赤の魔力貯蔵器(Red Mana Battery)はカードセット「レジェンド」収録のアーティファクト・カードである。
前回は黒の魔力貯蔵器(Black Mana Battery)の解説をしたので、今度はその赤バージョンを取り上げてみた。
2021年2月6日追記:プレインズウォーカー戦争において構想されていた赤の魔力貯蔵器の役割を書き加えた。
赤の魔力貯蔵器の解説
赤の魔力貯蔵器(Red Mana Battery)は赤マナを溜めておけるアーティファクトである。任意の2マナを蓄積カウンター1個として蓄えておき、カウンター1個につき赤マナ1点として引き出すことができる。
外見は両端が鋭い角となった三日月状をしており、半分は金属細工に覆われ、もう半分は表面が滑らかな紅色をしている。
ストーリー作品ではコミックShadow mageシリーズに登場している。形状はカードのイラストと同一である(ただし1回だけ両端とも紅色になっているコマがある)。
赤の魔力貯蔵器のストーリー
赤の魔力貯蔵器はコミックShadow Mageシリーズ(全4話)に登場した。舞台はドミナリア次元コロンドール大陸で、時代はAR4190年代頃1となっている。
このコミックは主人公ジャレッド・カルサリオン(Jared Carthalion)が成長して悪の侵略者ラヴィデル(Ravidel)に立ち向かう復讐譚である。
ジャレッドはイフレン(Ephren)2の地を治めるメルメネス城の王アダム・カルサリオン(Adam Carthalion)の息子として誕生したが生後まだ半年の頃にラヴィデルの侵略が起こり、父も配下の軍も国も滅ぼされてしまった。アダムにジャレッドを託された忠臣イゼル(Ezer)3はアラソクシアの街に逃げ延びた。ジャレッドはイゼルの下で逞しく育っていくが、その間にもラヴィデルは虎視眈々とコロンドール侵略の準備を進めていく。
そうしてジャレッドが15歳となった年、ついにラヴィデルがアラソクシアに戦争を仕掛けた。ジャレッドは戦禍をくぐり抜け、両親の死に隠された残酷な真相を乗り越え、頼もしい仲間たちと共にラヴィデルの根城となったメルメネス城に乗り込み対決を挑む……といった流れの物語だ。
赤の魔力泉
作品中における「赤の魔力貯蔵器」は「赤の魔力泉(Red Mana Well)」と呼ばれており、ジャレッドの手元にただ1つ遺されたアダムの遺産という役割が持たされている。
もちろん「赤の魔力泉」にはカードと同じく赤マナを貯蔵する魔法の道具としての機能がきちんと備わっていて、ジャレッドが赤の魔法を行使する際に何度も利用されている(コミック作中描写では「魔力泉」が描かれていない場合であっても、巻末解説の方を調べれば実はその時も活用していたと書かれていたりもする)。
コミックShadow Mage vol.3では「魔力泉」に蓄えていたマナが完全に枯渇してしまう場面も描かれている。これはカードで蓄積カウンターを消費し切ってしまった状況の再現である。
アダムの遺産

スカーレット家高官(左)に「魔力泉」を示すジャレッドを抱いたイゼル(右)コミックShadow Mage vol.1より引用
アダム・カルサリオンとラヴィデルの両軍がぶつかった落星の戦い(Battle of Aster Fall)4は、ラヴィデルの勝利となった。アダム・カルサリオンは死亡し、軍は壊滅、メルメネス城はラヴィデルの手に落ちた。
落星の戦いから3か月後、イゼルは赤子のジャレッドを守り抜いてようやくアラソクシア(Arathoxia)に到着した。アダム・カルサリオンはアラソクシアの5大貴族家の1つスカーレット家当主でもあったのだ。スカーレット家の保護を求めたイゼルだが、当主不在時の名代であるスカーレット家高官(Scarlet Vizier)にまったく相手にされない。「赤の魔力泉」を示してジャレッドがアダム・カルサリオンの息子であると訴えるも、逆に盗品でないかと疑われ門前払いされる始末だった…。
イゼルは仕方なくアラソクシアの貧民街に居場所を見つけ、劣悪な環境でジャレッドの育児をするよりほかに選択肢はなかった。
以上のように、アラソクシアのスカーレット家を頼ったイゼルとジャレッドは疑われ追い払われてしまう。これには理由があった。
