小説War of the Spark: Ravnica外伝最終回

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小説『War of the Spark: Ravnica』の外伝に当たる掌編シリーズ第6話が公式サイトで公開された。外伝はこれで最終回になる。

『War of the Spark: Ravnica—Ashes』(英語原文版)

404 | Magic: The Gathering
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『ラヴニカ:灯争大戦――結末の灰燼』(公式和訳版)

ラヴニカ:灯争大戦――結末の灰燼|読み物|マジック:ザ・ギャザリング 日本公式ウェブサイト
世界中で5千万人を超えるプレイヤーとファンを持つ世界最高の戦略トレーディングカードゲーム、マジック:ザ・ギャザリングの日本公式ウェブサイト。

外伝掌編6話の解説

小説『War of the Spark: Ravnica』の出来事をラット(アレイシャ・ショクタ)の視点から語り直す掌編連載6話。最終回。

小説本編で言う所の第50章~第67章の範囲をカバーしている。つまり外伝では小説第三幕の範囲全てをこの最終回1話で語っている。



あまりにも気になって仕方がなかったところ

この最終話の翻訳部分はかなり粗くなっている。翻訳の不正確な部分や日本語表現での不自然さ、あやふやで意味が汲み取れない文章が今までよりも目立っている。

いくつか抜き出して解説する。

無頼漢の口調

“There’s a humongous golden trinket a couple blocks away, and instead of going after it, I’m off to fight an Elder Dragon. Some thief . . .”
「ちょっと離れた所に、途方もない黄金のがらくたが置いてある。俺はそれを借りに……じゃなくて一体のエルダー・ドラゴンと戦いに行ってくるよ。大したことのない盗賊だがね……」
一部抜粋:上が英語原文。下が公式和訳

多元宇宙の大盗賊ダク・フェイデン。そんな無頼漢の口調ならもう少し雰囲気が欲しい。

こっから2、3区画あっちにどでかい金の飾り物があったっけな、いただくのは今度にするわ、俺はエルダー・ドラゴンと戦ってくるぜ。たいした盗賊様だよ…

外伝で追加されたダク・フェイデンの独白である。小説本編ではここに該当するシーンまでに盗賊家業の自分と、本当の英雄たちとを見比べて卑下するようなダクのモノローグが描かれている。

また、この直前の会話の流れから、「a humongous golden trinket」とは「不滅の太陽」ではないかという意見を見たが、もしそうなら「the humongous golden trinket」となるだろうから、不滅の太陽のことではないと考えられる。

最初の方だけ、最後の方はなし

ジェイスがヴラスカと付き合う約束をするシーン。

ベレレン氏は肩をすくめた。「けど知っての通り、俺は今日既に元カノを一人殺そうとしたんです。ボーラスか俺達が死ぬまで、不安は棚に上げておきませんか」
「おや、私も元カノかい?」 悔やむみたいな微笑み。
やっぱり!
「ちが……う、と思います」 ベレレン氏は慌てたみたいに言った。
恋人でもないのに元、はないよな
「そうですよね……ってその、恋人でもないのに、の方です。元、じゃなくて」 そう答えるベレレン氏は、初心な男の子みたいに見えた。私はなんかすごく、テヨを思い出した。
「じゃあさ、明日から……なってみないか? ボーラスが死んでも、私らが死んでも」
「どっちにしろ、ですか?」
「どっちにしろ」
ベレレン氏は頷いた。「是非とも。けど一応言っておきますと、あくまでボーラスが死んだら、の方が俺はいいです。俺達が、じゃなくて
「私もだよ」
公式和訳から一部抜粋

引用が長くなるので公式和訳版からまず。赤字で強調した部分が主に違う。

では次に原文を。

He shrugged. “Look,” he said, “I already tried to kill one ex today. Can we table the angst until Bolas is dead or we are?”
She smiled ruefully. “Oh, am I an ex now?”
I knew it!
“I hope not,” he said, looking panicked.
Don’t we have to be an item before we can be exes?
“I hope so,” he said. “Um, the first part, not the second.” He looked so vulnerable. Kinda brought Teyo to mind for some reason.
She said, “So tomorrow we give it a try . . . after Bolas is dead or we are?”
“Either way?”
“Either way.”
He nodded. “Agreed. But again, I’m hoping for the first option, not the second.
“Agreed.”
一部抜粋

