ウィザーズ社日本公式サイトでストーリー漫画「マンガで分かる! Magic Story『灯争大戦』編」が公開された。
マンガで分かる! Magic Story『灯争大戦』編の概要
この「マンガで分かる! Magic Story『灯争大戦』編」は、カードセット「灯争大戦」の小説「War of the Spark: Ravnica」の展開を日本独自に漫画化したものだ。
漫画のクレジット
原作:Wizards of the Coast
一部抜粋:Greg Weisman著『War of the Spark: Ravnica』
漫画:Anoa design
脚本・監修:Mayuko Wakatsuki
クレジットを見ると、小説からの「一部抜粋」となっているものの、漫画の全体の展開・登場人物はほとんどそのまま小説から持ってきている。カードセットの「灯争大戦」では言及のない部分まで小説準拠で描いているため、この漫画は「一部抜粋」どころではない。日本公式の抄訳コミカライズ版といったところが実態に近いだろう。
未訳の「灯争大戦」小説War of the Spark: Ravnicaを購入しなくても、日本語の漫画として無料で楽しめるといった点では、すごくお得である。
PDF版もある→リンク
この漫画は発想と企画はすごくいい。ただし、残念なことに内容に問題が認められる。小説のひどい誤解釈があるのだ。
カーンはテゼレットに鉄拳を叩きこんでいない
短いページで漫画化しているので、全体は端折ってまとめたり描写が漫画的にデフォルメなっている。そのために生じた細かい差異は仕方がないものなので問題にはならない。
だが、見過ごせない大きな誤りが1つある。それが「カーンの鉄拳」である。
ダク・フェイデンとカーンがジャンプして、テゼレットの背後より襲い掛かる。ダクは「サヒーリ・ライからの贈り物」と呼ぶ小型の鳥型機械をテゼレットの腕に向けて飛ばし、その腕のコントロールを奪おうとする。そこに、カーンが右こぶしで重い一撃を加え、テゼレットは吹っ飛ばされる。
以上の漫画の一連の流れは小説とは大きく違っている。
- ダク・フェイデンがテゼレット襲撃直前に「サヒーリ・ライの贈り物」として小型のハチドリ型機械を取り出す。それをカーンが操縦してテゼレットの注意を引き付ける。
- テゼレットはハチドリを破壊しようと、金属の右腕を伸ばす。
- ダク・フェイデンはテゼレットの金属腕に魔法で干渉してコントロールを一時的に奪う。テゼレットは自分の右腕を、生身の左腕で押さえて魔法に抵抗して、なんとかコントロールを取り返す。
- テゼレットが抵抗しているその隙を狙って、カーンは小型のハチドリを、テゼレットの胸部内の次元橋本体に向けて一直線に飛ばし、そこで爆発が起きる。こうして次元橋は機能を停止した。
Karn had flown the little hummingbird right into the portal inside Tezzeret’s chest—where it exploded!
カーンは小型のハチドリを、テゼレットの胸部内のポータルに向けて一直線に飛ばし…爆発した!
小説War of the Spark: Ravnicaの第41章より抜粋
上が小説原文。下が私家訳
以上のようにカーンは鉄拳を叩きこんではないのだ。
想像するに「Karn had flown」を「カーンが(ハチドリを)飛ばした」でなく「カーンが飛んだ」と(目的語があるにもかかわらず自動詞として)読み取ったのだと思われる。それで、おそらく文章の残りの部分を「ハチドリは次元橋の右側にいる」とつじつま合わせ1をしようとし、そういう間違った解釈が重なって「カーンがテゼレットの胸の次元橋に飛んで、爆発が起こった」→「きっとカーンが鉄拳を叩き込んだに違いない。」と、こんな感じで漫画のシーンが出来上がってしまったのではないか。
最後に、カーンの鉄拳が漫画化するうえでの意図的な描写改変でなく、原文の誤解釈である、と考える理由がある。漫画の脚本・監修担当によるMTGサイトの記事2での記述だ。
とはいえ本当の目的は違いました。しばしの奮闘の末にテゼレットが腕の制御を取り戻したその瞬間、カーンが迫ってテゼレットの胸にあるポータルへ拳を叩き込みました。爆発と共にテゼレットは吹き飛ばされ、同時にそれが制御していた次元橋も即座に激しく崩壊しました。永遠衆は動きを止め、そしてテゼレットは……
記事より一部抜粋。太字強調は原文ママ
はっきりとカーンが拳を叩き込んだと書いている。漫画の脚本・監修担当が漫画化よりも前から間違った解釈をしていることがわかる。
公式漫画で広めてしまったので、もう日本では「カーンが鉄拳をテゼレットに叩き込んで次元橋が停止した」という間違いは消えないだろう。拡散した情報はこれから何年も残ってしまうし、訂正を何度もすることになるのだろう。3取りあえず間違いであるという指摘をここに書き残しておく。
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