第一の理由は、イゼルの姿が別人のように変わっており、同一人物に見えなかったことだ。イゼルは落星の戦いでラヴィデルの吸魂(Syphon Soul)の魔法を受けた際に急激に老化してしまったのだ。カードには老化の効果もそういったフレイバーもないのだが、魂を吸い出されるイメージを膨らませたものだろう。
第二の理由は、ジャレッドの右頬にある三日月の紋である。これはカルサリオン家の血統に現れることがある大ドルイドの印なのだが、ジャレッドの三日月が現れたのは「落星の戦いの後」である。したがって、それ以前の生後間もないジャレッドを知る者にとっては、いかにもな三日月を持つ赤ん坊は胡散臭い偽者にか見えないことになるのだ。
第三の理由は、イゼルとジャレッドに応対したのがスカーレット家高官5だったことである。この高官は当主アダムに成り代わってすでにスカーレット家の実権を握っている。そして後にラヴィデルの内通者と判明するのだ。スカーレット家を乗っ取るためなら、ジャレッドをアダムの息子と認めるわけにはいかないのである。
ラヴィデル最初の刺客
ジャレッドが7歳になった年、ラヴィデルの刺客であるアイラーシ(Aerathi)6の戦士が突如現れ、ジャレッドとイゼルの住居に襲撃してきた。ラヴィデルの目当てはジャレッドと「赤の魔力泉」であった。ラヴィデルはウルザの眼鏡(Glasses of Urza)の占術機能で「魔力泉」の所在を感知したため、アイラーシの戦士を差し向けたのだった。
襲撃者との戦いは次のような展開を見せる。イゼルの魔法でアイラーシの戦士の肌は陶器のような質感に変化した7。そこにすかさずジャレッドが「赤の魔力泉」経由で赤マナを操り、爆破(Detonate)を放ちアイラーシの戦士を破壊してのけた。しかし、ジャレッドは爆破魔法を行使できたものの、反動で左手を負傷してしまった。
ここで出て来るカードは最初期の古いカードばかりだ。おそらく古参にしか通じないだろうから、解説を加える。
まずラヴィデルはアイラーシの狂戦士(Aerathi Berserker)を召喚した。
イゼルはアイラーシの狂戦士に対してアシュノッドの人体改造器(Ashnod’s Transmogrant)を使用して、アーティファクト・クリーチャーに変える。
続いてジャレッドは赤の魔力貯蔵器から十分以上の赤マナを引き出して爆破(Detonate)を唱えた。このカードは呪文のコストがX点のアーティファクトを破壊し、さらにアーティファクトのコントローラーにX点のダメージも与える。アイラーシの狂戦士のコストは5なのでX=5指定だ。
この時、ラヴィデルは遠く離れたメルメネス城にいたのだが、爆破のカードの効果と同様にラヴィデル自身にもダメージが降りかかっている描写がある。
そして最後に、赤の魔力貯蔵器から出した赤マナが使い切れずに残っていたためマナ・バーンが発生した。ジャレッドは残っていた赤マナの点数と同数のダメージを受けた。
実はこれがジャレッドの初の赤の魔法使用であった。魔法の制御は完全ではなかったとはいえ、イゼルはジャレッドの初魔法に満足し、その成果を褒めるのだった。
ちなみに、この一連のストーリーは以前の記事でも少し紹介している。

アラソクシアの戦い
ジャレッド・カルサリオンが15歳になった年にラヴィデルはアラソクシアに大軍を率いて攻めてきた。この戦いでは、アラソクシアを統治するスルタンのもとで5大貴族家も必死に抵抗を試みる。しかし、ラヴィデルの攻撃の前にアラソクシアは廃墟となってしまうのであった。
ジャレッドはアラソクシアの戦いでは、ラヴィデル軍の蠢く骸骨(Drudge Skeletons)に対して、「赤の魔力泉」経由で分解(Disintegrate)をかけている。分解はxダメージ呪文で「再生能力を封じる」効果を持っており、再生持ちの蠢く骸骨のような敵には効果覿面であった。

赤の魔力泉で分解を唱えたジャレッドこのコマだけ魔力泉のデザインが違うコミックShadow Mage vol.3より引用
そしてここが「赤の魔力泉」の最後の出番となる。
その後の場面において、「魔力泉を完全に引き出し切ってしまった。もう打てる手が無い。(the Mana Well completely drained. There’s nothing more I can do.)」とジャレッドはイゼルに語っている。アラソクシアの戦いはコミックShadow Mage vol.3だが、次の最終話vol.4になっても「魔力泉」は出てこないのだ。