原文も同様に赤字で強調した。お分かり頂けるだろうか?この赤字の3か所は互いに対応していることに。

説明がこんがらがりそうなので、まずは全体を訳し直してみたものを確認してほしい。

ベレレン氏は肩をすくめた。「聞いてください。俺は今日はもう元カノを1人殺そうとしてきたんですよ。ボーラスが死ぬか俺達が死ぬまで、不安は棚に上げておきませんか?」
ヴラスカ女王は悲しげな笑みで「あーあ、今度は私が元カノかよ?」
やっぱりね!
「それは嫌だ。」ベレレン氏が混乱している。
まずは付き合わないとな、元カノになるためにさ?
「それがいい。えっと、最初の方だけ、最後の方はなしです。」とベレレン氏。隙だらけじゃないの。なんか、なんかテヨみたいだよ。
「じゃあ、明日から付き合ってみるかい?…ボーラスが死んでも私らが死んでも。」
「どっちに転んでも?」
「どっちに転んでもだ。」
ベレレン氏はうなずいた。「決まり。確認するけど、最初の方だけ、最後の方はなしですよ。
「決まりだ。」

ジェイスがヴラスカに主導権を握られて付き合うことを約束する場面だ。もちろんジェイスも最初からその気だった。でも今は世界の危機を優先して2人の個人的な問題を先送りにしよう、と優等生的な態度を示したのに、それが「あー私ふられちゃうんだ」という見え見えのヴラスカの返しであっさり崩されるのがなんだかおかしく微笑ましい。

さて、問題の部分。

まずはヴラスカの「Don’t we have to be an item before we can be exes?」は訳すと「私たちは付き合わないといけないよね、元カレ元カノ同士になる前には?」とこんな意味になる。最初に「2人が付き合うこと」を出して、最後に「2人が別れること」でしめる文章である。

ではそれを受けてジェイスの「I hope so,」は「そうなることが私の希望することです」と言う意味の返事。ジェイスの希望は、最初の「2人が付き合うこと」か、それとも、最後の「2人が別れること」か?

そこが誤解されるとまずいと思ってジェイスは言葉を足す。「Um, the first part, not the second.」つまり、最初の方が自分の希望で、最後の方ではないよ、と。

そして対応関係の3番目の「I’m hoping for the first option, not the second.」と同じ表現を繰り返して、念押しをしておしまいになる。

公式和訳版は最後で、ボーラスが死ぬか自分たちが死ぬかのどちらかである、とすり替える誤解釈をしているのだ。

もう少し言うと「He looked so vulnerable.」のところを「初心な男の子みたいに見えた。」と解釈している。おそらくこれが原因で会話全体の流れが原文と違ってしっくりこなくなっている。公式和訳はまるで、恋人関係とか元カノとかをヴラスカが切り出してきたことにドギマギしているジェイス、という味付けが後から足されてるように見えるのだ(原文を見れば、ジェイスの受け答えはすっきりしていて、公式和訳のように最後までしどろもどろで慌ててなんかいないことが分かる)。

母さんの軽めの戦斧

My knives were still in their sheathes, as my mother had insisted I borrow a light battle axe from her. I’m not actually sure if it was an improvement. “Light” or not, it was still a heavier weapon than I was used to, and my arm strength probably isn’t what it should be for the daughter of Ari Shokta. But it made her feel better to see me better armed. And since she could see me and might worry, I complied.
私はナイフを鞘にしまったままで、母さんが貸してくれた軽めの戦斧を持っていた。上達したって意味だとはあんまり思わなかった。軽くても軽くなくても、私が今まで使ってきた武器よりは重いし、私の腕力もアリ・ショクタの娘らしくはなかった。けど私の姿が近くに見えるのは母さんにとって安心できることだった。何せ母さんには私が見えて、私を心配してくれるんだから、私は応じた。
一部抜粋:上が英語原文。下が公式和訳

