本記事ではカードセット「アポカリプス」で登場した5つの魔術師ギルドと人造生物ボルバーを解説する。
「アポカリプス」のカードには、「デイガ・シータ・ネクラ・ラッカ・アナ」という5つの謎の単語と、「ボルバー」という謎のクリーチャーが収録されていた。
本記事は、それらの正体を公式資料をもとに解き明かすものだ。
再編集(2023年6月24日):カードセット「アポカリプス」当時の、2種類目の公式資料を発掘したため、その内容を考慮して記事の構成に手を入れ全体を再編集した。
追記(2023年11月30日):「デイガ・シータ・ネクラ・ラッカ・アナ」は神の名前だ、という怪情報を新たな節を設けて検証した(→こちら)。また、リンク切れしていた公式サイト記事と画像を修正した。ただし、公式記事Ask Wizardsは記事のアーカイヴが見つからなかったためリンクは切れたままにしてある。
はじめに:この記事の経緯について
この記事は一回大きな再編集をして部分部分の内容を変更している。まずはそうせざるを得なかった経緯説明を最初にしておきたい。
2021年の記事作成
最初に投稿した際には、本記事は次のような書き出しであった。
アポカリプスは2001年6月発売なので、もう20年も昔のカードセットだ。このセットのカードには「デイガ・シータ・ネクラ・ラッカ・アナ」という5つの謎の単語と、「ボルバー」という正体不明のクリーチャーが収録されていた。当時からずっと意味不明な存在だったのだが、つい先日、別件で過去記事を調査していたところ解説記事を発見した。
公式記事Ask Wizards(2002年8月20日付)に答えがある。なんと、19年も前にウィザーズ社は公式解説をしてくれていたのだ。私は一通り目を通していたはずなのに、今の今までうっかり見逃してしまっていた。
古いソースを調査していると、ふとした拍子に、今まで見落としていた情報を発見することがある。今回はそんなきっかけで掘り出した昔の設定情報を取り上げることにした。
つまり、この時点では公式記事Ask Wizards(2002年8月20日付)の記述を参照して本記事を作成していた。ウィザーズ公式資料はこれ1種類しか私には見つけ出せなかった。
ところが2年後……。
2023年の資料発掘
記事を投稿してから2年が経過。2023年になって、私は別内容の5つのギルドとボルバーに関する設定資料を発見した。
カードセット「アポカリプス」当時(2001年)のウィザーズ公式の発行物、Apocalypse: Player’s Guideという24ページの薄っぺらい小冊子だ。ファットパックという製品の付属物で、ページのほとんどは「アポカリプス」のカードリストで埋まっている。だが中には、ブレイディ・ドマーマス(Brady Dommermuth)による設定解説「含み」の解説文も2ページだけ収録されており、カードセットの売りやメカニズムの解説が多めだが、ストーリーや設定に絡めた説明がそこそこの分量含まれていた。そこに「5つのギルドとボルバー」の説明が記されていたのである。
私は新たな公式資料の発見に歓喜した……ものの、それも束の間、その内容には当惑せざるを得なかった。このApocalypse: Player’s Guideと、公式記事Ask Wizards(2002年8月20日付)とで、書いてある解説が違うのだ。
食い違う2つの公式資料
このようにしてカードセット「アポカリプス」当時の公式資料が2種類確認できた。5つのギルドとボルバーの設定が説明されていたが、なんと両者は内容が異なり、食い違い矛盾する部分があったのである。
本記事は公式資料の片方だけをもとにして作成したものであった。このままではまずい。両方の内容を取り込んだ上に、両者間の矛盾を解消するかどうにかしてうまく吸収しなければならなくなった。
以上の経緯で再構成したのが現在の本記事となっている。食い違いが認められる部分は、まずその都度両方を併記することにした。それを踏まえ、互いを両立させる本サイト独自の解釈を書き記した。
読者諸氏には、公式ソースの2種類の内容、そして本サイトの解釈、それらを比較して自分に合った設定・解釈を選ぶか新たな解釈を構築してほしい。
次の節からいよいよ「5つのギルドとボルバー」の本文となる。
