カエル声の写し身(Croaking Counterpart)はカードセット「イニストラード:真夜中の狩り」収録のソーサリー・カードである。
今回はカエル声の写し身の元ネタとなるカードや、フレイバー・テキストに引用されていることわざについて取り上げる。
追記(2021年10月11日):変幻の襲撃者(Protean Raider)のフレイバー・テキストについて重大な見落としをしていることが、フォロワーからの指摘によって判明したため、その旨を書き加えた。
カエル声の写し身の解説
Frog is the sincerest form of flattery.
カエルとは最も誠実な追従である。
引用:カエル声の写し身(Croaking Counterpart)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
カエル声の写し身(Croaking Counterpart)は緑青の3マナの呪文でクリーチャーのコピーを作る。ただし、コピーは緑で、パワーとタフネスが1/1のカエルになってしまう。また、フラッシュバックがあるので、墓地からもう1度使うことができる。
カード名で「カエル声」と訳された「croaking」は「蛙や鴉などのガーガー鳴く声」を意味する。
イラストに描かれているのは、白い鳥にまたがった人型の蛙である。蛙は木の板や棒、大きな葉で作った雑多な武具を装備し、鳥にも手綱やはみなどが着けられている。
イラストの蛙の姿は、まるでグリフに乗って剣を掲げた聖戦士のレム・カロラス(Rem Karolus)を、大雑把に真似したようにも見える。
もしかすると魔法でコピーされた蛙カロラスなのかもしれない…!?
カエル声の写し身は明らかに元ネタがあるカードだ。その元ネタは、イニストラード次元が初登場したカードセット「イニストラード」に収録されたカード、大笑いの写し身(Cackling Counterpart)である。
元ネタ、大笑いの写し身
大笑いの写し身(Cackling Counterpart)はカードセット「イニストラード」収録のインスタント・カードである。
カード名の「cackling」の意味は「鶏やガチョウの雌が(特に卵を産んだ時に)鳴く」あるいは「それに似たやかましく甲高い音を立てて喋る・笑う」といった感じだ。
そして、カードのメカニズムを見ると、青単色で3マナの呪文でクリーチャーをコピーする。ただしコピーできるのは「あなたのコントロールするクリーチャー」に限定される。フラッシュバックも持つ。
このように大笑いの写し身は、カード名や呪文のコスト、コピーを作る効果、フラッシュバックとカエル声の写し身(Croaking Counterpart)と非常によく似ており、これが元ネタなのは一目瞭然である。
次にイラストに目を向けよう。
向かい合った2人が描かれている。頭に2本の角を生やし、山羊や牛の後ろ脚に似た両足を持ち、細長い尻尾が伸びている。この種の特徴を持つイニストラード次元のクリーチャーはデビルであろう。
手前のデビルは左手の鎚を背に隠している。奥のデビルの左手は身体に隠れて見えないが、おそらくは同じように鎚を持っているのだろう。
どちらか一方がデビルをコピーした偽者かもしれない。あるいは、フラッシュバックを考慮すると、どっちもコピー体である可能性すらあるか。
カエル声の写し身のフレイバー・テキスト
Frog is the sincerest form of flattery.
カエルとは最も誠実な追従である。
カエル声の写し身のフレイバー・テキストは英語のことわざを基にしている。
「Imitation is the sincerest form of flattery.(模倣はお世辞の最も誠実な形だ。)」つまり、「真似ることが真似された相手への最大級の賛辞になる」という意味のことわざだ。
カエル声の写し身のフレイバー・テキストは「Imitation(模倣)」の部分を「Frog(蛙)」に置き換えているのが分かるだろう。
このカードはそっくりそのままのコピーではなく、1/1のカエルのコピーを生み出す。したがって大抵は、サイズは下がり部族の恩恵も受けにくくなって弱体化することになるだろう。
であるにも関わらず、フレイバー・テキストは「蛙になることこそが最大の賛辞だ」と言い張ってはばからないのだ。
なんだか奇妙で大袈裟で、楽しい雰囲気のある文章である。
和訳製品版のフレイバー・テキストの内容には別に問題はない(「追従」がこの場合は「ついじゅう」ではなく「ついしょう」と読んで「お世辞」の意味だ、とは分かり難いかも…と思うものの)。
けれど、私個人の好みを大分加えるならこんな感じになるだろうな…と試しに訳してみた。
蛙に変えるのは最大の賛辞だ。
文章を弄り過ぎて翻訳の分を越えているかもしれないが、これくらい遊んでも面白いかも?と思った次第だ。ただの遊びである。
おまけ:ことわざの仲間
「Imitation is the sincerest form of flattery.(模倣はお世辞の最も誠実な形だ。)」
このことわざは今までにも色々なカードのフレイバー・テキストで引用されている。おまけとして、それらを紹介しよう。
同じことわざからの派生であるものの、日本語表現は必ずしも同じではないところはMTG和訳の興味深いところだ。
双つ術
Imitation is the most dangerous form of flattery.