この段落は、母アリ・ショクタが娘ラットの武器を変えさせたという一貫した話なので、「an improvement」は「斧の扱いの上達」ではなくて、「武装の改善」を指している。

次に「it made her feel better to see me better armed.」の部分。ラットの姿が「見える」か「見えない」か、はラットと言うキャラにとって重要な分かれ目ではあるのだけど、ここの文脈での「to see me」は母アリ・ショクタが「娘を視覚で認識できる」という意味では全くない。ここはナイフを斧に変更させた母の様子からその心情を推し量る文章であり、軽く訳すと「よりよい武装になった私(ラット)を見ることで、母さんの機嫌がよりよく変わった」くらいの意味になる。

「see me」が「娘を視覚で認識できる」という意味に飛躍するのはその後の「And since she could see me」のところになる。

ではどんな感じになるかと言うと…。

私はナイフを鞘にしまったままだった。だって、母さんが軽めの戦斧を貸してやるって譲らなかったからさ。これで武装強化になってるか正直分からないけどね。「軽め」だっていってもいつもの武器より重いわけだし、私にはアリ・ショクタの娘なら当然あるべきの腕力もないんだ。でも母さんは私の武装を強化できたって満足げだった。そうやって私を見ることができていて、気にかけてくれてるから、母さんの言う通りにしたんだ。

ラットは本音を言うと、重い戦斧よりも使い慣れたいつものナイフの方が戦いやすいと思っている。でも、戦斧は母さんが貸してくれたものだし、戦斧を持った自分を見たときの母さんの喜びようを見てしまったら、身を案じてくれていることが痛切に理解できた。とても断ることなんてできやしない。

ラットは戦争終結まで母の戦斧で戦い続けている。

体長六フィートの乗騎

But Oketra’s arrow didn’t quite find a target in Mister Jura. Instead its six-foot length impaled his mount.
けどオケチラの弓はジュラ氏に正確に当てることはできなかった。代わりに、体長六フィートの乗騎を貫いた。
一部抜粋:上が英語原文。下が公式和訳

ギデオンの乗るペガサスの体長は6フィート(約1.8m)である…わけではない。原文は「its six-foot length(その6フィートの長さ)」であり、じゃあ、何の長さかと言うとすぐ前に書いてある「Oketra’s arrow(オケチラの矢)」である。

代わりに、6フィート長の矢が乗騎を貫いた。

私達両方を落ち込ませてどうするの?

How does it help to make them both feel bad? Who does it help? Not me, that’s for sure. I’d rather my friends be happy, you know?
私達両方を落ち込ませてどうするの? 誰が助けてくれるの? 私じゃない、それは確かだった。友達を元気づけてあげるべきだったのに。
一部抜粋:上が英語原文。下が公式和訳

「How does it help to make them both feel bad?」の文から始める。「私達両方を」と訳されているが、原文は「them both」なので当然、そこに私(ラット)は含まれない。誰かと言うとテヨとケイヤだ。話し相手になっていたテヨと、少し前にやってきたケイヤの2人。「彼らの両方を嫌な気持ちにさせるようとするのはどうしてか?」とかそんな感じ。公式和訳はラットとテヨの仲が何か気まずくなってそこが焦点になってる風だけど、そうじゃなくて、ラットは自分自身の落ち込みをここでは問題にしていないのだ。

「Who does it help?」の部分は、「Who」は「Whom」の代用として使う用法だろう。話し言葉で出てくる表現だ。「それが誰を助けることになるのか?」となるので、次の「Not me, that’s for sure.」は「私を、違う、それは確かなことだ」と「誰を?」という問いを受けている。