5つのギルドとボルバーの解説
カードセット「アポカリプス」では、デイガ・シータ・ネクラ・ラッカ・アナという5つの魔術師ギルド(あるいは魔法学派)が登場している。それぞれが順番に白・青・黒・赤・緑の魔法を扱う組織だが、古の敵対魔法を探求するという独特な特徴があった。
ギルド名 | ギルドの色 | 探求する敵対色 | 聖域 | 信奉者 | ボルバー |
---|---|---|---|---|---|
デイガ(Dega) | 白 | 黒と赤 | リンク | リンク | リンク |
シータ(Ceta) | 青 | 赤と緑 | リンク | リンク | リンク |
ネクラ(Necra) | 黒 | 緑と白 | リンク | リンク | リンク |
ラッカ(Raka) | 赤 | 白と青 | リンク | リンク | リンク |
アナ(Ana) | 緑 | 青と黒 | リンク | リンク | リンク |
カードセット「アポカリプス」ではコモンの信奉者クリーチャー、アンコモンの聖域エンチャント、レアのボルバー・クリーチャーで各ギルドで1種類ずつ、合計で15種類のカードが収録されている。
AR4205年に勃発したファイレクシア侵略戦争では、ドミナリア連合はこれらの魔術師たちを戦力としたのだった。
ストーリー作品とファイレクシア侵略戦争後
インベイジョン・ブロック小説三部作(小説Invasion、小説Planeshift、小説Apocalypse)やその他のストーリー作品を調べてみたが、5つのギルドとボルバーは登場も言及もされていない。
5ギルドとボルバーは「アポカリプス」のカードとして収録されたものの、それっきりで2023年現時点までストーリーの表舞台に再登場することはなかった。1
ファイレクシア侵略戦争から3世紀半が過ぎ去り、新ファイレクシアによる第二次ファイレクシア侵略戦争が起こった現在はAR4562年である。デイガ・シータ・ネクラ・ラッカ・アナは秘密組織としてドミナリアの影に潜んでいるのか、あるいは、最初の侵略戦争で滅亡したり解体してしまったのか、あるいは?……その消息は杳として知れない。
(……まあ実際は、アポカリプスで実装された各種カードやデザインがユーザーの高い評価を得られず、ただ忘却されているだけかもしれないけれどね。)
5つのギルドの起源
5つのギルドの起源に関して、2つの異なる解説がされている。
簡単に言えば、ファイレクシア侵略戦争の最中にギルドが誕生したのか、侵略戦争の戦前から既に存在していたか、の違いである。詳しくは以下の通りだ。
ギルドの起源の設定:その1
まずApocalypse: Player’s Guideをまとめると次のようになる。
ファイレクシア侵略戦争ではファイレクシアンがドミナリアの隅々まで毒を撒き散らし、壊滅させていった。生存を賭けた戦いの中で、ドミナリア住民は団結を余儀なくされた。
古くからの敵同士が戦いの中で味方となり、互いに異質な存在であった魔法が組み合わされて融合したことで、前代未聞の呪文を生み出し、忌まわしきものと思わせるような姿のクリーチャーを召喚できるようになった。
こうして5つの寄せ集めの魔法学派が結成され、新たな同盟関係を強化した。ドミナリア連合の緩やかな指導下で、魔術師はかつての敵対魔法を習得していった。
魔法鍛錬の混合を異端視する者もいたが、ファイレクシアの攻撃から生き残るためには対立を捨て去るしかないと理解している者もいた。
以上である。
こちらの設定では、AR4205年勃発のファイレクシア侵略戦争を契機として、5つの魔法学派が戦争中に発祥した、ということになる。
ギルドの起源の設定:その2
次に公式記事Ask Wizards(2002年8月20日付)の方は、以下の通りだ。
5つの魔術師ギルドは、ファイレクシア侵略戦争よりも昔から存在していた。
魔術師たちは戦前のもっと平和な時代には、ドミナリアの影に隠れ、ときに各々の聖域に集まって敵対魔法の探求を行っていたようだ。しかし、ファイレクシア侵略戦争が発端となって、ドミナリア連合はこれらの異端派ギルドを必死になって表舞台に引き摺り出して、戦力としたのである。
以上。戦前からの歴史があるドミナリアの秘密ギルドで、戦争が原因で存在が公のものとなった、とのことになる。