模倣は最も危険な形のお世辞だ。
引用:双つ術(Twincast)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
双つ術(Twincast)はカードセット「基本セット2010」に再録されたバージョンでフレイバー・テキストが刷新された。
このフレイバー・テキストでは、ことわざの「sincerest(最も誠実な)」を「most dangerous(最も危険な)」に置き換えたものとなっている。
このカードはインスタントやソーサリーを「コピー」する機能を持っている。
若き紅蓮術士
Immolation is the sincerest form of flattery.
焼身は最も誠実な追従である。
引用:若き紅蓮術士(Young Pyromancer)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
若き紅蓮術士(Young Pyromancer)はカードセット「基本セット2014」に収録されたクリーチャー・カードである。
ことわざの「Imitation(模倣)」を「Immolation(生け贄・犠牲。特に炎に関連するもので用いられることがある)」に置き換えたものだ。綴りも音もかなり近いスマートなひねりである。
その一方で、和訳製品版のフレイバー・テキストはよろしくない部分がある。「flattery(お世辞)」を「追従(ついしょう)」と訳しているが、この言葉は「追従(ついじゅう)」とも読めるのだ。「ついじゅう」と読むと「後につき従う・ついて行く」といった意味合いになるのだが、そうすると「焼身は最も誠実な追従である。」の文は「後追いの焼身自殺は最も誠実」との含みで誤って読み取れてしまうのだ。「お追従」と訳していたならまだよかっただろう。
このカードは「コピー」をするメカニズムは持っていない。
その代わりに、この紅蓮術士自身がプレインズウォーカーのチャンドラ・ナラー(Chandra Nalaar)のフォロワーとして、彼女を真似た格好している。
格好ばかりか、ペンダントにはチャンドラの顔が、ベルトのバックルにはチャンドラの名前が彫ってあるほど(その熱意の方向性は少々やばい匂いがしないでもない)。
つまり、このカード自身がチャンドラ・ナラーの「コピー」とも言える存在なのだ。
スパイ道具
Imitation is the sincerest form of treachery.
模倣は最も誠実な背信である。
引用:スパイ道具(Spy Kit)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
スパイ道具(Spy Kit)はカードセット「コンスピラシー:王位争奪」収録のアーティファクト・カードである。
「flattery(お世辞)」を「treachery(背信)」に置き換えている。
カードの機能は、伝説でないクリーチャー・カードの名前全てを獲得するというもの。スパイ道具らしく、身分を「コピー」するといったところか。
歯車組立工
Duplication is neither thievery nor flattery. It is efficiency.
複製は盗用でも迎合でもない。効率の追求なのだ。
引用:歯車組立工(Cogwork Assembler)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
歯車組立工(Cogwork Assembler)はカードセット「霊気紛争」収録のアーティファクト・クリーチャー・カードである。
これのフレイバー・テキストは、ことわざの文章と比べて形がかなり変わっている。しかし、「Duplication(複製)」は「Imitation(模倣)」と意味が近いし、十分に意識した内容だと感じられる。
カードの機能はアーティファクトの「コピー」である。
変幻の襲撃者
Imitation is the sincerest form of piracy.
模倣は最も誠実な海賊行為である。
引用:変幻の襲撃者(Protean Raider)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
変幻の襲撃者(Protean Raider)はカードセット「イクサランの相克」収録のクリーチャー・カードである。
このカードでは「flattery(お世辞)」を「piracy(海賊行為)」に置き換えている。うーむ…言葉遊びにしてはちと強引では?追記:「piracy」には「剽窃」「著作権侵害」「海賊版」の意味がある。つまり、模倣品は海賊版に他ならない…ということになる。追記ここまで
海賊行為を表現した「強襲」の条件を満たすと、このカードは戦場のクリーチャーの「コピー」として出せる。
さて、以上でことわざの仲間たちも紹介し終わり、話のタネも尽きてしまった。今回はここまで。
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