そして最後の「I’d rather my friends be happy, you know?」は、ここでも出てきたラットの決まり文句「you know?」だ。「知ってるよね?」「でしょ?」「だよね?」みたいな感じで普通に使われる表現。だから、小説本編やこの外伝シリーズでも別にラットじゃなくても口にしているフレーズ……なのだけれど、ラットは使用回数が半端じゃなく多い。ラットが話し相手もなく顔見知りすらいない特殊な事情だともう読者は理解しているし、最終回なのでもう慣れてしまっているはずだけれど、正直ちょっと普通じゃない多さ。嫌がる人がいてもおかしくないと思う、普通なら。でもこれがラットらしさなので省くのは適切ではないだろう。

どうして2人を嫌な気持ちにさせてるの?誰のためなの?自分のため、絶対違う。私は友達を喜ばせたい、だよね?

ラットに対して好意的にくだけた感じで訳してみた。



「あんたに裁かれるつもりはないよ」

Queen Vraska bristled, her eyes brightening with magic: “I won’t be judged by the likes of you.”
ヴラスカ女王が苛立って、両目が魔力で輝いた。「あんたに裁かれるつもりはないよ」
一部抜粋:上が英語原文。下が公式和訳

「あんたに」と、二ヴ=ミゼット1人に逆らってるみたいに訳されている。これでは新しいギルドパクト体現者への反抗とか、ニヴ個人への反感とか、そういう含みを読み取らされてしまう。

原文は「you」でなく「the likes of you(あなたと同類)」である。わざわざ言ってるのは旧来支配層への不信感が裏にあるからだ。

「あんた達みたいなのに裁かれてたまるか」

ヴラスカはいわばラヴニカの被差別層の生まれで、彼女を支持する層もそこである。ニコル・ボーラスに反抗する決意を固めていた彼女であったにもかかわらず、イスペリアを殺害してギルドの結束を乱して、自らボーラスにとって好都合な状態を作り出してしまった。それも、そもそもこの虐げられてきた生まれのせいである。

二ヴ=ミゼットもお前らもイスペリアと同類だろ、私たちのような虐げられてきた者のことなんか分かっていないくせに裁けるというのか!?ヴラスカの根底には傲慢で独善的なラヴニカの支配者層への反抗があるのだ。

でも、このときヴラスカの隣にはラルとケイヤがいて、自分たちも同罪だ、とヴラスカのささくれ立った感情を受け止め包み込んだ。支えとなる恋人ジェイスと友人たちを得たことでヴラスカは以前とは変わってきているように思える。

殺戮のほとんどが直接もたらされた後だった

Mister Vorel interrupted him: “Vess changed sides too late. Only after being the direct cause of most of the carnage.
ヴォレル氏がそれを遮った。「ヴェスはボーラスを裏切ったが遅すぎた。殺戮のほとんどが直接もたらされた後だった
一部抜粋:上が英語原文。下が公式和訳

殺戮が「直接もたらされた」とはどういう状況なのか分からない。

原文を区切って読んでみる。リリアナは「most of the carnage(今回の大虐殺のほとんどにおいて)」、「being the direct cause of (直接的な原因であった)」、「Only after(そこまでなって初めて)」、ボーラスを裏切ってももはや手遅れだ。

となると、和訳版の「直接もたらされた」はおそらく「the direct cause(直接の原因)」をうまく日本語化できなかった結果なのだろう。

原文を確認したことで、ヴォレルはリリアナが大虐殺のまさに原因だったとまで糾弾していることが分かった。となるとこれくらいに訳してもいいのでは?

ヴェスはボーラスを裏切ったが遅すぎた。虐殺のほぼ全てで主動的役目を果たし終えた後でやっとだぞ。

リリアナが大虐殺を直接的に手引きしてきたのは事実である。悪魔との契約がボーラスに受け継がれていて、背けば死が待っているとしても、その事情を知る者がいない。戦争終結後、リリアナは申し開きを誰にするともなく逃走してしまった。辛いことだが、大罪人として暗殺指令が出されても文句は言えまい。

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