魔力貯蔵器というカードは毎ターンに蓄積カウンター1個しか乗せられないために、十分なマナを溜めるには時間がかかるものだ。ジャレッドはラヴィデルとの戦闘までにカウンターを溜める余裕がなかったのであろう。
赤の魔力貯蔵器のストーリーのその後に…
赤の魔力貯蔵器が登場したShadow Mageは、アルマダ・コミックのシリーズの1つである。アルマダ・コミックはジャレッド・カルサリオンを中心としたストーリーの他、アンティキティーやフォールン・エンパイア、アイスエイジといったカードセットを題材にしたコミカライズなどを展開していた。その最後を飾るのがコミックのプレインズウォーカーたちが大結集する「プレインズウォーカー戦争(Planeswalkers’ War)」であったのだが、そこまで語り終える前にコミックの発行は打ち切りになってしまった。
海外ヴォーソスが当時のアルマダ・コミックの中心スタッフであったジェフ・ゴメス(Jeff Gomez)に確認したところによれば、この「プレインズウォーカー戦争」のコミックは未完成であったが、構想自体はかなり細かいところまで作られていた。そして、なんとプレインズウォーカー戦争では「赤の魔力泉」がストーリー上で新たな役割が持たされていたというのだ。
簡単にまとめて見ると、プレインズウォーカー戦争では強力な破壊兵器「灰色の鐘(Grey Chime)」という名のアーティファクトがキーアイテムであった。この鐘は5つのパーツに分解されており、プレインズウォーカーたちによる争奪戦が巻き起こされる。鐘を狙う1人にはプレインズウォーカーのテヴェシュ・ザット(Tevesh Szat)も含まれていた。
テヴェシュ・ザットは鐘のパーツを集めつつも、その動力源を求めた。それで目を付けたのがジャレッド・カルサリオンの持つ「赤の魔力泉」であった。テヴェシュ・ザットはジャレッドを倒して「赤の魔力泉」を奪い取ってしまった。最終的には、完成した「灰色の鐘」は狂気のプレインズウォーカー、レシュラック(Leshrac)が起動して、大爆発で橋の都テレマーを吹き飛ばし、きのこ雲が立ち上った。
……と、こういうことになるはずだったらしい。
プレインズウォーカー戦争は打ち切られたストーリーラインとして長年ウィザーズ社から無視されてきたが、現在の公式年表にはしっかりと記載されるようになった。したがって、「赤の魔力泉」がテヴェシュ・ザットに奪われ「灰色の鐘」の動力源に利用された事件も実際に起こっていた可能性は十分あるはずだ。
赤の魔力貯蔵器の最後に…
さて以上で「赤の魔力泉」こと「赤の魔力貯蔵器」にまつわるストーリーの解説は終了である。
見直してみると、魔力貯蔵器よりもジャレッド・カルサリオンの方に重点を置いた記事になってしまった。けれど、日本ではほとんど認知度のないコミック主人公のストーリーを紹介できて結構満足している。ジャレッドの両親の死に関しては、実はジャレッド自身にとってかなり過酷な真相が隠されているのだが、今回扱うには逸脱しすぎている。改めてジャレッドについて語る時にでも記事化することがあるかもしれない。
では、今回はここまで。
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- AR4196年に勃発したプレインズウォーカー戦争の前日譚に当たる
- コミックShadow Mage vol.2巻末の発音ガイドで「EE-fren」とある
- 「Ezer」はよく「エゼル」と日本語表記される名前だが、コミックShadow Mage vol.2巻末の発音ガイドで「EE-zer」とあるので、本記事では「イゼル」とした
- 「Aster」はギリシア語で「星」のこと。「Battle of Aster Fall」は戦いの直前に流れ星があったことからの命名
- 「スカーレット家高官」という人物は作中において役職だけで呼ばれており、個人名は出てこない
- コミックThe Shadow Mage vol.2巻末の発音ガイドを参照すると「ay-RATH-i(アイラーシ)」が正式な発音である
- 巻末解説によると、イゼルの魔法はアシュノッドの人体改造器(Ashnod’s Transmogrant)だと書かれている