ギルドの起源:解釈
戦中の誕生か、戦前から活動していたか。このように真っ向から対立する解説がされている。私の解釈としては、秘密ギルドとして戦前から存在していたと考えたい。
デイガ・シータ・ネクラ・ラッカ・アナは、敵対魔法を探究する魔術師の秘密ギルドとして、ファイレクシア侵略戦争よりも昔から影に隠れて活動をしていた。
だが、その存在を知る者がほぼ皆無であったため、一般的には侵略戦争中のドミナリア連合下で誕生した新しい魔法学派だ、と認識されて定着してしまった。侵略戦争時に公に活動できるようになったことで、おそらく各組織は新たな構成員を獲得し、敵対魔法の研究も躍進させることができたであろう。
世界的な大戦争の混乱と破壊を経て、歴史の真相は曖昧になり、記録が失われ、人々の記憶からも忘れ去られてしまった。
個人的に、そんなところに落着しておく。
信奉者
各ギルドの信奉者(Disciple)は所属する魔術師を示している。
カードセット「アポカリプス」のコモンのクリーチャーで各色1種類ずつ収録されている。マナコストは1マナでパワー/タフネスが1/1であり、ギルドが探求する敵対色に対応した起動型能力を2つ持たされている。
ヴォーソスにとって重要なポイントが1つある。信奉者カードにはフレイバー・テキストが付いていることだ。他のギルドのカードには、(十中八九テキスト量が多いせいだろうが)フレイバー・テキストがないのだ。大した内容が書かれているわけではないけれど、あるのとないのとでは大違いだ。
最後にカード名。MTGではカード名の「Disciple」は「信奉者」が決まり訳になっている。辞書的には「門弟・弟子・門人」などと訳されるもので「信奉者」も意味的に含まれなくはない。だが、アポカリプスの場合、秘密ギルドに属する魔術師たちという背景を考慮すれば、普通に「門弟」と解釈するのが無理がなさそうだ。
聖域
各ギルドには聖域(Sanctuary)が存在する。
聖域カードは、カードセット「アポカリプス」のアンコモンのエンチャントとして各色1種類ずつ収録されている。ギルドが探求する敵対色のパーマネントをコントロールしているなら、毎ターンのアップキープに何らかの恩恵が受けられる。敵対色のどちらか片方でも恩恵はあるが、両方ともあるなら恩恵は大きくなる。ただ、これらのカードは単体では何もしないという残念な欠点があった。
聖域の設定解説に関して、2つの内容が発表されている。
聖域の設定:その1
Apocalypse: Player’s Guideの解説を整理するとこうなる。
新しい魔法学派の支持者たちは、ある種の魔法の効果が、その敵対色のマナによって作られたクリーチャーやオーラの存在によって強化されることを学んだ。戦場から遠く離れた場所に隠された「聖域」は、旧敵同士が協力することで、ファイレクシアの侵略の流れを変える助けになると証明したのである。
以上。カードのメカニズム的な側面を設定に紐づけする内容だ。
聖域の設定:その2
公式記事Ask Wizards(2002年8月20日付)によると、ファイレクシア侵略戦争以前は、聖域は各ギルドに所属する魔術師が密かに集って、古の敵対魔法を探求する場であったようだ。
聖域の設定:解釈
ギルドの起源の設定に比べれば、両立させやすい内容だ。
各聖域はファイレクシア侵略戦争の戦場からは遠く、隠された場所に位置していた。戦前のもっと平和な時代には、魔術師たちの秘密の会合場かつ研究所であった。
ギルドの研究によって、ある種の魔法効果は、敵対色のマナの産物であるクリーチャーやオーラの存在下では強化されると判明した。聖域は(カードの効果から考えて)そうした強化理論の証でもあった。
こんな感じの解釈だ。
ボルバー
ボルバー(Volver)はカードセット「アポカリプス」のレアのクリーチャーとして各色に1種類ずつ収録されている。単色のカードだが、敵対色に対応したキッカー能力を2つ持っている。ボルバーは2023年現時点でこの5種類しか存在していないマイナーなクリーチャー・タイプだ。
ボルバーのイラストを観察すると、3色に対応するクリーチャーの特徴を継ぎ接ぎしたような、これ以前には他に例を見ない独特の形態をしている。そして、イラスト内には敵対色2色を示すドミナリア連合のマークが描き込まれている。
