スカーブの世話人(Skaab Wrangler)はカードセット「イニストラード:真夜中の狩り」収録のクリーチャー・カードである。
今回は、フレイバー・テキストに登場するウダ(Uda)というスカーブの世話人のストーリーを掘り下げる。
追記(2022年7月20日):記事投稿に頂いたコメントを考慮して追加の節を設けた。
スカーブの世話人の解説
After Uda’s hat boutique in Selhoff was destroyed by werewolves, she relocated outside of town and took up a new type of sewing.
セルホフにあったウダの帽子屋が人狼によって破壊された後、彼女は町はずれで一風変わった裁縫を始めた。
引用:スカーブの世話人(Skaab Wrangler)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
スカーブの世話人(Skaab Wrangler)はイニストラード次元の魔術師の一種であるスカーブ師と考えられる。フレイバー・テキストによると、イラストのスカーブの世話人は前職が帽子屋で、名前はウダ(Uda)という。
スカーブ師(Skaberen)は錬金術的な手法でゾンビの「スカーブ(Skaab)」を製造するイニストラード独特の魔術師だ。スカーブ師は材料となる死体を縫い合わせてスカーブを作り、縫い師(Stitcher)とも呼ばれている。
スカーブの世話人のフレイバー・テキスト
After Uda’s hat boutique in Selhoff was destroyed by werewolves, she relocated outside of town and took up a new type of sewing.
セルホフにあったウダの帽子屋が人狼によって破壊された後、彼女は町はずれで一風変わった裁縫を始めた。
フレイバー・テキストの内容をもう少し詳しく読み解いてみよう。
まず「帽子屋」と和訳されている原文は「hat boutique」である。「boutique」はフランス語で「流行の婦人服や装身具などを売る小規模の専門店」いわゆる「ブティック」である。ここでは「hat boutique」なので「帽子屋」となるが、それもきっとちょっとおしゃれな感じの店だ。
店のあったセルホフ(Selhoff)はイニストラード次元ネファリア州の港湾都市である。
「relocate」は住居や店などを「新しい場所に移す」「移転させる」という意味合いの動詞。「take up」はこの場合は、仕事や趣味「を始める」「に従事する」くらいの意味だ。
「町はずれ」の原文該当部は「outside of town」である。この表現を「町はずれ(町外れ)」と訳す例はあるものの、「outside」は「境の外側」といったニュアンスがあり、一方「町はずれ」は「街並みが終わろうとするところ」「街の端」つまり境の内側の含みが感じられる表現だろう。
そして最後に、「一風変わった裁縫」となっている原文の該当部は「a new type of sewing」つまり「新しい種類の裁縫(針仕事・縫い物)」なので、意味合いには被る部分もあるもののずれがある。ただ、実際にやっている内容を鑑みるに、ただ「新しい」だけでなく「一風変わった」=「奇抜な・型破りな」所業なのは間違いない。
スカーブの世話人の再解釈
セルホフにあったウダの帽子店が人狼によって破壊された後、彼女は市外に店を移転して新しい裁縫事業を始めた。
前節で確認した内容を踏まえてフレイバー・テキストを読み替えてみた。この文章とカードのイラストを合わせて、ウダの物語を掘り下げていこう。
イニストラード次元ネファリア州。オスピド川がヴァストロウ湾に流れ着く河口には三角州が形成され、そこには世界の端と称される港湾都市セルホフがある。
ウダ(Uda)はこのセルホフの街でおしゃれな帽子店を営んでいたが、彼女の店は人狼たちによって壊されてしまった。
大患期後のイニストラード次元は夜が尋常でないほど長くなり気候は寒冷化する一方であった。永遠に続く夜の到来が予感され、夜の生き物である人狼は力を増し今まで以上に暴力を振るっていたのだった。ウダの店を襲った悲劇もこの時代には珍しくない事件に過ぎなかったであろう。
店を失ったウダはセルホフの街の外へと店を移転した。しかし、新店舗はイラストを見る限り、屋根に穴の開いた惨めなあばら家だった。
セルホフの近隣にはモークラット(Morkrut)の沼地が横たわっている。そこは霊やバンシーのような存在が徘徊する危険地帯だが、死体の投棄地でもありスカーブの材料にはことかかない土地であった。
常人なら避けるようなこんな場所で、ウダは新たな裁縫事業に着手したのだ。
ウダの新たな顧客はゾンビのスカーブであった。ウダはスカーブを赤や青の大きなリボンや装身具、黒光りする金属製の首輪や拘束具で飾り立てた。
ウダは魔法の杖を携え、腰に手錠を下げ、服には血の染みができ、彼女の周りにはおめかししたスカーブが取り巻いている。もはやただの帽子店経営者ではなく、アンデッドを自在に操るスカーブ師の風格だ。
ウダは裁縫の技を魔術に転用して、「縫い師」という新たな道へと踏み出したのだろうか?人類の破滅を目前にしたこんな時代には、ウダの狂った選択こそが活路であるのかもしれない……。
追加:反応コメントに関して
記事投稿後に頂いた反応コメントの中から気になったものを選び、改めてウダについて考えてみた。
コメント1:ウダはスカーブをマネキンのように扱っているのでは?イニストラード次元のモチーフとなった時代にマネキンが存在したかは分からないが。
確かに、スカーブをマネキン代わりに装飾品の陳列に活用している可能性はありそうに思える。スカーブにリボンを売ろうとしても代金は払えないだろうし……。
コメント2:ウダは店を破壊された経験から、もう壊されないようにタップ能力を身につけたのでは?
ゲーム的なタップ能力だが、ウダがスカーブを操って敵の行動を阻害し食い止めている、という解釈はとても説得力がある。ちなみに、改めてイラストの人数を数えてみたところウダ1人にスカーブ5人の合計6人が確認できた。つまり、ゲーム的には2体の敵をタップできる計算になる。
コメント3:ウダがスカーブ師に転身したという解釈だが、そんな簡単にスカーブ師に成れてしまうのはどうだろう?
これはその通りだ。ただの帽子屋がゾンビを製造する屍錬金術師にあっさりとなれるのは不自然に思える。しかし、カード上のクリーチャー・タイプはウィザードなのでウダは魔術師扱いになっているのは確かなのだ。あるいはウダは純正のスカーブ師ではなく、スカーブを操作する魔法を身につけただけなのかもしれない。
ただ、大患期(前回のイニストラードを覆う影ブロック)からカードセット「イニストラード:真夜中の狩り」現在までには2年が経過している。ウダがスカーブ師の魔法と技術を習得するには十分な時間があったの可能性も捨て切れない。
コメント4:イニストラード次元のマッドハッター。
マッドハッター(The Mad Hatter:いかれた帽子屋)は不思議の国のアリスに登場した帽子屋を表す呼称のこと。英語では不思議の国のアリスより前から「mad as a hatter」で「気が狂っている」という意味の慣用表現が存在していた。ウダの前職が帽子屋なのはこういった慣用表現やマッドハッターといったキャラクターを意識したものだったのかもしれない。
さいごに
今回はスカーブの世話人を取り上げた。
このカードは、カードセット「イニストラード:真夜中の狩り」のドラフトでは強力なアンコモン・クリーチャーとして随分重宝したものだ。その強力なタップ能力の割に、フレイバー・テキストとイラストはお洒落な帽子屋とゾンビたちという風変わりなもので前々から気になっていた。この記事は書きかけで放置していたのだが、このカードを紹介しないでおくのはもったいない、とこうして完成させてみた。いかがだったろう。
では今回はここまで。
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