サーシ(Sursi)はMTG史上最古の地名の1つである。
サーシはドミナリア次元南エローナ大陸にあり、メサ・ペガサス(Mesa Pegasus)とセラの大聖堂(Cathedral of Serra)で知られている。また、サーシの地はベナリアの植民地となって久しい。
セラの大聖堂はこの前解説したので、今回はサーシとメサ・ペガサスについて解説と考察を行うことにした。
サーシの解説
サーシ(Sursi)はドミナリア次元南エローナ大陸中央部から東岸の一帯である。メサやプラトーといった台地や高原を特徴とした平原で、草原や森も確認できる。名高いメサ・ペガサス(Mesa Pegasus)で知られており、ペガサスの繁殖地近くには、同名のサーシ村(the village of Sursi)がある。
サーシの北西の砂漠地帯はミラブ砂丘(Erg Mirab)だ。そして、北には鉄爪山脈(Ironclaw Mountains)、西にはトンガ山脈(Tonga Mountains)、南はランドヴェルト山地帯(Rundvelt Range)と三方に山々が連なる。東には名称不明の湾を挟んでヴェナーリア(Venaria)の半島が南に突き出る。また、ランドヴェルトの先の南の平原地帯は現在無名であるが、将来的にオレシア(Olesia)と命名される可能性がある土地である。
サーシには、サーシ村の他にも小さな町や村が点在している。ベナリア(Benalia)の植民地であると共に、セラの大聖堂(Cathedral of Serra)があり、ドミナリア次元のセラ信仰の中心地の1つでもある。プレインズウォーカーのセラはサーシで亡くなっており、彼女の力はこの地に広がって聖地へと変えた。驚くことに、セラの死後でもサーシでは信者の祈りに応えてセラの天使が新たに誕生する、というのだ。
※ セラの大聖堂は別の記事で解説しているのでこちらを参照のこと。
サーシに特徴的なメサやプラトーは高原や台地のことで、標高の高い平坦地ともいえる地形だ。メサはテーブル型台地を示している。
MTG史上初の土地カードには、Plateauことプラトーがある。標高の高い平地ということで、基本土地の「山」と「平地」の両方の性質を持たされている。
サーシはもっぱら白の土地として描かれてきたが、地形的に白に次ぐ第2の色は赤なのだろう。
メサ・ペガサス
Before a woman marries in the village of Sursi, she must visit the land of the mesa pegasus. Legend has it that if the woman is pure of heart and her love is true, a mesa pegasus will appear, blessing her family with long life and good fortune.
サーシの村の娘は結婚の前に、メサ・ペガサスの地を訪れなくてはならない。伝説によれば、娘が純真な心を持ち、その愛が真実ならば、メサ・ペガサスが姿を現し、彼女の家族に長寿と幸運の祝福を与えるという。
引用:メサ・ペガサス(Mesa Pegasus)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
メサ・ペガサス(Mesa Pegasus)はカードセット「リミテッドエディション(基本セット第1版)」収録のMTG史上初のペガサスである。サーシはこの名高きペガサスの繁殖地なのだ。
このカードのフレイバー・テキストでサーシは初登場した。また、これがMTG世界のペガサスや白の生物がメサに関連付けられるようになった発端でもある。
メサ・ペガサスを騎馬としてまたがるのがサーシ騎士団(Knights of Sursi)だ。サーシのセラの大聖堂(Cathedral of Serra)はこの騎士団に守られている。
サーシ村
サーシ村(the village of Sursi)はメサ・ペガサスのフレイバー・テキストおよび公式記事Sursi Loreに情報がある。
サーシ村の近隣にはメサ・ペガサスの繁殖地や、水底にウルグローサ次元への次元門があった湖が存在している。
サーシ村の女性が結婚する際、ペガサスの土地を訪れるしきたりがある。女性の心が純真で愛が真実ならば、ペガサスが現れ、家族に長寿と幸運の祝福を授けると伝えられている。
ウルグローサへの次元門
公式記事Sursi Loreによると、伝説ではドミナリア次元とウルグローサ次元を繋ぐ唯一の次元門がサーシに存在した。サーシ村近くにある深い湖の冷たい水の中、3つの巨石1が積み重なり扉を形成している。霧月2が満月で雪が積もっているならば、門をくぐると程なくしてウルグローサのコスカン山脈に到着する。
AR3780年にセラがウルグローサからドミナリアのサーシに現れているが、この次元門を経由したと考えられる。
AR4500年の大修復で全ての次元門は消失しているので、サーシの門もすでに無くなっている(裂け目時代(AR4306-4500年)ですら、度々ドミナリアを襲った大異変ですでに失われていると推測されていた)。
聖なるメサ
聖なるメサ(Sacred Mesa)はメサとペガサスの結びつきを強く感じさせるカードだ。カードセット「ミラージュ」が初出で、MTG史上2番目のペガサスに関するカードであった。ミラージュはジャムーラ大陸北西地方が舞台となっており、サーシとは遠く離れていたが、ここでもペガサスはメサと結び付けられている。
その後、カードセット「統率者2014」で再録されている。こちらの再録バージョンは、特定の次元に限定されたカードではないものの、サーシのペガサスの繁殖地とはまさにこのような土地であろうという情景をまざまざと描出している。
メサ・ユニコーン
The unicorns of Sursi are a manifestation of Serra’s joy and compassion. They frolic and dance like children, offering blessings to anyone they encounter.