さて、ボルバーについても公式ソースで2つの異なる設定解説がされている。以下参照。
ボルバーの設定:その1
Apocalypse: Player’s Guideの解説をまとめるとこうだ。
ボルバーは、ラースの次元被覆によって生み出されたかつて見たことのない忌まわしきものの1種である。
自然にあらざる進化の産物2であり、3つの異なる色の魔法の側面が繋ぎ合わさった結果、ファイレクシアの怪物にも劣らない恐ろしさと有用性を発揮する。
新しい敵対色の魔法学派の信奉者(門弟)たちは、ボルバーを自分の研究を肯定する証拠と見做していた。
以上である。驚いたことに、次元被覆現象の副産物に過ぎないのに、ギルドの名前を冠させて研究の正統性の証としているだけのような解説だった。
ボルバーの設定:その2
公式記事Ask Wizards(2002年8月20日付)の方では、ボルバーは各ギルドの奇妙なマナの組み合わせを使って創り出されたクリーチャーである。
こちらの設定では、ちゃんとギルド自身が創り出した魔法生物である。
ボルバーの設定:解釈
ボルバーの設定も食い違いが大きい。ただ、最初のボルバーは次元被覆で誕生した偶然の産物で、それをギルドが研究して魔法生物として再現可能としたとすると、お互いを補って両立できそうだ。
ファイレクシア侵略戦争の第二段階は、人工次元ラースをドミナリアに重なり合わさるように転移させる「ラースの次元被覆」であった。2つの次元が混じり合い、異なる複数の生物が融合したような副産物も出現した。そうして、異なる楔3色のマナが繋がり合った異形の魔法生物、最初のボルバーが誕生した。
5つのギルドの魔術師は、ボルバーを研究を肯定する証と捉えて、自分たちでボルバーを再現し利用することを可能にしたのだった。ドミナリア連合において、ボルバーはファイレクシアの怪物に匹敵する戦力となった。
本サイトでは、このような解釈をしておく。
白のギルド:デイガ
白のギルド「デイガ(Dega)」は敵対色の黒と赤を探求している。
デイガの聖域(Dega Sanctuary)は白い石造建物内にある白い石の祭壇だ。大小長短様々な蝋燭が置かれているが、その色は黒と赤である。建物と祭壇が白マナを、蝋燭が黒と赤を象徴しているのだろう。
「デイガ」は完全な造語なので、秘められた意味合いもない。ある会議中にホワイトボードに書かれた言葉がそのまま定着したのだという。
デイガの信奉者
“There is no true equity of power. There is only more and less.”
力とは公平なものじゃない。強いか弱いかのどちらかだ。
引用:デイガの信奉者(Dega Disciple)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
デイガの信奉者(Dega Disciple)は人間の魔術師だ。白塗りの顔に黒のラインを引き、白髪で、首筋に赤の2本のペイントがある。左手に赤熱しているような鞭を持ち、左手には細長い棒(槍?杖?旗?)を握っている。
戦っている相手はファイレクシアンだ。首が無く頭部が丸い胴体に埋没したような形状はファイレクシア侵略戦争期当時の標準型といえよう。手足の形状や本数が異なったり、オプション装備が変化してもこの胴体部の造りは同じものが多い。
デイガボルバー
デイガボルバー(Degavolver)は白い肌の人間型で、幅広の剣を振るっている。戦っているファイレクシアンは、鎌型の腕部を持ち、棘のびっしり生えた体を持つ異形の怪物タイプだ。
青のギルド:シータ
青のギルド「シータ(Ceta)」は敵対色の赤と緑を探求している。
シータの聖域(Ceta Sanctuary)は水の豊かな滝壺だ。水はもちろん青マナの源だが、イラストにはごつごつした岩肌と周りの植物も描かれており、それぞれ赤と緑のマナを示唆しているように思える。また、岩肌の2つの穴がこちらを正面から見据える眼窩にも思える。
「シータ」はクジラ目を意味する「cetacean」を短縮させたものである。
シータの信奉者
“The sea holds all that you need. You simply must know how to ask for it.”
