなと腑に落ちた。
これはサイドストーリー短編として、一続きの物語として読みたかったものだ。アッシュとゴドリックのその後どうなったの!?の答えが描かれたはずだからね。
それに、もし短編になっていれば、いいコメディリリーフとして立ち回れそうなハツカネズミたちが新たな人気キャラクターに昇格していたかもしれないぞ。いや、今からでも遅くはないんだから、ウィザーズはライターに発注してくださいな。
では、今回はここまで。
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