サーシのユニコーンはセラの喜びと慈悲を体現している。子供のように浮かれて踊り、出会う人々すべてに祝福を与える。
引用:メサ・ユニコーン(Mesa Unicorn)のフレイバー・テキスト
上が英語原文。下が和訳製品版
メサ・ユニコーン(Mesa Unicorn)はカードセット「ドミナリア」に収録されたクリーチャー・カードである。
修復時代(AR4500年以降)のサーシの地のユニコーンの姿を描いている。ペガサスの他にも白を象徴する馬系生物が生息している証である。
サーシという地域の経緯
この節ではサーシという地域がウィザーズ公式にどのように扱われてきたかについて時系列順に簡単に解説する。
1996年2月発行のコミック版ホームランドでは、終盤の舞台となり、セラの最期とセラの大聖堂(Cathedral of Serra)の興りが語られた。ただし、普通のMTGプレイヤーがコミックと接点を持つ機会はほぼなく、ウィザーズ公式はアルマダ・コミック情報を以来20年近くもほぼ取り上げなかったので、一般の認知度は低かった。
1997年ドメインズ地図付属カレンダーで、サーシは地図上に記載されたが、解説の方は「ペガサスのいるサーシ(Sursi, with its pegasi)」の一言のみだった。
同年1997年のカードセット「基本セット第5版」の再録を最後にメサ・ペガサス(Mesa Pegasus)はバンド能力と共にスタンダードから姿を消し、新規のMTGプレイヤーがサーシについて知るチャンスがほぼ失われた。
2007年5月、カードセット「未来予知」でサーシの騎士(Knight of Sursi)が収録された。その際に、公式記事Sursi Loreでサーシの基本情報と、ウルグローサ次元を繋ぐ次元門の存在が語られた。コミック版ホームランドを十分に意識した設定の公開であったが、コミックの内容への直接的な言及はされなかった。
以上のようにコミック版ホームランドからの20年以上、サーシに関する言及はほぼ行われなかったのが分かるだろう。プレインズウォーカーのセラとセラ信者は、1998年から1999年のウルザ・ブロック、および2000年から2001年のインベイジョン・ブロックにおいて取り上げられ、ドミナリアの何世紀にもわたるセラ教の歴史は深掘りされていた。サーシに触れないのはむしろ不自然なほどだ。にもかかわらず、先行して存在していたサーシのセラ教はまるでなかったかのように無視されていたのだ。
転機はドミナリア次元に大々的に再帰したカードセット「ドミナリア」で訪れた。
2018年、カードセット「ドミナリア」でサーシは「ただのペガサスの住むメサの土地」というだけでなく、コミック版ホームランドを下敷きにして、「セラ信仰と結び付いた聖地である」との設定が打ち出された。ベナリアの植民地という設定は、このドミナリアで加わったものだ。
ドミナリア期の連載ストーリー、ドミナリアへの帰還の第4話(原文、公式和訳版)ではサーシのセラ大聖堂が舞台になった。ただし、作中ではサーシの名称は言及されず、セラの亡くなった土地として間接的にベナリアと呼ばれている(サーシはベナリアの植民地なので間違いではない)。
サーシとセラにまつわる解説は、ドミナリア期の公式Podcast第4回The Church of Serra(リンク)と設定集The Art of Magic: The Gathering – Dominariaで総括的に詳細が語られた。
以上がウィザーズ公式によるサーシの扱いの変遷である。
ベナリアの植民地
さて本記事の最後になるが、ベナリアの植民地としてのサーシの設定を連続性や整合性の面でチェックする。
サーシがベナリアの植民地に設定されたのは、2018年発売のカードセット「ドミナリア」期のことで、それ以前にはベナリアとの関りは全く描かれていなかった。3
この後付けが既存の設定と食い違ったりしていないか、あるいは何か新たな発見があるのではないか、その辺りをチェックしていく。
その1:植民地化はいつから?