海には君が必要としているものがすべてある。問題はどうやってそれを求めるかだよ。
引用:シータの信奉者(Ceta Disciple)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
シータの信奉者(Ceta Disciple)はマーフォークの魔術師である。青のギルド「シータ」は、やはり青に属する種族のマーフォークが主要構成員なのであろう。
波打ち際の砂浜に寝そべっている手元には、芽吹いた植物の種がある。全体の青要素が支配的なところに、ワンポイントで緑の要素を取り入れた描写だろう。
余談だが、イラスト担当のクレジットが「Greg and Tim Hildebrandt」と共作なっているが正しくは「Greg Hildebrandt」1人の手による作品であり、さらにイラストは原画の左右を反転したものだという。
シータボルバー
シータボルバー(Cetavolver)は羊のような角の生えたマーフォーク・タイプのボルバーだ。燃え上がる三叉矛を武器としている。
イラストは盾持ちタイプのファイレクシアンと対峙した場面である。この片腕に細長い大型盾を装備した兵士は、ファイレクシア侵略戦争中にはよく目にした典型的なファイレクシアンだ。インベイジョン・ブロック小説三部作でも盾持ちは飛翔艇から続々と送り込まれ、隊伍を組んで進軍していた。
黒のギルド:ネクラ
黒のギルド「ネクラ(Necra)」は敵対色の緑と白を探求している。
ネクラの聖域(Necra Sanctuary)は整備された共同墓地のようだ。墓地が黒マナ豊かなのは当然だが、他の2色(緑と白)の要素が薄いと感じる。墓所内の木や壁を這う植物が緑マナ、墓石と壁が白マナの象徴であろうか。
「ネクラ」はギリシア語の「死体」を意味する「neckros」を由来としている。
ネクラの信奉者
“The darkness merely hides the light.”
闇は光を隠すだけ。
引用:ネクラの信奉者(Necra Disciple)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
ネクラの信奉者(Necra Disciple)は人間の魔術師だ。フードとローブに隠れて全く容貌が分からないが…。アポカリプスが発売されて何年も経って後付けてクリーチャー・タイプの種族を設定したために、一番無難な「人間」を選んだのではないかと勘繰ってしまう。
ネクラボルバー
ネクラボルバー(Necravolver)は羊のような角を持ち、目がなく、牙を持つ悪魔風の人型タイプだ。剣と盾を装備している。
赤のギルド:ラッカ
赤のギルド「ラッカ(Raka)」は敵対色の白と青を探求している。
ラッカの聖域(Raka Sanctuary)は大きな篝火と、それを丸く取り囲む5本の燃える柱だ。炎が赤マナの源であり、周囲の開けた平原が白を表しているのだろう。残りの青マナ要素はどこだ?空か?
「ラッカ」は響きが「岩(rock)」に似ているが無関係な造語だ。制作中に「Gnor」や「Gnar」を赤のギルド用に検討した時もあったが、それは最終的に緑のクリーチャーに割り当てられて「ナール(Gnarr)」になった。
ナールという生き物の解説はこちらの記事を参照のこと
ラッカの信奉者
“The strong can also be subtle.”
強者は往々にして陰険でもある。
引用:ラッカの信奉者(Raka Disciple)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
ラッカの信奉者(Raka Disciple)はミノタウルスの魔術師だ。イラストでは仲間のミノタウルスを飛行させている。ミノタウルスはドミナリアでは赤に属する知的種族の代表と言えるので、赤の魔術ギルドにピッタリである(ドミナリアというか初期のMTGでは本当にミノタウルスの露出が多いのだ)。
フレイバー・テキストで「陰険」と訳されているのは「subtle」だがどうにも腑に落ちない。「繊細な・捉えがたい・名状しがたい・巧妙な」と意味合いが色々あるとはいえ「陰険」という解釈は違うのではないか?それに「往々にして」つまり「よくある・頻繁に」という含みも原文にはなさそうだ。
「強者が繊細なこともある。」
試しに訳してみたが、これくらいなんじゃないだろうか?赤いクリーチャーでマッチョなイメージのミノタウルスなれど、その能力はダメージ軽減と飛行付与だ。そのギャップを示すフレイバー・テキストではなかったか。
ラッカボルバー
ラッカボルバー(Rakavolver)はコウモリの翼を持つミノタウルス・タイプだ。鎧兜に丸盾、鞭、鉾(?)と重武装である。
緑のギルド:アナ
緑のギルド「アナ(Ana)」は敵対色の青と黒を探求している。
アナの聖域(Ana Sanctuary)は森林の中の水場である。緑マナに加えて青と黒も備わった場所と考えると、森に囲まれた小川と湿地なのかもしれない。
「アナ」はラテン語の「魂」を意味する「animus」が由来だ。制作中は「マロー(Maro)」や「Terra」も候補になっていた。
アナの信奉者
“The blessings of Gaea alone are no longer enough.”
