今回は、カードセット「兄弟戦争」に収録されたホラー・クリーチャー・カードを取り上げる。
貪欲な巨大モグラ(Ravenous Gigamole)、塹壕の忍び寄り(Trench Stalker)、屍肉蝗(Carrion Locust)、これら3種類のホラー・クリーチャーの共通点を探り、元ネタとなるものが何かを考察する。
追記(2023年4月8日):ホラー・クリーチャーの起源について、「兄弟戦争」とは異なるストーリーラインに基づいた別の可能性を書き加えた。
「ホラー」とは
まず最初にクリーチャー・タイプの「ホラー」の定義を確かめよう。
MTGのクリーチャー・タイプとしての「Horror(恐怖・ホラー)」とは、公式記事Insights from the Inboxによると、種々雑多な身の毛もよだつ類で、黒に属するありうべからざる存在と分類されている。ホラーが生まれる要因は色々あるが「狂人の悪夢」、「無節操な魔法実験」、「正気を失う程に深淵へ踏み込む」、「物体と肉体を組み合わせた道を誤った創造物」といった例が示されている。
ホラーという名前の通り、おどろおどろしい恐怖や悪夢の存在で、ゲーム的には色は黒に属している。アンデッドを示すクリーチャー・タイプには「ゾンビ」や「スピリット」があるので、そういうものに分類されないものが当て嵌まってくるはずだ。
ファイレクシアンは除外
本記事では、「ファイレクシアン」のホラー・クリーチャーは除外して取り上げないことにした。
ファイレクシアンのクリーチャー・タイプにはホラーがよく混ざっているので、特に珍しい存在ではなく、他のホラーとは切り分けて考えるべきと考えた。これらはファイレクシア次元からやって来た、あるいは、ファイレクシアンへの苦痛に満ちた改造過程を経てホラーに変貌してしまった、などと説明がついてしまうものだ。
「兄弟戦争」のテリシア大陸でなくとも存在しうるものなので、ここで取り上げるのは趣旨に合わない。したがって、本記事では除外する。ちなみに該当するカードは喉鳴らしの選定者(Gurgling Anointer)と屑鉄造りの憤怒獣(Scrapwork Rager)の2種類である。
兄弟戦争:ホラー・クリーチャーのカード
カードセット「兄弟戦争」に収録されたホラー・クリーチャー・カードは次の3種類だ。貪欲な巨大モグラ(Ravenous Gigamole)、塹壕の忍び寄り(Trench Stalker)、屍肉蝗(Carrion Locust)。
これら3種類の共通点は
- ゲーム的には黒単色のクリーチャーである。
- 戦場か戦場跡で、死体や残骸、あるいは生者を喰らう異形で巨大な怪物である。
- カードセット「アンティキティー」に元ネタは見つけられない(そもそもホラー・クリーチャーがいない)。
- 小説The Brothers’ Warには登場していないし、関連がありそうな記述が見当たらない。
では個別にカードを見ていこう。
貪欲な巨大モグラ
貪欲な巨大モグラ(Ravenous Gigamole)はモグラ・ホラー・クリーチャーである。
イラストを見ると、この貪欲な巨大モグラは、ホシバナモグラに似た特徴的な鼻面を持ち、足は少なくとも5本生えている。地中から現れて、人型自動機械ヨーティア兵の残骸を喰らっている場面だ。残骸と対比すると、かなりの巨体だと分かる。
カードのメカニズムに目を向けると、これが戦場に出た時に3枚切削する。その3枚の中からクリーチャー・カード1枚を選んで手札に加えるか、巨大モグラに+1/+1カウンターを1個置くか、を選べるというものだ。おそらくは、前者は巨大モグラに食われず逃げられた生存者がいる場合、後者は巨大モグラに全て平らげられた場合、なのだろう。
塹壕の忍び寄り
It can hear a panicked heartbeat from a thousand paces away.
それはパニックに陥った心臓の鼓動を、千歩先からも聞きつける。
引用:塹壕の忍び寄り(Trench Stalker)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
塹壕の忍び寄り(Trench Stalker)はビースト・ホラー・クリーチャーである。
顔はコウモリに似ているが目はなくその分大きな耳が顔面を占め、口には沢山の牙がある。体つきはがっしりとした類人猿のようだが、体毛はなく、前腕部など所々にトゲトゲの列がある。2本の腕と2本の脚の他にも、昆虫や甲殻類に似た細く節のある肢が腕の付け根辺りから何本も生えている。そして、長くしなる先細りの尻尾を持っている。
フレイバー・テキストを読むに、聴覚は非常に鋭敏だ。コウモリのように耳だけを頼りに、塹壕の兵士を探り当てては忍び寄って喰らう怪物のようだ。
屍肉蝗
No honor. No glory. No leftovers.