チェック項目その1はサーシが植民地化されたのはいつ頃からなのかだ。
設定集The Art of Magic: The Gathering – Dominariaによると、セラがドミナリアを再訪した解説文において、ベナリアの植民地サーシと書かれている。
したがって、少なくともAR3780年頃には植民地化されていたことが確定する。遡れる限りこれがもっとも古い記録だ。
ベナリアはAR3500年頃にシオールタン帝国(Sheoltun Empire)が凋落した後、トルステン・フォン・ウルサス(Torsten Von Ursus)が興した国だ。さらに小説Bloodlinesでは、AR3655年にはすでにトルステン没後の政治体制となっていた。したがって、ベナリアの建国はAR36世紀(かもしかするとAR37世紀)と推定されるので、AR3780年にサーシが植民地化されていても時系列上に破綻はない。
その2:ベナリアの領土
チェック項目その2は当時のベナリアの領土の範囲についてだ。
ベナリアはサーシと同じ南エローナ大陸の大国であるが、その位置は大陸北西に位置し、サーシとは山脈地帯と海を挟んで隔たっており、距離的にも離れている。
1996年頃の公式サイトの掌編The History of Benaliaによると、AR41-42世紀頃のベナリアの版図は南はクブブライアン高地(Kb’Briann Highlands)まで、東は赤鉄山脈(Red Iron Mountains)までとなっている。
サーシはクブブライアン高地と赤鉄山脈よりも明らかに南東にあり、サーシを領土に含んでいないのは奇妙である。
とはいえ、ベナリア本土から飛び地した植民地のサーシは別扱いだったと読めば、現在の設定との矛盾はしない。したがって、設定の上書きではない。
その3:近代ベナリアのセラ教
チェック項目その3は近代ベナリアのセラ教への忌避感についてだ。
1996年頃の公式サイト記事The Church of Angelfireでは、ドミナリア近代のベナリアでは天使の炎教会(Church of Angelfire)が最も人気があり、セラ信仰は忌避される傾向にあったという。
忌避感の原因は歴史にある。ベナリア以前に南エローナ北西を支配していたシオールタン帝国は、セラ教の反乱が原因となって衰退を始め、帝国ではセラ教は禁じられた。ベナリアの時代にはセラ信仰は禁教に指定されていないのだが、ベナリア国内にはかつてのシオールタンの末裔も含まれており、過去の経緯からセラ教に忌避感を抱く声は根強く残っていたのだ。
そんな当時のベナリアで、サーシの植民地には大聖堂があり、ドミナリアのセラ教の中心地の1つになっていた。ベナリア本土から離れた遠隔地ではあまり問題視されなかったのであろうか。想像するに、かつてのシオールタン領土であったベナリア本土に比べれば、セラ教に対する気風がより寛容であってもおかしくはなさそうに思えるが。
ちなみに修復時代現在(AR4500年以降)、ベナリアの主流宗教はセラ教会である。
その4:さすらうセラ信者
チェック項目その4はサーシの地でさすらっていたセラ信者についてだ。
セラがドミナリアを再訪した時、サーシは何らかの苦難を受けたセラ信者がさすらい人となっていた。狂気から逃れるようにさすらう、希望を失った人々の群れだ。4
さらに、この時点で「サーシはベナリアの植民地」であり、「セラ教はベナリア本土で忌避」されていた(チェック項目その1と3で確認済み)。
以上を踏まえての私個人の想像だが、ベナリアの主流派から迫害されたセラ信者たちが遠い僻地のサーシに流れて来た。それが苦難の正体であり、植民地の始まりである。…こんな可能性はないだろうか?