もうガイアの祝福だけじゃダメなんだ。
引用:アナの信奉者(Ana Disciple)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
アナの信奉者(Ana Disciple)は人間の魔術師である。人間は特に緑マナと親和性がある種族というわけでもないので、エルフなど他の定番種族もアナの構成員に含まれていたのではないだろうか?(イラストをよく見るといくぶん耳の先が尖っても見えるので、この人物は元々はエルフ想定なのかもしれないが…)
ちなみにイラストに描かれたアナの信奉者は、ヘイデン・クリステンセンが映画スター・ウォーズで演じたアナキン・スカイウォーカーとそっくりである。全体的な風貌もそうだが、特に髪を細いひと房に編んで垂らした髪型がそのままだ。おそらく「アナキン(Anakin)」と「アナ(Ana)」を引っ掻けた冗談なのだろう。
アナの信奉者が翼を生やせて飛行させている生き物は菌獣(Saploring)である。菌獣はゲーム的には「苗木クリーチャー・トークン」と呼ばれるものだ。
アナボルバー
アナボルバー(Anavolver)はコウモリ風の翼を持つ異形の人型だ。手足や肩など体表の質感は樹皮に似ており、腰回りには葉っぱが生えている。両手に持つ刃物には植物の葉脈のような凹凸が見える。全体的に植物的な雰囲気が窺えるのだが、普通のツリーフォークとも違う、一体何なのだろう?
アナの戦闘魔導士
アナの戦闘魔道士(Ana Battlemage)は人間の魔術師だ。アナボルバーに似た樹皮のような質感の鎧をまとっている。
このカードだけはアポカリプスではなく、数年後のカードセット「次元の混乱」に収録されたものだ。「次元の混乱」は異なる歴史を辿った別世界から出現した者たちが登場してくるカードセットであった。このアナの戦闘魔導士もその類だ。色の役割が違う別のドミナリアから時の裂け目を抜けて出現した、アナ所属の魔術師だったのだろう。
往時を偲ばせる設定と表現
この節では、「アポカリプス」当時の初期MTGにおける敵対色やそれらの組み合わせ、それがどのように認識され取り扱われていたかについて語りたい。
カードセット「アポカリプス」は2001年のセットである。20年以上も昔のため、マナの色の認識や組織の在り方の設定は、現在の目で見るといささか奇妙に映ってしまう。
MTGの魔法は白・青・黒・赤・緑の5色に結び付けられており、各色は隣り合う2色と友好関係にあり、そうでない他の2色と敵対している基本設定だ(例:白なら青と緑が友好で、黒と赤とは敵対)。これを「友好色」と「敵対色」3と呼ぶ。
初期のMTGではこの色の敵対関係が他の要素よりも強く前に出ていて、敵対色同士を一緒にした多色要素は非常に少なく、異例の存在として扱われていた。アポカリプスはこの敵対色同士の組み合わせを主題に据えた初めてのセットであったものの、友好色同士に比べれば、敵対色同士のコンビはまだまだ例外扱いにあった。4
こういった当時の状況が、アポカリプスのギルドの設定解説にも反映されている。
Apocalypse Player’s Guideの解説では、「古くからの敵同士(Old enemies)」が戦時下で共同せざるを得ない状況になったとしており、5つのギルドは「新しい魔法学派(new schools of magic)」だとか「寄せ集め(Ragtag schools of magic)」であるとされ、その在り方を「異端視(heretical)」する者もいた、と書かれていた。
一方、公式記事Ask Wizards(2002年8月20日付)では、ギルドは「古の敵対魔法を探求する(to explore the magic of their ancient enemies)」と書かれ、その在り方は「異端のギルド(heretical guilds)」とされている。
その上、「ある1色とその敵対色2色をまとめた組み合わせ」は、現在のMTG用語で「楔3色」と呼称される普通の存在になっている。だが、これも当時の設定解説では「奇妙なマナの組み合わせ(strange combinations of mana)」と表現されていた。