誉れはない。栄光はない。何一つ、残りはしない。
引用:屍肉蝗(Carrion Locust)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
屍肉蝗(Carrion Locust)は昆虫・ホラー・クリーチャーである。
カード名で「蝗」と訳された「Locust」は「蝗(イナゴ)」や「バッタ」を指すが、アメリカでは「セミ」の意味でも用いられることがある。カードのイラストを見ると、あまり蝗やバッタには見えないので、セミの方の命名なのかもしれない。ただ蝗にしろセミにしろ、鋭角すぎる鎌型の肢や、頭部から突き出た針のような何本もの突起(口吻や触覚、あるいは角か?)など、昆虫よりも金属的なイメージが強く感じられる。全身も人間よりも1回りは大きく、これがホラーであるゆえんか。
カードのメカニズムの方は、これが戦場に出た時に相手の墓地から1枚カードを追放するという機能だ(クリーチャー・カードを追放ならおまけがつく)。再びイラストを見ると、遺体に覆い被さって屍肉を喰らおうとしている場面なので、墓地除去は納得がいく機能である。
兄弟戦争:ホラー・クリーチャーの元ネタ
以上のように、兄弟戦争期のホラー3種類を順番に確認できた。
初めに指摘した共通点の内、「黒単色クリーチャー」と「戦場か戦場跡で、死体や残骸、あるいは生者を喰らう異形で巨大な怪物」というポイントは理解してもらえたと思う。
更に先述したように、これらのホラーはカードセット「アンティキティー」と小説The Brothers’ Warに元ネタは見つからない、これも共通しているのだ。
しかし、カードセット「兄弟戦争」の性格上、元ネタ無しの完全新規クリーチャーとはちょっと考えにくい。だから別のところに元ネタとなる何かがあるはずだ。
暗黒時代
ここで頭を切り替えて、カードセット「兄弟戦争」の連載ストーリーを調べたところ、兄弟戦争中だけでなく戦後も範囲内だったと再確認できた。つまり、暗黒時代もセットの元ネタに含まれている可能性があるのだ。
ならば、調べるべきはカードセット「ザ・ダーク」や小説The Gathering Darkだ。するとピッタリのホラー・クリーチャーがいるではないか。
Eater of the Dead
Even the putrid muscles of the dead can provide strength to those loathsome enough to consume them.
死者の腐肉であっても、それを喰らい尽くす程に忌まわしきものになら力を与えられる。
引用:Eater of the Deadのフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が私家訳
Eater of the Deadつまり死体喰らいはカードセット「ザ・ダーク」収録のホラー・クリーチャー・カードである。
カード名とフレイバー・テキスト、カードのメカニズムは、屍肉を喰らい力とする忌まわしきクリーチャーだと示している。小説The Gathering Darkにおいては、不浄な魔法使いに召喚された冥界の落とし子であり、戦場や行軍中に消える部隊はこれに捕まっているのかもしれない、と噂される存在であった。
イラストは名状しがたい異形の怪物だ。獣じみた鼻面で、長く鋭い犬歯があり、曲がった角が4本頭部から生え、両目の他に額の真ん中と両胸に目玉があり、両肩からは上に伸びる角あるいは触手、両脇より上向きに湾曲して広がる翼とも何とも分からない謎の部位、体の各所から生えた棘がある。それらに加えて、イラストの下両脇には頭蓋骨らしきものがあるが、これが体の一部なのか否かもよく分からない。
暗黒時代を舞台とした短編A Monstrous Duty(短編集Distant Planes収録)では、アングリマーの少年王ローガンが呪いを受けて夜な夜な怪物に変身して外を徘徊していた。この怪物の描写は、この死体喰らいのイラストから創作したもののようにも思えるものだった。
ホラー・クリーチャーの共通点
暗黒時代の死体喰らいは以上のような存在である。細部は全然似たところは無いものの、黒単色のホラー・クリーチャーで、戦場で屍肉を喰らう異形の怪物という要素がカードセット「兄弟戦争」の各種ホラーと通ずるものだ。
このカードセット「ザ・ダーク」のカードが元ネタとなり、基幹要素のみを残して自由に創作されたホラー・クリーチャーが「兄弟戦争」の3種類だ、というのが私の考えだ。
デザインの狙いはカードセット「アンティキティー」と「ザ・ダーク」の間を埋めるもの、だったのではないだろうか?そんな気がする。
追記:狂気魔術の可能性
カードセット「兄弟戦争」やテリシア地方のストーリーラインではないが、ドミナリア次元にはホラーやナイトメアを専門とする魔法体系が存在している。それが狂気魔術(Dementia Magic)だ。
狂気魔術はテリシアの西方にあるオタリア大陸関係のストーリーラインで語られた魔法であり、アンティキティー戦争期やテリシアと特に結び付けて言及した作品や設定はない。しかし、狂気魔術は少なくとも神霊クベールに遡ることができ神話時代かより古い起源を持つことが分かっている。つまり、狂気魔術は兄弟戦争よりも遥か1万5千年以上も古いのだ。
小説Odysseyを初めとする作品群で描かれた狂気魔術クリーチャーには、巨大で異形なモグラの怪物であったり、昆虫型ドローン・タイプであったり、触手を生やして棘や歯など複数の生物的特徴を併せ持った類など、カードセット「兄弟戦争」のホラー・クリーチャー・カードと共通する特徴を有するものが確認できた。
もし兄弟戦争中に狂気魔術の継承者がテリシア大陸に居たとしたら?破滅的な惨状を目の当たりにして、術者自身も狂気の産物を生み出して戦場へと放ったのではないだろうか?
さいごに
ということで、兄弟戦争のホラー・クリーチャーの元ネタを私なりに考えてみた。もすかすると、私の元ネタが絶対あるはずだ、という強い思い込みによって存在しない繋がりを見えてしまった可能性はあるかもしれない。マーク・ローズウォーターのカード開発記事辺りでホラー・クリーチャーのデザインに触れてもらえれば助かるのだけれどな。
では、今回はここまで。
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