その5:ノリーンの謎
チェック項目その5は「ノリーンの謎」だ。
実はサーシの植民地設定によって、MTG初期のストーリーにあった「ある不可解な描写」に説明がつけられるようになったことに気付いた。5
「ある不可解な描写」とは、MTG史上初の長編小説アリーナ 魔法の闘技場のヒロイン、ベナリアの勇士ノリーン(Norreen)の過去に関するものだ。説明していこう。
小説アリーナ 魔法の闘技場によると、ノリーンはベナリアの高貴な人物に仕える盾持ちであった。その人物を守ることができず、本来は殉死すべき盾持ちの掟を破って、エスターク(Estark)に流れ着いたのだ。
その後、ノリーンは小説Shattered Chainsで再登場し、過去の経緯が詳しく語られることになった。ノリーンが仕えた人物はベナリアの猛将6アラクァ(Alaqua)で、存命なら赤鉄山脈(Red Iron Mountains)をベナリアの領土に出来ていたはずだった、と言われる女性だ。アラクァは戦死したが、その時のノリーンは殉死の掟に従える状況ではなかった。3本の矢を身体に受け、頭をドワーフの斧で強打されて意識不明の状態のまま、死体運搬の荷馬車で運ばれた。以来14か月間、エスタークの慈善施療院7で治療を受けていた、というのだ。(その後は小説アリーナ 魔法の闘技場に繋がる。)
地図を確認すると、南エローナ大陸の北西ベナリアからかなり南下した位置にエスタークがある。赤鉄山脈はベナリアの東に隣接した山地帯だ。
ノリーンと猛将アラクァはどこでドワーフと戦っていたのだろう?赤鉄山脈を攻めていたなら、なぜベナリアでなくはるばるエスタークの施療院に搬入されたのか説明がつかなかったのだ。これが「ある不可解な描写」である。
だが、この小説の時代(AR4070年頃)には、サーシがベナリアの植民地だと判明した。すると話が変わってくる。猛将アラクァの戦場はサーシの近隣であったと想定できるようになるのだ。サーシの西に目を向けると、トンガ山脈(Tonga Mountains)にはドワーフの居住が確認でき、その上、トンガの南端はサーシよりエスタークに近い。となると……。
猛将アラクァの盾持ちノリーンはサーシのベナリア植民地より出陣しトンガ山脈南方のドワーフと戦ったが、アラクァは戦死し、ノリーンも負傷してエスタークに搬送された。もしアラクァがトンガの併呑に成功していたならば、次には赤鉄山脈攻めに登用される予定であったと推測される。
これでつじつまが合った。地理的な不自然さは解消された。
さいごに
以上で、サーシにまつわる諸々は語り終えた。前々回のセラの大聖堂の解説と合わせればほぼ網羅できているはずだ。
今回も、元々はカードセット「モダンホライゾン2」の片目のガース(Garth One-Eye)のまとめ記事から派生したテキストだ。書いていく内に膨れ上がってこうなってしまった。
では、今回はここまで。
サーシのメサ・ペガサスの関連記事
カードセット「リミテッドエディション(基本セット第1版)」関連のリスト
- 原文「menhir stones」
- 「Mist Moon」ドミナリアの2つの月の1つ
- 内部設定として存在した可能性もなくはないが、少なくともそういった情報は公開はされていなかった。
- コミック版ホームランドではサーシをさすらう人々はセラの教徒ともベナリア人とも書かれておらず、セラの信者たちと明記されたのは設定集The Art of Magic: The Gathering – Dominariaにおいてだ。
- 私以外に気付いて話題にしているヴォーソスを見かけないが…。単に小説Shattered Chainsと、再登場したノリーンの人気が微妙で、誰も気にしていないだけのような気もしてならない
- 原文は「finest warlord」
- 原文「charity hospital」