以上のように、当時の常識では敵対色は古からの仇敵扱いで、それを研究し自らの力として取り入れるのは異端であり、楔3色は奇妙な発想であった。ゆえに、各ギルドはドミナリアの影に隠れ潜み、密かに聖域に集まるしかなかったのだ。
20年以上昔のMTG世界は今とは全く違っていた。ゲームそのものの在り方が往時の世界観と直にリンクしている様はとても興味深く、また、非常にMTGらしいなと感嘆せざるを得ない。
検証:「神の名」ではない
「デイガ・シータ・ネクラ・ラッカ・アナ」は神の名だという怪情報が入ってきた。当時の雑誌の記述だとのことで検証する。
件の記述の出典は「デュエリスト・ジャパン vol.15」の記事アポカリプス・ルールガイド(文:朱鷺田祐介)である(p.34-35に掲載)。
アポカリプスには敵対色を生かした特徴あるカード群が、各色ごとに3つのシリーズで登場している。(中略)
これらのカードは、デイガ、ラッカなど、いずれも敵対色と結びついた神の名前で表される。
引用:記事アポカリプス・ルールガイドより抜粋
以上のように、神の名前と断定的に記述されている。ただし、この記事はウィザーズ社公式ではなく、当時雑誌でドミニア年代記などの記事を連載していた日本のライターによって書かれたものだ。
ドミニア年代記および関連シリーズは出典元にするには諸々の問題がある。なぜなら、ライター(あるいは当時の販売代理店)がウィザーズ公式とは異なる非公式の見解を断定口調で書いていたり、単純に事実誤認や誤記がかなりの頻度で確認できるためだ。本サイトでも何度か取り上げてきた(→参考:グリールに関する日本の誤情報)。
「神の名前」の真偽
本記事で指摘済みだが、公式のファットパック付属冊子「Apocalypse: Player’s Guide」において、ウィザーズ制作陣のブレイディ・ドマーマスが魔術師の学派との旨で解説を残している。そこには、神の名前とは一切書いていない。この時点で公式とは内容が違ってるのが明らかだ。
ちなみに、海外の有力ファンサイトwikiやヴォーソスの界隈を再確認してみて、「デイガ・シータ・ネクラ・ラッカ・アナ」が神の名だと断定した記述は見つからないし、これまでの諸界隈を振り返ってみてもそういった話題がされていた覚えは私には無い。この日本の雑誌記事のみだ。
推測するに、ライター(あるいは販売代理店)は「信奉者」5と「聖域」というサイクルがあったことから神を崇めているに違いない、と発想してそれを推測でなく断定的に書いたのだろう。こうした断定的記述は、読み手にウィザーズ公式設定のように誤認させてしまう。配慮に欠けたものだ。しかもそれが20年以上経過した2023年現在までにも、度々引用されて神の名だという怪情報が出回ることになってしまった。これが現状である。
結論:「デイガ・シータ・ネクラ・ラッカ・アナ」は神の名ではない。
さいごに
カードセット「アポカリプス」に登場した5つのギルドとボルバーに関するまとめと、記事の再編集を完了した。2年前に作成した記事を根本的に見直すことになり、正直かなり疲弊してしまった。
本記事は本来はもう少しすっきりした流れに書けていたと思う。それが相互に矛盾する公式ソース2つが確認できてしまったことで、両者併記せざるを得なくなり、重たい感じになってしまった。だから最後くらいは短く切り上げたい。
では、今回はここまで。
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- カードセット「次元の混乱」でアナの戦闘魔道士(Ana Battlemage)が1つだけあったが、正規のドミナリア史上の存在ではないので除外
- 原文「Products of an unnatural evolution」
- MTG商品では「敵対色」表記だが、日本のユーザー間では「対抗色」と呼称する方が馴染みがあるかもしれない。いつもなら私も「対抗色」を好んで用いる
- 友好色と敵対色の組み合わせが平等になるのはその4年後のラヴニカ・ブロックからだ。
- 上述の通り、「信奉者」と和訳されているが、「Disciple」は辞書的には「門弟・弟子・門人」を意味する。「信奉者」という神の信徒ととも取れるようにバイアスをかけているのは和訳なのだ。